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建材LCAは義務化?2028年開始へ企業の対応策を解説

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建材LCAは義務化?2028年開始へ企業の対応策を解説

2026年7月に公布された改正建築物省エネ法により、建築物のライフサイクルカーボン(LCCO2)を評価する制度が創設され、2028年度を目途に開始されます。この制度は、運用時のエネルギー消費に加えて、資材製造から解体までのCO2排出量、いわゆる「エンボディドカーボン」を評価対象とするもので、延べ面積5,000㎡以上の事務所を新築・増改築する建築主には、評価結果を国に届け出る義務が課される予定です。建材メーカーに報告義務が課されるわけではありませんが、建築物の算定には建材ごとのCO2排出量データが使われるため、製品データを整備しているかどうかが自社製品の評価を左右します。本記事では、国土交通省が2026年10月に示した制度設計案を踏まえ、新制度が建材メーカーや建設会社に与える影響と、今から着手すべき対応策を、LCA算定ツールや海外事例も交えて解説します。

INDEX

建築物LCA制度の概要と2026年10月時点の検討状況

建築物のライフサイクルカーボン評価制度(以下、建築物LCA制度)は、建築物の脱炭素化を「運用時」だけでなく「ライフサイクル全体」で捉えるための制度です。国土交通省は2028年度の開始を前提に、経済産業省・環境省・農林水産省と連携して算定ルールや届出制度の設計を進めており、2026年10月には検討会で制度の骨子案が示されました。建築主が届出や評価を行う際には建材・設備ごとのCO2排出量データを使うため、建材メーカーや建設会社もこの制度と無関係ではありません。

建築物省エネ法改正とLCAの関係性

現在、建築物の環境性能は主に「建築物省エネ法」に基づき評価されています。しかし、この法律が主に評価対象としてきたのは、建物が利用されている間のエネルギー消費、すなわち「オペレーショナルカーボン」でした。2026年7月に公布された改正法で創設された新制度は、これに加えて、建材の製造・輸送、建設、改修、そして最終的な解体・廃棄に至るまでの全段階におけるCO2排出量、すなわち「エンボディドカーボン」も評価対象に含めるものです。このLCAに基づく評価を建築物省エネ法の枠組みに統合することで、建築物の生涯を通じたカーボンニュートラルの実現を目指しています。

オペレーショナルカーボンとエンボディドカーボン

建築物のライフサイクルにおけるCO2排出は、大きく二つに分類されます。

  • オペレーショナルカーボン: 冷暖房、照明、換気など、建物の「運用段階」で消費されるエネルギーに起因するCO2排出。ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の推進などは、この削減を目的としています。
  • エンボディドカーボン: 資材の調達、製造、輸送、建設、修繕、解体、廃棄といった「運用前後の段階」で排出されるCO2の総称。「隠れたCO2」とも呼ばれます。建物の用途や構造によって割合は異なりますが、ライフサイクル全体のCO2排出量のうち、エンボディドカーボンが占める割合は小さくありません。

新制度では、建築主がエンボディドカーボンを含むライフサイクルカーボンを算定するため、その計算に使われる建材・設備のCO2排出量データの重要性が高まります。

国土交通省の検討状況と今後のスケジュール

国土交通省が2026年10月に示した制度設計案(資料3「各検討事項における検討の骨子と方向性(案)」)では、制度の対象と主な仕組みが次のように整理されています。

  • 延べ面積5,000㎡以上の事務所を新築・増改築する建築主は、ライフサイクルカーボンの評価結果を着工の14日前までに国土交通大臣に届け出る必要があり、評価結果が基準に照らして著しく不十分な場合は勧告の対象となります。
  • 延べ面積2,000㎡以上の非住宅建築物を新築・増改築する場合は、建築士が建築主に対して評価を実施する意義などを説明します。
  • 戸建住宅などの小規模な建築物を除き、建築主には評価を行う努力義務が課されます。
  • 建築主は、登録機関による第三者認証を受けて、評価結果を多段階評価で表示できます。

制度は段階的に進める方針であり、2028年度を目途とする第1ステップでは評価の実施と自主的な削減を求め、制度開始後3年を目途に、評価の一般化と削減策の措置を第2ステップとして検討するとされています。算定ルールや基準値の素案は今後の検討会で示される予定のため、企業は公表内容を確認しながら準備を進める必要があります。

建築物LCA制度がサプライチェーンに与える影響

建築物LCA制度で届出や評価を行うのは建築主ですが、その算定には設計者・施工者が拾い出した資材数量と、建材メーカーが提供する製品ごとのCO2排出量データが使われます。そのため、建材メーカー、建設会社、発注者のそれぞれに新たな役割が生じます。自社がサプライチェーンの中でどの役割を担うのかを把握することが、対応の出発点となります。

建材メーカー:製品データの整備が評価を左右する

建材メーカーには、制度上の報告義務は課されません。一方、建築物の資材製造段階の排出量は「資材ごとの数量×資材ごとの単位数量あたりCO2排出量(原単位)」の総和で算定され、原単位には個社の製品データ、業界団体の代表データ、国が定めるデフォルト値のいずれかを使います。自社の製品データがない場合、その建材は業界データや国のデフォルト値で算定されるため、自社で低炭素化に取り組んでも、その成果が算定結果に反映されません。制度設計案でも、建材メーカーの努力が評価できる積上型データ(EPD、CFP)を原単位に活用する方針が示されています。

EPD(Environmental Product Declaration:環境製品宣言)は、製品の環境負荷を第三者の検証を経て開示するもので、届出時の削減措置チェックリストや第三者認証の定性評価では、EPDやレビュー付きCFPといった「第三者レビューを受けた個社製品データ」の活用が評価項目に挙げられています。また、主務大臣が定める方法で原単位を算定した建材メーカーは、その旨と原単位を製品や広告に表示でき、この方法によらない紛らわしい表示は禁止されます。原単位の算定方法の詳細は、今後の検討会で示される予定です。

建設会社:低炭素建材の選定能力が問われる

建設会社や設計事務所は、建材メーカーから製品データを集め、建築物全体のLCAを算定する役割を担います。環境省・経済産業省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン Ver.2.8」(2026年3月)の考え方に基づけば、使用する建材のエンボディドカーボンは、建設会社にとってのScope3(カテゴリ1:購入した製品・サービス)排出量に該当します。そのため、発注者の要求に応え、自社の排出量削減目標を達成するためには、サプライヤーから正確なCO2排出量データを収集し、より低炭素な建材を選定・提案する能力が、企業の競争力に直結します。

発注者・施主:建物の資産価値評価への影響

発注者や施主は、届出制度の対象となる建築物では、評価結果を国に届け出る当事者になります。また、建築物のLCA評価は環境配慮の証明にとどまらず、ESG投資の拡大に伴い、投資家や金融機関が不動産を評価する軸の一つになっています。LCAによって算出されたエンボディドカーボンを含む総CO2排出量は、その建物の非財務価値、すなわち「グリーン性能」を測る客観的な指標となります。JLL日本のレポート(2025年8月)でも指摘されている通り、脱炭素化への移行が進む中で、将来の規制強化や市場の期待に対応できない環境性能の低い不動産は、経済的価値が早期に損なわれる「座礁資産」となるリスクに直面しています。そのため、発注者は設計・建設段階からLCAを意識した建材選定や工法採用を求めるようになると考えられます。

このように、建築物LCA制度は各プレイヤーの連携を前提としており、サプライチェーン全体での脱炭素化を加速させる要因となります。

【建材メーカー向け】製品データの整備と具体的な対応策

建材メーカーにとって、自社製品のCO2排出量データを第三者のレビューに耐える形で整備することは、2028年度の制度開始に向けた優先課題です。整備の方法にはEPDの取得と、第三者レビューを受けたCFPの算定があり、いずれも建築物の算定で自社製品の削減努力を反映させる根拠になります。ここでは、EPD取得のプロセスや算定を効率化するツール、先行事例を紹介します。

EPD(環境製品宣言)取得のプロセスと費用

EPDの取得は、一般的に以下のプロセスで進められます。

  1. 対象製品の決定: EPDを取得する製品を選定します。
  2. LCA算定: 製品の原材料調達から製造、輸送、廃棄までのライフサイクル全体における環境負荷(CO2排出量など)を算定します。これには専門的な知識が必要です。
  3. 第三者検証: 算定結果が、定められたルール(PCR:製品カテゴリールール)に準拠しているか、独立した検証機関によるレビューを受けます。
  4. EPD登録・公開: 検証を通過した後、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)などが運営する登録機関に申請し、認定ラベルを取得して公開します。

費用は、対象製品の複雑さやLCA算定を外部コンサルタントに委託するかどうかによって変動し、検証機関への検証料や登録料に加えて、コンサルティング費用などが別途かかります。具体的な金額は申請内容によって異なるため、SuMPOなどの登録機関に事前に確認する必要があります。

建材単位と建築物単位で使い分けるLCA算定ツール

LCA算定は複雑なプロセスですが、算定ツールを活用することで効率化が可能です。建材メーカーが自社製品のCO2排出量を算定する場合と、建設会社が建築物全体の排出量を算定する場合とでは、使うツールが異なります。

ツール名運営組織特徴
ASUENE LCAアスエネ株式会社製品ごとのCO2排出量(CFP)をLCAの手法で算定するクラウドサービス。建材メーカーが自社製品の排出量を算定し、EPDなどの製品データを整備する段階で使う。
建築物ホールライフカーボン算定ツール(J-CAT)ゼロカーボンビル推進会議(一般財団法人 住宅・建築SDGs推進センター〈IBECs〉内に設置)国土交通省住宅局の補助事業のもとで開発された、建築物のライフサイクル全体の排出量を算定するツール。建設会社が建築物全体の排出量を算定する段階で使う。
IDEA国立研究開発法人産業技術総合研究所 等学術的な研究に基づいた排出原単位データベース。ASUENE LCAに搭載されており、原材料や工程ごとの排出量を重量ベースで算定できる。

建材メーカーは製品単位の算定ツールで自社製品のCFPを算定してEPDなどの製品データを整備し、建設会社はJ-CATで建物全体を評価するという分担になります。社内に専門人材がいない場合でも、算定に必要なデータの洗い出しや算定範囲の整理から外部の支援を受けることで、LCA算定に取り組むことが可能です。

EPD取得のメリットとコンクリート・木材の事例

EPD取得のメリットは、制度対応の面だけにとどまりません。環境意識の高い設計事務所やゼネコンからの引き合いにつながる可能性があります。例えば、コンクリート業界では、高炉スラグ微粉末を混合するなどしてCO2排出量を削減した「環境配慮型コンクリート」のEPD取得が進んでいます。また、木材製品は、炭素を貯蔵する効果(カーボンストック)がLCA評価上、有利に働くため、EPDを取得することでその環境価値を明確に示せます。これらの先行企業は、EPDを「コスト」ではなく「マーケティング投資」と捉え、ブランド価値向上につなげています。

建材メーカーは、2028年度の制度開始を見据え、主力製品から製品データを整備する計画を早めに策定する必要があります。

【建設会社・工務店向け】今から始めるべき準備

建築物LCA制度の開始は、建設会社や工務店にとっても、事業の進め方を見直す契機となります。届出や説明の対象は当面大規模な建築物に限られますが、元請けや発注者から算定データの提供を求められる場面は、中小規模の事業者にも生じます。今から段階的に準備を進めることで、制度の開始を受注の機会につなげることが可能です。重要なのは、サプライヤーとの連携、LCA算定ツールの導入、そして低炭素工法への知見を深めることです。

サプライヤーエンゲージメントの進め方

LCA算定の精度は、上流のサプライヤーからどれだけ正確な情報が得られるかにかかっています。まずは、主要な建材サプライヤーに対して、エンゲージメント(対話と協働)を開始することが第一歩です。具体的には、取引額の大きいサプライヤーや、プロジェクトの主要な建材を供給する企業に対し、以下の点を確認する働きかけを行います。

  • EPD(環境製品宣言)や第三者レビューを受けたCFPの整備状況と今後の予定
  • 製品ごとのカーボンフットプリント(CO2排出量)に関する情報提供の可否
  • CO2排出量削減に向けた取り組み状況

これらの情報を事前に収集・管理しておくことで、実際のプロジェクトでLCA算定が必要になった際に、スムーズに対応することが可能になります。

建築物LCA算定ツール(J-CAT)の活用

設計段階で建築物全体のLCAを評価し、CO2排出量を削減する方策を検討するためには、算定ツールの活用が有効です。「建築物ホールライフカーボン算定ツール(J-CAT)」は、国土交通省住宅局の補助事業で運営されるゼロカーボンビル推進会議が開発し、2024年10月に正式版が公開されたツールであり、建築物全体のエンボディドカーボンを算定できます。正式版ではEPDデータの拡充が進められているため、サプライヤーが製品単位のCFPを算定してEPDを整備するほど、建設会社は実態に近いデータで建材を比較でき、低炭素建材の選定や設計提案の根拠が強まります。

木造建築など低エンボディドカーボン工法の検討

エンボディドカーボンを削減するためには、建材の選定だけでなく、工法そのものの見直しも重要です。一般社団法人 日本サステナブル建築協会(JSBC)などのガイドラインでも示されている通り、特に木材の活用は有効な手段の一つです。木材は製造時のエネルギー消費が少なく、さらに樹木として成長する過程でCO2を吸収・固定するため、LCA評価において有利に働きます。木造・木質建築に関する知見を深めることや、鉄骨造やRC造においても木材を組み合わせるハイブリッド構造を検討することは、エンボディドカーボンの削減につながります。また、既存建築物を解体せずに改修して長く使う「長寿命化改修」も、新たな建材投入を抑制する観点から有効なアプローチです。

これらの準備は短期間では完了しないため、2028年度の制度開始から逆算し、計画的に取り組むことが将来の競争力を確保する鍵となります。

海外の建築LCA規制と日本の将来像

日本の建築物LCA制度は、世界的な脱炭素の流れと連動しており、特に環境規制で先行する欧州の動向の影響を受けています。海外の事例を参考にすることで、数年後の日本市場で何がスタンダードになるのかを予測し、先手を打つことが可能になります。

先行する欧州(フランスRE2020)の事例

建築LCA規制の代表的な先行事例として、フランスが2022年から施行した「RE2020」が挙げられます。この規制の最大の特徴は、新築建築物に対して、ライフサイクル全体でのCO2排出量に上限値を設けている点です。上限値は段階的に引き下げられる計画となっており、建設業界に対して継続的なCO2削減努力を促すインセンティブとして機能しています。RE2020では、運用時のエネルギー消費(オペレーショナルカーボン)と、建設時の排出量(エンボディドカーボン)の両方に上限が課せられており、LCAに基づいた統合的な評価が義務付けられています。日本の制度設計案でも、海外の事例にならい、建築用途別に基準値を作成する方針が示されています。

EPDの国際的なデータベース化と活用の動き

欧米では、建材のEPD(環境製品宣言)が国際的なデータベースに集約され、設計者や建設会社が容易にアクセスできる環境が整備されつつあります。これにより、国境を越えて建材の環境性能を横断的に比較・検討することが可能になっています。設計ソフトウェアや建材選定プラットフォームにこれらのデータベースが連携することで、設計の初期段階からLCAを考慮した建材選定が行える仕組みも登場しています。日本でもEPDの普及に伴い、同様のデータベース化とプラットフォーム連携が進むと予想されます。

日本における段階的な制度強化の方針

欧州の規制は「報告義務」から「上限値設定」へと進む傾向にあります。日本の制度設計案でも段階的なアプローチがとられており、第1ステップ(2028年度を目途)では評価の実施と自主的な削減を求め、第2ステップ(制度開始後3年を目途に検討)で削減策を措置し、第3ステップで削減策を強化する方針が示されています。第1ステップの段階でも、届出制度では評価結果が建築用途別のライフサイクルカーボンの基準値と比較され、著しく不十分な場合は勧告の対象となります。企業は、算定・報告の体制を整えるだけでなく、排出量を継続的に削減するための技術やノウハウを今のうちから蓄積しておくことが、長期的な競争力につながります。

ESG投資で高まる建築物LCA評価の重要性

建築物LCA制度の導入は、環境規制の強化にとどまらず、企業の資金調達や不動産の資産価値を左右するESG(環境・社会・ガバナンス)の観点からも重要です。投資家や金融機関は、企業の非財務情報を評価する上で、気候変動リスクへの対応を厳しく見ています。建築物の「隠れたCO2」であるエンボディドカーボンはその新たな評価軸となりつつあり、企業の情報開示においてLCAが果たす役割は大きくなっています。

投資家は建物の「隠れたCO2」をどう見るか

ESG投資家は、企業の長期的なリスクと機会を評価します。建築物のエンボディドカーボンは、将来の炭素税導入や排出量規制強化によって、企業の財務に直接的な影響を与える「移行リスク」と見なされ始めています。例えば、エンボディドカーボンが多い建物を多く保有している企業は、将来的に追加のコスト負担や資産価値の低下といったリスクを抱えていると評価されます。投資家は、企業のサステナビリティ報告書などを通じて、Scope3排出量の開示状況を注視しており、その中で建築物のLCA情報は、企業の気候変動への取り組みの具体性を示す証拠となります。

非財務情報開示におけるLCA情報の役割

近年、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の基準に沿った非財務情報の開示が、グローバル企業を中心にスタンダード化しています。特に、自社の事業活動に関連するサプライチェーン全体の排出量(Scope3)の開示は重要な項目です。自社が使用するオフィスや工場などの建築物を新築・取得する場合、その建設に伴う排出量はScope3のカテゴリ2(資本財)に該当し、建築物のLCAデータはその算定の根拠情報となります。正確なLCA情報を提供できる企業は、情報開示の透明性が高いと評価され、投資家からの信頼を獲得しやすくなります。

グリーンビルディング認証とLCAの関係

LEED(米国)やBREEAM(英国)、そして日本のDBJ Green Building認証といった国内外のグリーンビルディング認証制度においても、LCA評価の重要性は増しています。従来は、省エネ性能や節水、緑化といった項目が評価の中心でしたが、近年ではライフサイクル全体での環境負荷を評価するLCAが加点項目として導入されたり、必須項目化されたりするケースが増えています。これらの認証を取得することは、不動産の環境価値を客観的に証明し、テナント誘致や売却時に有利に働きます。LCAへの対応は、こうしたグリーンビルディング認証で高い評価を得るためにも必要な要素となっています。

環境省が主導する「ESG金融ハイレベル・パネル」などでも議論されている通り、金融と環境の連携は加速しています。建築物LCAへの対応は、企業のESG評価を高め、持続的な成長を実現するための経営課題の一つです。

まとめ:2028年度の制度開始に向けた次のステップ

2028年度を目途とする建築物LCA制度の開始は、建設業界の事業環境を大きく変えるものであり、対応できるかどうかが企業の規模に関わらず今後の競争力を左右します。制度をコスト要因として捉えるよりも、自社の事業を持続可能な形へ転換し、新たな付加価値を創出する機会として捉えることが重要です。

本記事で解説した重要ポイントの再確認

  • 2028年度を目途に開始: 2026年7月に公布された改正建築物省エネ法で制度が創設されました。延べ面積5,000㎡以上の事務所の新築・増改築では建築主に届出義務が課され、2,000㎡以上の非住宅建築物では建築士による説明制度が設けられる予定です。
  • 評価対象は建築物の一生分: 従来の運用時(オペレーショナルカーボン)に加え、資材製造から解体まで(エンボディドカーボン)のCO2排出量が評価されます。
  • 建材メーカーの製品データが評価を左右する: 建材メーカーに報告義務はありませんが、原単位には個社データ・業界データ・国のデフォルト値が使われるため、自社の削減努力を反映させるにはEPDやレビュー付きCFPなどの製品データの整備が必要です。建設会社には、LCA算定とサプライヤーとの連携が求められます。
  • ESG投資との連動: LCA評価は、不動産の資産価値や企業の資金調達にも影響を与えるESG要素となります。

担当者が明日から取り組むべきアクションリスト

本記事を読んだサステナビリティ推進担当者や経営層の方が、明日から具体的に取り組むべきアクションは以下の通りです。

  1. 社内での情報共有と体制構築: 本記事の内容を関連部署(設計、積算、購買、経営企画など)と共有し、LCA対応を全社的な課題として認識を統一する。
  2. 【建材メーカー】製品データの整備計画の策定: 自社の主力製品を対象に、CFPの算定と、EPD取得またはCFPの第三者レビューに向けた予算とスケジュールの検討を開始する。EPDの取得はSuMPOなどの機関に相談する。
  3. 【建設会社】サプライヤーへのヒアリング: 主要な建材サプライヤーに対し、EPDやCFPの整備状況、CO2排出量に関する情報提供が可能かどうかを、アンケートやヒアリングで確認する。
  4. LCA算定ツールの情報収集: 建材メーカーは製品単位のCFP算定ツール(ASUENE LCAなど)、建設会社は建築物単位の算定ツール(J-CAT)について情報を集め、自社の業務フローに合うかを確認する。
  5. 制度の詳細の確認: 算定ルール、建築用途別の基準値、原単位の算定方法の素案は今後の検討会で示される予定のため、国土交通省の公表資料を継続的に確認する。

2028年度の制度開始まで、準備に使える時間は限られています。まずは自社がサプライチェーンの中で担う役割を確認し、このアクションリストの中から着手できるものを選ぶことが、制度対応の第一歩となります。

FAQ

Q1. EPDとは何ですか?LCAとの違いは?

A1. LCA(ライフサイクルアセスメント)は、製品やサービスの生涯にわたる環境影響を、科学的な手法を用いて定量的に評価する「手法」そのものを指します。一方、EPD(Environmental Product Declaration:環境製品宣言)は、そのLCAの手法を用いて算定した結果を、国際的なルールに基づき、第三者の検証を経て公開するための「情報開示のラベル(報告書)」です。LCAが計算プロセスであり、EPDがその最終的なアウトプットであると整理できます。

Q2. 建材メーカーにEPD取得の義務はありますか?

A2. 2026年10月時点の制度設計案では、建材メーカーにEPD取得を義務付ける規定はありません。建築物の算定では、個社の製品データ、業界団体の代表データ、国が定めるデフォルト値のいずれかを原単位として使います。ただし、自社の製品データがない場合は業界データやデフォルト値で算定されるため、自社の削減努力が算定結果に反映されません。また、届出時のチェックリストや第三者認証の定性評価では、EPDやレビュー付きCFPの活用が評価項目に挙げられています。

Q3. 建材のLCA算定はどのように行うのですか?

A3. 一般的には、LCA算定ツールを使用して行います。建材単体のCO2排出量はASUENE LCAなどの製品単位の算定ツール、建築物全体の排出量はJ-CATなどの建築物単位の算定ツールで算定します。プロセスとしては、まず対象となる建材の製造に必要な原材料の重量、使用するエネルギー量(電力、ガスなど)、工場から現場までの輸送距離といった活動量データを収集します。次に、これらのデータを算定ツールに入力し、ツールに内蔵された排出原単位データベース(IDEAなど。特定の活動あたりにどれだけCO2が排出されるかを示す係数)と掛け合わせることで、製品のライフサイクル全体のCO2排出量を算定します。

Q4. LCA対応で活用できる補助金はありますか?

A4. 2026年10月現在、LCA算定やEPD取得そのものを直接的な対象とする専用の補助金は限定的です。一方、国土交通省の建築物向けの補助事業では、ライフサイクルカーボンの評価や削減の取り組みを要件や評価項目とする事業が公募される場合があります。また、環境省や経済産業省が実施している、企業のサプライチェーン排出量(Scope3)算定や脱炭素化設備導入を支援する補助金・助成金を、LCA対応の一環として活用できる可能性もあります。最新の情報は各省庁のウェブサイトで確認することをおすすめします。

ASUENE LCAは、製品ごとのCO2排出量(CFP)をLCAの手法で算定するクラウドサービスです。2026年1月からは、産業技術総合研究所が開発した排出原単位データベース「IDEA」を搭載しており、原材料や工程ごとの排出量を重量ベースで算定できます。算定に必要なデータの洗い出しや算定範囲の整理は、専門コンサルタントが支援します。

2028年度の制度開始に向けて、まずは主力製品1品目からCFPの算定に着手してみませんか。

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