政策&法規制

GX-ETSとは?2026年開始の新制度を企業向けに解説

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GX-ETS

GX-ETSとは、企業の二酸化炭素(CO2)排出量に上限(排出枠)を設け、過不足分を市場で取引できるようにする「排出量取引制度」の日本版です。2026年度から本格稼働が予定されており、対象企業には排出枠の遵守が法的に義務付けられます。本記事では、2025年12月に公表された経済産業省の小委員会とりまとめなどの最新情報を踏まえ、GX-ETSの仕組みや対象企業、企業が取るべき実務対応について、他のカーボンプライシング政策との関連性も交えながら網羅的に解説します。

INDEX

GX-ETSとは?【2026年本格稼働】

GX-ETS(Green Transformation – Emissions Trading Scheme)は、日本の「成長志向型カーボンプライシング構想」の中核を担う排出量取引制度であり、企業の脱炭素への取り組みを経済的価値に転換することで、産業競争力の強化と排出削減の両立を目指します。

GX-ETSの目的とGX推進法での位置付け

GX-ETSの最大の目的は、企業にCO2排出量の削減に向けたインセンティブを与えることです。2023年5月に成立した「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」において、GX-ETSはGX経済移行債や化石燃料賦課金と並ぶ主要な政策として位置づけられています。これにより、国が企業のGX投資を後押しし、経済成長と環境保護を同時に達成することを目指しています。

他のカーボンプライシング政策との関連性

GX-ETSは、単独で機能する制度ではありません。2028年度から導入される「化石燃料賦課金」や、2023年度から発行が始まった「GX経済移行債」と密接に連携します。

  • 化石燃料賦課金: 化石燃料の輸入事業者等に対して、CO2排出量に応じて課される負担金です。
  • GX経済移行債: 先行的なGX投資を支援するために発行される国債で、その償還財源として化石燃料賦課金やGX-ETSの有償オークション収入が充てられます。

これらの政策が一体となって、排出者にコスト負担を求めると同時に、削減努力を行う企業に資金を還流させる仕組みを構築しています。

GXリーグとの関係性は?

「GXリーグ」は、産官学が連携してGXを推進する枠組みであり、GX-ETSの基盤となる存在です。2023年度から始まったGX-ETSの第1フェーズは、GXリーグ参加企業による自主的な排出量取引の試行として位置づけられています。2026年度からの本格稼働後も、GXリーグは制度の円滑な運営やルールの改善において重要な役割を担い続けることが想定されています。

GX-ETSは、GXリーグでの自主的な取り組みを土台に、より実効性のある法制度へと移行していくものと理解することが重要です。

GX-ETSの仕組みをわかりやすく解説

GX-ETSの仕組みは、「フェーズごとの段階的な移行」と「排出枠の割当・取引」という2つの軸で理解することができ、企業の直接排出(Scope1)が対象となります。

第1~第3フェーズの段階的移行スケジュール

GX-ETSは、企業の準備期間を考慮し、3つのフェーズに分けて段階的に導入されます。

フェーズ期間内容
第1フェーズ2023年度~2025年度GXリーグ参加企業による自主的な排出量取引の試行期間。排出枠の超過や削減目標の未達に対する罰則はない。
第2フェーズ2026年度~2032年度本格稼働。対象企業に対して排出枠の遵守が法的に義務化される。排出枠は原則として無償で割り当てられる。
第3フェーズ2033年度~有償オークションの導入。電力会社を対象に、排出枠の一部が有償で入札にかけられる。

排出枠(クレジット)の割当と取引の仕組み

制度の核心となるのが「排出枠」の仕組みです。まず、国が過去の排出実績などに基づいて、対象企業ごとに一定量の排出枠(クレジット)を無償で割り当てます。各企業は、この排出枠の範囲内に自社の排出量を収めることが求められます。

  • 排出量が枠内に収まった場合: 目標達成となり、余った排出枠は市場で売却して収益を得ることができます。
  • 排出量が枠を超過した場合: 超過分に相当する排出枠を、他の企業から市場を通じて購入するか、国が認めた他のクレジットで相殺(オフセット)する必要があります。GX-ETSでは、J-クレジットや二国間クレジット制度(JCM)によって発行されたクレジットを、排出削減義務の履行に活用することが認められています。ただし、その活用には排出量全体の10%という上限が設けられるなど、詳細なルールが排出量取引制度小委員会の「中間整理(案)」(2025年12月)で示されており、クレジットの品質確保に関する議論も継続しています。

この仕組みにより、効率的に排出削減を行った企業が経済的なメリットを享受できる一方、削減が遅れた企業はコスト負担が増加することになります。

対象となるScope1排出量とは?

GX-ETSの対象となるのは、事業者が自らの事業活動で直接排出した温室効果ガス、すなわち「Scope1排出量」です。具体的には、工場での燃料燃焼や工業プロセスなどが該当します。他社から供給された電気や熱の使用に伴う間接的な排出(Scope2)や、サプライチェーン全体での排出(Scope3)は、現時点では直接の対象外です。ただし、将来的に対象範囲が拡大する可能性も視野に入れておく必要があります。

企業のScope1排出量を正確に算定し、管理する体制の構築が、GX-ETS対応の第一歩となります

GX-ETSの対象企業と義務化の内容

2026年度からの本格稼働に伴い、対象企業には法的な義務が課されるため、自社が対象となるか否かを正確に把握することが極めて重要です。

対象企業の具体的な基準と確認方法

GX-ETSの対象となるのは、主に化石燃料の使用に伴うエネルギー起源CO2の直接排出量(Scope1)が多い事業者です。経済産業省の資料によると、以下のいずれかに該当する事業者が対象となる見込みです。

  • 全事業所の合計排出量が一定規模以上(例えば年間10万トン)の多排出事業者
  • 特定の業種に属し、かつ排出量が一定規模以上の事業者

自社が対象となるかを確認する最も確実な方法は、温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)に基づき、国に報告している自社のScope1排出量を確認することです。今後、制度を運営する「GX推進機構」から対象企業のリストや詳細な基準が公表される予定のため、公式発表を注視する必要があります。

2026年度からの第2フェーズの変更点と義務

第1フェーズの自主的な取り組みから、第2フェーズでは以下の点が法的に義務化されます。

  • 排出枠の遵守義務: 割り当てられた排出枠の範囲内に排出量を収めることが法的に義務付けられます。
  • 排出枠の返納: 年度の終わりに、実際の排出量に相当する排出枠を国に返納する義務が生じます。
  • 第三者検証の義務化: 算定した排出量が正確であることを、国が認定した第三者検証機関によって検証してもらう必要があります。

これらの義務を履行できない場合、罰則が科される可能性があり、企業の財務や評判に直接的な影響を及ぼすことになります。

GX-ETSに参加しない場合のリスク

第2フェーズ以降、対象企業にとってGX-ETSへの参加は任意ではなく、法的な義務となります。したがって、「参加しない」という選択肢は存在しません。万が一、排出量の報告や排出枠の返納といった義務を怠った場合、GX推進法に基づく罰則(過料など)の対象となる可能性があります。また、法規制を遵守しない企業として、投資家や取引先からの評価が低下するレピュテーションリスクも懸念されます。

対象企業は、GX-ETSを遵守すべき法規制として捉え、早期に対応策を講じることが不可欠です。

企業のメリットと取るべき実務対応

GX-ETSは企業にとってコスト増や規制強化の側面だけではなく、新たな収益機会や競争力強化につながる可能性も秘めています。

GX-ETS参加のメリットとデメリット

GX-ETSへの対応は、企業経営に光と影の両側面をもたらします。

メリットデメリット
排出削減の収益化:余剰排出枠の売却により、新たな収益源を確保できる。排出枠管理コストの発生:排出量の算定・報告・検証や、排出枠の取引管理に新たなコストや工数がかかる。
GX投資の促進:省エネ設備や再生可能エネルギー導入への投資インセンティブが高まる。排出枠購入コストのリスク:排出削減が進まない場合、排出枠の購入費用が財務を圧迫する可能性がある。
企業価値の向上:脱炭素への積極的な姿勢を示すことで、投資家や顧客からの評価が高まる。罰則リスク:排出枠の遵守義務を果たせない場合、法的な罰則が科されるリスクがある。

企業が今から準備すべき具体的な手順

対象となる可能性のある企業は、2026年度の本格稼働に向けて、以下のステップで準備を進めることが推奨されます。

  1. 排出量の正確な算定・把握:
    まず、自社のScope1排出量を国際的な基準(GHGプロトコルなど)に則って正確に算定・可視化する体制を構築します。これがすべての対策の基礎となります。
  2. 削減計画の策定と実行:
    算定した排出量に基づき、科学的根拠のある削減目標(SBTなど)を設定し、具体的な削減施策(省エネ、再エネ導入、燃料転換など)を盛り込んだ中長期の計画を策定・実行します。
  3. 情報開示とガバナンス体制の構築:
    算定した排出量や削減計画について、TCFDやISSBといった国際的な開示基準に沿ってステークホルダーに情報開示する体制を整えます。また、経営層が主導して脱炭素を推進するガバナンス体制を構築することも重要です。

GX推進機構の役割と取引市場の動向

GX-ETSの制度運営は、2024年5月に設立され、同年7月1日から業務を開始している認可法人「GX推進機構(脱炭素成長型経済構造移行推進機構)」が担います。(出典:GX推進機構「機構の概要」2024年7月)GX推進機構は、排出枠の割当・管理、排出量報告の受付・検証、取引市場の監督など、制度の根幹を担う重要な役割を果たします。今後、同機構から公表される具体的なマニュアルやガイドラインが、企業の実務対応における羅針盤となります。排出枠の取引市場も同機構の管理下で運営され、透明性と公正性が確保される見込みです。

企業は、GX推進機構の動向を常に把握し、制度の詳細が固まり次第、速やかに社内体制を整備する必要があります。

GX-ETSの最新動向と今後の展望

GX-ETSはまだ制度設計の途上にあり、今後も議論の進展に合わせて詳細が変更される可能性があります。最新の公式情報と国際的な潮流を把握し続けることが重要です。

2026年3月以降の最新公式情報まとめ

2025年5月に改正GX推進法が成立し、GX-ETSは2026年度からの本格稼働が確定しました。これを受け、経済産業省の「産業構造審議会 排出量取引制度小委員会」では、排出枠の無償割り当て(アロケーション)の具体的な方法や、排出量算定の信頼性を担保する第三者検証のあり方など、本格稼働に向けた詳細なルールの議論が進められています。2025年12月には、これまでの議論をまとめた「とりまとめ」が公表されており、企業はこれらの公式文書を精査し、自社の事業への影響を早期に分析する必要があります。(出典:経済産業省「産業構造審議会 イノベーション・環境分科会 排出量取引制度小委員会 とりまとめ」2025年12月)

国際的な排出量取引制度(EU-ETS等)との比較

日本のGX-ETSは、先行する欧州の排出量取引制度(EU-ETS)などを参考に設計されていますが、いくつかの違いがあります。

項目日本のGX-ETS(第2フェーズ)EU-ETS
対象多排出事業者中心(当面は限定的)発電、製造業、航空など幅広い業種
排出枠の配分原則、無償割当が中心有償オークションが主流(50%以上)
価格水準未定(価格安定化策を検討)1トンあたり75ユーロ前後で推移(2026年4月時点)。(出典:欧州委員会「Carbon Border Adjustment Mechanism」2026年4月)
国際連携今後の検討課題スイス等と連携、国境炭素調整措置(CBAM)と連動

日本のGX-ETSは、当面は国内産業への影響を考慮した緩やかなスタートとなりますが、将来的にはEU-ETSのように対象範囲の拡大や有償化が進む可能性が高いと見られています。

今後のスケジュールと議論の焦点

今後の主なスケジュールとしては、2026年度からの第2フェーズ開始が予定されています。現在、政府内では以下の点が継続的に議論されており、今後の動向を注視する必要があります。

  • クレジットの活用ルール: J-クレジットやJCMクレジットによるオフセットは排出量全体の10%を上限とすることが検討されていますが、クレジットの品質確保に関する議論も継続しています。
  • 価格安定化策: 排出枠価格の急騰・急落を防ぐための具体的な措置
  • 第三者検証のあり方: 検証の信頼性と事業者の負担を両立させるための具体的な基準

これらの論点が、今後の企業の対応戦略に大きく影響を与えるため、継続的な情報収集が不可欠です。

まとめ:GX-ETS時代を乗り越えるために

本記事では、2026年度から本格稼働するGX-ETSについて、その仕組みから企業が取るべき実務対応までを解説しました。

この記事の要点まとめ

  • GX-ETSとは: 日本の成長志向型カーボンプライシングの中核をなす排出量取引制度。
  • 2026年から義務化: 第2フェーズから対象企業に排出枠の遵守と第三者検証が法的に義務付けられる。
  • 対象企業: Scope1排出量が多い事業者が中心。自社の排出量の正確な把握が急務。
  • 企業の対応: 「排出量の算定」「削減計画の策定」「情報開示体制の構築」を早期に進める必要がある。
  • 今後の動向: GX推進機構から公表される最新情報を常にチェックし、制度の詳細に対応できる準備が不可欠。

企業担当者が明日からすべきこと(Next Action)

GX-ETSという新たな規制環境を乗り越え、むしろ成長の機会とするために、サステナビリティ担当者や経営層は以下の行動をすぐに始めるべきです。

  1. 自社のScope1排出量の再確認: SHK制度の報告値などを基に、自社が対象となる可能性を評価する。
  2. GXリーグや関連省庁の最新情報の定期的なチェック: 経済産業省やGX推進機構のウェブサイトを定期的に確認し、最新のガイドラインや公表資料を収集する体制を整える。
  3. 専門家への相談体制の構築: 排出量の算定や削減計画の策定、情報開示など、専門的な知見が必要な領域について、外部のコンサルタント等への相談を検討する。

Carbon EXは、海外・国内の森林・自然由来クレジットや、二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術、再エネ・省エネ関連など、多様なカーボンクレジットを取り扱う取引所です。
創出事業者や供給者(セラー)、トレーダー、そしてクレジット調達を検討する企業などの需要家(バイヤー)が参加し、ボランタリーカーボンクレジットやJ-クレジットなどの取引機会を提供しています。

GX-ETSを見据えた中長期的な対応を考えるうえでも、こうした市場の仕組みや活用可能な手段を早い段階から把握しておくことは、有効な準備の一つといえるでしょう。


FAQ(よくある質問)

Q1: GX-ETSの対象企業はどこですか?
A1: 主に、エネルギー起源CO2の直接排出量(Scope1)が年間10万トン以上の事業者などが対象となる見込みです。詳細な基準や対象企業のリストは、今後、GX推進機構から公表されるマニュアル等で確認する必要があります。

Q2: GX-ETSに参加しないとどうなりますか?
A2: 2026年度からの第2フェーズ以降、対象企業には法的な参加義務が課されます。排出枠の返納義務などを遵守できない場合、GX推進法に基づき罰則が科される可能性があります。

Q3: 排出枠の価格はいくらですか?
A3: 排出枠の価格は、2026年度以降に開設される取引市場での需要と供給によって決まります。現時点では具体的な価格は未定ですが、政府は価格の急騰・急落を防ぐための安定化策も検討しています。

Q4: GX-ETSとEU-ETSの違いは何ですか?
A4: 大きな違いは、対象範囲と排出枠の配分方法です。EU-ETSは対象業種が広く、排出枠の多くが有償で配分(オークション)されます。一方、日本のGX-ETSは当面、対象を多排出事業者に絞り、無償割当が中心となるなど、国内産業への影響を考慮した段階的な制度設計となっています。

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