政策&法規制

【2028年〜】CBAM鉄スクラップ規制拡大!サプライチェーンへの影響と対策

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CBAM対応

2028年からEUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)が拡大され、これまで対象外であった鉄スクラップや多くの川下製品(自動車部品など)が規制対象に含まれる見込みです。この変更は、高炭素な製品が「スクラップ」として輸出されることでCBAMの炭素コストを回避する「抜け穴」を塞ぐことを目的としており、日本の製造業、特に自動車や機械業界のサプライチェーンに広範な影響を及ぼすことが必至です。

本記事では、CBAMの規制拡大が日本のサプライチェーンに与える具体的な影響と、企業、特に中小の部品メーカーが今から取るべき対策について、最新の動向を踏まえて専門的な視点から解説します。

INDEX

CBAMの鉄スクラップ規制拡大とは?

今回のCBAM規制拡大は、制度の実効性を高め、より公平な競争環境を確保するために、これまで対象外とされてきた領域にまで規制の網を広げるものです。特に「鉄スクラップの扱い」と「川下製品への対象拡大」が核心であり、多くの日本企業にとって新たな対応が求められることになります。

なぜ今、鉄スクラップが問題に?「抜け穴」の指摘

CBAMは、EU域外で製造された製品を輸入する際に、その製造過程で排出された炭素量に応じて、EUの排出量取引制度(EU ETS)に基づく炭素価格の支払いを求める制度です。 しかし、現行制度では、鉄鋼製品の製造工程で発生したスクラップ(プレコンシューマースクラップ)をEUに輸出する場合、その炭素排出量は「ゼロ」として扱われ、CBAMのコストを回避できる「抜け穴」となっていました。

例えば、炭素排出量の多いプロセスで製造された一次金属を第三国へ輸出し、その製造過程で出たスクラップだけを「リサイクル材」としてEUに輸出することで、本来課されるべき炭素コストを免れるという迂回行為が問題視されていました。 この不公平な状況を是正するため、欧州委員会は規制の見直しに動きました。

2028年から何が変わる?川下製品への対象拡大

CBAM規則に基づき、欧州委員会は移行期間(2025年末まで)に収集されたデータ等を基に、対象範囲を川下製品などへ拡大するかどうかを評価し、2026年末までに対象範囲の見直しに関する報告書を欧州議会及び理事会へ提出する予定でした。このプロセスを経て、2025年12月17日に、川下製品への対象拡大などを含むCBAM規則の改定案が公表されました。この提案の柱は2つです。

  1. 鉄スクラップの扱い変更: 制度の抜け穴を防ぐための迂回防止策の一環として、工場の製造工程で発生する「プレコンシューマースクラップ」をCBAMの排出量計算に含めることが提案されました。この提案の適用開始は2028年1月1日からとされていますが、2026年4月現在、法案は欧州議会および理事会での審議段階にあります。一方で、使用済み製品から回収される「ポストコンシューマースクラップ」は、循環経済を促進する観点から引き続き排出量ゼロとして扱われる見込みです。
  2. 川下製品(ダウンストリーム)への対象拡大: 改定案では、鉄鋼やアルミニウムを主原料とする川下製品を新たに対象に含めることが提案されました。具体的には、カーボンリーケージのリスクが高いと特定された、産業用機械や自動車部品、洗濯機などの家電を含む約180品目がリストアップされており、2028年1月1日からの適用が目指されています。ただし、この改定案は2026年4月現在、欧州議会および理事会での審議プロセスにあります。

この規制拡大は、EUの産業を保護し、グローバルなサプライチェーン全体での脱炭素化を促すというEUの強い意志の表れと言えます。

規制の目的:カーボンリーケージ防止と公平な競争

CBAMの根本的な目的は、「カーボンリーケージ」の防止です。 カーボンリーケージとは、気候変動対策が厳しい国から緩い国へ生産拠点が移転し、結果的に世界の総排出量が減少しない、あるいは増加してしまう現象を指します。

EUは、域内企業にEU ETSという厳格なカーボンプライシングを課しており、これが国際競争において不利に働くことを懸念しています。 CBAMによって輸入品にも同等の炭素コストを課すことで、EU域内外の企業の競争条件を公平にし、世界全体の脱炭素化を促進することを目指しているのです。 今回の規制拡大は、その実効性をさらに高めるための重要な一歩となります。

サプライチェーンへの甚大な影響と新たな課題

CBAMの対象が川下の自動車部品や機械製品にまで拡大することは、日本の複雑で裾野の広いサプライチェーンに深刻な影響を及ぼし、企業に新たな課題を突きつけます。これまで直接の対象でなかった多くの企業も、取引先からの要求を通じて対応を迫られることになります。

自動車・機械業界を直撃するダウンストリーム規制

今回の規制拡大で最も大きな影響を受けるのが、鉄鋼やアルミニウムを多用する自動車業界や産業機械業界です。 これまで素材メーカーが主に対応してきたCBAMですが、2028年からと見込まれる規制拡大では、部品メーカーも自社製品のカーボンフットプリントを算定し、EUの輸入者へ報告する義務が生じます。

日本からEUへの輸出では、自動車用の変速機などが大きな割合を占めており、これらの製品が対象となることで、サプライチェーン全体での対応が不可欠となります。 EUの完成車メーカーは、自社製品の環境性能を高めるため、部品を供給するサプライヤーに対して、より低炭素な製品の供給や、正確な排出量データの提出を厳しく要求するようになるでしょう。この要求に応えられない企業は、サプライチェーンから排除されるリスクに直面します。

国内鉄スクラップ需給バランスへの影響分析

CBAMにおいて、プレコンシューマースクラップとポストコンシューマースクラップの扱いが区別されることは、国内の鉄スクラップ市場にも影響を及ぼす可能性があります。

排出量ゼロと見なされるポストコンシューマースクラップの価値が相対的に高まる一方で、排出量の算定が必要となるプレコンシューマースクラップの管理はより複雑になります。高品質な鉄スクラップの需要が世界的に高まる中、国内での資源確保競争が激化し、需給が逼迫する可能性も否定できません。財務省の貿易統計によると、日本は年間600万トン以上の鉄スクラップを輸出していますが(2025年実績)、今後の国内需要の高まりによっては、この構造が変化することも考えられます。

炭素会計とトレーサビリティ確保という実務的課題

新たな規制に対応する上で、企業にとって最も実務的な課題となるのが「炭素会計」と「トレーサビリティ」の確保です。

CBAMでは、製品のカーボンフットプリントを正確に算定するために、サプライチェーンを遡って、どのサプライヤーから、どのような素材を、どれだけ調達したかという情報を収集・管理する必要があります。 特に鉄スクラップについては、それがプレコンシューマー由来なのか、ポストコンシューマー由来なのかを明確に区別し、証明する体制が求められます。

しかし、日本の鉄スクラップの流通経路は複雑で、多くの市場参加者が介在するため、その来歴を正確に追跡することは容易ではありません。 デジタル技術を活用したトレーサビリティシステムの構築などが急務となりますが、これにはサプライチェーン全体の協力と相応の投資が必要となります。

中小部品メーカーが今すぐ始めるべきCBAM対策

CBAMへの対応は、もはや大企業だけの課題ではありません。サプライチェーンを構成する中小の部品メーカーにとっても、取引継続や新たなビジネスチャンスの獲得のために、今すぐ具体的な対策に着手することが不可欠です。

第一歩:サプライチェーンの排出量(スコープ3)可視化

最初に取り組むべきは、自社の事業活動だけでなく、原材料の調達から製品の使用・廃棄に至るまでのサプライチェーン全体のCO2排出量(特にスコープ3)を正確に把握し、「可視化」することです。どこから、どれだけの炭素が排出されているかを知ることが、あらゆる対策の出発点となります。

排出量の算定は複雑で専門的な知識を要しますが、近年では専門のコンサルティングサービスや、クラウドベースの算定ツールも数多く登場しています。 これらの外部サービスをうまく活用し、まずは自社の製品がどれくらいのカーボンフットプリントを持っているのかを定量的に把握することが重要です。

グリーン調達基準の見直しと仕入先との連携強化

自社の排出量を可視化できたら、次は削減に向けた具体的なアクションに移ります。その中でも特に効果的なのが、グリーン調達の推進です。仕入先(サプライヤー)に対して、納品される部品や素材のカーボンフットプリント情報の提供を求め、より低炭素な製品を優先的に調達する基準を設けます。

これは、自社だけの努力では限界があるスコープ3排出量を削減するための唯一の方法です。 サプライヤーとの定期的な対話の場を設け、CBAMの最新動向や自社の調達方針を共有し、サプライチェーン全体で排出量削減に取り組む協力体制を築くことが、企業の競争力を左右します。対応できないサプライヤーは、将来的に取引から外さざるを得なくなる可能性も視野に入れる必要があります。

鉄スクラップのトレーサビリティ確保に向けた体制構築

今回の規制拡大の核心である鉄スクラップについては、その由来を追跡・証明できるトレーサビリティ体制の構築が急務です。仕入先と連携し、使用する鉄スクラップが「プレコンシューマー」か「ポストコンシューマー」かを明確に区別し、その情報を製品データと紐づけて管理する仕組みを構築しなければなりません。

将来的には、ブロックチェーンなどのデジタル技術を活用して、改ざんが困難な形でトレーサビリティ情報を管理・共有するプラットフォームの活用も選択肢となるでしょう。 このような体制を早期に構築することは、CBAMへの対応はもちろん、「環境性能の高い製品を供給できる企業」として、取引先からの信頼を獲得し、ビジネスチャンスを拡大することにも繋がります。

CBAM規制の今後の展望とグローバル市場の変化

EUから始まったCBAMの動きは、今後、世界の貿易ルールや市場構造を大きく変える可能性があります。企業は、短期的な規制対応だけでなく、より長期的な視点でグローバル市場の変化を見据え、戦略を立てる必要があります。

EUの動きは世界標準に?米国等の追随可能性

EUのCBAM導入は、他国にも同様の制度導入を促す可能性があります。米国では、すでに「クリーン競争法(CCA)」と呼ばれる米国版CBAMとも言える法案が米国議会で議論されており、今後の動向が注目されます。また、英国政府の発表(2023年12月)によると、英国も2027年からのCBAM導入を予定しています。

このように、製品の環境価値を貿易ルールに組み込む動きが世界的な潮流となれば、炭素排出量の算定・報告・検証(MRV)体制の構築は、グローバルに事業を展開する企業にとって必須の経営基盤となります。

加速するサーキュラーエコノミーと資源管理の重要性

CBAMは、製品のライフサイクル全体で環境負荷を低減する「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」への移行を強力に後押しします。特に、鉄スクラップのような再生可能資源の価値はますます高まり、その効率的な回収・リサイクル・トレーサビリティ確保が国際競争力を大きく左右します。

今後は、製品を「作って、使って、捨てる」という一方通行の線形経済から脱却し、使用済み製品やスクラップを貴重な資源として国内で循環させる仕組みを、サプライチェーン全体で構築していくことが不可欠です。

最新動向:欧州委員会の議論と今後のスケジュール

2025年12月17日に公表された欧州委員会の提案は、今後、欧州議会および理事会での審議を経て、最終的に採択されることになります。 2028年からと目指されている適用開始に向けて、今後、より詳細な実施規則が定められていくため、企業はこれらの最新動向を継続的に注視し、迅速に対応できる準備を整えておく必要があります。

現行制度は、2023年10月から報告義務が課される移行期間に入っており、2026年1月からは本格的な適用(課金開始)が始まっています。規制拡大への対応と並行して、現行制度への着実な対応も進めていくことが重要です。

FAQ

Q1: CBAMとは簡単に説明すると何ですか?
A1: 炭素国境調整メカニズム(Carbon Border Adjustment Mechanism)の略で、EUへ特定の製品を輸出する際に、その製造過程で排出した炭素量に応じて、EUの排出量取引制度(EU ETS)に基づく炭素価格の支払いを求める仕組みです。EU域内の製造業者と域外の製造業者との間の炭素コストの差をなくし、公平な競争条件を確保することと、気候変動対策が緩やかな国への生産移転(カーボンリーケージ)を防ぐことを目的としています。

Q2: CBAMの対象品目は今後どう拡大しますか?
A2: 現在は鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、電力、水素などが主な対象ですが、2028年からの適用を目指し、これらを材料として使用する自動車部品、産業機械などの川下製品へ拡大する案が提案され、現在審議されています。さらに将来的には、有機化学品やポリマー(プラスチック製品)など、EU ETSの対象となる全てのセクターに拡大される可能性も検討されています。

Q3: CBAM規制で日本企業がすべき対策は何ですか?
A3: 最も重要な対策は、自社製品のサプライチェーン全体の炭素排出量(特にスコープ3)を正確に算定・管理する体制を構築することです。 その上で、仕入先と連携して排出量削減努力を進める(グリーン調達)、低炭素な原材料へ切り替える、そして今回の規制拡大のポイントである鉄スクラップのトレーサビリティを確保する、といった具体的なアクションが求められます。

まとめ

2028年から見込まれるCBAMの鉄スクラップおよび川下製品への規制拡大は、日本の製造業、特にサプライチェーンの裾野が広い自動車・機械業界にとって、避けては通れない大きな経営課題です。この変化は、単なるコスト増のリスクだけでなく、サプライチェーンの見直しや新たなビジネスモデルを構築する機会でもあります。

企業が今すぐ着手すべきは、以下の3点です。

  1. 排出量の可視化: サプライチェーン全体のCO2排出量を正確に把握する。
  2. サプライヤーとの連携: グリーン調達基準を設け、協力して排出量削減に取り組む。
  3. トレーサビリティの確保: 特に鉄スクラップの由来を追跡・証明できる体制を構築する。

これらの対策に早期に着手することが、グローバル市場での競争力を維持・強化し、持続的な成長を実現するための鍵となります。


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