CO2算定

Scope3 cat6(出張)のCO2削減策|算定から具体事例まで解説

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Scope3 cat6(出張)のCO2削減策|算定から具体事例まで解説

Scope3カテゴリ6(出張)とは、事業者の管理・支配下にない排出源のうち、従業員の出張に伴う第三者の車両(航空機、鉄道、自動車など)からのGHG(温室効果ガス)排出を指します。 Scope3カテゴリ6のCO2排出量削減は、出張の必要性の見直しや移動手段の転換といった直接的な施策に加え、出張規定の改定やサステナブルな選択を促す組織的な仕組み作りが成功の鍵となります。

INDEX

Scope3カテゴリ6(出張)とは?開示義務化と背景

Scope3カテゴリ6(出張)の排出量削減に取り組むためには、まずその定義と、なぜ今その重要性が高まっているのかを正確に理解することが不可欠です。

Scope1,2,3の定義とカテゴリ6の位置づけ

GHGプロトコルでは、企業活動に伴うGHG排出量を以下の3つの「スコープ」に分類しています。

  • Scope1: 事業者自らによるGHGの直接排出(例:燃料の燃焼、工業プロセス)
  • Scope2: 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
  • Scope3: Scope1, 2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

Scope3はさらに15のカテゴリに分類され、「カテゴリ6(出張)」は、従業員が航空機、鉄道、バス、乗用車など、第三者が所有・運営する交通手段を利用して出張する際に生じる排出量を対象とします。

なぜ今、出張のCO2排出量削減が重要なのか?

出張に伴う排出量削減が経営課題として浮上している背景には、複数の要因が絡み合っています。投資家や顧客といったステークホルダーは、企業の環境パフォーマンスに対する要求を年々強めており、サプライチェーン全体での排出量削減努力を評価の指標としています。

また、SBT(Science Based Targets)認定の取得を目指す企業にとって、Scope3排出量の削減は避けて通れない課題です。Scope3全体の排出量が総排出量(Scope1+2+3)の40%以上を占める場合、Scope3の削減目標設定が必須となります。 出張による排出量が大きい企業は、SBT認定取得および目標達成のために、具体的な削減策を講じる必要があります。

最新規制動向:ISSB・サステナビリティ開示基準との関連

2023年6月に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が公表したIFRSサステナビリティ開示基準(IFRS S1号・S2号)は、グローバルな開示基準のベースラインとなります。 これを受け、日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)も国内基準を開発し、2025年3月に確定版を公表しました。

これらの基準では、気候関連のリスクと機会に関する情報開示が求められ、その中にはScope3のGHG排出量も含まれます。金融庁の発表によると、SSBJの国内基準に基づく開示は、プライム市場上場企業を対象に段階的に義務化される方針で、2027年3月期の有価証券報告書からは時価総額3兆円以上の企業が対象となります。この動向は、出張に伴う排出量の正確な把握と削減努力の重要性を一層高めるものです。

Scope3 cat6(出張)CO2排出量の算定方法と課題

カテゴリ6の排出量を正確に算定することは、効果的な削減策を立案するための第一歩ですが、そこにはデータ収集という大きな壁が存在します。

基本の算定式:活動量 × 排出原単位

Scope3カテゴリ6のCO2排出量は、基本的に以下の計算式で算出されます。

CO2排出量 = 活動量 × 排出原単位

「活動量」とは、出張における移動手段ごとの距離(人km)や、交通費の金額(円)などを指します。「排出原単位」とは、活動量あたりのCO2排出量を示す係数で、環境省が公表する「サプライチェーン排出量算定用 排出原単位データベース」(2025年4月公表のVer.3.5)などで提供されています。 例えば、東京から大阪まで新幹線で出張した場合、「移動距離(km)× 新幹線の旅客輸送人キロ当たりの排出原単位(kgCO2/人km)」で計算します。

データ収集の難しさという共通課題

カテゴリ6算定における最大の課題は、「誰が、いつ、どの交通手段で、どれだけの距離を移動したか」という正確な活動量データをいかに効率的に収集するかという点です。多くの企業では、出張申請システムや経費精算システムが分散しており、必要なデータが一元管理されていません。

特に、航空機利用時の正確な飛行距離や、タクシー利用時の走行距離などを従業員一人ひとりから手作業で集計する作業は、膨大な工数を要します。その結果、多くの企業が交通費の合計金額に一律の排出原単位を乗じるなどの概算に留まらざるを得ないのが現状です。

算定ツール・可視化サービスの比較と選び方

こうしたデータ収集と算定の工数を削減し、精度を向上させるために、CO2排出量算定・可視化ツールの活用が有効です。ツールを選定する際には、以下のポイントを比較検討することが推奨されます。

  • データ連携機能: 既存の経費精算システムや出張手配システムとAPI連携が可能か。
  • 原単位の網羅性と更新性: 環境省などの公的データベースに対応し、最新の排出原単位が自動で更新されるか。
  • 算定粒度: 交通手段別、事業部別、プロジェクト別など、分析に必要な粒度で排出量を可視化できるか。
  • 外部報告への対応: CDPやSBTiなど、外部への情報開示に必要な形式でデータを出力できるか。

これらの機能を備えたツールを導入することで、煩雑な算定業務から解放され、より戦略的な削減施策の立案にリソースを集中させることが可能になります。

出張のCO2排出量を削減する7つの具体策

Scope3カテゴリ6のCO2排出量を削減するためには、単に出張を減らすだけでなく、多角的なアプローチを組織的に実行することが求められます。

【代替】オンライン会議の積極活用と出張の要否判断

最も直接的な削減策は、出張そのものの必要性を見直すことです。定例会議や社内打ち合わせなど、オンライン会議で代替可能なものは積極的に切り替えるべきです。ただし、全ての出張をなくすことは現実的ではありません。新規顧客との関係構築や重要な契約交渉など、対面の価値が高い場面を見極め、出張の要否を判断するための社内基準を設けることが有効です。

【転換】航空機から鉄道へ、サステナブルな交通手段を選択

移動手段の転換は、非常に効果の高い削減策です。国土交通省が2024年に公表したデータによると、2022年度の旅客輸送における1人1kmあたりのCO2排出量は、自家用乗用車が119g-CO2/人kmであるのに対し、鉄道は17g-CO2/人kmであり、自家用乗用車は鉄道の約7倍となっています。国内の長距離移動においては、航空機からCO2排出量の少ない新幹線などの鉄道へ切り替えることを推奨すべきです。

【効率化】出張規定CO2削減ガイドラインの策定と浸透

既存の出張規定を見直し、環境配慮の観点を組み込むことが重要です。具体的には、以下のようなガイドラインを策定し、社内に浸透させます。

  • 推奨移動手段の明記: 一定距離以下の移動は鉄道利用を原則とする。
  • 予約システムの活用: 予約時に各移動手段のCO2排出量を可視化し、より環境負荷の低い選択肢を従業員に提示する。
  • 承認フローへの組込み: 出張申請の承認プロセスにおいて、環境負荷の観点からのチェック項目を設ける。

【仕組み化】サステナブルな出張先(宿泊施設等)の選定基準

出張に伴う排出は移動だけではありません。宿泊先の選定においても環境配慮が可能です。環境認証(LEED、BELSなど)を取得しているホテルや、再生可能エネルギーを導入している施設をリスト化し、従業員に利用を推奨する仕組みを構築します。旅行代理店と連携し、これらの施設を優先的に提案してもらうことも有効な手段です。

【技術革新】航空機出張のCO2削減に貢献するSAFの活用

航空機での出張が避けられない場合、SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)の活用が新たな選択肢となります。SAFは、廃食油などを原料とし、従来のジェット燃料と比較してライフサイクル全体でCO2排出量を大幅に削減できる燃料です。 JALなどが提供する「JAL Corporate SAF Program」のような企業向けプログラムを活用することで、企業は出張に伴うCO2排出量をSAF利用によって相殺(オフセット)し、削減証書を受け取ることができます。

【動機付け】従業員の行動変容を促すインセンティブ設計

従業員一人ひとりの協力なくして、全社的な排出量削減は達成できません。CO2削減への貢献を評価する仕組みを導入し、従業員の行動変容を促します。例えば、サステナブルな出張を実践した従業員や部署を表彰する制度や、削減できたCO2排出量に応じてポイントを付与し、福利厚生と交換できるようなインセンティブ設計が考えられます。

【連携】サプライヤーエンゲージメントを通じた協働

出張手配を外部の旅行代理店に委託している場合、その代理店との連携(サプライヤーエンゲージメント)が鍵となります。自社のCO2削減方針を共有し、サステナブルな交通手段や宿泊施設の提案、出張に伴うCO2排出量のデータ提供などを依頼することで、より効果的に削減を進めることができます。

【企業事例】Scope3 cat6削減の先進的な取り組み

事例1:出張規定の改定とSBT目標を連動させたA社

ある大手製造業A社は、SBT認定を取得し、サプライチェーン全体での野心的な削減目標を掲げています。その目標達成の一環として、Scope3カテゴリ6の削減に注力。まず、全社の出張データを分析し、航空機利用による排出が大部分を占めることを特定しました。

これを受け、同社は出張規定を大幅に改定。「片道400km未満の国内移動は原則として鉄道を利用する」というルールを導入しました。さらに、海外出張についても、直行便の利用を推奨し、不要な乗り継ぎによる排出増を抑制。これらの規定を徹底するため、出張申請システムを改修し、規定に沿わないルートを選択した場合にはアラートが表示され、上長の詳細な承認が必要となる仕組みを構築しました。この取り組みにより、同社は国内出張におけるCO2排出量を前年比で約30%削減することに成功しています。

事例2:テクノロジー活用で出張を最適化するB社

グローバルに事業を展開するコンサルティングファームB社では、出張の多さが経営課題となっていました。同社は、CO2排出量削減とコスト効率化を両立させるため、AIを活用した出張管理プラットフォームを導入しました。

このプラットフォームは、出張申請時に目的地や目的を入力すると、過去のデータから最適な移動手段と宿泊施設をCO2排出量とコストの両面から複数提案します。従業員は、各選択肢の環境負荷を定量的に比較した上で、最もバランスの取れたプランを選択できます。また、ダッシュボード機能により、部署別・個人別の排出量をリアルタイムで可視化。これにより、従業員の環境意識を高めるとともに、各部門長が自部門の排出量削減に向けた具体的な目標管理を行うことを可能にしました。結果として、同社は出張の利便性を損なうことなく、カテゴリ6の排出量を年間15%以上削減する見込みです。

出張削減と事業機会を両立させるには?

出張に伴うCO2排出量の削減は必須ですが、一方で、対面でのコミュニケーションがもたらす事業機会や、従業員のエンゲージメントを維持することも同様に重要です。

従業員エンゲージメントを損なわないための工夫

一方的な出張の禁止や厳しい制限は、従業員のモチベーション低下を招きかねません。重要なのは、「なぜ削減が必要なのか」という目的を全社で共有し、従業員が自社のサステナビリティ活動に貢献している実感を持てるような仕組みを作ることです。

例えば、削減目標の達成度を社内イントラネットで可視化し、優れた取り組みを行った部署を表彰する、あるいは削減によって浮いたコストの一部を従業員に還元するインセンティブ制度を設けるなどの工夫が考えられます。また、出張の要否を判断する際には、現場の意見を尊重し、トップダウンで一律に決めるのではなく、目的や効果に基づいた柔軟な判断基準を設けることが、従業員の納得感を得る上で不可欠です。

サステナブルツーリズムと連携した出張の価値向上

出張を単なる移動ではなく、より価値のある体験へと転換させる視点も重要です。 これは「サステナブルツーリズム」の考え方と通じます。

例えば、出張の旅程に余裕を持たせ、現地の環境保全活動や社会貢献活動に参加する機会を設ける「ワーケーション」や「ボランティアツーリズム」の要素を取り入れることが考えられます。また、宿泊先として、地産地消にこだわり、地域経済の活性化に貢献しているホテルを選ぶことも一つの方法です。

こうした取り組みは、CO2排出量削減に貢献するだけでなく、出張を通じて従業員が新たな知見を得たり、社会課題への意識を高めたりする機会となり、結果として企業全体の価値向上にも繋がります。出張をコストや排出量として管理するだけでなく、人材育成や事業機会創出の投資として捉え直すことが、これからの時代には求められます。

FAQ

Q1: Scope3の算定は法律で義務化されていますか?

A1: 現時点(2026年6月)で、日本の法律で全ての企業にScope3の算定が直接義務付けられているわけではありません。しかし、2023年3月期から有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の記載欄が新設され、プライム市場上場企業を中心にTCFD提言に沿った気候変動関連情報の開示が実質的に求められています。さらに、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)が策定した国内開示基準ではScope3排出量の開示が求められており、2027年3月期から時価総額3兆円以上のプライム市場上場企業を皮切りに、段階的に義務化される見通しです。このため、法的な直接義務はなくとも、Scope3の算定・開示は必須の流れとなっています。

Q2: 出張のCO2排出量はどのように計算しますか?

A2: 基本的な計算式は「活動量 × 排出原単位」です。 例えば、「東京-大阪の新幹線での往復移動距離(km) × 新幹線の旅客キロあたりの排出原単位(kg-CO2/人km)」で算出します。活動量には移動距離のほか、交通費の金額なども利用できます。排出原単位は、環境省がウェブサイトで公開している「サプライチェーン排出量算定用 排出原単位データベース」(最新版は2025年4月公表のVer.3.5)などを参照します。

Q3: 出張を減らさずにCO2を削減する方法はありますか?

A3: はい、あります。最も効果的なのは、移動手段をより環境負荷の低いものに転換することです。例えば、国内出張で航空機を利用していた区間を鉄道に切り替えることが挙げられます。 また、どうしても航空機での移動が必要な場合は、SAF(持続可能な航空燃料)の利用プログラムに参加することで、排出量をオフセットする方法もあります。 さらに、出張先での宿泊施設を、再生可能エネルギーを利用しているホテルや環境認証を取得しているホテルにすることも削減に繋がります。

Q4: SBT認定では出張に関する目標設定は必要ですか?

A4: Scope3全体の排出量が、Scope1, 2, 3の合計排出量の40%以上を占める企業の場合、Scope3全体の削減目標を設定することが必須要件となります。 その中で、カテゴリ6(出張)の排出量がScope3全体の中で大きな割合を占めている企業であれば、Scope3目標を達成するために、出張に関する具体的な削減計画を策定し、実行することが実質的に求められます。なお、SBTiは2026年6月に企業ネットゼロ基準の最新版(V2.0)を公開しており、常に基準はアップデートされています。

まとめ

本記事では、Scope3カテゴリ6(出張)のCO2排出量について、その定義や算定方法から、7つの具体的な削減策、先進企業の事例までを網羅的に解説しました。

サステナビリティ開示基準の整備が進む中、出張に伴う排出量の把握と削減は、もはや企業の社会的責任を果たす上で避けては通れない経営課題です。オンライン会議への代替や移動手段の転換といった直接的な施策はもちろん、出張規定の見直しやインセンティブ設計といった組織的な仕組み作り、さらにはSAFの活用といった最新技術の導入まで、多角的なアプローチが求められます。

重要なのは、これらの取り組みを単なるコスト削減や規制対応として捉えるのではなく、従業員エンゲージメントの向上や新たな事業機会の創出に繋げる視点です。自社の排出量を正確に把握し、事業内容に合った削減策を戦略的に実行していくことが、持続可能な企業価値の向上に不可欠です。


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