※本記事の内容は2026年6月時点の規格案(ISO/DIS 14060)に基づきます。確定規格ではなく、今後の審議で内容が変わる可能性があります。【提案段階/パブコメ中】
2026年6月17日、国際標準化機構(ISO)が、ネットゼロに関する世界初の国際規格案「ISO 14060」を公開しました。企業のネットゼロ移行計画を第三者が検証できるようにする規格で、現在はパブリックコメント期間中のドラフト段階です。本記事では、ISO 14060の概要、既存ISO規格との違い、主な要件、そして日本企業が今から準備すべきことを、一次情報をもとに整理します。
ISO 14060とは
ISO 14060は、正式名称を「ISO/DIS 14060 Net zero aligned organizations(ネットゼロ準拠組織/仮訳)」という、企業や組織のネットゼロへの移行を対象とした国際規格案です。2026年6月17日、ISOがロンドン・クライメート・アクション・ウィークを前に公開しました。
最大の特徴は、世界で初めて「第三者による検証が可能な」ネットゼロ移行計画の国際規格である点です。これまでネットゼロの定義は組織ごとにばらつきがあり、信頼性の担保が課題でした。ISO 14060は、戦略・目標・実行が本当にネットゼロと整合しているかを、外部が妥当性確認・検証できる枠組みを提供します。
なお、ISO 14060は「目標値を決めさせる規格」ではありません。各組織が自らの事業状況に応じて移行計画を策定・実行・開示するプロセスを定めるものです。
既存のISO規格・IWA 42との違い
「ISO 14060」と聞くと既存のISO規格を思い浮かべるかもしれませんが、これは今回が初版(Edition 1)の新規規格です。GHG・脱炭素に関する既存のISO規格とは、それぞれ役割が異なります。
- ISO 14064シリーズ:GHG排出量の算定・報告・検証
- ISO 14067:製品のカーボンフットプリント
- ISO 14068-1:カーボンニュートラリティ(2023年)
- IWA 42:2022:ネットゼロガイドライン(ISO 14060が置き換える)
ISO 14060は、2022年に公開されたガイドライン文書「IWA 42(ネットゼロガイドライン)」を基礎としており、これを正式な規格として置き換える位置づけです。また、ISO既存のGHG算定・報告ルール群の上に構築され、SBTi(Science Based Targets initiative)の新しいネットゼロ基準など、広く使われる他の基準も参照しています。
整理すると、排出量を「測る」のがISO 14064シリーズ、その先で「ネットゼロへの移行計画を立て、実行し、第三者検証する」のがISO 14060、という棲み分けになります。
なお、ISOは従来これらのGHG関連規格(ISO 14064〜14068)を総称して「ISO 14060ファミリー」と呼んできました。今回の「ISO 14060」は、その総称と同じ番号が個別規格として新たに割り当てられたものです。検索時に既存の算定規格の情報が混在しやすいため、注意が必要です。
ISO 14060の主な要件
規格案では、ネットゼロ達成に必要なコミットメントとガバナンスに焦点が当てられています。主な要件は次の通りです。
- 中間目標・長期目標の設定
- 目標設定後2年以内に、詳細な移行計画を公表すること
- 移行計画に含めるべき要素:信頼できる定量データ/戦略を事業モデルへ統合するプロセス/行動のタイムライン/進捗の測定・報告・検証方法/カーボンクレジット利用計画
- 対象範囲はScope 1・2・3(バリューチェーンの上流・下流を含む)
排出削減の優先順位も明確です。まず自社のインベントリ境界内での削減を優先し、短期での大幅な削減を重視。削減しきれない残余排出は、カーボン除去・貯留によって相殺する考え方が採られています。
適用対象は、企業・法人・NGO・学術機関などの「組織」です。国・地域・州・都市は対象外で、主に非金融機関向けに開発されています(金融機関は自社の非ファイナンス活動に適用可能)。
中小企業(SME)への配慮
ISO 14060には、中小企業向けの専用セクションが設けられています。大企業に比べてデータや削減手段が限られる、成長に伴い絶対排出量の削減が難しい、といった中小企業特有の事情に配慮した内容です。
具体的には、中間目標や最も重要な排出カテゴリへの集中を選択できるほか、進捗報告を毎年ではなく3年ごとに行うことも認められる見込みです。GHG算定をこれから始める企業にとっても、取り組みのハードルを下げる設計といえます。
今後のスケジュールと日本企業の準備
ISO 14060は、170カ国を超える各国標準化機関を通じて、12週間のパブリックコメント期間に入りました。9月初旬までに各国の意見を集約し、年内に各国投票が予定されています。確定・発行はその先となります。
日本企業にとって重要なのは、確定を待たずに準備を始められる点です。ISO 14060の要件の多くは、Scope 1〜3の正確な排出量把握を前提とします。まずは自社のGHG排出量を算定し、削減目標と移行計画の土台を整えておくことが、規格対応への最短ルートになります。
まとめ
ISO 14060は、ネットゼロの「言いっぱなし」を防ぎ、移行計画を第三者が検証できるようにする世界初の国際規格案です。2026年6月時点ではパブコメ中のドラフトですが、確定後は企業のネットゼロ移行計画に対する事実上の国際的なものさしとなる可能性があります。
対応の出発点は、Scope 1〜3の排出量を正確に把握すること。サステナビリティAIプラットフォーム『ASUENE』は、Scope 1〜3のCO2排出量を可視化し、削減目標の設定から移行計画の検討までを支援します。ISO 14060の動向を見据え、いまから排出量の見える化に着手しておくことをおすすめします。