建設時に発生するCO2、いわゆるエンボディドカーボンへの対応が、建築・不動産業界で現実的なテーマになりつつあります。2028年には延べ床面積5000平方メートル以上の建築物を対象に、LCCO2(ライフサイクルCO2)算定の届出義務化が予定されており、建材にも定量的な環境性能が求められる局面に入っています。こうした中、アサヒ飲料は「CO2を食べる自販機」で回収したCO2を活用し、日本エムテクスと共同で「二酸化タイル®」を開発しました。なぜ飲料メーカーが低炭素建材を作ったのか。その背景と狙いを、アサヒ飲料 CSV戦略部の峯澤和裕氏に聞きました。
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自販機をCO2回収インフラへ転換。CO2を吸収し、建材に活用する背景と狙い

アサヒ飲料は、「三ツ矢」「ウィルキンソン」「カルピス®」といった100年以上続くブランドを持つ清涼飲料メーカーです。長く生活者に親しまれてきたブランドを次の100年へつないでいくうえで、アサヒ飲料が重視しているのが、商品そのものだけでなく、事業を通じてどのような社会的価値を生み出せるかという視点です。
その中で生まれたのが、「CO2を食べる自販機」の構想でした。自動販売機は、飲料を安定的に届けるために欠かせない販売チャネルである一方、稼働時に電力を使う以上、環境負荷の観点で語られることもあります。環境負荷がある設備として見られがちな自販機のイメージを変えたいという問題意識から、逆に大気中のCO2を取り込む装置として再定義できないか。その発想が、社内の会話をきっかけに具体化していきました。
こうして開発された「CO2を食べる自販機」は、庫内にCO2吸収材(※1)を搭載し、稼働中に大気中のCO2を吸収する国内初の仕組みで、この技術に関する特許も保有しています。1台あたりの年間CO2吸収量は、最大で林齢56-60年の杉の木約20本分に相当し、現在は全国で6,000台超(2026年3月末時点)へと設置が進んでいます。将来的には5万台への拡大を目指しています。
しかし、当初から重視していたのは「回収したCO2をどうするか」でした。CO2を吸収した後の吸収材をそのまま廃棄すれば、固定した炭素を十分に生かしたことにはなりません。だからこそアサヒ飲料では、回収したCO2を工業原料として活用し、より長期間、社会にとどめられる方法を模索していました。そこで着目したのが建材です。建築物に使われる材料であれば、数十年単位でCO2を固定できる可能性があるからです。
ただし、アサヒ飲料は建材メーカーではありません。自社だけで製造を完結するのではなく、適切なパートナーと組む前提で、コンクリートや舗装材なども含めて用途を模索してきました。その中で、日本エムテクスとの協業により実現したのが、内装用床材「二酸化タイル®」です。飲料メーカーが建材を開発したというより、回収したCO2をどう社会実装するかを突き詰めた結果として、建材という形にたどり着いた。そう捉えると、この取り組みの位置づけがより明確になります。
※1 外部協力工場の製品製造時に発生する副産物
強度5倍、CFP算定済み。無焼成タイルによる建材脱炭素化の挑戦

「二酸化タイル®」は、CO2吸収材と高炉スラグを主原料とした無焼成タイルです。従来のセラミックタイルは約1,300℃で高温焼成されるのに対し、本製品は約70℃での乾燥工程のみで製造されます。この工程差により、製造時のCO2排出量を削減しつつ、さらに吸収材を配合することで、大気中のCO2を固定することができます。
二酸化タイル(厚み12.5㎜)の原材料の採取・調達(A1)、輸送(A2)、製造(A3)までのCradle to Gate(工場出荷まで)を対象に算定したCFP(※2)では、焼成タイルの公表値の一例より低い値となりました(※3)。なお、本算定は2026年4月時点の結果です。
強度面では、従来の焼成タイルと比較して約5倍の耐衝撃性を有します。JIS試験により、滑り・摩耗・耐汚染性などに問題がないことを確認しており、屋内床用途での実用性が確認されています。また、施工時のカット加工にも対応可能であり、既存建築物への導入も可能です。
素材構成においても特徴があります。全体の90%以上(重量比)がCO2吸収材と高炉スラグなどのアップサイクル素材で構成されています。さらに、茶殻やコーヒー粕を着色材として活用することで、廃棄物の再利用にも寄与しています。
価格は案件条件によって異なりますが、国内のミドルレンジ帯を想定しており、環境性能のみを理由とした大きな価格差が生じにくい設計を目指しています。この点は、コスト重視の意思決定が残る建材調達において重要な要素です。
これらの定量データは、特にLCA算定やグリーンビルディング認証などを意識するゼネコン、ディベロッパーにおいて、信頼性のある定量データを有する建材としてのニーズが見込まれます。
従来、建材の環境性能は定性的な評価にとどまるケースが多く、算定方法も一律ではありませんでした。「二酸化タイル®」はCFPを明示することで、建材ごとのCO2排出量を比較可能にし、調達判断の精度向上に寄与します。
※2 製品単位のライフサイクルにおいて排出する温室効果ガス量を、CO2換算で数値化した指標
※3 焼成タイルの一例(磁器質タイル厚み12mm/EPD Hub HUB‑1978 Keope Porcelain Stoneware:A1-A3、EPD HUB, HUB-2157 Atlas Plan Porcelain Stoneware:A1-A3 など)

2028年のLCCO2届出義務化を前に、EPD取得タイルが建物の環境価値向上と調達判断に直結
建材の環境性能を定量的に把握・比較するための仕組みとして、EPD(Environmental Product Declaration)があります。EPDは製品のライフサイクル全体を通じた環境負荷データを第三者が評価・公開するもので、米国ではすでに義務化が進み、欧州でも2026年以降順次義務化される方向です。
現在、「二酸化タイル®」はエコマーク申請、EPD取得に向けて準備を進めています。EPD取得済みの建材を採用することは、LCCO2算定の文脈で「この建材に切り替えるとCO2をこれだけ削減できる」という建材の環境価値を定量的に提示できることにつながります。
2028年のLCCO2届出義務化に向けた備えとしても、サプライチェーン全体の脱炭素対応を強化したいゼネコン・ディベロッパーにとっても、実用的な選択肢となります。建物のLCA算定において、個社製品データを用いた精緻な算定が可能になり、LEED・BREEAM・CASBEEをはじめとするグリーンビルディング認証・評価制度において、環境情報開示資料として活用され、建材選定や建物の環境性能を考慮した計画・検討に役立ちます(※4)。グローバル展開する企業やIT系テナントを誘致したい物件では、こうした認証対応が入居判断に影響するケースが増えています。
加えて、将来的なカーボンプライシング導入を見据えたリスク対応にもつながります。CO2排出量を可視化し削減している建物は、規制対応において優位性を持つ可能性があります。
建築分野における脱炭素対応は、運用時のエネルギー効率改善(ZEB・ZEH)から、建材製造段階も含めたライフサイクル全体のCO2排出量削減へと焦点が広がっています。その中で、建材の選定は、建設時CO2(エンボディドカーボン)削減を左右する重要な意思決定要素となっています。
※4 EPD取得建材の評価への反映方法は、制度やプロジェクト条件によって異なります
建材選定から始めるLCCO2削減
アサヒ飲料の「二酸化タイル®」は、CFP算定済みの低炭素性、一般品比約5倍の高強度、アップサイクル素材90%以上という特性を、従来の焼成タイルと同等水準の価格で提供します。これにより、「環境性能」と「コスト」の両立が求められる実務の中でも、導入を検討可能な選択肢となります。
特に、延べ床面積5000平方メートル以上の建築物を対象としたLCCO2届出義務化を見据える企業にとっては、建材ごとのCO2排出量をどのように把握し、設計・調達に反映するかが重要な論点となります。CFPを明示できる建材を採用することで、LCA算定の精度向上に加え、認証取得やステークホルダーへの説明においても一貫性を持たせることが可能になります。
すでに一部の企業では、建材選定の段階からCO2排出量を比較し、設計段階で削減余地を検討する動きが始まっています。こうした流れを踏まえると、建材の環境性能を「定量データとして扱う」こと自体が、今後重要となることが想定されます。
自社のプロジェクトにおいて、建設時CO2削減をどの段階から織り込むべきか、また建材選定でどの程度削減余地があるのか。そうした検討を進める企業にとって、「二酸化タイル®」は具体的な比較・検証の対象となり得ます。まずは、自社の用途や設計条件に照らし、適用可能性を個別に確認することが重要です。
タイルだけでなく、低炭素なコンクリートや、アスファルト舗装への活用を相談することもできますので、ぜひご検討ください。
