原子力発電は、CO2をほとんど排出せず、少ない燃料で大量の電力を安定供給できる点がメリットですが、放射性廃棄物の処理や事故時のリスクといったデメリットも抱えています。2050年カーボンニュートラル実現に向けて原発の再稼働と新増設の議論が活発化する一方、福島第一原発事故の教訓から安全性への懸念も根強く残ります。この記事では、原子力発電のメリット・デメリットを4つずつ整理し、仕組み・日本の現状・他の発電方法との比較を、2026年時点の最新データに基づいて解説します。
INDEX
原子力発電とは?仕組みをわかりやすく解説
原子力発電とは、ウランなどの核燃料が核分裂する際に発生する熱エネルギーを利用して水蒸気を作り、その水蒸気でタービンを回して発電する方式です。火力発電が化石燃料の燃焼で熱を得るのに対し、原子力発電は核分裂反応で熱を得る点が大きな違いです。
核分裂のエネルギー効率は非常に高く、100万kWの電力を1年間発電するために必要な燃料は、原子力発電(濃縮ウラン)でわずか21トン。これに対し、火力発電では石炭で約235万トン、石油で約155万トン、天然ガス(LNG)で約95万トンが必要となります。少ない燃料で大量の電力を作れる効率性が、原子力発電の最大の特徴です。
出典:資源エネルギー庁『原発のコストを考える』
原子力発電のメリット4つ
原子力発電には主に4つのメリットがあります。それぞれを順に見ていきましょう。
1. 発電時にCO2をほとんど排出しない
原子力発電は核分裂反応で熱を得るため、発電時にCO2を排出しません。設備建設・運用も含めたライフサイクル全体での排出量は約0.019kg-CO2/kWhで、石炭火力(約0.975kg-CO2/kWh)の約50分の1にとどまります。これは太陽光発電(約0.053kg-CO2/kWh)や陸上風力発電(約0.029kg-CO2/kWh)と同等の低水準で、脱炭素電源として位置づけられています。
2. 少ない燃料で安定した電力を供給できる
ウランは少量で膨大なエネルギーを生み出すため、発電所への燃料補給を頻繁に行う必要がなく、長期にわたって安定した運転が可能です。また、天候や時間帯に左右されないため、24時間365日継続的に電力を供給する「ベースロード電源」として機能します。
3. 燃料の安定調達と備蓄性が高い
ウランの主要産出国はカナダ・オーストラリア・カザフスタンなど政情が比較的安定した国々で、中東依存度が高い石油・天然ガスと比較して燃料リスクが低いのが特徴です。1度装荷した燃料で1年以上運転できるため、エネルギー安全保障の観点からも評価されています。
4. 発電コストが比較的低水準
経済産業省『発電コスト検証ワーキンググループ』の試算では、原子力発電の発電コストは1kWhあたり11.7円〜(2030年想定)とされ、太陽光発電・洋上風力よりも安価な水準です。燃料費が発電コストに占める割合も小さく、ウラン価格変動の影響を受けにくい安定性も持ち合わせています。
出典:経済産業省『令和3年度 発電コスト検証に関する取りまとめ』(2021年)
原子力発電のデメリット4つ
一方で、原子力発電には深刻なデメリットも存在します。代表的な4つを解説します。
1. 重大事故時の被害が甚大
原子力発電所で重大事故が発生した場合、放射性物質の漏洩による広範囲・長期間の汚染を引き起こします。2011年3月の福島第一原発事故では、東京電力管内の電源喪失により大規模な炉心溶融が発生し、周辺地域への避難指示は10年以上経過した現在も一部地域で継続しています。1986年のチェルノブイリ原発事故も含め、ひとたび事故が起きると国境を越える深刻な被害をもたらします。
2. 放射性廃棄物の処分問題が未解決
使用済み核燃料からは高レベル放射性廃棄物が発生し、安全な水準まで放射能が減衰するには数万年〜10万年を要します。日本では地層処分(地下300m以深での保管)が計画されていますが、最終処分場の場所選定が長年の課題で、北海道寿都町・神恵内村で文献調査が進行中の段階にとどまっています。
3. 建設・廃炉のコストと期間が膨大
原子力発電所の建設には10年以上の期間と数千億〜1兆円規模の投資が必要です。さらに運転終了後の廃炉作業にも30〜40年と数千億円のコストがかかり、福島第一原発の廃炉費用は8兆円規模との試算もあります。建設前のコスト試算より大幅に増えるケースが多く、経済性に不確実性が残ります。
4. 立地制約と地元合意の難しさ
地震・津波・火山活動など自然災害リスクの低い場所への立地が前提となり、加えて立地周辺の住民理解と自治体の合意が必須です。日本は地震多発国であり、新規立地は極めて困難な状況にあります。福島事故以降、再稼働についても地元合意のハードルが大きく上昇しました。
出典:経済産業省『エネルギー基本計画』(2024年閣議決定)
日本の原子力発電の現状(2026年最新)
2026年5月時点で、日本国内では14基の原子力発電所が再稼働しています。福島第一原発事故後の新規制基準に基づく審査をクリアしたものから順次再稼働しており、関西電力・九州電力・四国電力の管内が中心です。
2024年閣議決定の「第7次エネルギー基本計画」では、2040年度の電源構成において原子力発電比率を2割程度に高める方針が示されました。これは2050年カーボンニュートラル実現に向け、原子力発電を「脱炭素のベースロード電源」として活用する戦略です。さらに、次世代革新炉(小型モジュール炉SMR等)の開発も国家戦略として進められています。
一方、2024年1月の能登半島地震では志賀原発で外部電源の一部喪失や変圧器の油漏れが発生し、地震多発国における原発の安全性論議が再燃しています。再稼働と新規立地の議論には、安全性・経済性・地元合意の3点が引き続き重要な論点です。
出典:経済産業省『第7次エネルギー基本計画』(2025年2月閣議決定)の密接な関りが必要となります。
原子力発電と他の発電方法(火力・水力・再エネ)の比較
原子力発電の特性を理解するうえで、他の発電方法との比較は欠かせません。下表は、主要な発電方法のCO2排出量・発電コスト・特徴をまとめたものです。
【主要発電方法の比較】
・原子力発電:CO2排出量0.019kg-CO2/kWh/発電コスト11.7円〜/低排出だが事故・廃棄物リスクあり
・石炭火力発電:CO2排出量0.975kg-CO2/kWh/安定供給が可能だが、CO2排出が最大
・LNG火力発電:CO2排出量0.608kg-CO2/kWh/柔軟性が高いが、化石燃料依存
・水力発電:CO2排出量0.011kg-CO2/kWh/再エネで効率高いが、立地が限定
・太陽光発電:CO2排出量0.053kg-CO2/kWh/燃料不要だが、天候依存・広い敷地必要
・風力発電:CO2排出量0.029kg-CO2/kWh/効率高いが、天候依存・設置場所制約
・地熱発電:CO2排出量0.015kg-CO2/kWh/半永久的に利用可能だが、国立公園内が中心で開発難航
・バイオマス発電:火力発電に似た仕組みで、廃棄物の有効活用が可能だが、燃料供給体制が未発達
いずれの発電方法もメリット・デメリットがあるため、特定の電源に依存せず、複数の電源をバランスよく組み合わせる「エネルギーミックス」が日本のエネルギー政策の基本方針となっています。
出典:環境省『エネルギー供給GW参考資料』
原子力発電に関するよくある質問
1. 原子力発電は再生可能エネルギーですか?
いいえ、原子力発電は再生可能エネルギーではありません。燃料となるウランは天然資源で有限であり、いずれ枯渇する可能性があります。ただし、発電時にCO2を排出しない「脱炭素電源」「クリーンエネルギー」には分類され、2050年カーボンニュートラル実現の手段の一つとして位置づけられています。
2. 日本の原子力発電所はいつまで稼働できますか?
原子力規制委員会の規制では、運転期間は原則40年、最長60年と定められていました。2023年5月成立の「GX脱炭素電源法」により、安全審査などで停止した期間を除外して実質的に60年超の運転が可能となる仕組みに改正されました。これにより、既存原発の長期稼働と新増設の両面で議論が進んでいます。
3. 原子力発電と脱炭素経営はどう関係しますか?
企業の脱炭素経営において、購入電力の排出係数は重要な指標です。原子力発電比率が高い電力会社(関西電力など)の電力を使うと、企業のScope2排出量を低く抑えられます。ただし、再生可能エネルギー由来電力との組み合わせやSBT・RE100の認証要件にも配慮した戦略が求められます。
出典:経済産業省『GX脱炭素電源法の概要』(2023年5月成立)
まとめ:原子力発電のメリット・デメリットを理解し、最適なエネルギー選択を
多様な発電方法があり各発電方法にメリット、デメリットがあることを紹介させていただきました。持続的な社会を目指すためにはそれぞれの企業が環境問題に取り組み、解決に向けて動くのが大切です。
CO2の排出を抑えるには、新エネルギーの活用が期待されており、企業でも利用しやすい形に開発が進んでいます。使用電力を再生可能エネルギーによって発電された電力に代えることや、再生可能エネルギー発電装置を設置するなど、企業でできる環境問題への取り組み方があります。
よりよい社会を築くために、まずは電力を見直したりと、出来る範囲での環境貢献を検討してみてはいかがでしょうか。
・原子力発電のメリットは、①CO2をほとんど排出しない、②安定供給が可能、③燃料の調達リスクが低い、④発電コストが比較的低水準、の4点。
・原子力発電のデメリットは、①事故時の被害が甚大、②放射性廃棄物の処分問題が未解決、③建設・廃炉コストが膨大、④立地制約と地元合意の難しさ、の4点。
・日本では2026年時点で14基の原子力発電所が再稼働しており、第7次エネルギー基本計画では2040年度に原発比率2割を目指す方針。企業の脱炭素経営においても、購入電力の排出係数の観点から原子力発電は無視できない選択肢となっている。
電源選択時代の脱炭素経営を、Scope2排出量の見える化から最適化する
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