環境問題

なぜ脱炭素は社内に浸透しないのか。中高生の実践に学ぶ、社員が自ら動き出す仕組み

  • xのアイコン
  • facebookのアイコン
なぜ脱炭素は社内に浸透しないのか。中高生の実践に学ぶ、社員が自ら動き出す仕組み

企業の脱炭素経営において、多くのサステナビリティ担当者が直面する最大の壁。それは「社内の巻き込み」です。経営陣が目標を掲げ、担当部署が施策を練っても、現場の社員一人ひとりが「自分ごと」として捉えなければ、真の脱炭素化は実現しません。

「環境問題」というハードルの高いテーマを、いかにして身近なアクションへと落とし込むのか。 そのヒントを探るべく、今回は東京都調布市の私立中高一貫校・ドルトン東京学園で実施された特別企画をレポートします。参加したのは、「学校全体のCO2排出量見える化プロジェクト」に取り組むドルトンの生徒、6年前に長野県白馬高校で気候非常事態宣言を牽引した卒業生、そして現在サーキュラーエコノミーに挑む白馬高校の現役生徒です。

住む場所も立場も異なる彼らが、どんなことに気づき具体的なアクションを起こしてきたのか。学生たちの議論と実践のプロセスには、社員の行動変容を促すヒントが隠れていました。

INDEX

「正しさ」だけでは人は動かない。サステナビリティ施策を浸透させるアプローチ

7年前、白馬高校在学時に、地域を巻き込んだ気候変動アクションを展開してきた卒業生たちは、どのように周囲の共感を広げていったのでしょうか。

当時、高校2年生の3人を中心に、生徒たちが主体となって取り組みがスタートしました。発端は、「東京に行きたい」という、ごく自然な高校生の思いからでした。白馬村で降雪量が大きく減少したことをきっかけに、気候変動問題の重要性を意識し、東京で開催される「グローバル気候マーチ」への参加を考えます。

しかし、イベントは平日に開催されるため学校を休むことができません。そこで彼らは、白馬村で「グローバル気候マーチ in 白馬」を主催することを決断しました。村長へ気候非常事態宣言を求める署名を提出するなど、活動は次第に地域や自治体を巻き込むものへと広がっていきます。

ただ当初は、「環境問題に関心のある人しか参加しない」という壁に直面しました。そこで、「気候変動」を前面に出すのではなく、「楽しいイベント」として伝えるアプローチへと転換しました。そして「気候難民のためのチャリティーバザー」を企画し、地域の店舗やキッチンカーと連携することで、環境問題に関心の薄い層にも「楽しめるイベント」として参加を促すことに成功します。

さらに、「実際に変化を生み出す」ため進めた学校の断熱改修プロジェクトでは、大学教授や地域の工務店などの専門家を巻き込みながら実行しました。教室の温度改善という目に見える効果を示すことで、生徒や関係者の理解と協力を広げていきます。

こうした一連の取り組みに共通しているのは、「環境問題」を参加者にとっての具体的な価値に翻訳している点です。言い換えれば、「伝わりやすい価値への変換」です。

企業においても同様に、脱炭素の取り組みは「CO2排出量削減」という目的だけでは、現場の行動につながりにくい側面があります。業務効率の向上や職場環境の改善といった、社員にとって実感のあるメリットへと置き換えて伝えることが、無関心層を巻き込み、組織全体の行動変容を促す起点となるのではないでしょうか。

本社も工場・拠点も納得し、全社一体となって脱炭素経営を加速させる仕組み

①組織が大きくなるほど重要性を増す「見える化」と当事者意識の醸成

ドルトン東京学園の生徒数は約600人です。この学校の生徒たちは、アスエネ株式会社との連携を通じて、学校生活におけるCO2排出量の見える化に取り組みました。

企業と同様に、排出量をスコープ1、スコープ2、スコープ3に分類。校内の電力使用量や、生徒の研修旅行に伴う飛行機・電車の移動距離といった「活動量」を自ら収集し、排出原単位を掛け合わせることで、学校全体の年間のCO2排出量を算出しました。

自らデータを集め、現状を数値で把握することで、日々の行動が排出量にどうつながっているのかを実感していきます。一人ひとりが「見える化」された事実に向き合うことで、その背後にある社会課題に気づき、「自分ごと」として捉える意識が生まれていきました。

さらに生徒たちが気づいたのは、「一部の人だけが『自分ごと』として行動しても、全体は変わらない」という現実です。生徒約600人の学校でも、自分たちが見出したデータを全員に共有し、気候変動対策を「自分ごと」として捉えてもらうことは容易ではありません。

企業においても、本社主導で方針を掲げるだけでは現場の行動変容にはつながりにくいのが実情です。だからこそ、部署や業務単位でのCO2排出量を見える化し、自分たちの業務がどのように影響しているのかを具体的に理解することが重要になります。データによる「見える化」は、当事者意識を生み出す起点となり得ます。

②現場起点で進むボトムアップ型のサステナビリティ推進

一方、長野県北西部に位置する白馬村にある長野県白馬高校。人口約9,000人の小さな村でありながら、冬のスキーシーズンを中心に年間約270万人の観光客が訪れる国際的な山岳リゾートです。観光業が地域経済の大部分を支えており、自然環境の変化が直接的に生活や産業に影響する特徴があります。

そうした環境の中で生徒たちが着目したのは、外国人観光客の一部が「雪の多い白馬村での滞在用に使用する防寒具や洋服などを帰国する際に持ち帰らず、宿に残していく」という身近な課題でした。宿泊施設に衣類が大量に残されてしまうという実態を目にしたのです。

この課題と向き合うため、生徒たちが思いついたのは「廃棄物」を「資源」と捉え直すことです。ホテルに回収ボックスを設置して衣類を集め、イベントで販売する仕組みを構築しました。さらに、その収益を学校の断熱改修に充てることで、資金を外部に依存せずに環境改善を進める循環モデルを構想しています。

ここで特徴的なのは、現場の課題からスタートしている点です。身近な違和感や無駄に目を向け、それを解決するプロセスの中で、結果的に環境負荷の低減とコスト削減にもつなげています。

企業においても工場や拠点の現場には、日々の業務の中に新たな価値を生み出す余地があります。現場発の取り組みが、環境負荷の低減とコスト削減の両立、さらにはブランディングや収益創出といったポジティブなインパクトにつながるよう設計することで、現場の納得感や主体性を引き出すことにつながるのではないでしょうか。

環境・規模・責任の違いが生む課題を、仕組みとしてどう解決するか

最後は、ドルトン東京学園の生徒と白馬高校の現役生・卒業生が混ざり合い、学校生活における具体的な環境課題について議論が行われました。

主なテーマとなったのは、「電気・エアコンの消し忘れ」や「教室の温度管理」といった、日常の中にある課題です。特に印象的だったのは、同じ課題でも、置かれている環境によって捉え方が大きく異なるという点でした。

例えば、空調の使い方です。ドルトン東京学園の生徒からは、「ついつい、エアコンや電気がつけっぱなしになってしまう」という課題が挙げられました。一方で白馬の生徒からは、「1日の灯油の使用量が限られているため、使いすぎると午後に教室が寒くなり、自分たちが困る」という声が上がります。

エネルギーが「使えて当たり前」の環境と、「資源に制約がある」環境では、日々の使い方そのものが変わります。こうした制約を設けることが、結果としてエネルギー利用の管理につながることが見えてきました。

また、学校規模の違いも新たな気づきを生みました。ドルトン東京学園の生徒数は約600人、一方で白馬高校は約160人です。

人数が多い組織では、一人ひとりの行動の影響が見えにくくなり、「誰かがやるだろう」という意識が生まれやすくなります。一方で「600人という規模だからこそ、全員が同じ方向に動けば、それ自体が大きなムーブメントにつながるのではないか」という発想も生まれました。つまり、規模の大きさは単なる難しさではなく、「影響力の大きさ」という可能性でもあるという視点です。

さらに「東京と地方が連携して発信することで、より大きな影響を生み出せるのではないか」という意見も出ました。

都市と地方、異なる立場の取り組みを掛け合わせることで、より多様な人に届く発信が可能になるのではないか。そうした発想は、異なる環境の生徒同士が対話したからこそ生まれたものです。

まとめ

こうした具体的なやり取りから浮かび上がったのは、サステナビリティ推進において重要となる3つの視点です。

1つは、現状を客観的に捉えるための「見える化」。2つ目は、現場から新たな取り組みを生み出す「ボトムアップ」。そして3つ目は、取り組みを無理なく継続させるための「仕組み」という要素です。

加えて重要なのは、立場や環境の異なる人同士が対話すること自体が、新たな気づきや解決策を生む起点になるという点です。

企業においても、本社と工場・拠点では、置かれている環境や課題の捉え方が大きく異なります。だからこそ、それぞれの前提を持ち寄り、対話を通じて共通認識をつくっていくことが不可欠です。

脱炭素という一見捉えにくい課題に対して、全社で納得感を持ちながら取り組むためのヒントが、今回の生徒たちの議論から見えてきました。

  • xのアイコン
  • facebookのアイコン

タグから探す

人気記事ランキング

役立つ無料ガイド集​​

まとめて資料請求

related/ 関連記事

Pick UP/ 注目記事

GUIDE BOOK/ 役立つ無料ガイド集

  • 人気No.1

    サービス概要

    この資料で分かること
    サービス概要、利用プラン
    CO2削減実行までの基本
    効率的な各種算定方法など

    サービス概要、利用プランなどを知りたい方はこちら

    資料ダウンロード

  • 他社事例を
    知りたい方はこちら

    アスエネ事例集

    掲載企業(一部)
    株式会社コメダホールディングス
    GMOペイメントゲートウェイ株式会社
    日本トムソン株式会社 ...など

    他社事例を知りたい方はこちら

    資料ダウンロード

  • 製品別のCO2排出量を
    見える化したい方

    CO2排出量の基礎

    この資料で分かること
    Scope1-3の見える化
    Scope1-3算定のメリット
    Scope3算定手順

    製品別のCO2排出量を見える化したい方はこちら

    資料ダウンロード

  • 最新のSDGsの
    取り組みを知りたい方

    SDGs資料

    この資料で分かること
    最新のSDGsの企業取組一覧

    最新のSDGsの取り組みを知りたい方はこちら

    資料ダウンロード

  • 近年の気候変動の
    状況を知りたい方

    温暖化資料

    この資料で分かること
    気候変動の状況や対策についてのまとめ

    近年の気候変動の状況を知りたい方はこちら

    資料ダウンロード