カーボンニュートラルの規格 PAS 2060とは?意味を解説します
- 2024年12月23日
- CO2算定
カーボンニュートラルの規格「PAS 2060」について、わかりやすく解説します。あらゆる事業活動にサステナビリティが求められる昨今、特に脱炭素への取り組みが重要であることは言うまでもありません。カーボンニュートラルな企業であるかどうかを対外的に示すのに、PAS 2060は有効な手段です。
本記事ではPAS 2060の概要やメリット、PAS 2060における第三者検証、PAS 2060の認証取得事例などについて取り上げます。
目次
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PAS 2060 とは?
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PAS 2060についてのよくある質問
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PAS 2060検証では第三者検証が必要
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まとめ:PAS 2060を活用して、カーボンニュートラルの信頼性を確立しよう
1. PAS 2060 とは?
PAS 2060は、BSIが定めるカーボンニュートラルの認証規格です。BSIとPAS 2060について解説します。
BSIについて
BSIとは、The British Standards Institution(英国規格協会)の略称です。1901年に鋼材の初期の標準規格を定める機関として発足したBSIは、1942年には英国政府から英国国内唯一の規格発行機関として認められ、シートベルト・ヘルメット・家具などの品質に関する規格を発行しました。
1970年代以降は、ISO9000やISO14001など国際的に影響力のある規格の策定に携わっています。現在では世界中に拠点を有し、ビジネスサポートを英国のみならずグローバルに展開しています。
PAS 2060の概要
PASはPublicly Available Specificationの略称で、「公開仕様書」という意味です。BSIはさまざまなPASを策定しており、それらの多くは国際規格として採用されています。その中で、PAS 2060は企業がカーボンニュートラルであることについて実証するための仕様書です。カーボンニュートラルとは、組織が大気中に新たな温室効果ガスを排出しない、または大気から排出と同等の量を吸収して排出量を相殺することを意味します。PAS 2060の認証を受けることによって、企業は自社がカーボンニュートラルであることを対外的に証明できるのです。
出典:PR TIMES「BSIジャパン、PAS規格(公開仕様書)策定を開始」(2013/8/29)
2. PAS 2060についてのよくある質問
環境問題に関心のある企業は、PAS 2060の基本的な内容を理解する必要があります。PAS 2060についてのよくある質問について解説します。
PAS 2060のメリットは?
企業はPAS 2060を活用することによって、さまざまなメリットを得ることができます。例えば「環境意識の高い取引先に対して、カーボンニュートラルな企業であることをアピールできる」「カーボンニュートラルに向けた正しい対応でリスクを軽減できる」などの効果が期待できるでしょう。また、カーボンニュートラル実現に伴いエネルギーコストが削減されれば、ビジネス効率が向上する可能性もあります。
PAS 2060認証とは?
BSIではPAS 2060規格に準拠した検証によって、カーボンニュートラルな企業であることを客観的に文書化します。これがPAS 2060認証であり、以下のような手順にて実施されます。
1.情報収集:検証の目的・範囲など、検証に必要な情報を収集
2.計画:情報をもとにした、BSIによる効果的な検証計画の策定
3.検証:BSIが直接または遠隔にて、計画された検証活動を実施
4.結論:BSIが、企業から提出された陳述書に虚偽記載や不適合があるかどうかを判定(必要に応じ追加検証)
5.審査:検証結果についてBSI内で審査
6.意見書と報告書の発行:検証プロセス完了
PAS 2060における要求事項は?
PAS 2060では、組織や製品の温室効果ガス排出量の定量化、削減、オフセット(相殺)についての要求事項があります。PAS 2060の検証にあたっては、以下のような計画や活動が必要です。
・検証されたカーボンフットプリント
・温室効果ガス排出削減計画
・残りの排出量を相殺するためのオフセット購入
・排出量削減の前年比の実証
PAS 2060とISO 14068の関係は?
ISO(国際標準規格)のISO 14000ファミリーは、環境マネジメントに関する国際規格です。その中のひとつISO 14068-1はPAS 2060の原則に基づいており、カーボンニュートラルを検証可能な形で主張することを可能にしています。そのためPAS 2060は2025年1月1日に廃止され、以降BSIによる検証はISO 14068に準拠して行われます。企業は過去のカーボンニュートラルについてPAS 2060によって主張することは可能ですが、今後はISO14068へ切り替えていく必要があります。
3. PAS 2060認証取得事例
スターツCAM株式会社
不動産業のスターツCAM株式会社は、同社のプロジェクト3件(工事期間:2023年6月5日から2023年12月22日まで)についてPAS 2060に基づくBSIの検証を受け、カーボンニュートラル達成とする意見書を取得しました。これは日本の建設業界として初となります。
同社では今回PAS 2060の検証を受けたことで、同じ仕様の他物件についても算定手法を応用することが可能であり、カーボンニュートラルに関する信頼性と透明性が確保できるとしています。
出典:スターツCAM株式会社「建設業界で国内初 PAS 2060に基づいたカーボンニュートラルの検証意見書を取得」(2024/4/18)
ダイワボウレーヨン株式会社
レーヨン繊維生産・販売を扱うダイワレーヨン株式会社は、2022年10月25日にPAS 2060の検証意見書を取得しました。PAS 2060の検証は日本で2例目、繊維業界では初のケースとなりました。同社では、検証意見書の取得により正確性かつ透明性を備えた環境面における信頼性を高めることができるとしており、今後も持続可能な社会の実現に貢献していくことを謳っています。
出典:ダイワボウレーヨン株式会社『カーボンニュートラルを実証する規格PAS 2060の検証意見書取得について』(2022/11/10)
BATジャパン合同会社
タバコ輸入販売を扱うBATジャパン合同会社は、日本のタバコ業界としては初めて、PAS 2060検証によるカーボンニュートラルの保証をBSIから受けました。同社では気候変動対策として、東京本社オフィスにおける電灯の LED 化や夜間の自動消灯実施、営業車両における 95%以上のハイブリッド車導入や電気自動車のテスト導入など、温室効果ガスの排出削減に取り組んでいます。
出典:日本経済新聞「BATJ、カーボンニュートラル規格『PAS 2060』の保証を自社事業で取得」(2024/6/13)
伊藤忠エネクス株式会社
エネルギー商社の伊藤忠エネクス株式会社は、法人企業向けに「カーボンニュートラル給油カード」のサービスを開始しました。これは給油カードにカーボンクレジットによるオフセットを付与して、車両の燃料となるガソリン・軽油から排出される温室効果ガスを相殺しようというものです。同サービスは2023 年 12 月 19 日、BSI によってPAS 2060 に基づく検証を完了しました。給油カードおよび燃料における PAS 2060 によるカーボンニュートラルの意見書取得は国内初のケースです。
出典:伊藤忠エネクス株式会社「『カーボンニュートラル給油カード』サービスの開始について」p1-2(2024/2/7)
4. まとめ:PAS 2060を活用して、カーボンニュートラルの信頼性を確立しよう
PAS 2060は、企業がカーボンニュートラルであることを客観的に証明する有効な手段です。PAS 2060に基づく検証を受けることによって企業は、カーボンニュートラルに関する自社の取組みを正しく評価し、脱炭素社会の実現に向け前進することができます。事業の持続可能性が重要視される昨今、PAS 2060に準拠した活動は取引先に対しても大きなインパクトを発揮するでしょう。
PAS 2060(2025年以降はISO14068)を活用して、自社活動におけるカーボンニュートラルの信頼性を確立しましょう。