カーボン・オフセットは、社会全体でカーボンニュートラルを実現するための有効な手段のひとつであると考えられています。この市場を活性化させるために、経済産業省はJ-クレジットの普及も推進しています。
しかし、これらの制度は誰もが当たり前に仕組みを理解しているほどは浸透していないのが現状です。新たな市場が出来ようとしているカーボン・オフセットについて、J-クレジットの仕組みも確認しながら理解を深めましょう。
INDEX
カーボン・オフセットとは?
温室効果ガスの削減努力をした上でも、事業・活動の内容によっては削減が困難な部分が存在します。カーボン・オフセットとは、クレジットとして認証された他の場所・事業での温室効果ガス排出削減量や森林管理による吸収量を購入するなどの方法で、削減が困難な部分の温室効果ガスの排出量を埋め合わせるという考え方です。

カーボン・オフセットの認証制度
※カーボン・オフセット認証ラベル
環境省ではカーボン・オフセットとして、2種類の認証制度を実施しています。
- カーボン・オフセット第三者認証プログラム
カーボン・オフセットの取り組みに信頼性を構築するために、認証基準に適しているかを第三者機関が認証してラベルを付与する仕組み - カーボン・オフセット宣言
個別のカーボン・オフセットの取り組み実施者が、その内容を環境省に情報提供(自己宣言)して、環境省のウェブサイトを通じて発表する仕組み

出典:経済産業省『CFPを活用したカーボン・オフセット制度(どんぐり事業) 及び我が国のカーボン・オフセットの現状について』p.11(2016年9月)
カーボン・オフセットの主な取り組み
カーボン・オフセットの取り組みは多様です。どのような場面でカーボン・オフセットが使われているのでしょうか。
・オフセット製品・サービス
製品を製造販売する者やサービスを提供する者が、製品やサービスのライフサイクルを通じて排出される温室効果ガス排出量を埋め合わせる取り組みです。
・会議・イベントのオフセット
コンサートやスポーツ大会、国際会議のようなイベント主催者などが、その開催に伴って排出される温室効果ガス排出量を埋め合わせる取り組みです。
・自己活動オフセット
例えば組織の事業活動など、自らの行動に伴って排出される温室効果ガス排出量を埋め合わせる取り組みです。
・クレジット付製品・サービス
製品を製造販売する者やサービスを提供する者、またはイベントの主催者などが、製品・サービス・チケットなどにクレジットを付け、購入者や来場者などの日常生活に伴う温室効果ガス排出量の埋め合わせを支援する取り組みです。
・寄付型オフセット
製品を製造販売する者やサービスを提供する者、またはイベントの主催者などが、消費者に対しクレジットの活用による地球温暖化対策・防止活動への貢献や資金提供などを目的として参加者を募り、クレジットを購入・※無効化する取り組みです。
※カーボン・オフセットに使われたクレジットを再び使用されないようにすること。償却。カーボン・オフセットはクレジットを無効化口座に移転することで完了する。
J-クレジットとは?
経済産業省はカーボン・オフセットに利用できるクレジットの取引市場(炭素削減価値取引市場)を創設する方針です。この市場ではCO2 削減が得意な企業(トップリーグ)が自主的に削減したCO2削減価値クレジット、省エネ・森林保全などによるJ-クレジット、海外での削減寄与分による※JCM、質の高い海外ボランタリークレジット(国際標準クレジット)などが取り引きされ、2022年度に試験導入を目指しています。
※JCM:途上国と協力してCO2削減に取り組み、削減の成果を分け合う制度
出典:経済産業省:『成長に資するカーボンプライシングについて④ 』p.5(2021年5月)
出典:朝日新聞デジタル『カーボン・クレジット市場整備へ 炭素税は結論先送り』(2021年8月)
J-クレジット制度とは
J-クレジット制度は2008年にオフセット・クレジット(J-VER)として創設され、2013年に国内のクレジット制度と発展的に統合して開始された制度です。省エネ機器の導入や森林経営などにより温室効果ガスの削減した量や吸収した量をクレジットとして国が認証します。

出典:経済産業省『J-クレジット制度について』p.15(2013年8月)
J-クレジットは創出者・購入者に次のようなメリットがあります。
J−クレジット創出者のメリット
(1)ランニングコストの低減
(2)地球温暖化対策への取り組みに対するPR効果
(3)新たなネットワークの構築
(4)組織内の意識改革・社内教育
J−クレジット購入者のメリット
(1)環境貢献企業としてのPR効果
(2)企業評価の向上
(3)製品・サービスの差別化
(4)ビジネスの機会獲得・ネットワーク構築
J-クレジット化の対象
J-クレジット化ができる主な取り組みは省エネ設備の導入・再エネの導入・適切な森林管理などです。適切に※モニタリングされたことを認証機関が検証し、クレジット創出量が認定されます。
※モニタリング:観察、監視、測定

出典:経済産業省『地球温暖化対策計画におけるJ-クレジット制度』p.3(2021年5月)
J-クレジットの利用法
それではJ-クレジットの使い方を創出方法・売却方法・購入方法に分けて確認しましょう。
J-クレジットの創出方法
J-クレジットを創出してから認定されるまでの流れは以下の通りです。
- 温室効果ガス排出削減・吸収事業を計画または実施
- 制度事務局に相談
- 支援内容・支援対象の確認
- プロジェクトの登録
- モニタリング
- クレジットの認証を受ける
- クレジットを活用する

出典:農林水産省『J-クレジットのすすめ』p.2(2020年6月)
J-クレジットの売却方法
J-クレジットの売却には3つの方法があります。
(1)J-クレジット・プロバイダーによる仲介
(2)J-クレジットホームページ内の「売り出しクレジット一覧」へ掲載
(3)J-クレジット制度事務局が実施する入札販売への参加

出典:農林水産省『J-クレジットのすすめ』p.5(2020年6月)
J-クレジットの購入方法
J-クレジットを購入するには、上記の売却方法にあるようにJ-クレジット・プロバイダーによる仲介、J-クレジットホームページ内の「売り出しクレジット一覧」、J-クレジット制度事務局が実施する入札販売から購入できます。J-クレジットホームページでは、クレジットの売買を促進するためにマッチングコーナーを設置しています。
J-クレジットの活用状況
地球温暖化対策計画とJ-クレジット
経済産業省は2016年5月の地球温暖化対策計画で、J-クレジットの認証量に関する目標を設定しました。2018年には2020年の目標を645万t-CO2まで引き上げましたが、2020年の認証量は697万t-CO2と、引き上げられた目標を上回りました。
この結果から、2030年の目標を651万t-CO2から1300万t-CO2に引き上げを検討中です。このようにJ-クレジットの認証量は年々増加しています。

※地球温暖化対策計画の達成状況(2021年3月)
出典:経済産業省『地球温暖化対策計画におけるJ-クレジット制度』p.5(2021年5月)
J-クレジットの活用状況
J-クレジットは2016年以降に活用量が急増し、温対法による電力排出係数調整(下左の図・緑色)や、カーボン・オフセットなど(下左の図・青色)に多く活用されています。2020年度には温対法の電力排出係数調整に32.4万t-CO2、カーボン・オフセットに31.1万t-CO2のJ-クレジットが使われています。
特に再エネ発電由来のクレジットは注目されており、入札における平均価格は上昇しています。2018年1月の再エネ発電の落札価格の平均値は1,716円/t-CO2でしたが、2021年1月の取引では2,191円/t-CO2まで上昇しました。

出典:経済産業省『地球温暖化対策計画におけるJ-クレジット制度』p.7(2021年5月)
カーボン・オフセットのクレジット創出事例:高知県
実際に高知県が行っているカーボン・オフセットのクレジット創出事例を見てみましょう。高知県は2種類のクレジットを独自に保有しています。高知県では2008年から2021年までに「排出削減クレジット」を20,257t-CO2、「森林吸収クレジット」を2,305t-CO2発行しています。
排出削減クレジット(税込み7,700円/t-CO2)
高知県木質資源エネルギー活用事業によって創られたクレジットです。間伐後、山に捨てられる根株や枝葉などを、木質バイオマスとして燃料化し、住友大阪セメント株式会社高知工場の発電ボイラーの化石燃料に代替することで実現したCO2の排出削減量をクレジット化したものです。
森林吸収クレジット(税込み11,000円/t-CO2)
高知県森林吸収量取引プロジェクトにより創られたクレジットです。県有林を整備することにより増大したCO2吸収量をクレジット化したものです。
高知県版J-クレジット制度
高知県では、環境省、経済産業省、農林水産省が実施している「J-クレジット制度」に準拠した制度として「高知県版J-クレジット制度」を創設しました。J-クレジットと同等の品質で、プロジェクトの申請・登録などが高知県内で行うことができます。
出典:高知県『高知の森でカーボン・オフセット』(2021年10月)
まとめ:カーボン・オフセットで新たな市場ができる
カーボン・オフセットでCO2排出削減量をクレジットとして取引することにより、クレジットを創出することで利益が生まれ、クレジットを購入することでCO2排出量の埋め合わせができます。この取り引きが活性化すると、CO2を削減する活動や、CO2吸収量を増加させる活動により資金が集まり、脱炭素社会への移行が加速します。
クレジット購入によりカーボン・オフセットするにはコストがかかりますが、企業評価の向上につながり、地球温暖化対策への取り組みとして企業のPRにもなります。CO2削減の取り組みがなければビジネスにならない時代へと移り変わっている今、カーボン・オフセットはCO2の削減がすぐには難しい事業内容の企業にとって、検討すべき手段の一つです。

出典:経済産業省『成長に資するカーボンプライシングについて② ~クレジット取引等~』p.3(2021年3月)
まずは自社のCO2排出量やエネルギー消費量をしっかりと把握し、省エネや再エネの導入を考えましょう。CO2排出量やエネルギー消費量の管理には温室効果ガス管理クラウドサービスなど便利なサービスを利用して効率化することをおすすめします。
省エネや再エネ導入には、使用する電気を再エネで発電された電気プランに替える、というような設備投資に大きなコストがかからない手段もあります。このような対策をした上でも削減しきれないCO2排出量はカーボン・オフセットで埋め合わせることができます。