CO2算定

【気候変動×マラソン大会】数十万人が走る、その先に。世界4大マラソンが語る「サステナブルな大会運営」

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【気候変動×マラソン大会】数十万人が走る、その先に。世界4大マラソンが語る「サステナブルな大会運営」

マラソン大会は、気候変動という課題にどのように向き合っていくべきなのでしょうか。

世界7大マラソン大会のうち、東京、シドニー、ベルリン、シカゴの4大会からレースディレクターが一堂に会し、サステナビリティをテーマに意見を交わしました。集まったのは、開催月順に、東京の大嶋 康弘氏(3月)、シドニーのウェイン・ラーデン氏(8月)、ベルリンのマーク・ミルデ氏(9月)、シカゴのキャリー・ピンコウスキー氏(10月)の4名です。

レースディレクターは、競技の運営を担うだけでなく、大会がどんな価値を持ち、どんな方向を目指すのかを形づくる存在です。どのようなレースにしたいのかという考え方は、招待する選手の選び方や大会の演出、スポンサーとの向き合い方にも表れます。

本対談は、東京マラソンが初めてCO2排出量をScope1-3まで網羅的に算定・開示したことをきっかけに実現しました。気候変動の影響を受けやすいスポーツであるマラソンは、今後どのような責任を果たしていくのか。また、数万人規模のイベントを運営する立場として、排出量の把握やパートナー企業との連携、参加者の行動変容をどのように設計していくのかという点は、企業のサステナビリティ経営にも通じる視点です。

世界を代表する4大会の現場から、その考え方を探っていきます。

(※記事上部の写真は©東京マラソン財団)

INDEX

マラソン大会におけるCO2排出量の算定は、大会運営における「意思決定の基盤」

(写真左より)シカゴ・キャリー氏/ ベルリン・マーク氏/ シドニー・ウェイン氏/ 東京・大嶋氏

――なぜ、みなさんのマラソン大会では、CO2排出量の算定に取り組んでいるのでしょうか。

マーク・ミルデ氏(以下「ベルリン」)
「参加者やパートナー企業、社会全体からの要請もありますが、それ以上に、自分たち自身がクリーンな環境で生活したいという思いがあります。だからこそ、取り組むのは自然な流れでした」

キャリー・ピンコウスキー氏(以下「シカゴ」)
「シカゴでは、サステナビリティを大会運営の大きな柱として位置付けています。20年ほど前から、ベンダーやサプライヤー、使用する資材の調達から廃棄までを見直してきました。CO2排出量の算定は外部機関の監査も受けながら、トラックで使う燃料、資材の輸送、アスリートの移動手段まで含めて分析しています。

ウェイン・ラーデン氏(以下「シドニー」)
「シドニーは比較的新しい大会です。まずは自分たちがどこに立っているのかを理解する必要がありました。港や自然に囲まれた美しい環境の中のコースですし、オーストラリアでは環境への関心がもともと高いと感じています。

そこで、まず私たちは昨年、CO2排出量の算定から始めました。Scope1やScope2だけでなく、サプライチェーン(Scope3)や、資材の使い方、さらにはレース中・レース前のランナーの行動まで含めて見ていく必要があると思っています」

大嶋 康弘氏(以下「東京」)
「昨年の夏は本当に暑く、気候変動の影響を強く感じました。大会を運営する立場として、何か対策をしなければならないと考えたのが大きなきっかけです。そして、感覚や印象だけではなく、実際にどこからどれだけ排出されているのか定量的なデータを把握する必要があると考え、アスエネ株式会社の協力を得て、CO2排出量の算定に取り組みました」

東京マラソン2026のCO2排出量(アスエネによる事前算定)

シカゴ
「サステナビリティがスポンサー獲得の障壁になったことはほとんどありません。むしろ、カリガン・ウォーターのように、私たちの環境への取り組みに共感してパートナーになってくれる企業もあります。こうした価値観を共有する企業との連携は、今後さらに重要になっていくと思います」

参加者の移動が占める排出量と、その向き合い方

シドニーマラソンより  ©TCS Sydney Marathon

――――どの大会でも、参加者の移動がCO2排出量の大きな割合を占めています。この課題に対して、どのような取り組みを行っているのでしょうか。

(※各大会とも、海外や遠方からの参加者は、およそ35〜50%)

ベルリン
「参加者には、できるだけCO2排出量の少ない移動手段は何かを伝えて、その上で何を利用するのかを選択してもらっています。ヨーロッパ圏内であれば、飛行機ではなく列車を利用する選択肢もあります。また、ランナーに公共交通機関を4日間無料で利用できるパスを渡しています」

シドニー
「エキスポ期間とレース当日に使える『マラソンパス』を用意しています。公共交通機関を無料で利用できる仕組みです。大会としてできる現実的なアプローチだと考えています」

シカゴ
「シカゴ交通局と協力して、空港から市内への列車移動を強く推奨しています。多くの海外ランナーは、スタート地点まで歩いて行ける距離のホテルに宿泊しています。さらに、スタートとフィニッシュを同じ場所に設営し、機材やスタッフの移動距離も最小限に抑えています」

ベルリン
「スイスの一部の大会では、国内の列車移動をすべて無料にしている事例もあります。国や規模によって条件は異なりますが、参考になる取り組みだと思います」

他の大会から学び、自分たちの大会へ持ち帰る

――今日もお互いの大会での取り組みについてメモをとったりしていますが、他にも参考になる取り組みはありますか。

シドニー
「トレイルランニングの大会は、とても参考になります。基本的な考え方は『持ち込んだものは、すべて持ち帰る』というものです。自然の中を走るからこそ、ランナー自身が環境を守る責任を理解しています」

シカゴ
「トレイルの大会では、その考え方が当たり前として共有されています。すべてをロードマラソンにそのまま当てはめることはできませんが、ランナー自身が責任を持つという姿勢は学べる点が多いと思います」

シドニー
「他の大会の実例を持ち帰り、自分たちの大会に合う形で取り入れていきたいと思っています」

4大会で数十万人が集う。その影響力は、社会全体へ広がる

シカゴマラソンの竹製カップ  © Bank of America Chicago Marathon

――こうした取り組みは、ランナーの意識の変化につながっているのでしょうか。また、その変化を促すために、どのような工夫を行っているのでしょうか。

シドニー
「ランナーの意識は、確実に高まっていると感じています。昨年実施した調査では、参加者の65%が『イベントを通じてサステナビリティについてより学べた』と回答しました。さらに、87%が『サステナビリティに真剣に取り組む大会に参加したい』と答えています。これは非常に大きな数字だと受け止めています。

そして、教育をとても重視しています。その一つが、レース前に実施している『21日間の誓いチャレンジ』です。トレーニング期間中に、より持続可能な行動を取ることで専用アプリでポイントがもらえる、ゲーム感覚の仕組みです。レース当日だけでなく、日常の行動を変えることを目指しています」

シカゴ
「シカゴでは、ナイキと提携して、56,000人の参加者に配布する記念Tシャツをペットボトル由来のリサイクル素材で制作しています。スタッフが履くシューズなども、リサイクル素材を使ったものです。身につけるものを通じて、自然にメッセージを伝えたいと考えています。

給水所では、約250万個の竹製カップを使用しています。使用後のカップは回収し、コンポストで約9カ月かけて土に還します。その土は、私たちが走る公園や花壇の肥料として再利用されています。こうした循環が見えることで、ボランティアやランナーの分別への意識も高まっています」

ベルリン
「ランナー自身にマイボトルやハイドレーションパック(給水バッグ)を持参してもらうよう呼びかけています。紙カップはリサイクル可能ですが、製造や洗浄にはエネルギーが必要です。自分の水を持って走ることが、将来的にはマラソンのスタンダードになるかもしれないと考えています」

東京
「東京でも不要なシューズを回収し、まだ使えるものはリユースへ。もう使えないシューズは、ソールなどの廃材を活用して、リサイクルサンダルによみがえらせるなど、できるだけゴミ、つまりCO2を出さない取り組みを行っています。東京マラソンは来年20回大会の記念大会となります。さらに多くのランナーや企業と一緒に持続可能なマラソン大会に向けてサステナブルな取り組みを進化させたいと考えています」

©東京マラソン財団

マラソン大会での取り組みを、日常へとつなげていく

シカゴマラソンより  © Bank of America Chicago Marathon

――今日の議論を通じて、マラソン大会は単なるスポーツイベントではなく、数万人規模の人が集まり、企業や地域社会とも関わる場であることを改めて感じました。こうした影響力を、サステナビリティの観点でどのように生かしていくことができると考えていますか。

シカゴ
「大会で行っているゴミの分別やリサイクルの取り組みを、ランナーがそれぞれの家庭や地域社会に持ち帰ってくれたらと思っています。大会は1日限りのものですが、そこで得た気づきが日常生活を変えるきっかけになれば、大きな意味があります。スポーツイベントが、サステナブルな生き方の一つの『見本』になれたら、それが理想です」

シドニー
「教育とコミュニティとの連携を通じて、レース当日だけでなく、日常につながる行動変容を促していきたいと思っています」

東京
「環境に優しい新しい技術やエコ製品は、積極的に取り入れていきたいと考えています。さまざまな企業のテクノロジーやアイデアを取り入れながら、少しずつでも改善を続けていきたいと思っています」

ベルリン
「何万人ものランナーが集まる場だからこそ、持続可能な社会に向けたメッセージを伝え続けることができると考えています。一方で、世界中から大会に参加するために人が移動すること自体は、決して『環境にいい』とは言えません。ただ、それでもランナーが日常のライフスタイルを見直すきっかけになれば、別の形でポジティブな影響も生まれると思います」

今回の対談で印象的だったのは、どの大会もまだ試行錯誤を繰り返しながら前に進んでいるということでした。

来年、東京マラソンは20回大会を迎えます。それまでに、どんな新しいアイデアが生まれているでしょうか。世界の大会同士の学び合いが、社会のあり方に、思いがけない変化をもたらしているかもしれません。

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