1.5度目標とは?改めて振り返る1.5度目標のこと

気候変動の課題で「1.5度目標」の重要性が注目を集めています。近年、地球温暖化による気候変動が世界中で大きな影響を与えています。そして、気温の上昇、異常気象の頻発、海面の上昇など気候変動は、企業の活動にも多大な影響を及ぼしています。そのため、より「1.5度目標」を重要視して取り組む必要があります。ここでは、現在の気候変動の状況とそれによる影響を見ていくとともに、改めて1.5度目標の意味やその必要性、そして1.5度目標を達成させるための具体的な取り組みを企業の事例と併せてご紹介します。

目次

  1. 現在の気候変動とその影響

  2. 1.5度目標の意味とその背景

  3. 企業ができる1.5度目標達成への取り組み

  4. 企業の1.5度目標達成の取り組み事例

  5. まとめ:1.5度の目標を再確認しよりクリーンで持続可能な企業を目指そう

1.現在の気候変動とその影響

今、地球はどのような状況になっているのか、ここでは現在の気候変動の状況とその影響について見ていきます。

気候変動の現状

20世紀以降、化石燃料の使用増加により世界中でCO2排出量が大幅に増加し、大気中のCO2濃度も上昇しています。その影響で、2024年の日本の平均気温は1991〜2020年の平均値より1.48℃高く、観測史上最高を記録しました。特に1990年以降、日本の平均気温は徐々に上昇し暑い日が増えています。そして世界中では気候変動の影響で様々な気象災害が発生しました。近年は、記録的な高温が続き多数の大規模な山火事が発生したり、大雨による広範囲の洪水など人々の生活を脅かす災害が増えています。

 

日本の年平均気温偏差

alt属性:日本の年平均気温偏差

出典:気象庁 『日本の年平均気温』(2025/01/05)

出典:経済産業省『気候変動対策の現状と今後の課題について』p,8.9.(2024/06/27)

出典:環境省『1.5℃に向けて』p,1.2.(2022/05/27)

気候変動による影響

気象災害が発生すると大きな損害が生じる可能性があり、気候変動問題は経済や金融のリスクとして認識されています。そして、近年の平均気温の上昇により熱波の頻度が増え、山火事や干ばつ、深刻な降雨などの二次災害も増加しています。その結果、物的損害や事業中断、作物不足が増え保険金の支払いも増加しています。また、高温は農産物や水産物の育成を妨げ、品質を低下させており、農業や漁業などの農山漁村の生活基盤が揺らいでいます。このように、気候変動の影響は、金融リスクだけでなく商業、流通業、国際貿易にも波及し経済活動全般に大きな影響を与えています。

出典:環境省『1.5℃に向けて』p,3.5.(2022/05/27)

2.1.5度目標の意味とその背景

ここでは、1.5度目標の意味や目標達成が必要とされる背景をご紹介します。

1.5度目標とは

1.5度目標とは、パリ協定で定められた平均気温上昇を抑えるための目標です。パリ協定では、地球温暖化を防ぐための目標として産業革命以前に比べて世界の平均気温の上昇を2度未満に、できる限り1.5度に抑えることが求められています。そして、この目標を達成するためには2030年までに2010年比でCO2排出量を約45%削減する必要があります。また、日本は2050年までにカーボンニュートラルを達成するため「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を掲げ、脱炭素化のイノベーションを推進しています。しかし、国連の報告によれば、2020年末までに世界各国が示した削減目標を合わせても、2030年までに2010年比でわずか1%減にとどまる見込みです。そのため、1.5度目標を達成するには企業のさらなる取り組みとイノベーションは不可欠です。

出典:環境省『1.5℃|eco scope | ecojin(エコジン)』(2021/05/26)

1.5度目標が設定された背景

パリ協定が採択された当初、1.5度と2度の気温上昇の違いや対策について気候変動に関する政府や研究機関、企業などに十分に理解されていませんでした。しかし、2018年の気候変動に関する政府間パネル「IPCC報告書」によって1.5度でも現在より悪影響が予測され、1.5度と2度の上昇では影響の大きさに相当程度の違いがあることが明らかになりました。これにより、1.5度の目標を達成する重要性が認識されるようになりました。

出典:国立研究開発法人国立環境研究所社会システム領域『COP28閉幕:化石燃料時代のその先へ』(2023/12/26)

1.5度を超える影響とそのリスク

昨年の世界の平均気温は、過去10年間の気温としては記録史上最も高かったことが確認されました。欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」によると、2024年の平均気温は産業革命以前より1.6度高く、産業革命前と比べて初めて1.5度以上上昇しました。そして、多くの日で世界の平均気温が1.5度を超え、わずかな気温の上昇でも極端な気象現象が増える可能性があるとされています。例えば、西アフリカの猛暑や南アメリカの干ばつ、中央ヨーロッパの豪雨、北アメリカと南アジアを襲った強力な熱帯暴風雨が挙げられます。また、ロサンゼルスでは強風と降雨不足による山火事が拡大しています。さらに、2024年は気温だけでなく海面温度も新たな最高値を記録し、大気中の水分量も記録的なレベルに達しました。これらの記録的な上昇は温暖化の加速を示す可能性があると、一部の科学者は懸念しています。

出典: BBCニュース『2024年世界の平均気温 抑制目標の「1.5度」初めて超える 』(2025/01/10)

3.企業ができる1.5度目標達成への取り組み

企業が1.5度目標を達成するには、温室効果ガスの削減やエネルギーの転換、森林の保全・再生などの取り組みが重要となります。ここでは、それぞれの取り組みについて見ていきます。

温室効果ガス排出量の削減

企業が1.5度目標を達成するためには、自社の温室効果ガス排出量を把握し削減することが重要です。そして、中長期的な排出削減目標の設定は気候変動抑制だけでなく、企業価値の向上やビジネスチャンスの拡大にもつながります。パリ協定に基づく温室効果ガス削減目標のSBT(科学的基準に基づく目標設定)では、サプライチェーン全体の排出量削減を求めており、サプライチェーンの排出量はScope1、Scope2、Scope3の合計となります。

出典:環境省『中⻑期排出削減⽬標等設定マニュアル』p,6.9.19.(2023/03/09)

エネルギーの転換

燃料消費による温室効果ガス排出量を大幅に削減するためには、省エネルギー対策だけでなく、温室効果ガス排出の少ないエネルギーへの転換が必要です。そして、脱炭素化を進めるためには、将来の技術開発を見据えつつ主要設備のエネルギー転換を検討することが重要です。エネルギー転換の具体的な方法としては、次のようなものがあります。

・ボイラー:ヒートポンプへの転換

・燃焼炉:電気加熱炉への転換(ピンポイント誘導加熱等)

・自動車:ガソリン・ディーゼル車からハイブリット車や電気自動車への転換

出典:環境省『中小規模事業者のための 脱炭素経営ハンドブック』p,34.35.(2022/03/28)

森林の保全と再生

森林には、国土の保全や水源の維持、地球温暖化の防止、林産物の供給など多くの機能があります。そのため、森林の整備や保全には森林・林業関係者だけでなく、企業の参加も重要となります。そこで、企業の森づくりの活動には、CO2吸収や水源かん養などの科学的効果に着目した自主的で多様なアプローチで進めることが求められます。そして、企業はステークホルダーに対して活動の意義を説明し理解を得ることが必要であり、また、地域の活性化を考慮しながら地域と連携することも大切です。

出典:林野庁『企業の森林整備・保全活動の促進について』p3.,9.10.(2006/06/20)

4.企業の1.5度目標達成の取り組み事例

最後に、1.5度目標達成に向けた企業の取り組み事例をご紹介します。

株式会社TBM

未利用食品廃棄物の脱炭素資源化技術およびサービスの提供を行う「株式会社TBM」は、未利用食品廃棄物(油脂、食品ロス、残渣汚泥)を脱炭素資源に変換し、2050年までにカーボンニュートラルを目指しています。具体的な取り組みとしては、排水油脂の脱炭素資源化によるコスト・CO2・廃棄物の同時削減、飲食施設の排水リスクを防ぎ排水油脂を資源化するソリューションの提供、食品工場の製造排水中の油脂を自動回収しオンサイトで資源化できる「油泥資源化装置」の開発・販売・清製油をカーボンオフバイオ燃料または改質用の原料油をして販売・供給し、DXサービスも提供しています。

出典:関東経済産業局『カーボンニュートラルと地域企業の対応』p,96.(2024/10/08)

株式会社リグノマテリア

木質リグニン由来新素材の製造・販売を展開する「株式会社リグノマテリア」は、脱炭素社会の実現と地方のバイオ産業の発展を目指し、木質バイオマスを使った工業製品の開発に取り組んでいます。バイオリファイナリーは、バイオマス資源から化学品や素材、燃料などを製造する技術で、国内森林資源を100%有効活用するため、木材からリグニン、ヘミセルロース、セルロースを分離する技術を開発中で、特にリグニンを使ったプラスチック製品の開発に力を入れています。加えて、木質バイオマス発電所やチップ工場と隣接する宮の郷工場では、地域と協力して「地産地消型の分散電源システムの構築」に取り組んでいます。

出典:関東経済産業局『カーボンニュートラルと地域企業の対応』p,102.(2024/10/08)

日崎工業株式会社

金属加工業の「日崎工業株式会社」は、東日本大震災をきっかけに省エネ・再エネを意識した経営にシフトしました。そして、企業理念の「人々を感動させるモノづくり」のもと、エネルギーシフトや社会問題の解決に積極的に参加しています。具体的な取り組みとしては、LED照明の導入、屋根遮熱塗装、新電力のオンデマンド監視、EVの導入、太陽光パネル設置、レーザー加工機の更新、蓄電池の設置によりCO2排出量を52%削減しました。さらに、カーボンニュートラルな独立電源工場も稼働予定であり、CO2オフセットなどを行い2030年までに100%再生可能エネルギーの活用を目指しています。

出典:関東経済産業局『カーボンニュートラルと地域企業の対応』p,109.(2024/10/08)

5.まとめ:1.5度の目標を再確認しよりクリーンで持続可能な企業を目指そう

2024年の日本の平均気温は観測史上最高を記録しました。近年、地球温暖化による気候変動が世界中に影響を与え、企業活動にも影響が及んでいます。そのため世界で早急に「1.5度目標」に取り組む必要があります。これは、パリ協定で定められた平均気温上昇を1.5度に抑える目標で、この目標を達成するためには2030年までに2010年比でCO2排出量を約45%削減する必要があります。そして、企業が1.5度の目標を達成するためには、温室効果ガスの削減、エネルギーの転換、森林の保全や再生といった取り組みが重要です。企業は、改めて1.5度目標を再確認し環境に優しく、持続可能なビジネスを目指しましょう。

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