AI革命と戦争によるエネルギー新時代と転換点 -後篇-
前編で描いたデータを振り返ろう。日本のエネルギー自給率はたった15%と非常に低い水準。原油の95%を中東に依存し、レアアースの精製は90%以上を中国が握る。クラウドインフラの95%を米国のAWS・Azure・Googleが強い寡占状態となり、デジタル貿易赤字は年間6.7兆円にまで膨らんでいるのが今の日本の数字の実態だ。一部の国や地域、特定の会社に依存することは、極めてリスクが高い状況だ。
数字をならべると、日本の置かれている現実の厳しさがよくわかる。島国で、元々資源がないというハンデキャップが大きく、エネルギーも物資もデジタルも、日本は他国に依存しすぎている。2022年のウクライナ侵攻では化石燃料の輸入コストが2年で22兆円以上急増し、2024年には過去最大の貿易赤字として20兆円超を記録した。2026年の今起きているホルムズ海峡の大きな地政学リスクの顕在化は、その危機を再び現実のものにしつつある。
私は日本のAIやエネルギーの課題を毎日考えている。脱炭素・エネルギーという観点だけでなく、日本のエネルギー安全保障、そして日本の産業がどうすれば再び盛り上がれるか元気になれるのか。この構造的な問題を解決すること、そして日本にとって最大の経済成長の機会にもなるので、民間企業として政府とともに官民連携をして動いていくことが改めて非常に重要だ。
では、これらの課題を解決するため、さらには日本の産業や経済成長戦略、そしてエネルギー安全保障の状況を考慮して、日本がとるべき大きな方向性は3つある。
提言①エネルギー自給率を2040年までに70%に引き上げよ
まず、日本政府が2025年に閣議決定した2040年に自給率30-40%という目標を上回る形で、「エネルギー自給率を2040年までに70%に引き上げるべき」だ。
原油の中東依存95%という脆弱性を残したままでは、地政学リスクへの本質的な解答にならない。自然エネルギー財団によると、彼らの独立試算・シミュレーションは「2040年に74%は技術的に到達可能」と明示している。政府目標の1.75倍。それも踏まえて、70%という現実的な野心として提言する。
どうすれば自給率70%に届くか

答えはシンプルだ。再エネ57%+原子力20%+次世代原子力5%+化石燃料18%の電源構成に組み替える。
2024年時点では再エネ24%、原子力9%、化石燃料65%。この化石燃料65%を18%まで▲47%減らす。その分を再エネと原子力、さらに次世代原子力が担う。
A) 再エネを最大限増やす
再エネ57%の主役は太陽光と洋上風力。中でも、特に太陽光だ。2025年、世界では初めて、化石燃料を抜いて、再エネが最も発電量が多い電源となった。
日本では、まずは太陽光は現在の10.3%を25%へ引き上げる。鍵は、ペロブスカイト太陽電池。製造コストが従来型より大幅に低くなるポテンシャルがあり、軽量・折曲可能でビル壁面や農地など未利用空間に展開できる。
ペロブスカイト太陽光の原料のヨウ素は、日本が生産量が世界2位、埋蔵量だと世界1位を誇るため、バリューチェーンの確保の観点で優位性があるのも特徴だ。
洋上風力は0.5%から12%へ。日本のEEZ内ポテンシャルはNEDO試算で1,000 GW超、国内全電力需要の5倍以上だ。政府目標5.7 GWを大きく超える導入が必要だ。三菱商事ショックがあり、本件は遅れる可能性も充分ありうる。
地熱も世界第3位のポテンシャルの23,470 MWを持ちながら発電比率0.3%。国立公園規制の壁はあるが、3%まで引き上げるだけで純国産の電源を積み上げることができる。

化石燃料を本当にここまで減らせるのか?と思うかもしれないが、他国の事例としてドイツでは12年で再エネ比率を22%→59%に伸ばした。日本が14年で23.6%→57%にすることは同等レベルのスピードであり、時代的にも太陽光や再エネのコストは低下しているため、この日本の目標は充分に「実現可能性がある」、「達成できる」、ともデータからいえます。

B) 原子力の全再稼働を急ぐ -安全基準に真摯に向き合い続ける-

現在の原子力発電所の稼働は15基、比率8.8%。最大27基までの再稼働で全体の20%超が現実的だ。
原子力にはもちろん反対意見も多い。特に東日本大震災の福島事故の教訓、避難者の痛み、廃炉・核廃棄物問題などは、しっかりと推進派も真正面から受け止め、向き合わなければならない。

だからこそテクノロジーの活用が前提条件になる。AIによるリアルタイム安全監視・劣化診断・リスク予測、廃炉作業へのロボット技術の活用など、最大限安全性を高めながら、再稼働を検討・進めることが唯一の正しい道だと思う。さらに地元との丁寧な対話と合意形成も絶対条件となる。福島の教訓の継承を誠実にした上での行動が、原子力再稼働の道のりとなる。
C) SMR(小型原子炉)への先行投資
2030-40年代の切り札の一つがSMRだ。「工場でつくって現地で組み立てるプレハブ型の原子炉」で、従来の大型原発が建設に10年以上かかるのに対し、SMRは約3-5年と建設期間が非常に短いのも特徴だ。
ビル・ゲイツが設立したTerraPower社の次世代炉「Natrium」は、蓄エネルギー機能を内蔵し再エネの弱点を補える画期的な設計で、2026年3月に米国で40年ぶりの先進炉建設許可を取得し、規模は345MW程度となるが2030年の商業運転を目指す。
GoogleやMicrosoftのAIデータセンター電源としてNVIDIAも出資に加わるなど、SMRは「AI時代のインフラの中核」へとステージが変わった。日本企業もGE日立・日揮・IHI・三菱重工が開発や機器供給に深く関与しており、量産時代の主要サプライヤーとなれるポテンシャルがある。
エネルギー自給率わずか15%の日本こそ、GX脱炭素電源法に基づき2030年代の初号機建設を国家プロジェクトとして明確に位置づけ、政府ふくめて規制整備を急ぐべきだ。
この提言が解決すること、もたらすもの

化石燃料輸入額は2024年に24兆円。自給率70%達成で4-5兆円水準まで圧縮することで、差額の年間約20兆円(約9兆円の防衛費の2倍以上)が国内に残ることになり、国外流出の費用を大幅に圧縮することができる。この20兆円を、代わりに自国の産業などにお金を使えることとなる。
原油の中東依存が95%、ホルムズ海峡依存が80%超からも解放され、コントロールできない異国の戦争が日本のガソリン代や電気代を直撃する構造から脱却できる。政府が掲げている電力部門のCO₂は65%以上削減、2035年GHG▲60%目標の達成確度が飛躍的に高まることとなる。ペロブスカイト含む太陽光・洋上風力・SMR・蓄電池といった新産業が新たな雇用を生み、エネルギー自給率向上は「成長投資」となるだけでなく、それにより国外流出費用を大幅に削減することができ、新たな国を守る安全保障にお金を費やすことができることとなる。
提言②サプライチェーンの見える化と分散化
日本の原油輸入先は95%がUAE・サウジアラビアなどの中東に依存している。レアアースの精製は中国が90%超を独占している。これらはサプライチェーンの国や取引先の一極集中と依存という大きな課題となっている。
中国がレアアース・レアメタルの輸出規制を本格発動すれば、日本の実質GDPを最大3.2%押し下げるとの話しもでている。影響を受ける産業のGDP合計は全体の14.5%に達する。2023〜2024年に実際に始まったレアアース・黒鉛の輸出規制は、序章に過ぎないかもしれない。
直近26年4月、日本の太陽光発電所のほとんどが中国産を使用している状況下で、中国が日本向け太陽光パネルの一斉値上げを決めた。最大30%の値上げと比率も大きく、ホルムズ海峡封鎖で銅などの原材料の価格上昇や中国政府による支援策の廃止の影響が、まさにでた形だ。しかし、問題の根はさらに深い。多くの日本企業が、自社のサプライチェーンの取引先の取引先であるTier2やTier3以降のリスクを把握できていないという構造問題がある。
「見えない」から「見える」に変える

経済産業省の調査によれば、サプライチェーンをTier2以降まで把握している企業は全体の30%未満しかない結果だ。つまり7割の企業は「どこに中国リスク・台湾リスクがあるか」、取引先の実態を把握できていないまま事業を動かしていることになる。
まず取引先が見えないと、国家間の戦争や紛争、取引先の不祥事などの有事のリスクに備えることはできない。
この課題を解決するには、ソフトウェアによるサプライチェーン可視化のプラットフォームが解答だ。複数のタイプのプラットフォームが存在するが、アスエネ株式会社のASUENE Supply Chainで取引先の非財務データ全体のリスクを可視化するだけではなく、AIで各社のスコアリングやグレードまで分析・評価することができ、さらに改善対策の提案までを伴走することが可能だ。多くの製造業や大企業が自社のサプライチェーン向けに活用している。またSpectee株式会社のAIのサプライチェーンリスク管理クラウドでは、災害や緊急時のリスクへの備えなどAIで危機を可視化することができる。
他にも、AIを使ったTier N(多層サプライヤー)の自動マッピング、カントリーリスクの定量スコアリング、輸出規制・自然災害・物流障害のリアルタイムアラートなども可能となるソフトウェアがでてきている。これらを組み合わせることで、企業は「どこに何のリスクが何%の確率で潜んでいるか」が数字で見えるようになる。
まずはサプライチェーンのリスクや危機を可視化する必要があり、次には一部の取引先や国の依存リスクを発見したら、それを分散することで有事のリスク耐性を一層強化していく必要がある。
提言③デジタルクラウドの自律化、地方分散型データセンターの拡大
エネルギー安全保障の高まりに加えて、AI時代でAI含めたクラウドに関しても同様の議論が出てくることとなる。日本のデジタルインフラは、エネルギーと同じ構造問題を抱えている。
IaaS市場はAWS・Azure・GCPの外資3社が約95%を占め、日本の国産クラウドは5%のみ。2024年のデジタル赤字は6.7兆円。化石燃料輸入24.2兆円と合わせると、年間30兆円超の国富が毎年海外に流出しているという厳しい状況だ。
エネルギーの「自給率向上」と全く同じ発想で、デジタルクラウドの「自給率向上」も議論すべき時代だ。
国産クラウド比率を2030年に15〜20%へ
目標はコンサバに、しかし確実に。全クラウドを国産にする必要はない。政府・金融・医療・インフラという「データ主権が求められる領域」に国産クラウドを重点配置することが本質だ。現状の5〜10%を2030年に15〜20%へ。2倍程度の引き上げは、政策的な後押しがあれば十分現実的だ。
その象徴がさくらインターネットだ。2023年11月にデジタル庁のガバメントクラウドに国内事業者として初めて条件付き採択され、着実に要件対応を進めている。さくらインターネットに加えて、NTTコミュニケーションズ・IIJ・富士通やスタートアップなど次世代候補の育成を国家プロジェクトとして支援し、採択国産事業者を複数社に拡大すべきだ。
国内データセンターを500拠点、小中規模で地方分散へ

2005年時点、国内データセンター(DC)数は現在222拠点ある。東京圏・大阪圏に約8割が集中している。2030年に500拠点へ倍増させる。ただし、新設の40%以上を地方に。
なぜ大型より小中規模×地方分散なのか?
まず、リスク分散だ。首都直下地震・南海トラフが発生した時、東京・大阪集中のDCは機能を失う。デジタルインフラの「心臓部」を一箇所に置くべきではないため、必ず分散が必要だ。
次に、再エネとのマッチングだ。洋上風力が豊富な秋田・青森、地熱資源が豊かな大分・岩手にDCを配置すれば、DC電力を100%再エネで賄える。エネルギーの地産地消とデジタルの地産地消を同時に実現できる。
日本の経産省は、2026年度から5年間で2,100億円、再エネなどCO2ゼロの電力を使うデータセンター設備投資に最大50%まで補助金をだす予定だ。これはGX経済移行債が財源となる。
さらに、地方創生への直接効果がある。DCは「静かな工場」だ。建設・電気工事・保守運用・セキュリティなど幅広い雇用が地域に生まれ、固定資産税収は自治体の安定財源になる。過疎化が進む地方にとって、DC誘致は新たな産業基盤の構築と収益源の両方に直結する。

IDC Japanの予測では、国内DC建設投資は2028年に1兆2,000億円まで拡大する見込みだ。この資金の流れを「大型×都市集中」ではなく「小中規模×地方分散」に誘導することが政策の役割だ。デジタル田園都市構想の5.7兆円予算を、こういったリスク分散や地方創生の観点からもDC整備・国産クラウド育成・地方向け再エネ電力供給というインフラ層に重点配分すべきだ。
この提言が解決することは、デジタル赤字6.7兆円の段階的削減と、データ主権の回復。地方DCネットワークの整備が、再エネ活用・地方雇用創出・デジタル格差解消を同時に推進することが可能となる。
エネルギー安全保障と脱炭素と経済成長の三位一体
3つの提言をまとめると、一つの大きな構図が見えてくる。

エネルギー自給率70%で化石燃料輸入を年間19.6兆円削減する。サプライチェーン可視化と分散で将来の有事のリスクに備え、国産クラウド15〜20%と地方DC500拠点でデジタル赤字6.7兆円の流出に歯止めをかけることができる。これらを合わせると、年間30兆円超の国富の海外流出を大幅に削減することができる。
脱炭素は「環境問題」だけではない。エネルギーを自給できる国は、近年急速に強まっている地政学リスクの耐性も強い。サプライチェーンを可視化・分散できる企業は、リスクを可視化して分散することで、有事や危機への耐性が圧倒的に強くなる。デジタルインフラを自律化できる国は、データ主権を守り、雇用を国内に作ることができ、データの安全保障の観点も強化することが可能だ。
エネルギー安全保障を高めること、脱炭素を達成すること、そして日本の産業を元気にすることは、トレードオフではなく、三位一体だ。政府と民間企業も同じ方向性を共有しているため、この令和の時代が日本の構造的な変革をするのに非常によいタイミングである。
危機はチャンスであり転換点だ。動き始める時は、今だ。