アスエネは、Forbes JAPANとの共催による「ASUENE Sustainability Summit 2026」を開催した。本記事では、アクセンチュア株式会社 マネジング・ディレクター 渡辺博人氏による講演「AI時代の競争力とエネルギー制約をどう両立するか?〜地政学リスク・経済安全保障・脱炭素を踏まえた企業変革戦略〜」の内容を抜粋し、アフターレポートとしてお届けする。

本講演のポイント

  • 生成AIの利用は検索エンジンの数十〜数百倍の電力を消費するとされ、トークンと電力の「見える化」が最適化の出発点になる。
  • 電力コストは自社とハイパースケーラー双方が負担する構造にあり、原子力・SMR・核融合など電源確保の動きが競争力を左右し始めている。
  • CO2は削減すべきコストではなく、現物資産・金融資産の両面で活用できる新たな経営資源として捉え直せる。
  • 「きょうそう」を共創・共想・強壮・競争の4視点で見直すことで、他業界の構造変化を自社の事業機会に転換できる。

渡辺氏はまず自身の活動領域について紹介した。

「元々はエネルギーの系統分社化を手がけていました。現在はGXという文脈の中で、CCS北海道の代表や、GX戦略地域・産業団地の支援など、1社に閉じない、企業間をつなぐ支援を行っています。AIトランスフォーメーション(AX)の支援や、核融合エネルギー分野では慶應義塾大学・早稲田大学の客員研究員も務めており、明日以降も北海道・札幌で学会講演を予定しています」(渡辺氏)

環境変化を数字で読む――「逆風」の実態

米新政権下でのカーボンニュートラルへの逆風について、渡辺氏は具体的な数字を示しながら説明した。

「トランプ政権2.0のもとで、環境・カーボンニュートラル分野には逆風が吹いています。数字で示すと、EVを中心としたクリーンエネルギー支援の打ち切りで45兆円規模の影響があります。経済安全保障の観点では、特定地域に依存せず近隣地域で協力してエネルギー市場を形成する動きが52兆円規模で進んでいます。また、2040年までにオンサイトPPA、つまり自社で電力を作る動きは7倍に拡大する見込みです。AIの急速な拡大に伴い、企業が想定していなかったコスト増も顕著で、80%の企業が想定を超えるコストを経験しており、そのうち1.5倍以上に膨らんだ企業も4分の1にのぼります」(渡辺氏)

こうした環境下でも脱炭素の方向性自体は変わらないとした上で、渡辺氏は経済合理性と環境合理性のバランスを取った「現実解」が必要だと述べ、本日は企業が持つ資源の再定義という切り口から、計算資源・CO2資源・競争という3つのキーワードで話を進めるとした。

計算資源――AIの「燃費」を経営はどう捉えるか

①検索の10倍、リサーチで60倍、平均600倍という消費電力

渡辺氏は、AI活用に伴う計算資源の消費量について具体的な倍率を示した。

「例えば、ある企業について検索エンジンで調べる場合を1とすると、生成AIに同じ内容を聞いた場合は約10倍、リサーチ形式で深掘りすると60倍の消費電力になります。平均すると、検索エンジンへの問い合わせと生成AIへの問い合わせでは600倍近い差があるとされ、動画生成となればさらに1000倍を超えるとも言われています。それだけ消費電力は増加していくということです」(渡辺氏)

②増える電力コストは誰が負担しているのか

この電力消費の増加分を誰が負担しているのかという問いに対し、渡辺氏はハイパースケーラー側の対応を紹介した。

「安定的かつ脱炭素な電力を確保する動きとして、マイクロソフトは原子力、Amazonは次世代核技術であるSMR(小型モジュール炉)で安全性を高めた電源を、Googleは核融合エネルギー由来の電力をすでに調達しています。こうした電源確保がハイパースケーラーの競争力の源泉になっている面があります。一方で、企業側が負担する部分もあります。自社で電源を持つオンプレミス型の場合や、スコープ3排出量の増加という形での負担に加え、クラウドAIの利用量に応じてトークン課金やサーバー基本料金といったコストが上乗せされていく構造になっています」(渡辺氏)

③トークン最適化と「ワット・ビット連携」という2つの打ち手

AI活用が不可避である以上、コストと電力を最適化するアプローチが必要だと渡辺氏は指摘する。

「AIにかかる燃費とコストを最適化するアプローチは3段階あります。1つ目はトークンと電力消費の見える化です。測定なくして最適化はできません。2つ目はトークンの最適化で、不要な情報量を削減することです。プロンプトを変えるだけで90%のコスト削減に成功した例もあります。3つ目が計算資源とエネルギー資源の最適運用、いわゆる『ワット・ビット連携』です。電力料金が安い時間帯に計算処理を行うタイムシフト、電気料金が安い地域で処理を行う地点シフトに加え、計算資源が余っている時間を活用して収益化するという発想もあります」(渡辺氏)

有事への備えについても、AIの位置づけを整理しておく必要があると釘を刺す。

「BCPの観点では、AIの電力使用を抑制せざるを得ない局面も想定されます。そのため、優先的に維持すべきライフライン系のAIと、停止可能なAIをあらかじめ色分けしておく必要があります。また、平時はAIエージェントに任せていた業務を、有事に人間の手に切り替えようとしても対応できる人材がいない、という事態も起こり得ます。AIに業務内容をマニュアル化させておけば、緊急時でも対応が可能になります。こうした観点からもAIをBCPの一部として捉えておくことが重要だと考えています」(渡辺氏)

CO2は資源になる――炭素資産という発想

①削減すべきコストから、新たな事業機会へ

渡辺氏は、CO2排出量を単なる削減対象ではなく資源として捉え直す視点を提示した。

「CO2は必ずしも削減対象とは限りません。使用済み資源として捉え直せば、企業にとって新たな事業機会のマップになり得ます。いわば『炭素の資産台帳』という考え方です。CO2を資源として見た場合、そのサプライチェーンは回収・純化・在庫管理・輸送・利用というプロセスをたどります。現物資産としての活用先には、炭酸飲料、ドライアイス、植物育成、CO2吸収コンクリートなどがあり、植物にとってCO2は栄養源でもあります」(渡辺氏)

②現物資産と金融資産、二つの価値

CO2の価値は物理的な利用だけでなく、金融資産としての側面もあると説明する。

「CO2は現物資産としてだけでなく、金融資産としての側面も持っています。クレジット取引を考えると、それがコストになるか収益になるかは市場の動向によって変わりますが、いずれにせよ金融資産としての価値があります。ダイレクトエアキャプチャーによって空気中から回収したCO2は、金融資産にも物理的な現物資産にもなり得る。いわば『空気という鉱山からCO2を採掘する』という発想ができると思います」(渡辺氏)

③「見える化」から新たなアライアンスの発見へ

CO2を資源として捉え直す発想は、3つの段階を経て新たな連携機会につながるという。

「1つ目のステップは『見える化』です。ここでは『みえる』という読みに対して3つの異なる漢字を当てています。もともと見えているものを捉える『見える』、これまで見えていなかったものを新たに捉える『視える』、そして対処すべき課題を捉える『診える』です。この3段階を経ることで、CO2は資産として認識されるようになります。2点目は、自社単独で完結させるのではなく、事業モデルそのものを変えていくことです。そして3点目が、新たなアライアンスの発見です。GHG排出データを組み合わせることで、これまで気づかなかった『CO2を必要としている企業』を見つけ出し、新たな連携機会につなげることができます」(渡辺氏)

競争の再定義――4つの「きょうそう」

①共に作る・共に思う――業界標準化とデータ連携

渡辺氏は「きょうそう」という言葉を漢字の組み合わせで捉え直し、4つの視点を提示した。

「『きょうそう』という言葉を、多義的な四字で捉え直し、4つの視点を洗い出しました。1つ目は『共創』、競い合いながらも共同でイノベーションを起こし、業界内で共通の基盤を構築していく視点です。2つ目は『共想』、集合知でビジョンを共有し、業界標準やガイドラインを策定していく考え方です。3つ目は『強壮』、エコシステムの中で互いを強化し合い、異業種間でもリソースを共有・活用していく発想です。そして最後が本来の意味での『競争』、市場における独立した競争であり、コア領域での差別化と優位性の確立です。ドイツの自動車業界が部品共有などで横並びに協力する『Catena–X』は、同業他社間のデータ連携によって業界全体を共に作り上げている好例です」(渡辺氏)

②他業界の変革を自社のチャンスと捉える視点

最後の「競争」については、他産業の構造変化を自社の機会と読み替える発想を、具体例とともに示した。

「他業界の構造変革は、自社にとってのチャンスにもなり得ます。例えば、合成ソーダは水素とCO2から製造可能です。ここから合成ソーダ、オレフィン、プラスチックへと展開し、さらにそのプラスチックからCO2を回収するというサイクルを描けば、CO2は資源として循環していきます。つまり、ある産業における供給制約は、別の産業にとって新たな市場機会となり得るということです」(渡辺氏)

渡辺氏は、資源が国内でどこから来て何に変わり、どの産業で活用されているのかを業界横断で見る力が今後求められると述べた。

まとめ:計算資源・CO2・競争を経営はどう扱うか

渡辺氏の講演は、AI活用と脱炭素を対立させず、企業が持つ資源の再定義として統合的に捉える視点を示している。経営として押さえておくべき点は以下の通りだ。

  • AI活用による計算資源の消費増加は、検索比で数十〜数百倍という規模になり得るため、トークン・電力消費の測定と見える化を最適化の出発点に置く。
  • 電力コストの負担構造はハイパースケーラーと自社(オンプレミス・スコープ3・クラウド利用料)の双方にまたがるため、原子力・SMR・核融合など電源調達の動向も踏まえて把握しておく。
  • ワット・ビット連携(タイムシフト・地点シフト)や余剰計算資源の活用は、コスト最適化だけでなく新たな収益機会にもなり得る。
  • CO2排出量は削減対象のコストにとどまらず、現物資産(飲料・コンクリート等)と金融資産(クレジット取引)の両面で事業機会となり得る。
  • 「きょうそう」を標準化・協業・異業種連携の観点で捉え直すことで、他産業の構造変化を自社の新たな事業機会として活用できる可能性がある。

いずれの論点も、AIとCO2という一見別々のテーマを、資源の可視化と業界横断的な連携という共通の軸で結び付けている。


本記事は、Forbes JAPANとの共催による「ASUENE Sustainability Summit 2026」におけるアクセンチュア株式会社 マネジング・ディレクター・渡辺博人氏の講演パートを抜粋し、一部内容を整理・再構成したものである。