取引先にCO2データ提出を求められた企業がまず取るべき対応は、要請内容の正確な把握と、自社の排出量算定への着手です。近年、Scope3対応の広がりによってサプライヤーへのCO2データ提出要請が急増しており、対応が遅れることで取引機会を失うリスクも生じています。本記事では、要請を受けた際の第一対応から、準備の進め方・継続的な体制整備まで、実務担当者が迷わず動けるよう解説します。
INDEX
取引先からCO2データ提出を求められる背景
なぜ取引先からCO2データの提出を求められるようになっているのか。その構造的な背景を理解することが、適切な対応の出発点となります。
Scope3対応の広がりとサプライヤーへの影響
Scope3とは、GHGプロトコルが定める企業の排出量分類のうち、サプライチェーン全体で発生する間接的なCO2排出量のことです。15のカテゴリに分類され、多くの製造業においてScope3が総排出量の70〜90%を占めるとされています(GHGプロトコル、2013年)。大手企業がScope3を開示・削減するためには、サプライヤーであるBtoB企業からのCO2データが不可欠であり、それがサプライヤーへのCO2データ提出要請として現れています。
欧州では企業サステナビリティ報告指令(CSRD)が2024年度決算から段階的に適用が開始されており、対象企業にScope3を含む排出量の開示が義務づけられます(欧州委員会、2023年)。CDPサプライチェーンプログラムでは2023年度に世界740社以上のバイヤー企業がサプライヤーへ回答を要請しており(CDP、2023年)、SBTiに参加する企業は主要サプライヤーの67%(購買金額ベース)にSBTi準拠の削減目標を設定させる要件があります(SBTi、2023年)。これらの動きが、サプライヤーへのCO2データ提出要請増加の直接的な背景です。
要請を受けた企業が直面しやすい課題
取引先にCO2データ提出を求められた企業が直面しやすい課題を整理します。
・排出量算定の経験がない Scope1・Scope2の算定すら行ったことがなく、何から始めればいいかわからない。
・社内に専任担当者がいない サステナビリティ専任部署がなく、総務や経営企画が兼任で対応することになるが、知識・時間ともに不足している。
・提出フォーマットが複数ある 取引先ごとに異なるフォーマット(CDPアンケート・独自Excel・ポータル入力)への対応が必要で、優先順位の判断が難しい。
・算定の精度・信頼性への不安 自社で算定した数値が正確かどうか確信が持てない。根拠をどこまで示せばいいかわからない。
これらの課題は、段階的なアプローチと適切なツール・ガイドラインの活用によって解決できます。次章で具体的な準備の進め方を解説します。
提出に向けた準備の進め方
取引先にCO2データ提出を求められたら、まず「何を求められているか」を正確に把握し、準備を段階的に進めることが重要です。
必要なデータの種類と算定の基本ステップ
取引先から求められるCO2データの基本は、Scope1(直接排出)とScope2(購入電力に伴う間接排出)の年間排出量(tCO2換算)です。算定の基本ステップを以下に示します。
Step1:バウンダリ(算定範囲)の設定 算定対象の組織・拠点を確定します。連結子会社を含む「財務コントロール基準」が一般的です。
Step2:排出源のリストアップ Scope1の排出源(ボイラー・社用車など)とScope2の排出源(各拠点の購入電力)を拠点別に整理します。
Step3:活動量データの収集 燃料の種類・使用量(L・m³)と購入電力量(kWh)を請求書・台帳から収集します。
Step4:排出係数を用いた算定 環境省が公表する排出係数(電力会社別・燃料別)を用いてCO2排出量を計算します。算定の参照基準は環境省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン(ver.2.4)」(環境省、2022年3月)です。
Step5:算定根拠の文書化 使用したデータ・排出係数・算定方法を記録し、取引先への説明資料として整備します。
取引先フォーマットへの対応と提出時の注意点
算定データを準備したら、取引先が指定するフォーマットに沿って提出資料を作成します。
CDPアンケートへの回答 CDPの公式サイトに日本語版のガイダンスが公開されています。まず取引先(バイヤー企業)から届く要請メールの指示に従い、CDPのオンラインシステムにアクセスして回答します。回答期限・必須項目を事前に確認し、不明点は取引先担当者またはCDP日本事務局に問い合わせることが重要です。
独自フォーマットへの回答 取引先のExcelシートへの記入が求められる場合は、すべての必須項目を埋めることを優先します。算定方法や使用した排出係数の出所を備考欄に明記することで、追加確認を最小化できます。
提出時の注意点として、数値の単位(tCO2なのかkgCO2なのか)と対象年度(会計年度なのか暦年なのか)を取引先の指定に合わせることが重要です。提出後は受領確認を取引先から得るようにしましょう。
継続的な対応体制を整えるためのポイント
一度の対応で終わりにせず、毎年のCO2データ提出に備えた体制を構築することが、長期的な取引関係の維持につながります。
社内フローの整備と担当者の明確化
継続的な対応体制の基盤は、「誰が・何を・いつ・どのように」行うかを明確にした社内フローの整備です。
算定担当者の設置 総務・経営企画部門に算定の取りまとめ責任者を設置し、各部門からのデータ収集・算定・提出の一連の流れを管理します。
部門別データ収集フローの標準化 製造・設備管理部門(Scope1データ)、総務・施設管理部門(Scope2データ)など、部門ごとに提出項目・単位・期限を明記した収集フォーマットを作成します。
年次算定スケジュールの設定 決算月に合わせた年1回の算定サイクルを設定し、各部門へのデータ収集依頼から提出までのスケジュールを年間カレンダーとして共有します。
対応マニュアル(算定手順・使用するガイドライン・フォーマット・提出先一覧)を文書化しておくことで、担当者が変わっても対応が途切れない体制を構築できます。
算定ツールを活用して作業負担を減らす方法
環境省の無償算定ツール Scope1・Scope2に対応したExcelベースのツールです。排出原単位データベースも環境省が無償提供しており、拠点数が少なく算定範囲が限定的な企業に適しています。クラウド型CO2管理サービス Scope1〜Scope3の算定・可視化・報告書作成を一元管理できます。複数拠点・複数取引先への対応や、毎年の排出係数更新への自動対応により、継続的な算定工数を大幅に削減できます。取引先ごとに異なる提出フォーマットへの出力機能を持つサービスも増えています。
よくある質問(FAQ)
Q. 要請を受けてからCO2データ提出まで、どのくらいの時間がかかりますか?
A. Scope1・Scope2のみの対応であれば、データ収集に1〜2週間、算定・資料作成に1〜2週間の合計2〜4週間程度が目安です。はじめての算定では算定根拠の整理に時間がかかるため、要請を受けたら早めに取引先に対応予定を伝えることをおすすめします。
Q. 過去のデータがない場合はどうすればいいですか?
A. 請求書・台帳が保管されていれば、過去の会計年度分を遡って算定することが可能です。資料がない場合は、直近の会計年度のデータから算定を開始し、「算定開始年度」を明記したうえで提出します。取引先にその旨を説明し、次年度以降のデータ蓄積を約束することで、誠実な対応として評価されることが多いです。
Q. 複数の取引先から同時にCO2データ提出を求められた場合、どう整理すればいいですか?
A. まず算定するデータ(Scope1・Scope2の年間排出量と算定根拠)を標準化することが重要です。取引先ごとに異なる提出フォーマットへの対応は、標準化されたデータを持っていれば比較的容易に行えます。クラウド型CO2管理サービスの活用で複数フォーマットへの対応を効率化できます。
Q. 提出したCO2データに誤りがあった場合、どう対処すればいいですか?
A. 誤りに気づいた時点で速やかに取引先の担当者に連絡し、修正版を提出することが重要です。算定根拠を文書化しておくことで、修正の経緯を明確に説明できます。誠実なコミュニケーションが長期的な信頼関係の維持につながります。
まとめ:取引先への対応を、自社の脱炭素経営の第一歩にするために
取引先からのCO2データ提出要請は、自社の脱炭素経営をスタートさせる契機として捉えることができます。本記事の要点を整理します。
(1)CO2データ提出要請の背景にはScope3開示義務の拡大・SBTi・CDPなどの国際的な動きがあり、今後さらに広がることが予想されます。(2)まず要請内容を正確に把握し、Scope1・Scope2の算定から着手することが現実的な第一歩です。(3)算定根拠を文書化し、取引先のフォーマットに沿って提出することで、信頼性の高い対応が可能になります。(4)社内の担当者・収集フロー・年次スケジュールを整備することで、継続的な対応体制を構築できます。(5)ツールを活用することで、算定・管理・提出の工数を大幅に削減できます。
まず着手すべきNextActionとして、今年度の電力使用量・燃料使用量の実績データを各部門から収集し、Scope1・Scope2の算定に着手することをおすすめします。取引先への誠実な対応が、長期的なパートナーシップの基盤となります。
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