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Scope3のサプライヤー対応、何から始めればいい?実務で使える進め方を解説

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Scope3のサプライヤー対応、何から始めればいい?実務で使える進め方を解説

Scope3のサプライヤー対応は、カーボンニュートラル実現に向けたサプライチェーン全体の排出削減において、最重要テーマのひとつです。しかし対象範囲が広く、「何から始めればいいかわからない」という声が実務担当者から多く聞かれます。本記事では、サプライヤー対応が求められる背景を整理したうえで、優先順位の付け方・エンゲージメントの進め方・長期的な協力関係の構築まで、実務にすぐ役立つステップを具体的に解説します。

INDEX

Scope3におけるサプライヤー対応が求められる背景

Scope3とは、GHGプロトコルが定める企業の温室効果ガス排出量分類のうち、自社の直接排出(Scope1)および購入電力等に起因する間接排出(Scope2)を除いた、サプライチェーン全体にわたるその他の間接排出を指します。15のカテゴリに分類されており、多くの企業においてScope3が総排出量の大半を占めます。このため、Scope3のサプライヤー対応なしに脱炭素目標を達成することは構造的に困難です。

サプライヤー由来の排出がScope3全体に占める割合

Scope3の15カテゴリのなかで、製造業において排出量インパクトが特に大きいのがカテゴリ1(購入した製品・サービス)とカテゴリ11(販売した製品の使用)です。製造業の企業では、この2カテゴリだけでScope3全体の70〜90%程度を占めることがあるとされています(GHGプロトコル、2013年)。

カテゴリ1は、原材料・部品・サービスの調達に含まれる排出量、すなわち「サプライヤー由来の排出」に相当します。自動車メーカーであれば鋼材・アルミ・電子部品など数千点の調達品、食品・飲料メーカーであれば農産物・畜産物の生産段階における排出(農業由来のメタンや一酸化二窒素を含む)がこれに該当します。

このように、サプライヤー由来の排出量を把握・削減しなければ、企業全体の脱炭素目標の達成は難しい構造になっています。Scope3のサプライヤー対応は、単なる情報収集にとどまらず、サプライチェーン全体を巻き込んだ戦略的な排出削減の取り組みとして位置づけられています。

法規制・取引先要請が対応を加速させている理由

Scope3のサプライヤー対応を急ぐ必要性を高めているのは、法規制の強化と取引先からの要請という2軸の外部圧力です。

法規制の動向 欧州では、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)が2024年度決算から段階的に適用が開始されており、大企業だけでなく中規模企業にもScope3を含む報告義務が課される方向で整備が進んでいます(欧州委員会、2023年)。また、欧州炭素国境調整メカニズム(CBAM)は2026年の本格施行が予定されており、鉄鋼・アルミ・セメントなど対象製品の上流排出量管理への対応が実質的に求められます。日本でも、東京証券取引所プライム市場上場企業に対してTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づく情報開示が実質的に求められており、Scope3開示に取り組む大手企業が増加しています。

取引先からの要請 CDPサプライチェーンプログラムでは、2023年度に世界740社以上のバイヤー企業がサプライヤーへ排出量情報の回答を要請しています(CDP、2023年)。SBTi(科学に基づく目標設定イニシアティブ)に参加する企業には、主要サプライヤーの67%(購買金額ベース)にSBTi準拠の削減目標を設定させる要件があり(SBTi、2023年)、回答できないサプライヤーは取引機会を失うリスクに直面しつつあります。

これらの外部圧力は、Scope3のサプライヤー対応を「将来の課題」から「いまの実務対応」へと押し上げる大きな要因となっています。

実務で使えるサプライヤー対応のステップ

Scope3のサプライヤー対応を進めるうえで、全サプライヤーを同時に対象とすることは現実的ではありません。優先順位をつけ、段階的に対応範囲を広げていく進め方が、多くの企業で採用されています。

優先サプライヤーの特定と排出量データの収集方法

最初のステップは、排出量インパクトの観点から優先すべきサプライヤーを特定することです。以下の3つの観点が実務で広く活用されています。

(1)購買金額の大きさ 調達金額が大きいサプライヤーは排出量インパクトも大きい傾向があります。スペンド(購買金額)ベースの推計では、調達金額に業種別排出原単位を掛け合わせることで、おおよその排出量を試算できます。環境省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン(ver.2.4)」(環境省、2022年3月)に掲載の排出原単位データベースが実務の参照点として広く使われています。

(2)排出集約度の高い業種 鉄鋼・化学・セメント・紙パルプなど、製造工程でエネルギーを大量に消費する業種のサプライヤーは、購買金額が同規模でも排出量が多い場合があります。業種別の排出集約度を参照しながら、重点対象を絞り込むことが効果的です。

(3)削減ポテンシャルと代替可能性 将来的に削減余地が大きく、再生可能エネルギーへの転換や低炭素素材への切り替えが現実的なサプライヤーを優先することで、取り組みの実効性を高めることができます。

排出量データの収集方法については、まずスペンドベース法(購買金額×業種別排出原単位)で全体像を把握し、影響度の高い上位サプライヤーから順次、一次データ(サプライヤー固有の実測値)への移行を進めるアプローチが現実的とされています。データ収集のツールとしては、CDPサプライチェーンプログラムへの参加・独自アンケートの送付・ESGデータプラットフォームの活用などが選択肢として挙げられます。サプライヤーの規模や情報開示の習熟度に応じて、回答フォーマットをシンプルに設計することが回答率を高めるうえで重要です。

エンゲージメントから削減目標設定までの進め方

データ収集の次のステップは、優先サプライヤーへのエンゲージメントです。エンゲージメントとは、情報を要求する一方向のコミュニケーションではなく、排出削減に向けた対話と協働の関係を構築することを指します。

【エンゲージメントの具体的なアクション】

(1)自社のScope3目標の共有 自社が何を目指しているか、なぜサプライヤーの参加が必要かを明示した説明資料を作成・共有します。「何のためにこの情報が必要か」を伝えることで、サプライヤーの動機づけにつながります。

(2)算定支援の提供 サプライヤー向けの説明会・排出量算定方法の研修・算定ツールやテンプレートの提供を行います。大手企業の一部では、サプライヤー専用ポータルを整備し、ガイドやテンプレートをダウンロードできるようにしている事例もあります。

(3)段階的な削減目標設定の促進 いきなり具体的な削減量を要求するのではなく、「まず排出量を測定し、基準年を設定してから目標を検討する」という段階的なロードマップを共有することで、サプライヤー側の心理的・実務的なハードルを下げることができます。

SBTiの要件である「主要サプライヤーの67%(購買金額ベース)にSBTi準拠の目標を設定させる」という基準が多くの企業の参照点となっていますが(SBTi、2023年)、中小サプライヤーにとってSBTi申請は負担が大きい場合もあります。自社設定の削減目標をSBTiと整合するよう設計することで代替するケースも見られます。エンゲージメントの進捗は年次でレビューし、目標設定済みサプライヤー数・一次データ取得率などをKPIとして管理することが重要です。

サプライヤーとの協力関係を長続きさせるポイント

Scope3のサプライヤー対応は、一度データを収集すれば完了するものではありません。排出量データの精度向上・削減目標の達成確認・新たな規制への対応など、継続的な関与が必要です。長期的な協力関係を維持するためのポイントを以下に整理します。

中小サプライヤーへの支援とインセンティブ設計の考え方

大企業のサプライヤー対応において見落とされがちなのが、中小規模サプライヤーへの配慮です。中小サプライヤーは専任の環境担当者を持たないケースも多く、排出量算定自体がはじめての取り組みとなることも少なくありません。

【支援策の具体例】

(1)排出量算定のためのシンプルなExcelテンプレートや算定支援ツールの無償提供(2)算定方法を解説したオンライン研修や動画コンテンツの整備(3)個別相談窓口の設置(メールや電話での算定サポート)

インセンティブ設計については、「排出削減に取り組むサプライヤーを調達評価で優遇する」「削減実績を持つサプライヤーを優先発注の対象とする」といった形で、取り組みへの動機づけを制度的に組み込むことが有効です。欧州の大手自動車メーカーの一部では、カーボンフットプリントの低い素材を提供するサプライヤーに対して価格プレミアムを認める調達方針を導入しており、日本企業でも同様のアプローチの検討が進んでいると言われています。

一方で、過度なデータ要求や短期での目標達成要求はサプライヤーとの関係悪化にもつながります。「何のためにこの情報が必要か」「サプライヤーにとってどのようなメリットがあるか」を明示しながら対話を進めることが、長期的なパートナーシップの基盤となります。

SBTiなど国際的な枠組みを活用した取り組み事例

SBTi(Science Based Targets initiative)は、パリ協定の目標(1.5℃または2℃以内)に整合した企業の排出削減目標の設定・認定を行う国際的なイニシアティブです。2024年時点で世界7,000社以上がコミットしており(SBTi、2024年)、日本企業の参加数も年々増加しています。

SBTiの「Corporate Net-Zero Standard(企業ネットゼロ基準)」では、Scope3排出量が総排出量の40%以上を占める場合にScope3も含む長期目標の設定が求められます。さらに、主要サプライヤーの67%(購買金額ベース)にSBTi準拠の目標を設定させるというサプライヤー関与基準も要件に含まれており、SBTi認定を目指す企業にとってサプライヤー対応は避けて通れない取り組みとなっています。

CDPのサプライチェーンプログラムは、バイヤー企業とサプライヤーをつなぐ情報収集プラットフォームとして機能しており、標準化されたフォーマットでの排出量情報の収集・共有を効率化する手段として活用が広がっています。CDPのスコアを活用してサプライヤーの取り組み水準を評価し、調達判断に組み込む企業も増えています。

国内では、環境省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン(ver.2.4)」(環境省、2022年3月)や、経済産業省「サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けた取組み」が企業のサプライヤー対応を後押しする政策として位置づけられています。こうした国際・国内の枠組みを参照軸として活用することで、取り組みの方向性に一貫性と信頼性を持たせることができます。

よくある質問(FAQ)

Q. Scope3のサプライヤー対応はどこから始めればいいですか?

A. まず自社のScope3排出量のカテゴリ別推計を行い、カテゴリ1(購入した製品・サービス)の比率を把握することから始めることをおすすめします。次に、購買金額と業種別排出集約度をかけ合わせて影響度の大きいサプライヤーを特定し、その上位から順にエンゲージメントを開始するのが現実的なアプローチです。

Q. すべてのサプライヤーに一次データの提供を求めるべきですか?

A. 最初からすべてのサプライヤーに一次データを求めることは現実的ではありません。まずスペンドベース法による推計値で全体像を把握し、影響度の高い上位サプライヤーから順次、一次データへの移行を促すアプローチが効果的とされています。段階的に対象範囲を広げていくことが重要です。

Q. 中小サプライヤーが排出量を算定できる支援ツールはありますか?

A. 環境省が無償提供する排出量算定ツールや、業界団体が提供する簡易算定シートなどがあります。また、ASUENE SUPPLYCHAINのようなクラウドサービスを活用することで、バイヤー企業とサプライヤーが一元的にデータを管理・共有できる仕組みを構築することも可能です。

Q. SBTiのサプライヤー関与基準を達成するには何が必要ですか?

A. SBTiでは、主要サプライヤーの67%(購買金額ベース)にSBTi準拠の削減目標を設定させることが要件となっています(SBTi、2023年)。達成に向けては、まず購買金額ベースでの主要サプライヤーリストを作成し、SBTi申請のサポート(説明会・テンプレート提供・費用支援など)を実施することが効果的です。中小サプライヤーには自社設定目標での対応を認めるケースもあります。

まとめ:サプライヤー対応を前進させるために

Scope3のサプライヤー対応は、範囲が広く複雑に見えますが、優先順位の高いサプライヤーを特定し、段階的にエンゲージメントを深めていくことで着実に進めることができます。本記事の要点を整理します。

(1)カテゴリ1(購入した製品・サービス)がScope3の主要な排出源となるケースが多く、サプライヤー由来の排出量把握は削減戦略の出発点となります。(2)法規制(CSRD・CBAM)や取引先からの要請(SBTi・CDP)により、サプライヤー対応は「将来の課題」ではなく「いまの実務対応」となっています。(3)優先サプライヤーの特定は購買金額・排出集約度・削減ポテンシャルの3軸で行い、上位から順次エンゲージメントを開始することが現実的です。(4)中小サプライヤーへの算定支援とインセンティブ設計が、長期的な協力関係の維持に不可欠です。(5)SBTiやCDPなどの国際的な枠組みを参照軸として活用することで、取り組みの方向性に一貫性と信頼性を持たせることができます。

まず着手すべきNextActionとして、自社のScope3カテゴリ別排出量の推計と、影響度の大きい上位10〜20社のサプライヤーリストの作成から始めることをおすすめします。一歩を踏み出すことが、サプライチェーン全体の脱炭素化を前進させる原動力となります。

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