経営・戦略

【気候変動をどう捉えるか】環境リスクから経営のヒントを得た、ツムラのサステナビリティ経営とその実践方法とは

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【気候変動をどう捉えるか】環境リスクから経営のヒントを得た、ツムラのサステナビリティ経営とその実践方法とは

医療用漢方製剤における国内シェアの8割以上を占める株式会社ツムラ。「漢方のツムラ」として広く知られるこの名前を、医師から処方された薬の包装や説明書で一度は目にしたことがある、という人も多いのではないでしょうか。

自然の恵みである生薬を原料に、長年にわたり漢方薬で医療の現場を支えてきたツムラでは、ここ数年、サステナビリティを経営の重要なテーマのひとつとして位置づけています。気候変動や自然環境の変化が、原料調達や供給体制に大きな影響を及ぼす可能性があるなか、こうした変化にどう向き合うかが、事業の将来を左右する論点になりつつあるからです。

ツムラでは、サステナビリティへの取り組みがいつ、どのように始まり、どのように経営に組み込まれてきたのでしょうか。経営統括本部 サステナビリティ推進部 部長の犬飼律子さんに話を聞きました。

INDEX

サステナビリティに取り組むことで先手を打ったツムラの判断

――なぜツムラはサステナビリティに早期から注目し、取り組もうと考えたのでしょうか。

2020年頃から多くの企業がサステナビリティに取り組み始めましたが、当社は「自然と健康を科学する」という経営理念のもと、「自然資本」なしには事業が成り立たないことから、創業以来、自然を大切にするという姿勢で事業活動を行ってきました。

大きな転機となったのは2021年です。弊社のCEOである加藤が「自然と健康を科学する」という経営理念に基づいた理念経営を2012年より継続するなかで、2021年に「サステナビリティビジョン2050」の策定を指示しました。ちょうど、菅元首相がカーボンニュートラル宣言をした時です。企業としての取り組みと国全体の流れが相まって、社長直轄の横断プロジェクトが発足しました。それ以来、私たちは「自然環境の変化や危機に最も敏感な企業でありたい」というトップの強い想いと共に、サステナビリティに取り組んでいます。

――ただ、サステナビリティに取り組むといっても、どこから始めればいいのか分からないという企業が多いと思います。実際はどのようにスタートしたのでしょうか。

最初に取り組んだのは、「サステナビリティビジョン2050」における活動です。そのなかで、ツムラとして何に取り組むべきか、どのくらいの費用やリソースが必要なのかを整理していきました。今後どのようなテーマにどれだけ投資していくのかを考えたのです。

この横断プロジェクト解散と共に2021年10月にサステナビリティ推進室(現在はサステナビリティ推進部)が独立し、同時にサステナビリティ委員会が発足したことで、より一層サステナビリティに取り組んでいく体制が整いました。

サステナビリティの情報をどう集め、どう生かしているのか

――情報収集はどのように行い、実務にどのように落とし込んでいますか。

情報収集については、できるだけ情報アンテナを高く張り、自分で積極的に取りに行くスタイルだと思います(笑)。例えば、国際的な議論を正しく理解するために、英語の原文資料を読み解く必要があると感じたときは、WWF(世界自然保護基金)出身の有識者に直接サポートをお願いしました。また、TNFDについても詳しい専門家を探して、積極的にコンタクトを取ってきました。

一方で、日本経済新聞や日経ESGは、サステナビリティ分野における「教科書」のような存在として日常的にチェックしています。また、業界の枠にもとらわれていません。実は同じ製薬業界よりも、バリューチェーンが似ている食品会社から多くを学んでいます。例えば伊藤園さんとは、茶殻と生薬残渣という共通の課題をきっかけに連携が生まれました。

――集めた情報や知見を元に、今までどんな社内施策を行ってきましたか。

まずできることから行っています。現在、国内拠点では電力のほぼ100%をCO2フリー電力に切り替えています。こちらはエネルギーの大半を占める、漢方製剤を製造する生産組織の意識の高さから、早期に目標を達成しました。車両のEV化についても、役員車両をいち早くEV化するなど段階的に進めています。

一方で、常に「投資家目線」も意識しています。どれだけ意義のある施策でも、本業の利益を圧迫し、事業の継続性を損なってしまっては意味がありません。例えばEVの導入についても、インフラが整っていない地域で無理に進めると、営業活動に支障が出る可能性があります。そのため、現場の状況を見ながら、段階的かつ慎重に進めています。

また、エネルギー全体で見ると、当社のGHG排出量のうち約50%がガス由来で、ここが現在、最大の課題です。これは製造工程で使用するエネルギーは、電力とガスが半々となっているためです。ただ、ガスについては、社会的にも技術的にも十分な代替手段がまだ整っておらず、電力の再エネ化のように一気に転換することが難しいのが実情です。そのため、水素などへのエネルギー転換については導入事例を学び、社会動向を追うにとどまっており、現時点ではエネルギー効率の改善や使用量の削減といった現実的な取り組みを重ねています。加えて、中国事業におけるサステナビリティの推進も大きな課題です。

国際的な情報開示の仕組みにいち早く取り組むことができた背景

――TCFDやTNFD、CDPといった国際的な情報開示の枠組みに、なぜいち早く取り組むことができたのでしょうか。

2021年以降、当部組織やサステナビリティ委員会の設置時から、TCFDに関する役員・関連部署の勉強会を行い、経営に生かしていこうという判断があったことが大きいです。また、植物を原料とする事業である以上、気候変動や生物多様性といったテーマは、事業そのものの存続に直結する問題だと捉えてきました。TCFDやTNFDなどの国際的な枠組みは、単なる開示ルールではなく、自社のリスクや機会を整理し、将来の事業を考えるための「共通言語」だと考えています。

――特に、他社に先駆けてTNFDへの取り組みを始めたのはなぜでしょうか。

TNFDは、私たちにとって非常に親和性の高いフレームワークでした。生薬の栽培や調達は、土地や水、生態系と深く関わっています。自然との関係性を整理し、当社だけでなくサプライチェーンを含めた課題と認識し、どこにリスクや課題があるのかを把握するTNFDの考え方は非常に参考になると感じました。またリスクを機会として捉えなくてはいけないことも大いに役立ちました。

2023年に正式にアーリーアダプターとして登録し、2024年には、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の国内株式の運用会社が選ぶ「優れたTNFD開示」として取り上げていただくことにつながりました。

サステナビリティへの取り組みを通して、リスクをチャンスに変えることができた

――気候変動は、事業にどのような影響を与えていますか。

気温の上昇は、植物の生育に直接影響します。当社の生薬調達は中国から約90%、日本やラオス、その他の国から約10%の割合で生薬を調達しています。同じ品種の生薬でも、産地が異なると成分に違いが生じてしまいます。一定の品質で、一定の薬効が得られる漢方薬をつくるため、従来より気候や土壌などの影響を考慮して生産地の分散化・複線化などを進めてきました。このことは気候変動対応にもなっており、供給に支障が出るような深刻な影響は出ていません。

一方で、気候変動は単なるリスクではなくチャンスとしても捉えることができます。TCFDの分析を進めるなかで、夏バテなどに使われる漢方薬「清暑益気湯」と猛暑日のデータを分析すると、売上との間に一定の相関関係があることが分かりました。つまり、気候変動に伴って増加しうる症状に対して、漢方製剤の需要が高まる可能性があったのです。

環境省が示しているように、気候変動は熱中症や睡眠障害、呼吸器疾患など、さまざまな健康への影響をもたらします。漢方製剤はこうした変化に対して、新薬を一から開発しなくても、既存の129処方の中で対応できる可能性が大いにあることを示すことができました。

――リスクはチャンスにもつなげられるんですね。

そうなんです。ですから、私たちは、サステナビリティに関する情報を非財務とは言わず「プレ財務」としています。

かつて漢方薬は、科学的な証明が難しいことから「非科学的」と言われていましたが、私たちはそれを「まだ科学されていないだけ」の「未科学」と捉え、生薬・漢方薬の研究を続け、今ではさまざまなエビデンスが揃ってきて、「科学的」に多くのことが証明できるようになりました。

サステナビリティに関する指標も同じで、現時点では財務数値に直接表れていなくても、将来的には必ず企業価値や財務に結びつく前段階の情報だと考えています。

企業価値とサステナビリティ、そしてこれから目指すところ

――高知県での地域連携・教育プログラムについて経営の観点からの目的を教えてください。

漢方薬の原料である生薬の栽培をいただいていることから、高知県では18年にわたり地域連携の取り組みを続けています。これは事業継続には欠かせません。また、今までで1000人以上の中学生を対象にサステナビリティ教育のプログラムを実施し、なんと当社に入社したかつての中学生もいます。

――入社!!それは長く続けてきたからこその成果ですね。高知県の取り組み以外にも、サステナビリティ施策が、企業価値の向上につながった例はありますか。

外部評価という点では、2024年度のCDPにおいて、「気候変動」と「水セキュリティ」の2分野で最高評価の「Aリスト企業」に選定されました。また、金融庁が主催する場で、サステナビリティに取り組む先進的な企業として取り上げていただく機会もありました。こうした機会を通じて、当社の開示や考え方が、投資家や金融関係者を含む外部ステークホルダーとの対話の中で評価されつつあると感じています。

――今後の貴社のサステナビリティの取り組みの展望を教えてください。

2025年度に第二期中期経営計画が始動したのと同時に、サステナビリティ区分「カーボンニュートラルの実現」「ネイチャーポジティブの実現」「ツムラサーキュラーエコノミーの構築」「地域・社会リレーション構築」の4つの観点からサステナビリティ活動をとらえ、その活動全体において、ガバナンス・評価を向上させることを戦略としています。これらの「サステナビリティ・ターゲット2027」では、サステナビリティ区分とマテリアリティを紐づけ、自然資本への依存・影響を考慮し、気候変動やネイチャーポジティブに対する直接的な目標を設定しています。まずは、この「サステナビリティ・ターゲット2027」の目標達成に向け、確実に取り組みを進めていきたいと考えています。

サステナビリティを特定の部署だけのものにせず、社員一人ひとりの判断や行動に根づかせていくことが、長期的に取り組みを続けていくうえで重要だと考えています。ありがたいことに、外部からは高い評価を得られています。ツムラグループの全役職員が、4つの視点のサステナビリティ活動を一人ひとりの言葉で語れるようインナーブランディングにも力を入れていかなくてはならないと考えています。

今後は、気候変動と生物多様性を切り分けて考えるのではなく、統合的な戦略としてどう深化させていくかが大きなテーマになります。自然の変化をいち早く捉え、経営に反映していく。その意味で、私たちはこれからもサステナビリティ活動を通じて、サステナビリティビジョンである「自然と生きる力を、未来へ。」の実現に貢献していきます。

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