日本のサステナビリティ開示基準を定めるSSBJ(サステナビリティ基準委員会)が、国際基準ISSB(IFRS S2)の動きに連動し、大規模な基準改定計画を進行中です。特に、2025年12月にはISSBの修正が確定・公表され、これに伴いSSBJの「気候関連基準」の改正案(公開草案)も公表されました。
本記事では、2027年3月期からの適用を見据えたSSBJ初回改正の確定スケジュール、ISSB修正の具体的な内容、そしてSASBスタンダード最新版への追随方針など、企業が早急に対応すべき重要ポイントと具体的な準備アクションを徹底解説します。
INDEX
SSBJ基準改定の全体スケジュールと適用見込み時期
SSBJは、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)との整合性を維持するため、国際基準の新規公表や改訂に合わせて可及的速やかに国内基準をアップデートする方針を固めています。
1.1 初回改正の確定時期と2027年3月期適用企業への影響
2025年12月、日本の開示実務に大きな影響を与える重要なマイルストーンを迎えました。
- 2025年12月15日:SSBJ改正案(公開草案)の公表 ISSBが2025年12月11日に「温室効果ガス排出の開示に対する修正(IFRS S2号の修正)」を公表したことを受け、SSBJは即座に日本の国内基準を修正するための3つの公開草案(ユニバーサル基準、一般開示基準、気候関連開示基準の改正案)を公表しました。
- 2026年3月末:SSBJ初回改正の確定予定 公開草案に対するパブリックコメント期間を経て、2026年3月末までに改正基準が正式に確定する予定です。
- 適用開始時期:2027年3月期から 金融庁の検討状況に基づき、時価総額3兆円以上のプライム市場上場企業などは、最短で**2027年3月期(2026年度)**からの適用が義務化される見通しです。2026年3月の基準確定は、企業が本格的な準備を開始するための最後のデッドラインとなります。
1.2 2026年以降:追加のSSBJ改正が段階的に発生する要因
初回改正が確定した後も、基準のアップデートは継続的に行われます。
- SASBスタンダード改訂への連動 ISSBは、産業別開示指標であるSASBスタンダードの改訂を進めており、2025年7月に公表された改訂案が確定次第、SSBJもこれを国内基準に取り込む計画です。
- ISSBの新規テーマへの追随 ISSBは「自然資本・生物多様性」や「人的資本」に関する新たな開示基準の策定を予定しており、これらが公表されるたびにSSBJも改正プロジェクトを立ち上げる「動的な改定サイクル」に入ります。
改正の核心:ISSB修正とSSBJ気候関連基準の変更点
今回のSSBJ改正の主な目的は、ISSBが2025年12月に確定させた「IFRS S2(気候関連開示)」の修正内容を日本の基準に反映させることです。
2.1 ISSBの主要な修正内容と日本の基準への波及
ISSBによる修正の目玉は、実務上の負担を考慮した「現実的な解」の提示です。
- Scope 3 カテゴリ15(Financed Emissions)の開示範囲の限定 デリバティブなどの特定の金融活動を算定から除外することを認めるなど、金融機関や投資家における「ファイナンスド・エミッション」の開示範囲が明確化・限定されました。
- 産業分類の柔軟性向上 当初は「GICS(世界産業分類基準)」の利用が想定されていましたが、修正により日本国内で一般的に使われる他の分類システムの利用も、移行リスクの説明に資する範囲で許容されることとなりました。
- GHG算定方法の救済措置(セーフハーバー) 原則としてGHGプロトコルを用いますが、各国の法域(日本の算定・報告・公表制度など)で求められる異なる算定方法の使用も認められるよう、柔軟性が確保されました。
2.2 SSBJ気候関連基準への影響と改正案の公表時期
SSBJは、これらISSBの柔軟な措置を「原則としてすべて取り入れる」方針です。
- 2025年12月15日の公開草案: ISSBの修正を反映した「気候関連開示基準(改正案)」が公表されました。これにより、日本企業も国際基準に準拠した形で、より実務的な負担を抑えた開示が可能になります。
SSBJ基準全体(一般基準・適用基準)の初回アップデート内容
今回の改正は「気候」だけではありません。基準体系全体において整合性を保つための修正が行われます。
3.1 初回改正で対象となる基準の範囲
SSBJが公表した3つの改正案(第3号〜第5号)により、以下の基準がアップデートされます。
- サステナビリティ開示ユニバーサル基準(サステナビリティ開示基準の適用)
- サステナビリティ開示テーマ別基準第1号(一般開示基準)
- サステナビリティ開示テーマ別基準第2号(気候関連開示基準)
これらは、温室効果ガス排出量の算定方法や報告期間の整合性など、技術的な微調整を含む内容となっています。
3.2 マテリアリティ評価におけるSASBスタンダード最新版への更新方針
SSBJは、産業別開示の指標として参照される「SASBスタンダード」についても、常に最新版を反映させる意向を示しています。
- 最新版への追随: 2025年7月にISSBが提示したSASB改訂案(自然資本・人的資本領域の強化など)が正式に確定次第、SSBJも「適用基準」の中で参照するSASBのバージョンを最新のものに更新します。これにより、企業は常にグローバルで最新の「重要課題(マテリアリティ)」に基づいた指標開示を求められることになります。
企業が今すぐ着手すべき実務対応アクション
2026年3月の改正確定、そして2027年3月期の適用義務化に向けて、企業が今すぐ取り組むべきアクションを整理します。
4.1 GHG算定・データ収集体制の再点検
新基準への対応には、これまで以上の精度と網羅性が求められます。
- Scope 3 カテゴリ15の算定準備(金融・投資家): ISSB修正で限定された範囲に基づき、算定から除外する項目とその数値(Amount)の開示に向けたデータ整理を開始してください。
- 算定・報告・公表(SHK)制度との整合: 日本独自の算定法をISSB/SSBJ基準でどう活用するか、社内の算定ルールを再定義する必要があります。
- 将来的なGHGプロトコル改訂への対応: 現在進行中のGHGプロトコル改訂も、将来的にSSBJに影響を与えるため、動向を注視してください。
4.2 開示実務担当者の体制構築とスケジュール管理
開示業務はもはや「広報・CSR」の範疇を超え、財務報告と同等のガバナンスが求められます。
- 社内体制の構築: 2026年3月末の最終確定に向け、法務・財務・IR・環境部門を横断するプロジェクトチームを編成してください。
- パブリックコメントへの対応: 2025年12月15日に公表された3つの公開草案に対し、自社の実務に照らして懸念がある場合は、意見提出(パブリックコンサルテーション)を行うことを検討してください。
- システムの導入検討: SASBの最新改訂やISSBの修正をリアルタイムで反映し、効率的にデータを収集・管理するためのデジタルツールの導入が、人的コスト削減の鍵となります。
まとめ:ISSBの動的な修正とSASBの改訂を踏まえた「開示データの即応体制」の構築が不可欠です
SSBJの基準改定計画は、単なる「国際基準のコピー」ではなく、ISSBが提示する最新の柔軟な措置を日本の実務に取り込むための重要なプロセスです。2025年12月の公開草案、そして2026年3月の基準確定は、日本企業がグローバルな投資マネーを呼び込むための「共通の尺度」を手に入れることを意味します。
企業は、「ISSBの動的な修正とSASBの改訂を踏まえた開示データの即応体制」を今すぐ構築すべきです。一度決まったら終わりではなく、常に変化する国際基準に合わせ、データ収集の仕組みやガバナンス体制を柔軟にアップデートできる企業こそが、脱炭素時代のリーダーとして正当に評価されることになるでしょう。
参考文献
- サステナビリティ基準委員会(SSBJ)公式サイト:
- サステナビリティ開示基準に関する情報: https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_disclosure_standards.html
- 11/21公開の改定計画に関する情報源(具体的なURLは公表元にてご確認ください)
- 国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)公式サイト:
- IFRS S2修正およびSASBスタンダード改訂に関する情報
- 過去記事(SSBJ概要参考):https://asuene.com/media/1704/