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IEA World Energy Outlook 2025公開|世界のエネルギー需要、再エネ投資、脱炭素シナリオの最新動向

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IEA World Energy Outlook 2025公開|世界のエネルギー需要、再エネ投資、脱炭素シナリオの最新動向

国際エネルギー機関(IEA)が2025年11月12日に発表した最新の旗艦レポート「World Energy Outlook 2025(WEO-2025)」は、世界がこれまでの化石燃料中心の構造から、歴史的な「電気の時代(Age of Electricity)」へと決定的にシフトしつつあることを示しました。

地政学的緊張、エネルギー安全保障への懸念、そして気候変動の加速という複雑な背景の中で、エネルギー市場がどのような将来像を描いているのか。本記事では、レポートが提示した最新の需要予測、投資動向、そして脱炭素シナリオの要諦を詳細に解説します。


INDEX

IEA World Energy Outlook 2025とは

IEA(国際エネルギー機関)が毎年秋に発表する「World Energy Outlook」は、各国の政府、エネルギー関連企業、投資家が戦略を策定する際の「黄金基準」とされる世界で最も影響力のあるエネルギー分析レポートです。

毎年発表される世界エネルギー需給の基礎資料

WEOは、最新のデータと高度なエネルギーモデルを駆使し、エネルギー供給、需要、貿易、投資、そして環境への影響を包括的に分析します。単一の未来を予測するのではなく、政策や技術の進展に応じた複数のシナリオを提示することで、将来のリスクと機会を浮き彫りにします。

2025年版の特徴:不確実性と移行速度を強調

2025年版では、ロシアによるウクライナ侵攻以降の地政学的な再編、データセンターやAI需要による電力需要の急増、そして記録的な高温といった「新しい現実」が色濃く反映されています。レポートは、エネルギーシステムがこれまでにない速度で変化している一方で、その道筋には依然として大きな不確実性が伴っていることを警告しています。


世界のエネルギー需要:依然として高止まり

世界のエネルギー消費構造は、新興国の経済成長とテクノロジーの進化により、質的な変化を遂げています。

主要地域の需要トレンド

  • 新興国・途上国: エネルギー需要の伸びの約80%は、太陽光資源に恵まれたアジアを中心とする新興国からもたらされています。
  • 先進国: 全体的なエネルギー需要はピークアウトしつつありますが、電化の進展により「電力需要」だけは増加し続けています。

産業・輸送部門の需要構造

2000年以降、世界のエネルギー需要は約60%増加しました。2025年版では、電気自動車(EV)の普及が年間130万バレル以上の石油需要を抑制した一方で、産業活動の回復と、何よりデータセンターやAI関連の電力消費が新たな需要の牽引役として急浮上しています。


再生可能エネルギー投資の進展

レポートは、再生可能エネルギーがもはや「補助的なエネルギー」ではなく、「世界最大のエネルギー源」へ昇格する転換点を描いています。

太陽光・風力の導入コスト低下

太陽光発電(PV)の導入量は世界中で過去最高を更新し続けています。特に中国が世界の導入量の約半分を占めており、コスト競争力において化石燃料を圧倒しています。風力発電も2030年までに容量がほぼ倍増する見通しです。

電力市場における再エネのシェア拡大

IEAは、2030年までに再生可能エネルギーが世界の総発電量の約45%を占めると予測しています。これは、中国、EU、日本の総発電容量に匹敵する規模の再エネ設備が、今後数年で追加されることを意味します。

送電網・蓄電市場との連動

一方で、レポートは「送電網(グリッド)と蓄電」の整備が再エネの導入速度に追いついていないことを深刻な課題として挙げています。再エネを有効活用するためには、電力システムの柔軟性とレジリエンス(強靭性)を高める投資が不可欠です。


IEAが提示する主要シナリオ

WEO-2025では、以下の3つの主要シナリオに基づき、2050年までの道筋を比較しています。

シナリオ名概要到達する気温上昇(予測)
STEPS既存の政策設定を継続した場合約2.5℃
APS各国の宣言・目標が全て達成された場合約1.7℃(条件付き)
NZE2050年ネットゼロを達成する経路1.5℃以内に抑制

各シナリオでの炭素排出・価格・需要の比較

NZE(ネットゼロ)シナリオでは、初期のクリーン技術への投資コストは高いものの、化石燃料の購入費用が不要になるため、2035年までにエネルギー輸入国の支出は現状より3分の2削減され、結果として「最も安価なシナリオ」になると結論づけています。


化石燃料セクターの見通し

化石燃料は依然としてエネルギー供給の基盤ですが、その影響力は確実に減衰し始めています。

  • 石油: EVの普及と効率改善により、需要の伸びは失速しています。ピークオイル(需要の頂点)の時期がこれまでより前倒しで議論されています。
  • 天然ガス・LNG: 2030年に向けて米国やカタールを中心にLNGの供給能力が急増し、市場は供給過剰(バイヤーズマーケット)に転じる可能性があります。
  • 石炭: 中国やインドでの電力需要に応えるため、短期的には高止まりしていますが、先進国では急速に撤退が進む「二極化」が鮮明です。

電力市場の転換点

2025年版WEOの核心的なメッセージは「電気の時代の到来」です。

再エネ比率上昇による市場安定性の課題

変動性の高い再エネ(VRE)が発電量の約30%に達する2030年には、電力需給の調整が極めて複雑になります。

  • 蓄電池の重要性: バッテリーストレージへの投資は急拡大しており、電力システムの安定化に寄与しています。
  • グリッド強化: 老朽化した送電網の更新と、再エネ適地と需要地を結ぶ長距離送電網の整備が、移行の成否を分けるボトルネックとなっています。

脱炭素化に必要な技術

1.5℃目標の達成には、既存の再エネ技術に加え、新しいテクノロジーの社会実装を加速させる必要があります。

  • CCUS(炭素回収・利用・貯留): 既存の化石燃料アセットからの排出抑制や、ハード・トゥ・アベート(削減困難)な産業部門において、ネットゼロ達成の約15%を担うとされています。
  • 低炭素水素・アンモニア: 2035年までに重工業や精製部門において、化石燃料由来の水素の約35%が低炭素水素に置き換わる見通しです。
  • 原子力: 安全保障と脱炭素の両面から再評価が進んでおり、日本を含む世界各地で再稼働や新設が進む「ルネサンス」の兆しが見られます。

企業・投資家へのインパクト

投資マネーは、化石燃料からクリーンエネルギーへと確実に向かっています。

  • 投資適正化: 2025年のエネルギー投資総額は過去最高の3.3兆ドルに達する見込みで、そのうち3分の2がクリーンエネルギーに充てられます。
  • 高炭素資産のリスク: NZEシナリオ下では、原油価格は2035年に1バレル33ドルまで下落すると予測されており、高炭素資産の座礁資産化(価値の喪失)リスクを再評価する必要があります。

2025年版が示す「不都合な現実」

レポートは楽観的な予測だけでなく、厳しい現実も突きつけています。

  • 1.5℃目標との乖離: 現在の政策(STEPS)のままでは、気温上昇は2.5℃に達し、深刻な気候災害が頻発するリスクが高い。
  • 不平等の拡大: クリーンエネルギーへの投資は大企業や先進国に集中しており、依然として7億3000万人が電力にアクセスできないという「エネルギー格差」が放置されています。

日本企業が取るべき戦略

エネルギー輸入国である日本にとって、WEO-2025の内容は国家戦略の根幹に関わります。

  • 電力需要の再見積もり: 生成AIやデータセンター誘致に伴う国内電力需要の増加を正確に予測し、自社のエネルギー調達戦略をアップデートする必要があります。
  • サプライチェーンの脱炭素化: Scope3削減の圧力はさらに強まります。再エネPPAの導入や、低炭素水素の活用を具体化すべき時期です。
  • 原子力と再エネのベストミックス: レポートでも指摘された日本の原子力再稼働と再エネ拡大を前提とした、長期的な投資適正化を図ることが重要です。

まとめ:電力シフトと地政学リスクを踏まえたエネルギー投資の再定義が不可欠です

IEAの「World Energy Outlook 2025」が示したのは、世界が「電気の時代」へと突入し、エネルギーの価値が「燃料(分子)」から「技術とインフラ(電子)」へと根底からシフトしているという事実です。

脱炭素化はもはや理想論ではなく、地政学的な自立と経済的なコスト優位性を確保するための冷徹なビジネス戦略となりました。NZEシナリオが示す「ネットゼロこそが最も安価な未来」という結論は、化石燃料への依存が将来的な価格変動リスクとコスト増を招くことを明確に警告しています。

企業は、「電力シフトと地政学リスクを踏まえたエネルギー投資の再定義」を最優先課題とし、送電網の強化、蓄電技術の活用、そして低炭素燃料への転換を、経営のレジリエンスを高める投資として位置づけるべきです。この歴史的な転換点に適応できるかどうかが、次の10年の企業の命運を分けることになるでしょう。


参考文献

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