温室効果ガス削減への取り組みに欠かせないCO2排出量の計算方法
- 2023年11月05日
- CO2算定
CO2には排出量の計算方法があるのをご存じでしょうか。現在、世界会議では環境問題についての話し合いがおこなわれており、各国でCO2の排出量の削減が求められています。その中でも企業によるCO2排出削減の重要性があげられ、各企業はさまざまな手法で削減にむけて動き出しています。このCO2排出量の計算方法は削減にあたって理解しておく必要があります。ここではCO2排出量の計算方法についてわかりやすく解説していきます。現状の把握や、削減目標の設定には必ず必要となりますので、ご活用ください。
目次
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CO2排出削減への取り組み
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CO2排出量の計算方法
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サプライチェーン排出量の計算方法
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まとめ:企業でのCO2排出量削減にチャレンジしよう
1. CO2排出削減への取り組み
2015年のパリ協定での合意により、日本政府は温室効果ガスの排出量を2030年までに2013年度比で26%削減すると発表しました。そして2021年4月には「地球温暖化対策推進本部」の閣僚会議で菅首相は目標を46%に引き上げ、「50%(削減)の高みに向けて挑戦を続ける」と発表しています。
出典:日経ESG『どう挑む温室効果ガス46%削減』(2021年4月26日)
また、同じく2015年には国連サミットにおいて、SDGsへの取り組みが採択され、地球温暖化への対策が求められています。
日本の2019年度でのCO2排出量は16.7%の削減にとどまっており、今後の更なる削減への取り組みが必要でしょう。また、そのほとんどは事業系で、工場などの「産業部門」、流通などの「運輸部門」、商業、サービスなどの「業務その他部門」を合わせると総排出量の76.2%となり、「家庭部門」では15.5%にとどまっていますので企業のCO2排出削減への対策が重要となっています。
出典:国立環境研究所『2019年度の温室効果ガス排出量(確報値)について』(2021年4月13日)
一般的には温室効果ガス=CO2という認識になっていますが、「地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)」では7種類のガスが指定されています。ここでは占有率の高い4種類についてご紹介します。
温室効果ガス
出典:国立環境研究所『2019年度の温室効果ガス排出量(確報値)について』(2021年4月13日)
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CO2(二酸化炭素)
温室効果ガスの中で最も代表的なガスであり、総排出量のうち91.4%を占めています。化石燃料の焼却による発生が84.9%で、温室効果ガスの排出削減の取り組みでは、このCO2の排出削減が重要視されています。
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メタン
温室効果ガスで2.3%を占めているガスです。天然ガスの主成分で非常に燃えやすく、稲作、家畜の腸内発酵、廃棄物の埋め立てにより発生します。CO2の25倍の温室効果があるとされています。
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一酸化二窒素
全身麻酔剤などにも使用されていたガスで、CO2の298倍の温室効果があります。1999年から排出削減が行われ、現在は排出量の1.6%となっています。燃料の焼却、工業プロセスにより発生されます。
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フロン
スプレーの発泡剤やエアコン、冷蔵庫の冷媒などに使用されていましたが、オゾン層の破壊の原因ということが判明し、生産禁止となりました。現在も塩素を含まない代替フロンが使用されています。温室効果ガスのうち4.6%を占め、CO2の1000倍以上の温室効果が確認されています。
出典:国立環境研究所『2019年度の温室効果ガス排出量(確報値)について』(2021年4月13日)
世界の温室効果ガス排出量
出典:資源エネルギー庁『日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」』
1990年以降世界のCO2排出量は増加傾向にあり、2018年でピークに達しています。その後2019年では世界のCO2排出量は前年からほぼ横ばいの約330億トンとなり、2020年ではさらに下がっており、増加傾向を食い込めることができています。
出典:日本原子力産業協会『IEA:2019年に世界のCO2排出量横ばいに』
温室効果ガス排出量算定報告公表制度
日本では温室効果ガスの排出抑制のため、各事業者が自らの活動で排出される温室効果ガスの量を算定、把握し、排出抑制対策を示し実行する必要があるとしています。そのため「地球温暖化対策の推進に関する法律」で、温室効果ガスを多量に排出する事業者に排出量の算定と報告を義務付けました。これにより企業は自社のCO2排出量を調べることが必要になったのです。
2. CO2排出量の計算方法
CO2の排出量は経済統計などで用いられる「活動量(ガソリン・ガス・電気など)」に「排出係数」をかけて算出します。これはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)によりガイドラインが定められており、「排出係数」の標準値も示されていますが、日本では排出実態にあった係数が試算されています。これは環境省のサイトで提示され、CO2の排出量の算定・報告はこの排出係数を用いて行われます。
「CO2排出量=活動量(生産量・使用量・焼却量など)×排出係数」
排出係数
CO2排出係数とは、「電力会社が電力を作り出す際に、どれだけのCO2を排出したかを指し示す数値」となります。本来は様々な事業活動での単位生産量・消費量等あたりの二酸化炭素の排出量を表す数値ですが、一般的には電力面に限った数値として使われることが多くなっています。これは利用する電力会社により差があり、企業にとってはCO2排出量の削減に大きな影響のある部分となるでしょう。
各電力会社の排出係数は、
「排出係数(kg-co2/kwh)=CO2排出量÷販売電力量」
となります。電力会社はこの排出係数を抑えるために、再生可能エネルギー発電の利用や、再生可能エネルギー発電による電力の固定価格買取制度(FIT)をすすめているのです。
3. サプライチェーン排出量の計算方法
環境省では自社での排出量算出・削減の他に、「サプライチェーン=原料調達、製造、物流、販売、廃棄」という全体の流れでみたCO2排出量の削減にも取り組んでいます。
これは燃料、電力の使用による自社のCO2排出をScope1 (直接排出)、Scope2(間接排出)とし、これ以外の排出を「Scope3=サプライチェーンによる排出」と位置づけ、削減に取り組むというものです。
Scope1・Scope2
Scope1は燃料燃焼・工業プロセスによる直接排出、Scope2は他社から供給された電気・熱・蒸気などの使用による間接排出となり、事業所単体での排出量となります。
Scope3
環境省ではScope3(サプライチェーンによる排出)を15のカテゴリに分類しています。
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購入した製品・サービス
原材料・部品・容器・包装などが製造されるまでにともなう排出
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資本財
自社の資本財の建設・製造にともなう排出
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Scope1.2に含まれない燃料・エネルギー関連活動
調達している燃料・電力の上流行程(発電に使用する燃料・採掘・精製)にともなう排出。
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輸送・配送
購入した製品・サービスのサプライヤーから自社への物流にともなう排出。またそれ以外の自社が費用負担している物流にともなう排出
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事業から出る廃棄物
自社で発生した廃棄物の輸送・処理にともなう排出
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出張
従業員の出張にともなう排出
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雇用者の通勤
従業員が通勤する際の移動にともなう排出
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リース資産(上流)
自社が貸借しているリース資産の操業にともなう排出
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輸送・配送
自社が販売した商品の最終消費者までの物流にともなう排出(自社が費用負担していないもの)
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販売した製品の加工
事業者による中間製品の加工にともなう排出
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販売した製品の使用
使用者(事業者・消費者)による製品の使用にともなう排出
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販売した製品の廃棄
使用者(事業者・消費者)による製品の廃棄時の処理にともなう排出
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リース資産(下流)
自社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の運用にともなう排出
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フランチャイズ
フランチャイズ加盟者における排出
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投資
投資の運用にともなう排出
Scope3での削減へ取り組むメリットは多い
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削減対象の特定
サプライチェーン排出量をみることで、全体の内容が把握でき、削減するべき箇所がわかるようになります。
例) 飲料メーカーの企業では使用容器や梱包方法に係る排出割合が大きいことがわかり、容器の軽量化・薄肉化により容器原材料を削減するとともに、梱包のコンパクト化により運送車両の積載率を向上して輸送を効率化。排出量削減だけでなくコスト削減にもつながりました。
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他の事業者との連携による削減
他事業者と関わることにより、情報交換が行われ、連携した削減方法が行えます。
例) ある企業では、取引先企業からサプライチェーン排出量の調査票が届いたことで取引先にサプライチェーン排出量削減のニーズがあることが分かり、調査票回答にあわせて独自技術による削減策や、取引先企業との連携による削減策を提案。これを好意的に受け入れられ、取引先企業とのサプライチェーン排出量削減に関する連携が深化しました。
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機関投資家への質問対応
投資家や格付機関からの質問に適切に対応することで、自社の環境問題への取り組み評価を高めることができます。
例) ある企業では近年、機関投資家や環境格付機関による質問票にサプライチェーン排出量に関する項目が増えてきており、算定や削減に積極的に取り組むことで、格付向上を目指した。その際、海外では第三者認証が重視されていることや第三者認証の配点が大きな格付もあることから、サプライチェーン排出量について第三者認証を取得。結果として各種格付が向上し、企業の環境イメージを強化することができました。
サプライチェーン排出量の算定方法
サプライチェーン排出量の算定はScope1、Scope2の排出量にScope3の排出量を合計して算定します。
「サプライチェーン排出量=Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量」
Scope3の排出量は各カテゴリーごとに計算し、合計して算定します。ここでの「活動量」は、カテゴリー内の電気の使用量、貨物の輸送量、廃棄物の処理量などになり、これに「排出原単位」(電気1kwh使用あたりのCO2排出量、輸送1トンキロあたりのCO2排出量、廃棄1トンあたりのCO2排出量)をかけて算定となります。
「Scope3排出量=活動量×排出原単位」
※注意点としてはその活動がどのScopeに入るのかの分類の区分けをしっかり行うことです。
4. まとめ:企業でのCO2排出量削減にチャレンジしよう
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日本政府はパリ協定で温室効果ガスの排出量を2030年までに2013年度比で26%削減すると発表し、2021年4月には削減目標を46%まで引き上げた。2019年で16.7%の削減となっており、今後の取り組み強化が見込まれる。
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日本の温室効果ガスの91.4%はCO2で、84.9%はエネルギー起源の化石燃料の焼却により発生しており、企業の経済活動での削減への取り組みが必要となる。
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日本政府は「地球温暖化対策の推進に関する法律」で「温室効果ガス排出量算定報告公表制度」を制定し、事業者に対してCO2の排出量の算定と報告を義務付けている。
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CO2排出量の計算方法は「CO2排出量=活動量(生産量・使用量・焼却量など)×排出係数」で表される。
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環境省はサプライチェーン全体でみたCO2排出量を算定することによる削減にも取り組んでおり、企業の活動内容によってScope1、2、3と排出量を分類する方法を提言している。
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Scope3となるサプライチェーン排出量はカテゴリーごとに分け、「Scope3排出量=活動量×排出原単位」で算定される。
今後も企業のCO2排出量削減への取り組みは注目されていくことでしょう。自社の現状を把握し、効果的な削減にチャレンジしていきましょう。