石川県小松市に本社を構えるマルト株式会社は、名刺や封筒といった印刷事業から、地域に根差した製菓事業まで幅広く展開し、70年を超える歴史を持つ老舗企業です。時代の変化に合わせて柔軟に事業を転換してきたマルトが、近年注力しているのが「脱炭素」。自社でScope1-3の算定や中小SBT認定を取得し、「カーボンニュートラルネックストラップ」をはじめとする独自商品を展開しています。大阪・関西万博でも採用されるなど、企業のブランディングやPRの観点から注目が集まる同製品の背景と展望について、代表取締役社長の今村 幸彦氏にお話を伺いました。
INDEX
老舗が歩んだ事業の多角化と、脱炭素へ舵を切った理由とは

石川県小松市に本社を構えるマルト株式会社は、1953年の創業以来70年以上にわたって地域とともに歩んできた老舗企業です。創業当初は名刺や封筒、パンフレットといった紙媒体の印刷を手掛け、その技術を磨いてきました。その後、繊維分野へ進出し、衣料品のネームタグや社員証用のネックストラップなどを製造。さらに包装紙の印刷から派生して製菓事業を立ち上げ、ドーナツや餅、羊羹といったPB(プライベートブランド)菓子を自社工場で一貫製造しています。現在では、この製菓事業が売上の半分以上を占めるまでに成長しました。
マルトの特徴は、一つの事業に固執せず、時代の流れに合わせて柔軟に事業を変化させてきた点にあります。ペーパーレス化の波が押し寄せたタイミングで新たな分野へ挑戦し、事業の幅を広げてきたことが、持続的な成長につながっています。この柔軟性は、近年の脱炭素への取り組みにも結びついています。
本格的に環境・脱炭素の取り組みを始めたのはコロナ禍がきっかけでした。印刷・ネーム・製菓の3事業すべてが大きな打撃を受け、従来のビジネスモデルの限界を痛感しました。マルトは「衰退産業にとどまるのではなく、成長産業にシフトする」という判断を下し、環境・脱炭素分野への挑戦を決断しました。
3〜4年前から自社のCO2排出量の算定に着手し、Scope1-3までを把握するだけでなく、中小企業向けSBT認定を取得し、2030年までの削減目標を掲げました。また、地元である能登の森林系J-クレジットを活用して排出量をオフセットし、再生可能エネルギー由来の電力を導入しています。現在では社員3名が環境関連資格を取得し、自社のWebサイト「CARBON NEUTRAL PROJECT」で自社の取り組みを積極的に発信しています。
万博でも導入された、身近で簡単に始められる「カーボンニュートラルネックストラップ」

こうした取り組みの延長で誕生したのが「カーボンニュートラルネックストラップ」です。社員証やイベント用として欠かせないネックストラップを対象に、製造過程で排出されるCO2を算定し、能登の森林系J-クレジットによってオフセットすることで実質的にカーボンニュートラルを実現しました。納品時には算定書を添付し、企業が「このネックストラップはカーボンニュートラルです」と具体的に発信できるようにしています。
特徴的なのは、従来品と価格差がほとんどないことです。調達部門にとってコスト負担が増えることなく導入できるため、サステナビリティ担当者が社内で提案しやすく、経営層の理解も得やすい点が評価されています。購入時も企業ロゴとテープの色を決めるだけで約1ヶ月で納品できるため、簡単に導入できる脱炭素商品だと考えています。
すでに複数の企業で導入が進んでおり、象徴的な事例が2025年の大阪・関西万博です。環境をテーマに掲げた万博で採用されたことは、商品の信頼性を裏付ける大きな実績となりました。イベントや展示会の場では首から常に下げるため、来場者や関係者の目に触れやすいのもポイントです。マルトは、この“日常的に目に触れるアイテム”に脱炭素のメッセージを込められる点に注目しています。
また、大手企業の社員証用ストラップとしても導入が進んでいます。日常的に使用されるアイテムであるストラップは、企業のサステナビリティ活動を象徴するアイテムとして、さまざまなステークホルダーに「サステナビリティに取り組む企業姿勢」を見える化できる有効なツールとなっています。
脱炭素ブランディングを支援し、社内外の意識浸透を後押し

マルトが提供する「カーボンニュートラルネックストラップ」は、企業が脱炭素をブランディングやPRの観点から推進するうえで非常に有効なツールとなっています。調達フローやコストを大きく変動させることなく、既存のストラップを置き換えるだけで排出量の削減に貢献できるのは大きな強みです。
さらに、納品時に添付される算定書によって、取り組みの裏付けを社内外に説明することができます。ESG開示や統合報告書に記載できるだけでなく、展示会やイベントなどで「このネックストラップはCO2排出量実質ゼロです」と伝えることで、企業のブランド発信力を高める効果も期待できます。コスト、信頼性、PR効果という3つの側面から価値を提供できる点は、多くの企業にとって魅力となっています。
今後は、印刷物のCO2削減量を可視化するアプリの開発も進めています。パンフレットや名刺にQRコードを印刷し、読み込むと削減量が表示され、利用者にはポイントが付与される仕組みです。貯まったポイントは別の形で利用できるサービスにして、利用者にとってもメリットのある取り組みにしたいと考えています。紙だけでなくデジタル資料にも応用できるため、企業と消費者双方に持続可能な選択肢を提供する仕組みを構築していきます。
まとめ

マルトの「カーボンニュートラルネックストラップ」は、追加コストをかけずに導入でき、脱炭素への姿勢をわかりやすく伝えるPRツールとして多くの企業から注目を集めています。企業の環境意識を社内外にアピールする強力な手段となるのではないでしょうか。
日常的に使用されるネックストラップというアイテムに環境配慮を組み込むことで、企業の脱炭素への姿勢を自然に意識し、発信することができます。マルトの取り組みは、小さなアイテムから大きな変革を起こし、持続可能な未来を築く一助となっています。