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自動車業界のサーキュラーエコノミー先進戦略|資源循環を実現する国内外の取り組みと事例

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自動車業界のサーキュラーエコノミー先進戦略|資源循環を実現する国内外の取り組みと事例

自動車業界におけるサーキュラーエコノミーについて、わかりやすく解説します。自動車は日本を代表する工業製品ですが、従来の「作って売る」というビジネスモデルから「製品を回収して再生・再販する」という新たなモデルへの移行に、業界を挙げて取り組んでいます。政府もこれを支援しており、さまざまな試みが自動車業界のサーキュラーエコノミー実現に向けて行われています。本記事ではサーキュラーエコノミーの概要、自動車業界におけるサーキュラーエコノミーの取り組みや各種事例などについて取り上げます。

INDEX

サーキュラーエコノミーとは?3Rとの違いやビジネスの可能性を解説

サーキュラーエコノミーは、持続可能な社会の実現に向けた新たな経済システムとして世界的に注目されています。

資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」

サーキュラーエコノミーとは、生産段階から再利用などを視野に入れて設計し、新しい資源の使用や消費を抑えながら、製品のあらゆる段階で資源の効率的かつ循環的な利用を図り、サービスや製品に最大限の付加価値をつけていくシステムを指します。サーキュラーエコノミーによって、持続可能な社会をつくるとともに、経済的にも成長していくことが期待されます。

サーキュラーエコノミーと、従来から提唱されている「3R(リデュース、リユース、リサイクル)」との違いがわかりづらいかもしれませんが、サーキュラーエコノミーは「経済活動」であることがポイントです。サーキュラーエコノミーの循環の中には、シェアリングや再製造・再販売といった事業も含まれており、廃棄されていたものがリサイクルされ原料へと循環します。サーキュラーエコノミーは、経済活動をおこないながらも資源投入量を抑え、廃棄物を出さないことをめざすものなのです。サーキュラーエコノミーとリサイクルの詳しい違いについてはこちらから。

alt属性:サーキュラーエコノミーの概念図

出典:資源エネルギー庁「成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)どんな課題を解決するの?」(2024/11/11)

サーキュラーエコノミーはどのように実現する?日本の「成長志向型資源自律経済戦略」を解説

サーキュラーエコノミーを実現するには、以下のような取り組みが必要です。

・循環資源供給・需要の拡大や循環価値の見える化、規制やルール面での海外連携の強化など、競争環境の整備
・サーキュラーエコノミーの研究開発や設備への投資支援、DX化支援、品質指標の策定支援など、政策面での支援
・産官学の連携、ライフサイクル全体で取り組みの拡大

成長志向の資源循環社会を確立するには、市場化の促進や国際競争力の獲得が重要です。このため日本では、関連する政策措置をパッケージ化した『成長志向型の資源自律経済戦略』が2023年に策定されました。具体的には

・産官学パートナーシップの創設
・投資支援
・「廃棄物」を「資源」に転換するための制度整備

などが戦略として挙げられています。

出典:資源エネルギー庁「成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(後編)動きだす産官学パートナーシップ」(2024/11/29)

自動車業界のサーキュラーエコノミー:再生プラスチック活用とリサイクル制度の最前線

自動車業界でも、サーキュラーエコノミー実現に向けた取り組みが進行しています。

自動車向け再生プラスチック市場構築のための産官学コンソーシアム

自動車製造において再生材を活用していくためには、高品質な再生材の流通量を拡大する必要がありますが、日本では再生材市場が十分に発展していません。たとえば、日本では廃プラスチックの約6割が熱回収で処理され、国内でリサイクルされたプラスチックの約7割が輸出されているなど、再生材の活用が進んでいません。こうした状況に鑑み、環境省が中心となり経済産業省と連携して、「自動車向け再生プラスチック市場構築のための産官学コンソーシアム」が発足しました。同コンソーシアムでは、2030年までに使用済み自動車由来のプラスチック(Car to Car)について2.1万t/年を供給するアクションプランを取りまとめています。

出典:経済産業省「自動車リサイクル制度をめぐる各種取組状況」p8-9(2024/11/24)
出典:環境省「自動車向け再生プラスチック市場構築 アクションプラン【概要版】」p(2025./3)

資源回収インセンティブ制度

資源回収インセンティブ制度は、解体業者や破砕業者がSR(Automobile Shredder Residue:自動車破砕残渣)とは、自動車を解体・破砕した後に残る金属以外の残渣のことです。になる前に樹脂・ガラスを資源として回収した場合、ASR引取重量が減ると再資源化費用も減額されるため、その減額分相当のリサイクル料金額を原資として、資源回収に対する経済的インセンティブを付与する制度です。この制度によって、引取業者への使用済自動車の適切な引渡し及び不法投棄・不適正保管の発生抑制が進み、ASR の再資源化率についてもその目標を大幅に上回る状況が続いています。

alt属性:資源回収インセンティブ制度のイメージ

出典:環境省「使用済自動車に係る資源回収インセンティブ制度」
出典:経済産業省「使用済自動車に係る資源回収インセンティブ制度ガイドライン」p5(2025/3)

自動車リサイクルのカーボンニュートラルおよび3R推進

自動車業界としてサーキュラーエコノミーを実現するには、使用済自動車の解体・破砕段階で排出される温室効果ガスの削減にも目を向けなければいけません。そのため環境省では「自動車リサイクルのカーボンニュートラル及び3Rの推進・質の向上に向けた検討会」を設置し、自動車リサイクルの温室効果ガス排出実態を踏まえた削減方策や、資源回収インセンティブ制度による削減への貢献等を議論しています。2023年度には、解体・破砕工程におけるGHG排出量削減を目的とした『解体・破砕業者向けGHG排出量削減の手引き』が公表され、事業者の行動変容を促しています。

出典:経済産業省「自動車リサイクル制度をめぐる各種取組状況」p20-23(2024/11/24)

世界と日本の自動車産業はどう変わる?サーキュラーエコノミーを巡る最新動向

自動車でのサーキュラーエコノミーについては、日本政府以外でもさまざまな取り組みが行われています。

EU「自動車設計・ELV管理における持続可能性要件に関する規則案」

EUでは2023年7月13日、『自動車設計・廃車(ELV:End-of-Life Vehicle)管理における持続可能性要件に関する規則案』が発表されました。この規則案では、2030年頃までに新車生産に必要なプラスチックの25%以上を再生プラスチック(うち25%以上を廃車由来)にすることを義務付ける方針が提案されています。この規則案には他にも以下のような観点が盛り込まれています。

・設計と製造における循環性向上
・ELV 処理の改善
・ELV 回収の増加
・規則対象車両の増加

規則のこのような方向性は、従来の「作って売る」というビジネスモデルから「製品を回収して再生・再販する」という新たなモデルへの移行を促していると言えるでしょう。

出典:経済産業省「資源循環経済政策を巡る動向とそのあり方について」p10(2023/12)
出典:環境省「令和 5 年度リサイクルシステム統合強化による循環資源利用高度化促進業務」p5(2024/3/22)

自動車メーカー

各自動車メーカーでも、サーキュラーエコノミー実現に向けた各社の取り組みが見られます。

トヨタ自動車2030年までに再生樹脂の利用を3倍以上(現状比)に拡大することを目指す
日産自動車2050年に1台あたり資源使用量のうち、新規採掘資源に頼らない材料を70%にするというビジョンを掲げ、車の材料としての使用割合が高く環境影響が大きい鉄・アルミニウム・樹脂の3つの材料の水平リサイクルに取り組む
ルノー・グループ車両の70%以上にプラスチック廃材などを材料としたリサイクル素材を使用し、95%をリサイクル可能とした、循環型経済に貢献する新モデルを発表
BMW2025年から販売予定の新モデル「ノイエ・クラッセ」の内外装に、漁具からのリサイクル材を約3割使ったプラスチックを活用すると発表

このような動きは自動車産業以外でも広がっており、多くの素材メーカーやユーザー産業が再生材利用に関する目標を掲げています。

出典:経済産業省「資源循環経済政策を巡る動向とそのあり方について」p11-12(2023/12)

中部経済産業局

中部経済産業局は、中部エリアの基幹産業である自動車産業のサーキュラーエコノミー移行実現のため、水平リサイクルに向けた課題を整理し、動脈側及び静脈側それぞれの視点を踏まえ、課題の難易度を考慮したアクションプランをとりまとめ、2024年7月17日に発表しました。プランの大きな柱は以下3点です。

・再利⽤(Car to Car)を想定した「回収・選別・再利⽤」の質と効率向上を重視したものづくり(循環配慮設計)
・再利⽤(Car to Car)を想定した「回収・選別・再利⽤」の質と効率向上を実現(動静脈連携による技術・体制の構築)
・再⽣資源を活⽤して製造、品質保証する体制構築と業界の発展

中部経済産業局では今後、中部経済産業局は本アクションプランに基づき、重点検討テーマとする資源を設定し、中長期的な視点からサプライチェーン(動脈・静脈双方)全体での課題共有を図り、理想的な資源循環の実現に向けた具体的なアクションを検討していく方針です。

出典:中部経済産業局「自動車産業のサーキュラーエコノミー移行に向けたアクションプランをまとめました」(2024/7/17)
出典:中部経済産業局「発表資料 別紙」p1(2024/7/17)

まとめ:日本の経済を変える「自動車のサーキュラーエコノミー」がもたらす未来

サーキュラーエコノミーは経済活動そのものを指す概念であり、日本の基幹産業である自動車製造におけるサーキュラーエコノミーの実現は、日本の経済構造にも好影響をおよぼすでしょう。それは自動車メーカーだけではなく、自動車の解体業者や素材メーカーも巻き込んだ大きなムーブメントとなるはずです。既に政府や業界団体などが連携してさまざまな検討など行っていますが、今後取り組みの輪がさらに広がることが期待されます。環境負荷が大きくカーボンニュートラルとは対極にあると見られがちな自動車業界ですが、自動車のサーキュラーエコノミーが実現することで、持続可能な循環型社会へ向けて大きな前進が図られるでしょう。

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