CDPのSEAについてわかりやすく解説します。数多あるESG評価機関の中でも、CDPは国際的な知名度も高く、特に注目される機関です。そのCDPのSEAが、最近注目を集めています。
温室効果ガス排出量削減の取り組みが企業に求められる中、サプライヤーとの協力関係はサプライチェーン排出量削減の重要なポイントとなるためです。本記事ではCDPのSEAの概要および主な評価項目について解説し、サプライヤーエンゲージメントの事例もいくつかご紹介します。
1.CDPのSEAとは
CDPは環境に関する企業情報の開示を促していますが、その中でもサプライチェーン対策に関する取り組みが注目されています。CDPとSEAの概要を解説します。
CDPの概要
CDPはCDPは2000年に設立され、企業へ環境影響に関する情報開示を促している組織です。現在では、環境アクションに関する世界最大かつのデータセットを持ち、投資家、企業、自治体、国や地方政府がアースポジティブな意思決定を行うためにCDPの知見が活用されています。
CDPが促す情報開示の中でも最近特に注目されているのが、サプライチェーン排出量です。CDPのレポートでは、サプライチェーン排出量(Scope3)は自社の排出に比して平均26倍とされており、企業が各社単独で削減する場合との比較で大きな削減インパクトがあります。
出典:CDP「CDPについて」
出典:CDP「Strengthening the chain」p4(2024/10)
SEAとは
SEAとはサプライヤー・エンゲージメント評価(Supplier Engagement Assessment)の略です。ここでいうエンゲージメントとはサプライチェーン排出量を削減に向けた事業者と取引先との共同での取組を指し、SEAはCDPがサプライチェーンにおける気候変動問題への企業の取り組みを評価することを意味します。
SEAでCDPから最高評価を得た企業は、SEAリーダーボードに選定されます。これらの企業は、サプライヤーに働きかけて気候変動対策に取り組むことにより、カーボンニュートラル実現に向けての貢献度が高い企業とみなされます。なおSEAスコアは原則⾮公開であり、企業がAを取得しない限り、CDPのWebサイトやレポートには公開されません。
出典:環境省「バリューチェーン全体の脱炭素化に向けたエンゲージメント実践ガイド」p3(2025/3)
出典:CDP「サプライヤーエンゲージメント評価」
出典:CDP「2024 CDP Supplier Engagement Assessment Introduction」p11
2.CDP SEAの主な評価項目
CDP SEAスコアは、CDP気候変動質問書内の多岐にわたる設問への回答から算出されます。その中でも主な評価項目について解説します。
CDP SEAの評価基準
CDP SEAの評価基準は5つのカテゴリに分かれており、それぞれ以下のように重みづけがされています。
・リスク管理プロセス 15%
・ガバナンスとビジネス戦略 15%
・サプライヤーエンゲージメント 35%
・Scope3排出量 20%
・ターゲット 15%
最終的なスコアはA~Fにランク付けされます。
出典:CDP「2024 CDP Supplier Engagement Assessment Introduction」p4
ガバナンスとビジネス戦略
「環境問題の管理に対して⾦銭的なインセンティブを提供しているか」「あなたの組織の戦略には気候移⾏計画が含まれているか」などの設問が、ガバナンスとビジネス戦略に関する評価につながります。
インセンティブに関しては、気候変動目標達成やサプライヤーエンゲージメントの進捗が、役員報酬などの金銭的インセンティブに結びついているか、購買担当者や調達部門の責任者に対するインセンティブの有無などが評価ポイントとなります。
移行計画については、1.5℃の世界に向けた移⾏計画が既に公開されており、進捗状況を追跡するための明確なフィードバックメカニズムが整備されている場合、満点が付与されます。
出典:CDP「2024 CDP Supplier Engagement Assessment Introduction」p6-7
サプライヤーエンゲージメント
「貴社のバリューチェーン全体で環境問題に取り組んでいるか」「貴社では、環境問題に関してどのサプライヤーと関わるか優先順位を付けているか」などの設問が、サプライヤーエンゲージメントに関する評価につながります。この項目では言うまでもなく、企業は環境問題についてサプライヤーと連携していることを示す必要があります。
またエンゲージメントの優先順位付けについては、供給品が気候変動に関連して重⼤な影響を持つと分類する基準に沿って優先順位付けすることが推奨されます。また「サプライヤーは、貴社の事業の⼀環として環境要件を満たす必要があるか」という設問もあり、サプライヤー契約に気候関連要件が含まれていることを⽰すことで満点ポイントが付与されます。
出典:CDP「2024 CDP Supplier Engagement Assessment Introduction」p7-8
Scope3排出量
Scope3排出量に関しては、評価•報告されたScope3排出量(上流)の各カテゴリーに対してポイントが付与されます。特にカテゴリ1「購⼊した物品およびサービス」については、「関連あり、算出済み」と報告され、「報告年度の排出量」と「排出量算出⽅法」の両⽅の欄に記⼊されている場合にのみ満点を獲得できます。
またScope3排出量について、第三者による検証または保証プロセスが実施されていない場合はポイントが付与されない点にも注意が必要です。
出典:CDP「2024 CDP Supplier Engagement Assessment Introduction」p8-9
3.サプライヤーエンゲージメントの事例
各企業ではどのようなサプライヤーエンゲージメントを実施しているのか、事例をいくつかご紹介します。
「要請」と「支援」
サプライヤーエンゲージメントには「要請」と「支援」という、ふたつのアプローチがあります。要請とは、サプライヤーに対して排出量算定・報告や具体的な排出量削減目標・削減活動の賦課などを依頼することです。また実効性を担保するため、そのような依頼事項への対応可否を取引条件へと紐づけるケースも見られます。
一方で支援とは、サプライチェーン排出量の考え方の共有、現状の温室効果ガス排出量の把握、排出削減に向けたアクションの実施などについて、サプライヤーをサポートすることです。サプライヤーエンゲージメントにあたっては、この要請と支援をうまく組み合わせることが重要です。
出典:環境省「サプライヤーエンゲージメント事例集」p2-4(2025/3)
三井不動産株式会社
三井不動産株式会社は、「三井不動産グループ サステナブル調達基準」を策定し、主要サプライヤーに対し「2030年度までに2019年度比30%削減」など、具体的な排出量削減目標を賦課しています。一方でサプライヤーに対する支援として、「建設
時GHG排出量算出マニュアル」を作成、さらにサプライヤーがパラメータを入力すると排出量を算定できる「支援ツール」を作成し無償で提供しています。
出典:環境省「サプライヤーエンゲージメント事例集」p10(2025/3)
セコム株式会社
セコム株式会社は、「セコムグループお取引先CSR推進ガイドライン」「グリーン設計ガイドライン」を策定し、サプライヤーに対し環境情報の開示を要請しています。
また自社のサステナビリティに対する考え方や環境保全に対する方針について主要サプライヤー向け説明会を開催したほか、自社ビルの建替工事にあたっては建設会社と協力し、当該建設による排出量をクレジットによりカーボンオフセットしています。
出典:環境省「サプライヤーエンゲージメント事例集」p7(2025/3)
Walmart.Inc
海外の事例もひとつご紹介します。米国のWalmart.Incは、サプライヤーに対し自社とのパートナーシップ強化の一基準として「Project gigaton」への参加を奨励しています。
参加サプライヤーに対しては「2030年までに、サプライヤーからの排出量を2017年比で合計10億トン削減」という削減目標を設定し、実績報告や目標設定を要請しています。一方でサプライヤーに対する支援として、再エネ契約の斡旋や融資条件の優遇なども行っています。
出典:環境省「サプライヤーエンゲージメント事例集」p12(2025/3)
4.まとめ:CDPのSEAを通じて、サプライチェーン排出量の削減に取り組む
CDPのサプライヤーエンゲージメント評価(SEA)は、サプライチェーンでの温室効果ガス削減を加速する企業の鍵として注目を集めています。今やScope 3排出量が自社排出の26倍に達する時代になり、企業はサプライヤーとの連携を通じて脱炭素を推進しなければ、投資家の信頼や市場の評価を獲得しにくくなりました。CDPのSEAではA評価を取らない限りスコアが公表されることはありませんが、逆に環境意識の高い企業であれば積極的にA評価を狙いにいく必要があるでしょう。
CDPのSEAを通じて、サプライチェーン全体での排出量削減へ向け今すぐ行動を始めましょう。