カーボンニュートラルに向けた再生可能エネルギーの主力電源化について、わかりやすく解説します。日本ではいまだに化石燃料由来の発電が多くを占めていますが、国際的な情勢に鑑みれば再生可能エネルギーのさらなる普及推進が喫緊の重要課題です。
しかしそこには、乗り越えるべき技術的な問題やインフラ整備のハードルも存在しています。本記事では再エネ主力電源化に向けた日本のビジョン、再エネ主力電源化の課題、再エネ推進の政策的手段と戦略的解決について取り上げます。
1.再エネ主力電源化に向けた日本の動向
現在日本では、再エネの「主力電源化」が進められています。再エネ主力電源化に向けた日本の動向について解説します。
再エネ「主力電源化」の意味するところ
再エネ「主力電源化」は、2018年に閣議決定した第5次エネルギー基本計画において初めて掲げられた概念ですが、発電量において再エネが電源構成の大きな割合を占めることのみを目指すものではなく、再エネ電源が「質」においても高度に進化することが企図されています。
具体的にはFITやFIPなどの政策支援から自立して再エネ導入が進み、現在は免除されている発電計画の策定なども行い電力市場の需給に応じた供給を行うようになること、すなわち再エネ発電が一般の発電事業として成り立つことをゴールとしています。
出典:経済産業省『再エネ主力電源化アクションプラン(案)』p2(2024/11/28)
再エネ比率の目標と進捗
第6次エネルギー基本計画(2021年)では、再エネの電源構成比について2030年度に36-38%という目標が掲げられています。実際2011年には10.4%だった再エネ電源構成比は、2022年度には21.7%まで増加しています。
【再エネ電源の構成比】
電源種類 | 2011年 | 2022年 | 2030年目標 |
太陽光 | 0.4% | 9.2% | 14-16%程度 |
風力 | 0.4% | 0.9% | 5%程度 |
水力 | 7.8% | 7.6% | 11%程度 |
地熱 | 0.2% | 0.3% | 1%程度 |
バイオマス | 1.5% | 3.7% | 5%程度 |
合計 | 10.4% | 21.7% | 36-38%程度 |
ここまでの再エネ拡大を牽引してきたのは太陽光発電で、FIT制度開始後に運転開始した設備の約88%、FIT/FIP認定容量の約75%を太陽光発電が占めています(2023年12月末時点)。
出典:資源エネルギー庁『今後の再生可能エネルギー政策について』p2,4(2024/5/29)
2.再エネ主力電源化の課題
今後日本における再エネの更なる普及が期待されますが、そこにはさまざまなハードルがあります。再エネ主力電源化の課題について解説します。
安定供給の難しさ
再エネ発電の弱点のひとつとして、「発電持続機能」が挙げられます。落雷などのトラブルによって電気の周波数や電圧に変化があった際、変化に対応しながら発電を持続し発電量を機動的に調整する能力が、太陽光や風力による発電では相対的に弱くなっています。
それらの発電方法で作られる電気は直流であるため、交流に変換する電子機器を介して送電しますが、この電子機器は電気の急激な変化に弱いため、発電設備に事故が生じた際は発電を一度止めて機器を保護する必要があります。
このため、太陽光発電や風力発電を大量に導入すると、送電線で起きたトラブルの影響で連鎖的に送電が止まるなどのリスクが高まります。
出典:資源エネルギー庁『再エネと安定供給~求められる「発電を続ける力」再エネと安定供給』(2019/8/27)
系統制約の問題
再エネ発電の導入においてしばしば問題となるのが、電気の需給バランスが崩れ、供給に影響の出る「系統制約」です。現在の日本の電力系統の容量は再エネのポテンシャルに対応できているとは言えません。今後再エネの導入を増やしていくにあたっては、系統の増強や接続・利用のありかたの抜本的な見直しで、十分な送電容量を確保することが極めて重要です。
全国レベルの広域で連携する系統の構築には、最大4.8兆円程度の設備投資が必要との試算もあり、実際の運用にいたるまでにはさらに長期間を要します。
出典:資源エネルギー庁『もっと知りたい!エネルギー基本計画⑤』(2022/4/28)
地域社会との調和
再エネ施設の建設などにあたって、「景観を乱すパネルの設置」「柵塀の設置されない設備」「放置されたパネル」などによる地域とのトラブルが増加しています。資源エネルギー庁ホームページの相談フォームには、適正な事業実施への懸念、地元理解への懸念、事業による安全確保への懸念など2016年10月から2021年7月の間に738件の相談が寄せられています。
再エネ施設の建設・設置にあたっては、地域と共生した自業規律の確保が求められており、再エネ事業者による住民との適切なコミュニケーションはもちろん、保安規制の強化などの対策も重要です。
出典:資源エネルギー庁『地域に根差した再エネ導入』p1-3(2021/10)
3.政策的手段と戦略的解決策
再エネの普及拡大には、官民それぞれの投資や開発が欠かせません。再エネ導入にあたっての政策や戦略について解説します。
FITからFIPへ
2012年にスタートしたFITは、導入初期段階における再エネの普及拡大を後押ししました。一方で国民負担の増大や、太陽光発電への偏重と大量の未稼働案件という課題も顕在化しています。FIP制度は事業者の収入が電力市場価格に連動することなどを通じ、電力市場の需給バランスに応じた電力供給が促され、再エネ主力電源化のドライバーとなることが期待されます。
政府もFIP電源への移行を促進するため、蓄電池などを活用した供給シフトを含む環境整備や、発電量予測システムに基づいて市場価格を予測し市場価格の低い時間帯に蓄電池に充電ができるよう発電計画を策定するアグリゲーション・ビジネスの活性化などで、FIP移行の促進を図る考えです。
出典:資源エネルギー庁『FIT制度の抜本見直しと再生可能エネルギーの再構築』p2(2019/4/22)
出典:資源エネルギー庁『FIP制度に関する政策的措置について』p2,20(2024/9/30)
電力網の近代化
変動制再エネ(VRE)を大量に導入するには、電力ネットワークの次世代化が必要です。そのため地域間連系線整備が進められています。特に再エネポテンシャルの大きい北海道や九州と他のエリアの接続増強は、電力ネットワークのレジリエンス強化に大きく寄与するでしょう。
また日本版コネクト&マネージも順次運用が開始されています。これは送電線の空き容量をより柔軟に評価したり、一定の出力抑制を条件に系統接続を認める「ノンファーム型接続」を導入したりすることで、系統増強を待たずに再エネ接続を促進するものです。
出典:資源エネルギー庁『今後の再生可能エネルギー政策について』p16,22(2024/5/29)
VPP・DRなど
再エネの普及とともに、従来型の大規模発電所に依存したエネルギー供給システムではなく、需要家側のリソースを電力システムに活用する仕組みの構築が進められています。
それが、IoTを活用した高度なエネルギーマネジメント技術により、家庭や工場の自家発電や蓄電池を束ね(アグリゲーション)、遠隔・統合制御することで、あたかも一つの発電所のように機能させるVPP(Virtual Power Plant)です。VPPによって、再生可能エネルギーの供給過剰の吸収、電力不足時の供給などが期待できます。
またこれに関連し、DR(Demand Response)という技術も重要です。DRとは需要家側でエネルギーリソースを制御することで、電力需要パターンを変化させることです。DRには再生可能エネルギーの過剰出力分を需要機器の稼働により消費したり蓄電池を充電することにより吸収したりする「上げDR」、電気のピーク需要のタイミングで需要機器の出力を落とし需要と供給のバランスを取る「下げDR」があります。
電気は「貯蔵できない」という性質を持つため、常に需要と供給をバランスさせる必要があり、そのために分散型エネルギーリソースを用いたVPP・DRを活用することが期待されています。
alt属性:VPPのイメージ
出典:資源エネルギー庁『VPP・DRとは』(2023/8/16)
4.まとめ:持続可能な電力供給へ向け、戦略的な意思決定を
再エネの主力電源化に向けて、日本でもさまざまな政策や取り組みが進められています。電源構成に占める再エネの割合も、年々上昇してきました。しかしながら、政府が掲げる「2030年再エネ割合36-38%程度」達成には、なお多くの課題が残っていると言えるでしょう。
しかし資源のない日本において再エネ事業は、大きなビジネスチャンスを秘めていることもまた事実です。政府や電力事業者による電源系統の強化、FIP移行、アグリゲ―ション技術の進歩など、再エネ発電を巡る環境は、今後ますます整っていくでしょう。
持続可能な電力供給へ向け、より戦略的な意思決定を目指しましょう。