航空機のサメ肌加工について、わかりやすく解説します。航空業界においてもCO2排出量の削減は、喫緊の課題となっています。そのためさまざまな取り組みが進められていますが、機体のサメ肌加工もそのひとつであると知れば、誰でも驚くでしょう。正式にはリブレット加工というその施工法は、魚類のサメにヒントを得た画期的な技術です。本記事では航空分野におけるCO2排出の現状、CO2排出量削減につながる航空機のサメ肌加工の詳細と具体的な事例について取り上げます。
航空分野におけるCO2の現状
航空業界でも、CO2排出量の削減は大きな課題となっています。航空分野におけるCO2の現状について解説します。
航空業界における脱炭素化の課題
カーボンニュートラルの実現に向けて、航空業界においても脱炭素化について取り組むべきさまざまな課題が存在します。主なものは以下の通りです。
・SAF(再生可能燃料や廃棄物を原料とした燃料)の導入
・管制の高度化等による運航の改善
・航空機環境新技術の導入
・空港施設・空港車両の省エネ化
・空港の再エネ拠点化
このような課題は航空運送事業者のみならず、燃料製造・供給事業者や新技術開発事業者の協力なしでは克服できません。
出典:国土交通省「航空分野に係る脱炭素化に向けた 最近の状況について」p4(2023/3/15)
国内航空分野におけるCO2排出量
2022年度における日本のCO2排出量のうち、運輸部門からの排出量は18.5%を占めています。その18.5%の中で最も構成比が高いのは自動車(15.9%)で、航空は自動車に次ぐ5.1%を占めています。輸送量あたりのCO2排出量を算出すると、航空機は101g-CO2/人kmとなり、自家用自動車の128g-CO2/人kmに次ぐ値で、バス(71g-CO2/人km)や鉄道(20g-CO2/人km)など他の公共交通機関と比較すると、輸送量あたりの排出量が多いことがわかります。
alt属性:輸送量当たりのCO2排出量
出典:国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」(2024/4/26)
国内航空分野のCO2削減に向けた取り組み
こうした現状を受け、航空業界でもCO2削減の取り組みが進められています。国土交通省が2021年に設置した「航空機運航分野におけるCO2 削減に関する検討会」では、以下の3分野で具体的な対策を検討しています。
機材・装備品等への新技術導入 | 燃費向上に資する要素技術への我が国の強みを発揮、基準化等を通じた導入促進策 |
管制の高度化による運航方式の改善 | 経路短縮など消費燃料削減に資する新たな運航方式の導入促進策、新技術の活用 |
持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進 | 継続性を持ちつつ実用化を可能とすること |
このような取り組みを通じて、日本の航空関連事業者の国際競争力強化も期待されています。
出典:国土交通省「航空機運航分野におけるCO2削減に関する検討会」
航空業界でも、CO2排出量の削減は大きな課題となっています。航空分野におけるCO2の現状について解説します。
航空業界における脱炭素化の課題
カーボンニュートラルの実現に向けて、航空業界においても脱炭素化について取り組むべきさまざまな課題が存在します。主なものは以下の通りです。
・SAF(再生可能燃料や廃棄物を原料とした燃料)の導入
・管制の高度化等による運航の改善
・航空機環境新技術の導入
・空港施設・空港車両の省エネ化
・空港の再エネ拠点化
このような課題は航空運送事業者のみならず、燃料製造・供給事業者や新技術開発事業者の協力なしでは克服できません。
出典:国土交通省「航空分野に係る脱炭素化に向けた 最近の状況について」p4(2023/3/15)
国内航空分野におけるCO2排出量
2022年度における日本のCO2排出量のうち、運輸部門からの排出量は18.5%を占めています。その18.5%の中で最も構成比が高いのは自動車(15.9%)で、航空は自動車に次ぐ5.1%を占めています。輸送量あたりのCO2排出量を算出すると、航空機は101g-CO2/人kmとなり、自家用自動車の128g-CO2/人kmに次ぐ値で、バス(71g-CO2/人km)や鉄道(20g-CO2/人km)など他の公共交通機関と比較すると、輸送量あたりの排出量が多いことがわかります。
alt属性:輸送量当たりのCO2排出量
出典:国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」(2024/4/26)
国内航空分野のCO2削減に向けた取り組み
こうした現状を受け、航空業界でもCO2削減の取り組みが進められています。国土交通省が2021年に設置した「航空機運航分野におけるCO2 削減に関する検討会」では、以下の3分野で具体的な対策を検討しています。
機材・装備品等への新技術導入 | 燃費向上に資する要素技術への我が国の強みを発揮、基準化等を通じた導入促進策 |
管制の高度化による運航方式の改善 | 経路短縮など消費燃料削減に資する新たな運航方式の導入促進策、新技術の活用 |
持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進 | 継続性を持ちつつ実用化を可能とすること |
このような取り組みを通じて、日本の航空関連事業者の国際競争力強化も期待されています。
出典:国土交通省「航空機運航分野におけるCO2削減に関する検討会」
航空機のサメ肌加工とは
CO2排出量削減策のひとつとして注目されているのが、航空機のサメ肌加工です。ここでは、その概要と取り組みの現状について解説します。
リブレット加工の概要
サメ肌加工は、正式にはリブレット加工と呼ばれます。サメの皮膚はざらざらしていますが、サメはこの皮膚によって水の抵抗を抑え、最小限のエネルギー消費で泳ぐことができます。これを応用し、サメ肌を模した「リブレットフィルム」を機体に装着することで空気抵抗を減らし、燃費の改善とCO2排出量削減を図るという試みが航空業界で展開されています。「リブレットフィルム」を機体の表面の80%に装着した場合燃費が約2%改善し、たとえば全日本航空社の場合全機材で実施すると、約12.4万キロリットル・25mプールにして約260杯に相当するジェット燃料が節減でき、年間約30万トンのCO2削減につながると試算されています。
出典:国土交通省「第2回羽田発着枠配分基準検討小委員会 資料5」p28(2024/4/16)
JAXAによるリブレット実用化技術の研究
宇宙技術や航空技術のR&Dを手がける研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下「JAXA」)では、リブレット実用化技術の研究開発も行っています。JAXAのリブレットは先述の「リブレットフィルム」ではなく、航空機用の塗料を直接リブレット形状に成形し耐久性を高めている点が特徴です。このリブレットを旅客機で実用化するためには、以下のような課題があります。
・リブレットの摩耗による形状変化に関する飛行テストの必要性
・30~60mという巨大な旅客機をリブレット加工する技術
・より大きい表面摩擦抵抗低減性能を持つリブレットの創出
JAXAは各企業と連携しながら、こうしたハードルに挑んでいます。
出典:国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構「JAXAとは」
出典:国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構「リブレット実用化技術の研究開発」
サメ肌加工の課題と展望
先述のとおり、リブレット加工の実用化にはさまざまな課題があります。特に施工性は大きなハードルです。稼働率の高いエアラインでは、運航を長期間停止することが難しいため、通常の整備時間内に航空機全体へリブレット加工をスピーディに施す必要があります。この点につきJAXAでは「転写シート成形法」「レーザー加工法」という2パターンの解決方法を研究しています。
またリブレット加工の耐久性も。リブレット加工実用化における課題です。この点についてJAXAでは、運航中の機体に7.5×7.5cm 程度の小面積のリブレットを施工し、1日6回程度の飛行サイクル、通常運航用の定期的な機体洗浄・整備・点検などを行って、リブレットの空力性能が維持されているかテストしています。
JAXAでは「リブレット実用化まであと少しのところまで来られた」と表明しており、リブレット実用化によって航空機のCO2排出量が削減され、地球温暖化防止につながることを期待しています。
出典:国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構「JAXA独自のリブレットで、環境にやさしい航空機の実現をめざす」
航空機のサメ肌加工実装事例
現在研究開発段階の航空機サメ肌加工ですが、実証実験も着実に進められています。リブレット技術の実装事例をご紹介します。
JAXA・JALの共同研究『Refresh』とは? 全国を飛行中のリブレット適用機
JAXAは、日本航空株式会社(以下、JAL)とオーウエル株式会社(以下、O-Well)との共同研究にて、リブレット加工の旅客機への適用を進めています。2024年10月24日から実際に機体の一部へリブレットを施工したJAL旅客機(ボーイング737-800型機:JA331J)が日本全国の空を飛行しています。当該航空機には本研究開発を表す「Refresh」(RiblEt Flight RESearcH for carbon neutral) マークが取り付けられており、空港などで確認することができます。
alt属性:Refleshマーク
出典:国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構「CO2排出量削減のためのリブレット研究開発“Refresh”が空を飛んでいます」(2024/12/6)
大面積リブレット形状塗膜
Refleshでは機体のリブレット加工は機体の下部3カ所でしたが、O-Wellが機体大型化に対応できるリブレット塗膜施工システムを開発したことによって、国際線機材の胴体上部まで施工面積を拡大することになりました。この新技術は、主に2つの特長を備えています。ひとつは熱制御システムで、塗膜の圧着工程でシート状態の最適化と連続供給を可能としています。もうひとつは半自動塗工システムで、繰り返し精度の高い塗工と半自動化による工数削減を実現しています。
出典:国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構「大面積リブレット形状塗膜を施した機材を世界で初めて国際線に導入」(2025/1/10)
サメ肌加工を施した国際線航空機が世界初就航
2025年1月には機体胴体の大部分にリブレット形状の塗膜を施したボーイング787-9型機(JA868J)が、世界で初めて国際線に就航しました。O-Wellのリブレット塗膜施工システム開発に加え、JAXAによる風洞試験や数値解析により国際線機材の 抵抗低減効果が確認されたことも、本検証につながりました。リブレット加工した機体が国際線という長距離の飛行に投入されることにより、さらなる燃費改善効果が期待できます。今回は胴体の約30%にリブレットが施工され、約0.24%の抵抗低減率が見込まれます。これは年間約119トンの燃料消費量と約381トンのCO2排出量の削減となり、杉の木約27,000本の年間CO2吸収量に相当します。
出典:国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構「リブレットを施工した国際線航空機が世界で初めて就航しました」(2024/1/30)
まとめ:航空機のサメ肌加工(リブレット加工)で、航空部門における脱炭素を推進
航空機の「サメ肌加工」、正式にはリブレット施工は、燃費削減を目指した技術です。航空機は運航に大量の燃料を必要とするため、どうしても輸送量あたりのCO2排出量が多くなってしまいます。機体表面にリブレット加工を施すことによって空気抵抗が減少し、燃料消費の抑制が可能となります。これにより、CO2排出量の削減が期待されており、今後の実用化に向けた進展が注目されています。
現在、リブレット加工の実証実験は順調に進展しており、全ての航空機に導入される日が来るのも、決して夢ではないでしょう。
航空機のサメ肌加工(リブレット加工)で、航空部門における脱炭素が推進されることを期待しましょう。