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鉄道業界のカーボンニュートラル戦略|主な取り組みと課題を解説

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鉄道業界のカーボンニュートラル戦略|主な取り組みと課題を解説

鉄道業界は、カーボンニュートラルの実現に向けて重要な役割を担っており、エネルギー効率の高さやCO2排出量の少なさを活かしながら、さらなる環境負荷の低減を目指しています。ここでは、鉄道業界の現状とカーボンニュートラル達成に向けた主な取り組みを解説するとともに、直面する課題についても紹介し、企業が鉄道を積極的に活用することで環境への配慮を進める重要性について考えます。さらに、最新技術の導入や政策の動向にも触れながら、持続可能な鉄道輸送の未来を探ります。

INDEX

鉄道業界とカーボンニュートラルの関係

(1)鉄道業界がカーボンニュートラルを目指す理由

鉄道業界がカーボンニュートラルを目指す理由は、環境に優しく、持続可能な未来を築くためです。鉄道は、大量輸送に適しているだけでなく、エネルギー効率が高く、CO₂排出量が格段に少ない交通手段です。例えば、2019年度のデータでは、旅客輸送のCO₂排出量が鉄道は17 g-CO₂/人キロに対し、自家用車は130 g-CO₂/人キロであり、鉄道の環境負荷がどれほど低いかがわかります。つまり、鉄道を活用すれば、社会全体のCO₂排出量を大きく抑えることが可能なのです。そして、日本の運輸部門のCO₂排出量は約2億トンですが、その割合はG7の中で最も低い水準を誇ります。これには、鉄道が人々の移動を支えているという事実が大きく関係しています。そのため、鉄道業界がカーボンニュートラルを目指すことで、さらに環境負荷を減らし、より持続可能な社会を実現できると言えます。

出典:国土交通省「鉄道分野のカーボンニュートラルが目指すべき姿「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会」(2023/05)P3,P4

(2)政府および運輸業界の動向

日本政府は2050年までのカーボンニュートラル実現に向け、運輸分野での排出削減を進めています。2030年度までに2013年度比で35%削減を目標としていますが、コロナ禍で鉄道利用が減少し、自家用車への移行が進んだことが課題となっています。この影響で鉄道のCO₂排出量も増加傾向にあり、環境負荷の低さが十分に活かされていません。持続可能な未来に向け、鉄道利用の回復とさらなる拡大が重要であり、社会全体で環境に優しい移動手段を選ぶことが求められます。

出典:国土交通省「鉄道分野のカーボンニュートラルが目指すべき姿「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会」(2023/05)P1,P5

カーボンニュートラルにおける鉄道業界の現状

鉄道業界のカーボンニュートラルへの取り組みは着実に進んでいます。国内の鉄道は、エネルギー効率の良さや大量輸送に適していることから、環境面で大きなメリットを持っています。

(1)国内鉄道の特徴

日本の鉄道は、単なる移動手段にとどまらず、環境面でも大きな価値を持つ存在です。鉄道による旅客輸送は、CO₂排出量がわずか17g-CO₂/人キロと、他の交通機関と比べて圧倒的に少なく、持続可能な社会の実現に貢献しています。この強みをさらに発展させるため、鉄道業界はカーボンニュートラルを目指し、戦略的な取り組みを進めています。こうした動きは、車両や機器を支える関連産業の活性化や、人々の環境意識の向上にもつながり、社会全体へ大きな影響をもたらします。鉄道が持つ環境優位性をさらに磨くことで、世界に誇れる持続可能な鉄道システムを構築し、日本の強みを一層伸ばしていくことが重要です。

出典:国土交通省「鉄道分野のカーボンニュートラルが目指すべき姿「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会」(2023/05)P4~P7

(2)環境面での優位性

CO₂排出量削減のためには、環境負荷の少ない鉄道の利用を増やすことが重要です。特に、大量輸送において鉄道は優れた環境性能を発揮し、自家用車利用を減らすことで、運輸部門全体のCO₂排出量を大幅に削減できます。特に、サプライチェーン全体での間接排出(Scope3)を減らすことが事業活動の重要な課題となっており、国全体の排出量削減にも貢献できます。

出典:国土交通省「鉄道分野のカーボンニュートラルが目指すべき姿「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会」(2023/05)P4~P7

カーボンニュートラルに向けた国内およびEUの鉄道

業界の施策と取り組み

鉄道は他の交通手段と比べて温室効果ガス排出量が低く、持続可能な移動手段として注目されています。ここでは、国内およびEUにおける鉄道業界の具体的な施策と取り組みを紹介し、カーボンニュートラル実現に向けた課題と可能性をご紹介します。

(1)国内の取り組み

■方向性と施策

鉄道業界のCO₂排出量の約4分の3は列車の運行が占めており、これを減らすことが最も効果的です。特に、電車のエネルギー効率の向上や、気動車の電動化・非化石燃料化が重要視されています。世界的にも、カーボンニュートラルを目指す動きが加速しており、鉄道の役割はますます大きくなっています。こうした取り組みの進展は、政府の方針や技術開発の進み具合、新しいエネルギーの供給体制の整備によって左右されるため、安全性や事業性を確保しながら、持続可能な形で推進していくことが求められます。

出典:国土交通省「鉄道分野のカーボンニュートラルが目指すべき姿「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会」(2023/05)P8,P20

■列車運行に係る取り組み

電車は環境に優しい移動手段ですが、旧式の制御システムや古い半導体装置を使った車両がまだ約1万両残っており、エネルギー効率の面で課題があります。しかし、これらを最新型車両に置き換えれば、消費電力量を50〜75%削減でき、CO₂排出量の大幅な減少につながります。ただ、すべての車両を新しくするのはコストがかかるため、比較的新しい車両については最新の制御装置にアップグレードすることで効率を向上させる方法も有効です。この方法は、車両全体を入れ替えるより負担が少なく、それでもCO₂排出量を抑えることができます。さらに、技術の進化によって、より省エネルギーな車両の開発・導入が期待されており、鉄道業界全体が持続可能な未来へと向かっています。まずは最新型車両の導入を加速しつつ、改修による効率アップも並行して進めていくことが求められます。

出典:国土交通省「鉄道分野のカーボンニュートラルが目指すべき姿「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会」(2023/05)P.9,P10

■技術面に関する取り組み

都市部など列車の本数が多い路線では、減速時にモーターを発電機として使うことで生まれる「回生電力」を効率的に活用できます。この電力は他の車両の加速時に使えるほか、蓄電池を導入することで貯蔵し、駅の電力供給や災害時の列車運行の支援にも役立てることが可能です。また、蓄電池車両やディーゼルハイブリッド車両など、電力を動力源とする新型車両の導入によって、非電化区間でも実質的に電化が進み、CO₂排出量の削減につながります。さらに、バイオ燃料やCO₂と水素を合成して作られる合成燃料といった非化石燃料はカーボンニュートラルの観点から有望であり、鉄道業界でも積極的な導入が求められています。こうした取り組みを進めることで、鉄道の環境負荷をさらに軽減できます。

出典:国土交通省「鉄道分野のカーボンニュートラルが目指すべき姿「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会」(2023/05)P11,P.12

(2)EUの取り組み

欧州グリーン・ディールは、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指しており、その中でも交通輸送の分野は特に重要視されています。これは、EU全体の排出量の約4分の1を占める交通輸送の負荷を減らし、より環境に優しい鉄道輸送へとシフトすることが鍵となっています。そこで策定された「持続可能なスマートモビリティー戦略」によって、高速鉄道や貨物輸送の拡大、EU排出権取引制度(EU-ETS)の交通分野への導入、欧州全域の交通ネットワーク(TEN-T)の整備、短距離旅客輸送の脱炭素化といった目標が掲げられました。これらの施策を通じて、EUは2050年までに温室効果ガス排出量を1990年比で90%削減し、持続可能な未来へと進んでいくことを目指しています。

出典:JETRO日本貿易振興機構(ジェトロ)「欧州グリーン・ディールとEUの鉄道政策、その現状と課題は(EU)」(2021/05/17)

鉄道業界のカーボンニュートラル達成に向けた課題

鉄道業界がカーボンニュートラルを達成するためには、電力調達の見直しが欠かせず、現在の火力発電依存から再生可能エネルギーへの移行が求められます。

電力調達の在り方

・太陽光発電導入拡大の課題

鉄道業界のCO2排出量の大半が電力由来であり、その多くが火力発電によるもののため、抜本的な排出削減には電力調達の見直しが欠かせません。特に、再生可能エネルギーの導入にあたっては、安全で安定した輸送を維持することが重要であり、現在は駅舎の屋根上への設置が主流ですが、構造上の補強が必要な場合も多く、改修のタイミングに合わせて導入が進められています。今後は、軽量かつ柔軟な次世代型太陽電池の実用化によるさらなる導入拡大が期待される一方で、解決すべき課題も残されています。加えて、鉄道の電化区間では架線や電力設備のスリム化を見据え、ディーゼル燃料の代替手段も検討されており、鉄道資産を活用した再生可能エネルギー発電の潜在能力は約0.5GWと推計されるものの、現状は約0.03GWにとどまっています。オフサイトPPAの活用や関連事業での再エネ開発を含め、今後さらなる導入拡大が求められるでしょう。

出典:国土交通省「国土交通省説明資料」(2024/08/07)P3

出典:国土交通省「鉄道分野のカーボンニュートラル加速化検討会」(2022/03/04)P10

まとめ:企業は鉄道利用を推進し、バイオディーゼル燃料などで環境への配慮を図ろう

鉄道は、環境負荷が低く、持続可能な移動手段として注目されています。そして、企業が鉄道利用を推進することは、CO₂排出の削減だけでなく、社会全体の脱炭素化に貢献する重要なステップです。現在、鉄道業界では電力調達の見直しや再生可能エネルギーの導入が加速しており、2030年度までに2013年度比で35%のCO₂排出削減を目指しています。また、バイオ燃料や合成燃料の活用による低炭素化も進行中です。さらに、持続可能な未来を創るためには、鉄道を活用した物流や出張の最適化、再生可能エネルギーの積極導入など、より環境配慮型の取り組みが求められています。企業が鉄道を積極的に活用することで、環境負荷の少ない社会への前進につながります。持続可能な未来のために、環境への責任を果たせる企業経営を目指しましょう。

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