パリ協定に基づくNDCについて、わかりやすく解説します。パリ協定では各国がCO2削減目標を掲げることになっていますが、その具体的な形がNDCです。各国が意欲的なNDCを策定し、その内容を実現することが、地球温暖化対策には欠かせません。もちろん日本も例外ではなく、2050年ネット・ゼロと整合的で野心的なNDCを決定しており、その達成に向けて努力しなければなりません。本記事ではNDCの概要、日本のNDC、世界各国のNDC例について取り上げます。
パリ協定に基づくNDCの概要
NDCは、パリ協定で定められた枠組みのひとつです。パリ協定に基づくNDCの概要について解説します。
NDCとは
NDCはNationally Determined Contributionの略で、「国が決定する貢献」という意味です。2015年にCOP21で採択されたパリ協定では、全ての締約国に対し温室効果ガスの排出削減目標をNDCとして5年毎に提出・更新することが、パリ協定第4条2項によって義務づけられています。
COP29とは
アスエネはCOP29に執行役員CPO渡瀬がGreen x Digital コンソーシアム視察団として参加いたしました。さらに、ジャパン・パビリオンセミナーでは「ASEAN気候関連情報開示-中小企業の透明性促進の今と将来」をテーマに登壇いたしました。COPを通じて気候変動・脱炭素領域の多様な価値観に触れ、事業発展の基盤を獲得いたしました。自社の「ASUENE」「ASUENE ESG」等のサービスを通じて、脱炭素経営に取り組む企業の声を世界に届け、グローバルなカーボンニュートラル推進を支援いたしました。

NDCの主な要素
NDCに決まったフォーマットはありませんが、盛り込まれる要素はおおむね共通しています。NDCには各国の排出量削減と気候変動の影響への適応に関する目標、政策、措置に関する情報が含まれます。またその実現のために必要な資金、技術、能力構築などについても触れられています。
出典:UN Climate Change「2024 NDC Synthesis Report」
NDC達成状況を管理するETF
ETFとはenhanced transparency frameworkの略で、「強化された透明性枠組み」という意味です。各締約国がNDCの進捗を報告し国際的な審査を受けることで、透明性を確保するとともに、パリ協定の第 14 条に記載された、GST(Grobal Stocktake:世界全体の進捗状況の定期的な確認)のための情報を提供する枠組みとなっています。ETFの下で、全てのパリ協定締約国は2年おきにBTR(biennial transparency report::隔年透明性報告書)を提出する必要があります。初回のBTRの提出期限は2024年末でした。
出典:農林水産省「令和3年度森林吸収源インベントリ情報整備事業(パリ協定下の森林吸収量算定にかかる技術的課題の分析・検討)」p27-28(2022/3)
出典:資源エネルギー庁「気候変動対策、どこまで進んでる?初の評価を実施した『COP28』の結果は」(2023/12/28)
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NDCの今後
2025年1月米国では、気候変動対策に消極的なトランプ政権が復活しました。過去に多くのGHGを排出してきた先進国には世界平均より高い削減が求められますが、今後の米国にはそれを期待できません、EUや日本などの先進各国は、より意欲的なNDCを掲げ、脱炭素化へのエネルギー転換を加速するエネルギー基本計画を定める必要があります。
出典:公営財団法人日本エネルギー財団「先進国としての日本の役割をしっかり果たせる次期NDCを」(2024/11/28)
日本のNDC
日本もパリ協定の締約国として、NDCを掲げています。日本のNDCについて解説します。
2030NDC
日本は2021年10月にNDCを決定し、国連気候変動枠組条約事務局へ提出しました。具体的な目標は「2050 年カーボンニュートラルと整合的で、野心的な目標として、我が国は、2030 年度において、温室効果ガスを 2013 年度から 46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向け、挑戦を続けていく」となっています。エネルギー・工業プロセス・農業・土地利用など全ての分野を対象とし、2021年4月1日~2031年3月31日を目標達成までの期間と定めています。
出典:環境省「日本のNDC(国が決定する貢献)」p1-3(2021/10/22)
2035/2040NDC
日本はさらに2025年2月に、新たなNDCを国連気候変動枠組条約事務局へ提出しました。この中では「世界全体での 1.5℃目標と整合的で、2050 年ネット・ゼロの実現に向けた直線的な経路にある野心的な目標として、我が国は、2035 年度、2040 年度において、温室効果ガスを 2013年度からそれぞれ 60%、73%削減することを目指す」という目標が設定されています。
出典:環境省「日本のNDC(国が決定する貢献)」p1-3(2025/2/18)
パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略
パリ協定ではNDCとは別に、長期的な温室効果ガスの低排出型の発展のための戦略を作成し、通報するよう努力すべきとされています。日本ではNDC2030と同時に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を閣議決定し、国連気候変動枠組条約事務局へ提出しました。この中では、以下の項目が「カーボンニュートラルに向けた視点」として掲げられています。
・利用可能な最良の科学に基づく政策運営
・経済と環境の好循環の実現
・労働力の公正な移行
・需要サイドの変革
・各分野・主体における迅速な取組
・世界への貢献
このように、ビジネス主導の経済と環境の好循環を実現し、世界の脱炭素化を牽引する決意が示された内容となっています。
出典:外務省「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」p3,6-9(2021/10/22)
世界各国のNDC例
国連の運営するインターネットサイト「NDCレジストリ」では、各国のNDCが公開されています。
米国
米国は2024年12月に2035NDCを提出しています。その中では「米国は、2035 年までに温室効果ガスの純排出量を 2005 年レベルより 61 〜 66 パーセント削減するという経済全体の⽬標を表明します。2035 年の目標は、2050 年までにすべての温室効果ガスの純排出量をゼロにするという直線またはより急な軌道に乗っています」と述べられています。ただしこれはバイデン大統領の時に発表されたものなので、トランプ政権によってどのように扱われるのか気になるところです。
出典:UN Climate Change「THE UNITED STATES OF AMERICA NATIONALLY DETERMINED CONTRIBUTION」p2-3
欧州連合
欧州連合は各国のNDCとは別に、欧州連合としてのNDCを出していて、最新版は2023年10月のものです。欧州連合では「2030年までに経済全体の温室効果ガス排出量を1990年比で少なくとも55%削減する」という目標を掲げており、これを裏付ける法的枠組みとして「Fit for 55」を採択したことをNDCの中で述べ、その概要にも触れています。また「ロシアの化石燃料から欧州を独立させる」とも記載されています。
中国
中国も2023年10月にNDCを提出しています。中国の目標は温室効果ガスの排出量を「2030年までにピークアウトし、2060年までにカーボンニュートラルの達成を目指す」というものです。パリ協定の目標と比較すると一歩遅れている印象もありますが、その理由として「14億人の人口を抱える発展途上国である」「石炭は豊富だが、石油は乏しく、ガスはほとんどない」と自ら触れています。しかしNDCの後半では、非化石エネルギーの構成比が増加していることや、世界最大の新規緑地⾯積を達成し世界へ貢献しているといった前向きな内容も多く見られます。
出典:UN Climate Change「中国落实国家自主贡献成效和新目标新举措」p,97(2022/8)
インド
インドは2022年8月にNDCを更新しています。インドは目標として「2030年までにGDPの排出原単位を45%削減」「電力の50%を2030年までに非化石燃料ベースに」「2030年までに25億〜30億トンのCO2の追加吸収源を創出」などを掲げています。国際金融からの支援などに触れている箇所もありますが、全体的に具体的なデータや政策についての言及はあまり見られない内容です。
まとめ:パリ協定に基づくNDCを達成し、地球温暖化に歯止めをかける
パリ協定に基づくNDCは、温室効果ガス削減に向けた各国の貢献目標を全世界に示すもので、多くの国が国連へ提出しています。ただしその内容や濃淡は国によってさまざまで、単純に足し合わせればバリ協定の目標に対する進捗が計算できるというものでもありません。ETFなどNDCの達成状況を管理する枠組みもありますが、アメリカのパリ協定離脱など不安定要素もあり、今後も各国のNDCに注目していく必要があるでしょう。
パリ協定に基づくNDCを各国が達成し、地球温暖化に歯止めをかけることが期待されます。