温室効果ガスの主たるものである二酸化炭素、それを資源として有効活用する取り組みが「カーボンリサイクル」です。世界的にみても日本は、カーボンリサイクルの先進的な技術を持っています。今後、カーボンニュートラルにかかるコスト削減を進めていけば、世界に誇る技術としてグローバルな展開が実現できる可能性もあります。
今回は、日本におけるカーボンニュートラル技術として特に注目されている、CCSとCCUSについて詳しく解説します。
CCSとはどんな技術なのか
二酸化炭素は、地球温暖化の原因の一つです。産業活動で排出されたCO2が地球温暖化を促進した結果、気候変動などを引き起こし、地球環境を破壊する状況となりつつあります。
そのため、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの削減は、世界規模の重要な課題です。
温室効果ガスの削減につながる技術の中でも、排出した二酸化炭素を地中に埋蔵するCCSは、地球温暖化を抑制する技術として注目されています。
産業活動で排出された二酸化炭素を地中に貯蔵する「CCS」
CCSは、「二酸化炭素回収・貯留」技術と呼ばれ、発電所や化学工場などから排出された二酸化炭素を分離して集め、地中深くに貯留・圧入する方法です。
空中に二酸化炭素を排出しないことから、地球温暖化にブレーキをかけることはもちろん、二酸化炭素を圧縮注入して資源を効率的に発掘する技術としての活用も期待されています。
また、貯留する地層は泥炭層など気体が排出されにくい地質を選んで行うことで、地球環境への悪影響も抑制できることも期待されています。

出典:資源エネルギー庁『知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~二酸化炭素を集めて埋めて役立てる「CCUS」』(2017年11月)
貯蔵した二酸化炭素を利活用する「CCUS」
もう1つの技術であるCCUSは、CCSで貯留した二酸化炭素を再利用して、産業活動に活用しようとする技術の1つです。
例えば、地層に染み渡る形で埋蔵されている原油層に、二酸化炭素を注入することで原油の採掘量を増やしたり、産油量の減少した油田を再利用する取り組みが容易になります。
この技術では、環境への配慮と資源確保の両方にメリットがあることから、導入している海外企業も増えています。
日本における研究状況
日本のエネルギー政策を定めた「第5次エネルギー基本計画」には、2020年ごろまでにCCUSの実用化をめざす研究開発を進めることが明記されています。
日本においては、北海道苫小牧市で日本初の大規模なCCUSの実証試験がおこなわれました。
2016年4月から開始された実験は、海底下の地中深くに二酸化炭素を貯留する作業を始め、2019年11月には、目標としていた30万トンの二酸化炭素を無事注入し終えました。
今後、注入した二酸化炭素の安全性を確認したうえで、CCUSの導入に必要な技術と安全性の確立を目指すこととしています。

出典:資源エネルギー庁『知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~二酸化炭素を集めて埋めて役立てる「CCUS」』(2017年11月)
CCSに関する疑問
二酸化炭素の排出抑制と、新たな化石燃料の資源発掘量増加など、さまざまなメリットの多いCCSですが、その技術や環境に与える影響にはいくつかの疑問があります。そこで、それらの疑問についていくつかピックアップし、注目しました。
埋蔵することの危険性はないのか
まず、二酸化炭素を地中に埋蔵することへの危険性についてです。
CCSを実施できる環境として、二酸化炭素を貯留するすき間のある貯留層があること、その上が二酸化炭素を通さない遮へい層でおおわれていることが条件とされています。
これらの条件を満たす環境であれば、二酸化炭素が誤って大気中に漏れたり、地殻変動をもたらすようなことはないとされています。
実際、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の調査では、地層を適切に選定し、適正な管理をおこなえば、1000年は安全に貯蔵することが可能だという結果が出ています。
地層に悪影響を与えることはないのか
そして、二酸化炭素を貯留することで地層に悪影響をもたらし、断層の発生や地震を誘発するなどのリスクも懸念されます。
実際、CCSを実施する場所の調査では、活断層などの不安定した地層を避けることとし、諸般の原因で地層が破壊されない環境が整っている場所を選定します。
自然のシェルターを活用して二酸化炭素を貯蔵することから、地層の安全性については厳しく審査や調査が行われています。
なお、北海道苫小牧市で行われている実証実験では、地層の悪影響などは報告されていませんが、引き続き地層の監視は継続されます。
貯蔵することで温室効果ガスを排出しないのか
CCSを行う場合に、その作業工程で温室効果ガスを排出するリスクがあるのではないかと思った人もいるでしょう。CCSの作業工程において、二酸化炭素の排出は避けて通れません。
ちなみに、苫小牧市の実験施設では、省エネ型の分離回収などを実施していることもあり、CCSにかかわる二酸化炭素排出量は圧入量の15%程度で、環境に悪影響を与えることがない実験計画となっています。
収集コストが膨大ではないのか
CCSの課題は、二酸化炭素を分離して回収する時のコストです。
技術的には、二酸化炭素を吸収する液体を使って化学分離する方法、特殊な膜を使って二酸化炭素だけを分離させる方法などがあります。いずれの方法も、まだまだコストが高額になることから、コストダウンの研究が進められています。
2020年には、経済産業省が支援した研究開発事業によって、二酸化炭素を効率よく吸収する固体吸収材が開発され、関西電力で実証試験を行うことになりました。この個体吸収材が実用化されれば、CCSにかかるコストが半分以下になると期待され、注目されています。
出典:資源エネルギー庁『二酸化炭素を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に(前編)』(2020年11月)
CCSへの取り組みを進める企業の今
では、CCSへの取り組みを加速させている日本企業の「今」を掘り下げて解説します。ここ10年以内に、日本の近い将来CCSは「当たり前」の技術になるかもしれません。
油田やガス田の増産技術への活用
三菱ガス化学と石油資源開発では、CCSを活用して新潟県で原油や天然ガスの増産を検討することになりました。これは、CCSで貯蔵した二酸化炭素を、既存の天然ガス田や油田に圧入し、増産を試みるプロジェクトです。
また、メタノールの生産に二酸化炭素を活用する事業も同時に展開し、さまざまな燃料の生産にCCSの技術を活用することを目指しています。
出典:日本経済新聞『二酸化炭素回収・再利用、誰が担う 石油資源開発など実証検討』(2021年6月)
貯蔵技術のトップを走る日本企業意外なことですが、日本企業はCCSのトップクラスの技術を有しています。実際、CCSの導入実績における世界シェアでは、三菱重工業が世界7割超のシェアを占め最大手になっています。
しかし、日本国内では、関係法令の未整備などから市場が育たず、結果的に欧米企業の参入を許す結果になっています。
今後、経済産業省や環境省などの関係省庁が連携し、日本国内でのCCS普及の障壁となっている法令の整備を加速させる必要があります。
出典:日本経済新聞『二酸化炭素貯留、日本勢に商機』(2021年9月)
経済産業省も企業参入を後押し
経済産業省では、CCSに関する出資や債務保証に新たな資金支援を行っています。既にCCSにおける日本企業のポテンシャルをさらに高め、世界においてCCS事業のシェアを獲得するための企業活動を後押しするものです。
また、ASEANなどの経済新興国などへのCCS技術導入を促進するため、「環境外交」と呼ばれる国家間の交渉も加速されるものと思われます。
2021年6月には「アジアCCUSネットワーク」が発足し、アジア圏におけるCCSの導入を日本が支援していく仕組みが発足しました。
経済新興国で生産された資源を日本が購入することで、資源の安定的確保と地球環境への負担軽減が同時に実現することが期待されています。
出典:日本経済新聞『二酸化炭素地下貯留を支援、海外で出資・債務保証』(2021年2月)
まとめ:法令を改正してCCS技術を世界に売り込むのが急務
日本国内においては、法令の障壁が問題となっています。まず、日本国内においてCCS需要を喚起することで、さまざまな技術革新を生み、内需を生み出すことが望まれます。
実際、フィルターの生成など、中小企業が有している技術も多く、またプラントの製造には多くの中小企業の技術が欠かせないことから、環境部門に新たなビジネスチャンスを得る企業も増えるものと思われます。
安定したプラント開発と供給が可能となれば、日本型CCSパッケージとして世界に売り込んでいくことも可能となります。中小企業の技術が世界を変え、地球を変える、そんな可能性をCCSは秘めているのです。
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