脱炭素社会を実現するため、再生可能エネルギーをはじめとする新しい発電方法の導入が急ピッチで進められています。政府によるカーボンニュートラル宣言は、こうした動きをさらに加速させるでしょう。
今回は日本政府の方針やカーボンニュートラル宣言、再生可能エネルギーなどの新しい発電方法や最新研究などについてまとめます。
INDEX
日本のエネルギー政策の基本方針
(1)3E+Sとは

出典:資源エネルギー庁『3E+S | 日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」』(2020)
日本のエネルギー政策は、安全性を大前提とし、安定供給と経済性、環境への配慮同時に達成すべく取り組みが進められています。この政策はそれぞれの頭文字をとり「3E+S」とよばれます。
この原則を踏まえ、日本政府は再生可能エネルギー、原子力、水素や蓄電池などのあらゆる選択肢を追求し、エネルギーの安定供給を目指しています。
(2)エネルギーミックスの状況

出典:資源エネルギー庁『3E+S | 日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」』(2020)
エネルギーミックスとは、「3E+S」に基づいて構成される望ましい電力構成のことです。2018年度の再生可能エネルギー(以下、再エネ)の割合は17%でした。政府は2030年度の再エネの割合を現行の22〜24%目標から36〜38%目標まで引き上げる見通しです。
出典:資源エネルギー庁『エネルギー基本計画(素案)の概要』(2021/7/21)(p.12)
それと同時に、二酸化炭素を排出する天然ガスや石炭、石油といった化石燃料の割合を引き下げ、脱炭素社会に対応する考えです。
(3)エネルギーミックスの進捗状況

出典:資源エネルギー庁『3E+S | 日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」』(2020)
2011年の東日本大震災の影響で、日本のエネルギー自給率は大きく低下しました。原因は原子力発電所の停止です。それによって不足した電力は海外から輸入する化石燃料由来のエネルギーによって補填されました。
これに対し、政府は2012年からのFIT制度導入により再エネの比重を増加させたり、原子力発電所の再稼働を進めて自給率を回復させています。その結果、エネルギー起源の二酸化炭素排出量は減少に転じています。
脱炭素を目指すカーボンニュートラル
2020年10月、菅総理は「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と表明しました。
出典:環境省「カーボンニュートラルとは – 脱炭素ポータル」(2021/7)

出典:環境省「カーボンニュートラルとは – 脱炭素ポータル」(2021/7)
カーボンニュートラルとは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量から森林などが吸収する二酸化炭素量(吸収量)を差し引き、その合計を実質的にゼロにすることを意味します。
2015年に採択されたパリ協定では、世界的な気温上昇を2℃以内におさめることが長期目標とされました。これを達成するために必要なのがカーボンニュートラルの実現なのです。
脱炭素社会実現に欠かせない代表的な発電方法
パリ協定で合意した長期目標を達成するには、二酸化炭素を排出しない新しい発電方法が必要です。そのためには、エネルギー源を従来の化石燃料から再生可能エネルギーに切り替える必要があります。
ここでは、エネルギー供給構造高度化法や政令によって定められているものの中で、代表的な5つの再生可能エネルギーによる発電をまとめます。
(1)太陽光発電

太陽光発電は、太陽の光エネルギーを太陽電池により直接電気に変換する発電方法です。太陽光が得られる場所であれば、どこでも発電できるため設置場所に制限がなく、導入しやすいという長所があります。
2012年から始まった「固定価格買取制度」(FIT)によって急速に普及しました。買取電力価格が固定されているFITに加え、2022年4月から買取価格が変動するFIP制度が始まります。
(2)風力発電

出典:資源エネルギー庁「これからの再エネとして期待される風力発電」(2018/2/6)
風のエネルギーを風車などを使い電力に変換するのが風力発電です。欧米に比べ導入が遅れていましたが、日本でも普及しつつあります。こちらも、FIT制度の適用により発電量が伸びました。
日本では陸上の風力発電が主流です。しかし、設置場所が限られるため、今後は洋上風力発電も検討されるでしょう。
(3)小水力発電
小水力発電とは、河川の流水や農業用水、上下水道などを利用して発電するしくみのことです。水流れを利用して発電しますが、ダムのような大規模施設は必要としません。太陽光と違い、夜間も安定して発電できるのが小水力発電の長所です。
出典:環境省「小水力発電情報サイト 小水力発電のしくみ・意義」
(4)バイオマス発電

バイオマスとは動植物などから生まれた生物資源の総称です。バイオマス発電は、これらの生物資源を燃焼したり、ガス化させることで発電に利用します。
バイオマス燃料を燃焼させてタービンを回転させ、発電機を動かして発電を行います。
(5)地熱発電

地熱発電とは、地球内部の熱である地熱を利用する発電方法です。マグマによって熱せられた地下水の蒸気でタービンを回し発電します。地下の地熱エネルギーを使うため枯渇する心配がなく、長期にわたって利用可能です。
また、地熱は昼夜を問わず利用できるため、電力の安定供給という点でも優れています。しかし、発電所の設置場所や発電所設置の影響について周辺住民との調整が必要なため、設置場所に制限があります。
海洋・水素・アンモニア……研究中の新しい発電方法とは
太陽光をはじめとする現行の再生可能エネルギー以外にも新しい発電方法が研究されています。今回はその中で海洋エネルギーと水素発電、アンモニア発電について解説します。
(1)海洋エネルギーの利用
周囲を海に囲まれた日本にとって、海が持つエネルギーはとても魅力的です。海洋エネルギーを使った発電方法としては海の運動エネルギーを利用する波力発電や海水の流れを利用する潮力発電、海の表層と深層の温度差を利用する海洋温度差発電などがあります。
資源エネルギー庁では海洋エネルギー発電技術の早期実用化を目指し、研究開発事業に補助金を出しています。
出典:資源エネルギー庁「海洋エネルギー発電技術の早期実用化に向けた研究開発事業」
(2)水素の利用

水素エネルギーを使った発電方法を水素発電といいます。水素は燃焼しても化石燃料と違い、二酸化炭素を排出しません。

水素と酸素から電気をつくる装置を燃料電池といいます。燃料電池の用途は幅広く、現在は燃料電池自動車やバス・船などの動力源として利用されています。
(3)アンモニアの利用
アンモニアといえば、化学肥料の原料として広く利用されている物質です。このアンモニアを燃焼させても二酸化炭素を排出しないことから、クリーンエネルギーとして注目されています。

出典:資源エネルギー庁「アンモニアが“燃料”になる?!(後編)~カーボンフリーのアンモニア火力発電」(2021/1/29)
現在注目されているのは、石炭火力発電所の燃料として石炭にアンモニアを混ぜて燃焼させる混焼と呼ばれる方法です。混焼することで、二酸化炭素排出量を半分に減らすことができます。

出典:資源エネルギー庁「アンモニアが“燃料”になる?!(後編)~カーボンフリーのアンモニア火力発電」(2021/1/29)
また、アンモニアを直接燃焼させ、ガスタービン発電を行うという方法もあります。この場合、アンモニア生成時に二酸化炭素を発生させないCO2フリーアンモニアを使えば、カーボンフリーのクリーンエネルギーによる発電となります。
まとめ:新しい発電方法で生み出した電力を使い、脱炭素社会実現に貢献しよう!
パリ協定の合意以来、二酸化炭素排出を削減する脱炭素社会への潮流は決定的なものとなりました。従来から開発が進められている再生可能エネルギーに加え、海洋エネルギーや水素エネルギー、アンモニアのエネルギーなど新しい発電方法も注目されています。
電力の需要家である各企業は、脱炭素社会実現のため、新しい発電方法を含むカーボンフリーのエネルギーを利用することが求められます。時代の方向性を先取りし、二酸化炭素を排出しない新しいエネルギーを自発的に取り入れてはいかがでしょうか。