風力発電のアチハ株式会社ー地球の未来のために、風車を一本でも多くー
- 2024年12月27日
- サステナブル企業紹介
―― 100年企業が挑む、風の力で未来を創る挑戦風力発電への大いなる挑戦
1923年、大阪で馬による木材や大型建設資材などの運搬を行う「馬力屋」として創業したアチハ。創業から100年の時を経て、現在は風力発電事業を軸に、再生可能エネルギーの普及に取り組んでいる。売上の90%を風力発電事業が占め、2027年以降の市場拡大期を見据えて着実に歩みを進める同社。その原動力となっているのは「損得ではなく、善悪で判断する」という経営哲学と、100年かけて培われた技術力だ。
今回は、汐留オフィスマネージャーの阿知波秀和常務取締役と人事総務担当の岩田みどり氏に、同社の歴史と未来像について話を伺った。
馬力屋から風力発電のリーディングカンパニーへ
―― まずは御社の歴史についてお聞かせください。
阿知波常務:我々は1923年に、大阪で木材や大型
建設資材などを運ぶ「馬力屋」として創業しました。当時は馬車で木材を大阪から和歌山まで運んでいたんです。その後、戦後になると木材が鉄に変わっていき、それに伴って馬車からトラクターへ、さらにトレーラーへと変化していきました。
バブル期には火力発電所のタービン、橋梁や大型産業機械など、インフラ関連の重量物輸送を手がけるようになりました。しかし、バブル崩壊後の平成後期に入ると、電力需要の低下とインフラ工事の減少により、新たな事業領域を模索することになったんです。
―― 風力発電事業に参入されたきっかけを教えていただけますでしょうか。
阿知波常務:2010年頃に風力発電分野への参入を決断したんですが、最初は本当に偶然の出会いでした。風車の部品を運ぶ、輸送の3次請けくらいの仕事からのスタートでした。
転機となったのは、ある工事での出来事です。元請け会社の手配ミスでプロジェクトが大幅に遅延し、多くの業者が手を引いてしまった。その時、我々は「お客様が困っているのだから、最後まで一緒にやり遂げよう」という思いで取り組みました。
この判断が功を奏し、その後、風力発電関連の仕事が徐々に広がっていきました。輸送だけでなく、据付、メンテナンス、解体工事、さらには事業開発まで。我々は「ゆりかごから墓場まで」と呼んでいますが、風車のライフサイクル全体をカバーする事業へと発展していったんです。
「できない」を「できる」に変える技術力
―― 御社の技術力を示すエピソードを教えていただけますでしょうか。
阿知波常務:印象に残っているのは、火災で焼損した風車の撤去工事です。風車のナセルが完全に焼け、タワー内部の昇降設備も火災の熱で変形してしまった風車を撤去するという案件でした。同業の大手企業は危険を理由に撤去を断る中、我々が引き受けることになりました。
火災の影響で電気もつかなくなり、タワー内部が煤で真っ暗な中、フルハーネス、防護服、防護マスク、防護眼鏡を着てヘルメットのヘッドライト一つをもって、熱で変形した昇降設備を一歩一歩上がっていく。昇降設備やナセル内部はいつ崩れてもおかしくない状態でした。火災熱の影響でナセルの床がボロボロになり「いつ床が抜けて、崩落してもおかしくな」と思いながら、ナセルフレームになんとかスリングをかけてナセルを下架して、撤去作業を完遂しました。この工事の成功は、世界的風車メーカーと取引開始するきっかけにもなりました。
―― そうした困難な工事を引き受ける判断基準はどこにあるのでしょうか。
阿知波常務:我々には「損得ではなく、善悪で判断する」という会長の言葉があります。目の前のお客様が困っているなら、それを助けることが「善」である。そこに大義があるなら、損得は二の次だという考え方です。
例えば、もう一つ印象的な案件として、の某重工メーカーの宇宙航空部材輸送プロジェクトがありました。5メートル以上ある分割不可能な部材を、九州の離島まで陸送するという前例のない仕事です。名だたる運送会社が全て断った案件でした。
各自治体からの許認可が必要で、経路上のすべての交差点などの高さや幅などを測定する必要がある。特に九州エリアでは当初、通行許可が下りませんでした。そこで現在の社長が、県の管理責任者に手紙を書いて熱意を伝えたのです。この仕事は会社の利益のためではなく、国の将来のために必要な仕事だということを説明しました。その真摯な姿勢が通じ、最終的に許可をいただけました。
組織づくりと人材育成
―― 御社の組織体制について教えていただけますでしょうか。
阿知波常務:我々は「縦串と横串」という考え方で組織を運営しています。大きく分けて4つの部門があります。新設工事の施工管理を担当する部署、クレーンや輸送車両などの重機を扱う部署、風車のメンテナンスに特化した部署、そして風力発電事業の開発を担当する部署です。
特徴的なのは重機部門の位置づけです。一般的な運送会社であれば、外部からの依頼でA地点からB地点への輸送を請け負うことが主流ですが、我々は自社のプロジェクトへの内製化を優先することで、より効率的な運営を実現しています。これにより、労働時間の管理もしやすくなっています。
―― 人材採用ではどのような点を重視されていますか?
岩田みどり氏:最も重視しているのは「柔軟性」です。中途採用の方は、それぞれ自分のバックボーンや知識、他社での経験をお持ちです。ただ、「前の会社ではこうだった」という固定観念にとらわれすぎると、なかなか馴染めない場合があります。
風力業界自体、歴史が浅いためそもそも風力の経験者が少ない。それよりも、例えば年齢に関係なく若い社員の意見にも謙虚に耳を傾けられる、そんな柔軟な姿勢を持った方を求めています。
働き方改革と現場の両立
―― 建設現場では、働き方改革が課題とされていますが、御社ではどのような取り組みをされていますか?
阿知波常務:現場あっての仕事なので、どうしても現場の都合で労働時間が延びてしまうことがあります。コンプライアンスの観点からも、この課題には真摯に向き合う必要があります。
具体的には、人員の増強によるローテーション体制の確立や、外注可能な業務の切り分け、ITを活用した業務効率化などを進めています。ただし、これは一朝一夕には解決できない課題です。各現場の状況に応じて、きめ細かく対応を考えていく必要があります。
環境・サステナビリティへの使命感
―― 風力発電事業を通じて実現したいことは何でしょうか?
阿知波常務:私には小さな子どもがいます。その子どもたちや、さらにその先の世代が、50年後、100年後も快適に暮らせる地球であってほしい。そのために、再生可能エネルギーの普及は欠かせません。
最近の異常気象を見ていると、その切迫感はより一層強まります。毎年のように最高気温が更新され、「50年に一度」と言われる大雨が毎年のように発生する。我々一社で温暖化を止められるわけではありませんが、風車を一基でも多く建て、一基でも多くメンテナンスする。その積み重ねが、未来の地球環境を守ることにつながると信じています。
―― 一方で、風力発電所の建設には様々な課題もあると聞きますが。
阿知波常務:再生可能エネルギーの必要性は多くの方々が理解されていますが、反対される方々の声も少なくありません。地域の方々の理解を得るのは簡単ではありません。
また、原材料価格の高騰や円安の影響で、事業の採算性も厳しさを増しています。国からの補助金(FIT)は年々減少する一方で、コストは上昇傾向にある。支出を抑えるため、我々の技術を使って新しい工法を開発するなど、知恵を絞っています。
未来に向けた展望
―― 御社の今後の展望についてお聞かせください。
阿知波常務:風力発電業界は、実はまだ最盛期を迎えていません。2027年以降にかけて、大きな成長が見込まれています。政府は2040年までに再生可能エネルギー比率を50%まで引き上げる目標を掲げていますが、現状は21%程度。この目標達成には、風力発電の更なる普及が不可欠です。
―― 最後に、これから風力発電業界を目指す方へメッセージをお願いします。
岩田みどり氏:最近は利益や効率ばかりが重視されがちですが、最後は人の気持ちが大切だと感じています。会社の成長には、そういった人としての成長が欠かせません。
阿知波常務:私たちは本当に「地図に残る仕事」をしています。50年後、100年後、子どもたちが「私の親は、地球環境のために、こんな大きなものを動かし、作っていたんだ」と誇りに思えるような仕事です。
私たちの仕事は決して楽なものではありません。むしろ大変だからこそ、やりがいや、成長につながることを得られる環境だと思っています。
重機や設備は、お金を出せば誰でも手に入れることができます。しかし、100年かけて培ってきた「アチハの魂」とでも言うべき、社員一人一人の技術と想いは簡単には真似できません。この想いを共有できる方と一緒に、次の100年を創っていきたいと考えています。
[企業概要] ・創業:1923年 ・事業内容:風力発電設備の建設・メンテナンス、重量物の輸送・据付 ・特徴:風力発電事業が売上の90%を占める ・従業員数:約180名
[インタビュー協力] ・阿知波秀和氏(常務取締役・汐留オフィスマネージャー) ・岩田みどり氏(人事総務担当)