日本におけるESG規制とは?国内企業の対応事例も紹介
- 2024年08月28日
- ESG
日本におけるESG規制について、わかりやすく解説します。現代社会において企業を経営する上で、ESGの視点を欠くことはできません。特に投資や金融分野においては、ESG規制の重要性への注目が高まっています。日本でもさまざまなESG規制が導入・整備されてきており、各企業はさまざまな対応を迫られています。本記事ではESG規制の現状、日本におけるESG規制についてご説明します。個別企業の対応事例もご紹介いたします。
目次
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ESG規制の現状
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日本におけるESG規制
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ESG規制に対する国内企業の対応事例
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まとめ:国内のESG規制に対応し、持続可能な社会を実現しよう!
1.ESG規制の現状
環境保護や人権に関するルールが多くの国や地域で策定されるなど、ESG規制の気運が国際的に広まっています。ESG規制の現状について解説します。
ESG規制とは
ESGとは環境(Environment)・社会(Social・企業統治(Governance)の頭文字を並べた言葉で、企業が持続可能な成長をするために経営上重要となる3つの指標項目を表しています。たとえば環境分野(E)に関しては地球温暖化や海洋汚染、社会分野(S)であればダイバーシティ(多様性)の確保や人権尊重など、世界共通の課題解決に配慮した事業活動が求められます。その判断基準としてESGが注目されており、ESGに関連するさまざまな法規制が世界中で策定されています。
出典:独立行政法人日本貿易振興機構「世界のESG関連法規制・政策動向」
ESG規制拡大の背景
2023年~2024年にリリースされた報道においても、「エコデザイン規制(EU)」「ペットボトルとキャップの一体化義務付け(フランス)」「自働車の新燃費規制(米国)」「人身取引防止法を改正(メキシコ)」「内部通報窓口の設置義務対象企業拡大(ドイツ)」などESG規制に関するものが多く見られます。持続可能性に対する消費者や投資家の関心の高まりが各国のESG規制の背景となっており、今後もESG規制が拡大していくことが予想されます。
出典:経済産業省「SDGs経営ガイド」p11-13(2019/5)
出典:独立行政法人日本貿易振興機構「世界のESG関連法規制・政策動向」
2.日本におけるESG規制の例
世界中で急速に拡大を見せているESG規制ですが、日本でも同様の機運が高まっています。日本におけるESG規制の例について解説します。
【E】環境分野
環境分野(E)における国内の規制例としては、「地球温暖化対策推進法」が平成10年(1998年)に成立しています。国・地方公共団体・事業者・国民が一体となって地球温暖化対策に取り組むための枠組みを定めた同法は、その後9回の改正を経ており、直近の改正は令和6年(2024年)です。同法では企業に対して、以下のことを求めています。
・自ら排出する温室効果ガスの排出抑制等
・製品改良・国際協力等他の者の取組への寄与
・国、自治体の施策への協力
これにより企業の温室効果ガスの排出抑制についての計画策定やその実施状況の公表を促し、国民に開かれた形での計画的な取組を推進しようとしています。
出典:環境省「地球温暖化対策推進法の成立・改正の経緯」
出典:環境省「地球温暖化対策推進法の提案の背景」p2,3
【S】社会分野
社会分野(S)における国内の規制例としては、「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」が挙げられます。国連人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則」が支持されるなど、企業による人権尊重の必要性についての国際的な関心の高まりを背景に策定されたもので、政府が今後取り組む施策のほか、企業活動における人権デュー・ディリジェンス(自社のビジネスにおける人権に関するリスクの有無を調べ、必要に応じリスクを抑えること)の導入・促進への期待が表明された内容となっています。
出典:法務省「「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)について」
【G】企業統治分野
企業統治分野(G)に関する国内の規制例には、令和5年(2023年)の「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正による「有価証券報告書等における企業のサステナビリティ情報の開示」義務が挙げられます。これは有価証券報告書等への「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄新設や、「従業員の状況」の記載における、女性活躍推進法に基づく女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女間賃金格差といった多様性の指標に関する開示を定めたもので、2023年3月期決算企業から適用されています。こうした規制の背景にはやはり、サステナビリティ情報開示に対する国際的な動向が影響しています。
出典:金融庁「サステナビリティ情報の開示に関する特集ページ」
出典:金融庁「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-」p3-4(2021/6/13)
3.国内ESG規制に対する国内企業の対応事例
国内の各種ESG規制に対して、さまざまな企業が前向きに対応しています。日本企業の対応事例をご紹介します。
丸紅株式会社
丸紅株式会社は、自社のサステナビリティ情報開示におけるCO2排出量報告にあたって、地球温暖化対策推進法のCO2排出係数を使用しています。またエネルギー・電力消費量の報告にも地球温暖化対策推進法の単位発熱量を使用しています。
環境分野について丸紅株式会社は、気候変動をグローバルかつ緊急性の高い社会課題であると認識し、グリーン事業の強化と全事業のグリーン化推進を目指しています。グリーン事業について同社は「脱炭素・循環経済等、地球環境に対しポジティブな影響を与えるサステナブルな事業、およびそれらの事業が必要とし且つ代替困難な原材料等を供給する周辺領域」と定義しています。
株式会社セブン&アイホールディングス
株式会社セブン&アイホールディングスは、「セブン&アイグループ人権方針」を定めるにあたって、日本政府の「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」などの基準を踏まえています。同方針の中には人権デュー・デリジェンスの実施も含まれており、人権への悪影響に対する予防・是正措置の実施・軽減に努めることを表明しています。
株式会社セブン&アイホールディングスでは自社ビジネスの人権への影響評価も行っており、深刻度と発生可能性が共に特に高いものとして「労働安全衛生」を挙げています。同社では外部の専門家の支援・助言を得ながら、リスクの軽減を図っています。
出典:株式会社セブン&アイホールディングス「人権への取り組み」(2023/4/14)
日本電信電話株式会社
日本電信電話株式会社は有価証券報告書に関して、企業統治に関する情報開示の好事例として金融庁の事例集に取り上げられています。評価されたのは「取締役会審議案件を3つの項目(経営戦略・ガバナンス・資本政策)に分類した図表を用いて分かりやすく記載」という点で、円グラフを用いた図示が実際の例として引用されています。
令和5年(2023年)の「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正においては「コーポレートガバナンスの概要」について既存項目に加え、「取締役会、指名委員会及び報酬委員会等の活動状況」の開示が求められており、本件はその先行事例として紹介されています。
出典:金融庁「記述情報の開示の好事例集 2022」p10,6-13(2023/3/24)
4.まとめ:国内のESG規制に対応し、持続可能な社会を実現しよう!
環境・社会・企業統治を表すESGに関連する規制は国際的な広がりをみせており、日本国内においてもさまざまなESG規制が登場しています。日本企業もこうしたESG規制に対応していかないと、市場での信用や競争力を失い、持続的な成長が不可能となってしまうでしょう。企業のESGへの取り組みについては、投資家だけでなく消費者も関心を持つようになっているので、ESG規制への対応が今後ますます重要になっていくことは間違いありません。
国内のESG規制に対応し、企業として持続可能な社会の実現に貢献しましょう。