バイオ燃料としてのエタノールである「バイオエタノール」とは何か、アメリカでのバイオエタノールの活用方法、そしてアメリカにおけるバイオエタノールの最新動向・将来展望について掘り下げて解説します。
バイオ燃料とは
バイオ燃料がなぜ注目されているのか、また、その使用用途などを解説します。
(1)バイオ燃料の概要
バイオ燃料とは、バイオマス(植物や動物から生成される有機物)から作られる燃料の一種です。バイオマスからは固体、液体、気体の燃料が作られ、作物、木材、農業廃棄物、動物の排泄物、その他の有機物が使われます。バイオ燃料の中で最も一般的に使用されるのはエタノールとバイオディーゼルの2つがあり、石油や他の化石燃料に代わる費用効果の高い環境に優しい代替品として支持されています。
出典:U.S. Energy Information Administration (EIA)『Biofuels explained』(2022/07/19)
(2)バイオ燃料の使用用途
バイオ燃料は、再生可能エネルギー源として考えられており、石油由来の燃料に比べて費用対効果が高く、環境に優しい代替燃料として支持されています。そこで、具体的な使用例を以下で説明します。
自動車などの燃料
バイオ燃料は、自動車のガソリンやディーゼル燃料として使用することができます。エタノールはガソリンと混合されて「ガソール」として使用され、バイオディーゼルはディーゼルエンジンの代替燃料として使用されています。
火力発電
バイオ燃料は火力発電に使用することができます。バイオガスのような気体状のバイオ燃料や、木質ペレットや木切れなどの主要なバイオ燃料は、燃やして電気を発生させることができきます。
出典:U.S. Energy Information Administration (EIA)『Biofuels explained』(2022/07/19)
バイオ燃料としてのエタノールとは
バイオ燃料の中でもエタノールはどのようなものなのか、メリットやデメリットについて解説します。
(1)バイオエタノールの概要
バイオエタノール(バイオマスエタノール)は、サトウキビやトウモロコシ、木材などのバイオマスを発酵させて製造するエタノールのことです。バイオマスから生成される燃料をバイオ燃料と言いますが、バイオエタノールはその一種です。バイオマスは、生物資源(バイオ)の量(マス)を意味し、植物の他、わらやもみ殻、家畜糞尿、下水汚泥、廃食用油など、動植物由来のエネルギー源として利用もしくは再利用できる有機系資源を指します。
バイオエタノールの原料は主に、トウモロコシやサツマイモ、ムギ、タピオカなどのデンプン質原料と、サトウキビやテンサイなどの糖質原料が使われ、これらの植物に含まれる糖分を微生物によって発酵させ、蒸留してエタノールを作ります。
バイオエタノールの普及にはいくつかの課題があり、その一つは、原料となるトウモロコシやサトウキビが食料でもあるため、燃料としての消費が増えた場合、食料価格の高騰を招く可能性があります。
この問題を避けるため、木材やワラなど、食用ではないバイオマスを原料とする第2世代バイオエタノールの開発が進んでいます。さらに、藻類などを原料とする第3世代バイオエタノールの研究開発も進んでいますが、こちらは低コスト化が大きな課題となっています。
出典:U.S. Energy Information Administration (EIA)『Biofuels explained Ethanol』(2022/04/07)
出典:国立研究開発法人 国立環境研究所「バイオエタノール」(2017/8)
(2)バイオエタノールのデメリット
これまで、バイオエタノールのメリットについて解説してきましたが、否定的な見解についても解説します。
- 森林破壊
既に地球に負担をかけている農業活動に加えて、エネルギー用に作物を栽培することは地球にとって大きな負担となる可能性があると懸念されています。実際、バイオマスエネルギーを確保するためには、森林の破壊が起こっており。サトウキビやパーム油のような作物のために森林が伐採され、先進国がバイオエネルギーを安易に輸入すると破壊が拡大することが指摘されています。
- 燃料用作物と食料用作物との競合問題
バイオエタノールの生産には、食料生産との競合問題があります。バイオエタノールは、サトウキビや穀物の糖質や澱粉から作られますが、これらは人や家畜の食料として使用されています。そのため、バイオエタノールの生産を増やすと、食料に回される量が減少し、また作物価格が上昇することが指摘されています。
もっとも、この問題は、多収穫を可能とする品種を作ることや、バイオエタノール生産技術の進展により、脱穀後のワラなども有効に利用できる燃料用作物が開発されることで解決の可能性があるとされます。
出典:energyTRACKERASIA『The Pros and Cons of Ethanol: Does It Have A Place In The Future?』(2023/02/16)
出典:参議院「バイオエタノール利用の現在と未来」(2007)p101-2
アメリカでのバイオエタノールの活用方法
アメリカ合衆国の経済を支えているバイオエタノールの現状と将来展望について解説します。
(1)アメリカにおけるバイオエタノールの現状
アメリカでは、エタノールがバイオ燃料として需要が高まっています。2022 年 1 月 1 日時点で、米国のバイオ燃料工場の生産能力は 275 の施設で年間 210 億ガロン (gal/y) に達しており、米国のバイオ燃料生産能力の 5 分の 4 以上がバイオエタノールです。
また、2022年には、ロシアのプーチン大統領によるガソリン価格引き上げに対処するため、自国産バイオ燃料の開発を重視する新たな措置を発表しました。その狙いとしては、アメリカ人の手頃な燃料選択肢を拡大し、長期的には化石燃料への依存を減らし、真のエネルギー独立を実現することを目指しています。
具体的な措置として、E15ガソリン(エタノール15%ブレンドガソリン)の販売を許可することで、燃料供給へのアクセスを拡大させ、価格引き上げに対処しています。2022年夏時点では、E15を使用することで1ガロンあたりのガソリン代が平均で10セント節約できます。またE15 の移行により、二酸化炭素排出量は 1,762 万トン以上削減され、これは毎年 385 万台の車が道路から離れることに相当する量です。
出典:U.S. Energy Information Administration (EIA)『Most U.S. fuel ethanol production capacity at the start of 2022 was in the Midwest』(2022/08/22)
出典:growth energy「Lower-Cost, Lower-Carbon E15」
(2)アメリカのバイオエタノールの将来展望
アメリカでは、エタノールがバイオ燃料として需要が高まっています。エタノールは、とうもろこしを中心とする農産物から製造するバイオマスエタノールが対象で、石油および天然ガス由来の合成エタノールは対象外です。アメリカ政府のエネルギー情報局によると、エタノールの消費量は自動車の燃料用として約8割を占めており、この消費量も増加しています。
エタノール市場は、2030年までに1,255億米ドルに達すると予測されており、2022年から2030年までの調査期間中に5.6%の複合年間成長率で成長すると予測されており、政府の主導権が増加し、アメリカでエタノールをより高い割合で含むガソリンの販売に対する制限の強化が市場を牽引する主な要因となっています。
バイオ燃料生産の増加率は、2020年を除き低下傾向にあり、特に、バイオエタノールの伸びはアメリカ等の政策の影響下で鈍化しています。運輸部門における消費エネルギーに占めるバイオ燃料の割合は現在3%と高くはないですが、将来的には、よりCO2削減能の高い先進バイオも含めて30%程度まで拡大すると期待されています。
以上のように、アメリカのバイオエタノール市場は、今後も成長が期待されています。政府の主導権の増加や、よりCO2削減能の高い先進バイオの導入によって、市場が拡大することが予想されます。
出典:MordorIntelligence『バイオエタノール市場レポート |規模、シェア、成長とトレンド 』
出典:国際環境経済研究所『バイオ燃料の現状と将来(1)』(2020/10/27)
出典:NEWSCAST『燃料用エタノールの市場規模は2030年に1,255億米ドルに達すると予測-最新予測』(2022/09/07)
まとめ:バイオエタノール市場の動向を抑えておこう!
アメリカにおけるバイオ燃料「エタノール」の活用と将来展望について解説しました。バイオ燃料は、バイオマスから作られる燃料の一種であり、再生可能エネルギー源として注目されています。もっとも、その精製過程で地球温暖化を促進させ得る場合があるとして、メリットばかりではありません。
しかし、アメリカを見てみると、既にバイオエタノール15%の割合で混合されたガソリンが市場に出回っており、国際的なカーボンニュートラルの動きからしても日本に波及することがあり得るでしょう。そこで、今からバイオエタノール市場の動向を抑えておきましょう。