ニュース映像などで大量に廃棄される衣料を目にしたことがあるでしょうか。これらは「衣料廃棄物」とよばれ世界各地で問題となっています。その原因とされるのが短期間で大量に衣服を販売・廃棄するファストファッションです。
今回は衣料廃棄の原因とされるファストファッションや廃棄を減らすための循環型モデルへの転換、それについて企業ができることなどをまとめます。
INDEX
衣類がもたらす環境負荷
衣類は私たちが生活するうえで必要不可欠なものです。しかし、その衣類が環境に大きな負荷をもたらしています。ここでは衣類がもたらす環境負荷を2つの側面から整理します。
(1)生産から廃棄までにかかる環境負荷
1つ目は生産から廃棄までにかかる環境負荷です。衣料は原材料や水資源を大量に消費して生産されます。衣料を生産する際、1年間で排出されるCO2は約90,000ktに及びます。水は83億立方メートルに達します。これらを服1着あたりで計算すると、CO2排出量は25.5キログラム、水消費量は約2,300Lとなります。
(2)衣類廃棄の現状
衣類の生産は環境に大きな負荷をかけていることがわかりました。それに加え、生産された衣類の多くが廃棄されている現状があります。
購入された服のうちリサイクルやリユースに回されるのは全体の34%ほどで、残りの66%が焼却処分や埋め立て処分がされます。1日あたりに焼却・埋め立てされる衣服の重さは1,300トンで、大型トラック130台分にもなります。
ファストファッションの台頭
衣類が大量廃棄される理由の一つがファストファッションの台頭です。ここではその意味や問題点について整理します。
(1)ファストファッションとは
ファストファッションとは造語で、流行に沿ったデザインの服を素早く大量生産し、短期間に売り切ってしまう販売モデルのことです。

1990年から2010年にかけて、衣服の国内市場が縮小する一方で供給量は増加し続けました。これは服を必要とする人より供給される服の量が上回っていることを示します。衣服1枚当たりの価格はといえば、供給量の増加に伴って低下しています。つまり、服の必要量が減っているのに、安く大量の服が供給されていることを意味します。
価格が低下すれば、それに対応するためさらに価格を下げざるを得なくなります。そのためには大量生産で1着当たりのコストを下げる必要性が高まります。こうして、衣服の需要が少なくなっていく一方で、安い服が大量に作られ続けていく状況が生まれたのです。
(2)ファストファッションの問題点
衣服が大量に生産され、安く手に入るようになったことで人々の服に対する扱いに変化が見られます。エレン・マッカーサー財団の2017年の報告によれば2002年と比較して衣料品が擦り切れるまで着られる回数は36%も減少しています。
また、ファストファッションの衣料品は海外の工場に生産を依存しています。より安い製品が欲しいという要望に応えるため、中には人権に配慮しないで衣服を生産する工場も存在しています。
2013年にバングラデシュの工場で起きた事故では1,000人以上が亡くなりました。原因は工場に亀裂が入り劣化していたにも関わらず、多数の労働者が勤務していたからです。とにかく安くという要求にこたえる生産を続け、労働者の人権を軽視した過酷な条件下で働かせた結果起きた事故だといえます。
出典:国民生活センター「衣料廃棄物について考える」(p2-3)
衣類の廃棄を減らす循環型モデルへの転換
衣類の廃棄を減らすには循環型モデルへの転換が必要です。
ファストファッションに代表される大量生産・大量消費・大量廃棄の流れは「一方通行(リニア)型」とよばれます。これに対し、適量生産・適量消費により廃棄を減らし、リユースやリサイクルを重視する流れを「循環(サーキュラー)型」といいます。
服を設計・デザインする段階から長寿命・環境配慮素材の使用・リサイクルなどを意識します。生産の過程をできるだけ透明化し、消費者が過程を追跡できるトレーサビリティを導入します。生産は適量供給を目指し、余分の在庫を抱えないように努めます。そして、販売された衣服のリユースやリサイクルに努めます。こうすることで衣類の廃棄を減らす循環型モデルへの転換を図ります。
衣類廃棄を減らすために企業ができること
衣類廃棄のために企業ができることとして2つの事柄をとりあげます。
(1)長く着られる服を作る
1つ目は長く着られる服をデザイン・設計し生産することです。ファストファッションは安価な製品を大量生産することが優先されていました。循環型モデルへの転換を図るためにも長く着られる服の生産は必須です。
(2)リユースを活用する
2つ目はリユースを活用することです。リユースすると製品の寿命が延び、ゴミを減らせるからです。また、リユースすることで新たな材料の消費や生産するためのCO2消費をせずに済みます。環境負荷を減らすという点でもリユースの活用は有力な選択肢となります。
出典:環境省「リユース読本」
まとめ:循環型社会を意識したビジネスモデルへの転換を検討しましょう
今回は衣類の廃棄についてとりあげました。この30年間で衣服を取り巻く環境は激変しました。安く大量に衣類を生産するファストファッションの台頭により、多くの人々が安価な服を手に入れられるようになりました。
しかし、供給量の急激な増大により在庫が増え、行き場を失った衣類の多くが埋め立て・焼却処分される事態が発生しました。衣類の生産には大量の資源が使われ、生産過程でCO2も発生します。廃棄されることでこれらの資源などが無駄になっているのです。
地球温暖化の影響が徐々に表れている今、かつてのような資源の無駄遣いやCO2の大量放出を見直すべき時期に来ています。大企業も中小企業も足並みをそろえて生産・販売の仕組みを見直し、循環型社会を意識した経営を検討する時期に来ています。