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カーボンプライシングで注目されるCBAMとは?主要国の対応状況を解説

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カーボンプライシングで注目されるCBAMとは?主要国の対応状況を解説

主要国のCBAM対応状況について、わかりやすく解説します。カーボンプライシングの一種であるCBAMは主にEUで導入が進められており、今後の国際貿易への影響が懸念されています。特にCBAMを非関税障壁とみなす米国との対立は顕著であり、今後の動向が注目されます。本記事ではCBAMの概要、主要国のCBAM対応、日本におけるCBAM対応について取り上げます。日本ではCBAMそのものを導入する予定は現時点でありませんが、欧州市場を取引先としている日本企業も多い中、CBAMについて理解を深めておくことは今後のビジネスにおいて不可欠です。

INDEX

CBAMの概要

CBAMは、カーボンプライシングの一種です。CBAMの概要について解説します。

CBAMとはなにか

CBAMとは、輸入品に対して国内と国外のカーボンプライシングの差額分の支払いを課す措置です。カーボンプライシングとは、CO2に値段をつける制度です。二酸化炭素の排出量に応じて企業や個人に課税する炭素税や、企業や産業部門に対して排出量の上限を定め、上限を超えて排出する企業が余剰分を持つ企業から排出権を購入する排出権取引制度が、代表的なカーボンプライシングです。ある国や地域でカーボンプライシングを用いてCO2削減を推進した場合、コストの増加を避けたい企業が生産拠点を規制の緩い国や地域に移転してしまい、海外での二酸化炭素排出が増えるカーボンリーケージ(漏洩)が起こる懸念があります。そこで考えられたのがCBAMというわけです。

出典:環境省「【有識者に聞く】炭素国境調整措置(CBAM)から読み解くカーボンプライシング」(2023/12/26)

EU-CBAMについて

CBAMは最初、アメリカが京都議定書から離脱した際に、EUによるアメリカに対する措置として考えられました。その後EUの鉄鋼産業において、カーボンプライシングが行われていないロシア、ウクライナ、トルコからの鉄鋼輸入が増加し、カーボンリーケージへの懸念からEU-CBAMの導入が決定しました。2023年10月から、セメント、肥料、電気、鉄鋼、水素、アルミニウムを対象に、CBAMの暫定適用が開始されています。このようにEU-CBAMの導入はカーボンリーケージの回避が理由とされていますが、EU域内産業の競争力を守るという側面を持っていることは否めません。

出典:環境省「【有識者に聞く】炭素国境調整措置(CBAM)から読み解くカーボンプライシング」(2023/12/26)

主要国のCBAM対応状況

CBAMについては、「EU-CBAMへどう対処するか」「自国ではCBAMを導入するか」という二つの観点があります。主要国のCBAM対応について解説します。

英国(UK-CBAMを導入予定)

英国は2027年からUK-CBAMの導入を予定しています。現時点ではその詳細は明らかになっていませんが、2025年5月19日、英国とEUは英国のEU離脱後初となる首脳会議を実施し、UKとEUの排出権取引制度をリンクさせ、UK CBAMとEU CBAMの適用を相互に免除することを目指すことを発表しました。このことから、UK-CBAMにはEUと歩調を揃える意図があるものと推定されています。ただし、正式な合意やリンクに向けたスケジュールの決定には至っておらず、リンクの実施は最短でも2028年と見込まれています。

出典:経済産業省「主要国のCBAM関連動向」p9-11(2025/5/30)

米国(EU-CBAMを防衛障壁として非難)

米国では米国通商代表部(USTR)がEU-CBAMについて、「EU市場における米国の中国に対する優位性を低下させる可能性がある」「EU-CBAMは米国の年間輸出額47億ドルに影響を与えると推定される」などと批判しています。一方米国内のカーボンリーケージ対策としては、「外国汚染税」の法案が議会へ提出されています。これは米国への輸入品へ、同等の米国製品との汚染強度の差に応じた変動税率を課すというもので、対象製品を製造している米国内業界団体は概ね賛成している一方、同法案が米国内の製造業者に対する課税を一律免除している点について、環境保護団体からは懸念の声も挙がっています。

出典:経済産業省「主要国のCBAM関連動向」p16-20(2025/5/30)

カナダ(EU-CBAMは機会と評価)

カナダは、元々自国で高い炭素価格を設定しているため、EU-CBAMの影響は軽微であり、むしろ機会となり得るとの見解が示されています。特に駐EUカナダ特使は「カナダのカーボンプライシング制度は、ヨーロッパへの輸出ツール」「カナダは厳格なカーボンプライシング制度を導入しており、EU-CBAMの費用を支払う必要がない可能性がある」とまで表明しています。また現政権はカナダ版CBAMの導入を目指すことも明言しており、カーボンリーケージ対策においてはEUと歩調を合わせる傾向が見られます。ただし現時点で具体的な制度詳細は、明らかになっていません。

出典:経済産業省「主要国のCBAM関連動向」p22-24(2025/5/30)

インド(EU-CBAMを批判)

インドはBRICKS各国などとともに、「一方的な炭素国境税などは、WTOの多国間ルールおよびパリ協定の原則と矛盾するものであり、各国の異なる状況を考慮すべき」などと、EU-CBAMへの批判的な立場を明らかにしています。一方で2国間協議の場ではEU-CBAMの適用についてEUとの交渉を進めており、インド版の排出量取引制度である「コンプライアンスメカニズム」は、EU-CBAMの控除対象となることも念頭に検討が進められています。

出典:経済産業省「主要国のCBAM関連動向」p28-30(2025/5/30)

韓国(公正な競争環境を要請)

韓国は各種の会合において、韓国企業にとって公正な競争の場を確保するようEUに対して繰り返し要請しています。2025年5月にも外務副大臣が欧州対外活動庁アジア太平洋局総局長と面談し、CBAMに関して韓国企業に公正な競争が保証されるよう要請したとの報道が伝えられました。また韓国国内においては、CBAM対応が必要となる企業に対して、解説書の公表、セミナー開催、中小企業個別支援などが実施されています。一方韓国版のCBAMは、現時点で検討されていません。カーボンリーケージリスクが高い部門に対しては、排出枠の全量を無償割当していることが主なカーボンリーケージ対策となっています。出典:経済産業省「主要国のCBAM関連動向」p45-47(2025/5/30)

日本のCBAM対応状況

輸出企業が多い日本も、CBAMに無関心ではいられません。日本のCBAM対応について解説します。

経済産業省による情報発信など

経済産業省はEU-CBAMに関して、炭素排出量の報告が求められることが想定されることから「ねじ・ボルト等におけるEU-CBAM用算定ガイドライン」のとりまとめや、算定の簡略化とデータ入力負荷低減を目的とした「CBAM共通フォーマット」の策定などを行っています。またJETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)がCBAMに関する情報発信をしているほか、貿易相談を受け付けています。

出典:経済産業省「炭素国境調整措置」

「CBAMへの対応に関する委員会」での論点

経済産業省では有識者・関係業界・機関等による情報交換を目的としたCBAMへの対応に関する委員会を設置しており、2025年5月に第1回委員会が開催されました。その中ではEU-CBAMの課題として、以下のような項目が挙げられています。

炭素排出量の計算・中小企業への負担が大きい・原材料に係る排出量など、川上の企業が有する値を入手することが困難
課金額・日本で支払われた炭素価格が、課金方法に関わらず考慮されるか
排出量の第三者検証・排出量の検証を行う機関が欧州域内の認定機関に限られている

特に炭素排出量の計算については、データの受け渡しを容易にする共通フォーマットやデータ連携基盤の活用、データを入手することが困難な場合のデフォルト値の使用などが重要課題と位置付けられています。

alt属性:EU-CBAMにおいて考えられるサプライチェーン上の課題

出典:経済産業省「第1回 CBAMへの対応に関する委員会」
出典:経済産業省「CBAMの論点と対応状況」p2,6(2025/5)

予想される影響

日本がCBAMを導入すると国内製品の値段が上がり、CO2排出量がわずかに減少するものの、国内産業の保護にはならないという研究結果が出ているため、日本国内では、EUへの対抗策としてCBAMを導入するという話はほとんどありません。EU-CBAMの影響に関しては、日本はあまり損をしないのではないかと言われています。日本は効率性が高いため、CO2を大量に排出して鉄鋼を生産する国に比べて欧州でマーケットシェアを獲得する可能性があり、全体としては損をしないという分析結果もあります。今後は、国内の炭素価格がEUで承認され減免されるか否かが重要になってきます。地方自治体が実施している排出権取引がEU-CBAMの減免対象となるかなどの点に、注目する必要があるでしょう。

出典:環境省「【有識者に聞く】炭素国境調整措置(CBAM)から読み解くカーボンプライシング」(2023/12/26)

まとめ:CBAMへの対応で、国際競争力の維持向上を目指す

EUが導入を進めているCBAMについては、国によって対応姿勢が分かれています。貿易障壁としてEU-CBAMを批判する国もあれば、自国がEU同様のカーボンプライシングを実施していることから、EU-CBAMを歓迎する国もあります。CBAMはカーボンリーケージを回避するための手段として考案されましたが、カーボンプライシングの方法は国によってさまざまなため、それらをひとつ一つ評価してCBAMの減免対象とするかどうかを決めることについては、今後も多くの交渉や調整を要することが予想されます。個別企業単位で考えた時には、自社のCO2排出量把握が全てにおいて大前提となるので、CBAMの動向に注目すると同時に、自社の排出量算定体制を整えることが非常に重要であると言えるでしょう。

EU-CBAMへの対応で、国際競争力の維持向上を目指し、欧州市場の開拓機会を狙いましょう。

CBAMに上手に対応できれば、輸出関連のビジネスチャンスにつなげられます。たとえば排出量算出にともなうデータ収集の負担は、各種ツールで解消できますし、第三者保証の必要性も、VERITUSなど専門コンサルタントへ相談できます。煩雑な排出量報告も、ASUENEがサポート可能です。

UK独自CBAMの動向を注視し、今後の規制強化に備えてASUENEの導入をご検討ください。

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