中小企業が欧州市場で勝ち抜く方法について、わかりやすく解説します。現在欧州では、欧州グリーンディールによる環境規制が、市場を大きく変えつつあります。中でもLCA/CFP対応は、今後の欧州市場では必須のものとなっており、こうした指標の算定に要する人員や労力に乏しい中小企業では、欧州市場のハードルが一気に上がってしまう可能性があります。しかし逆に欧州の環境規制に機敏に対応できれば、競合に差をつけて大きなアドバンテージを得ることも可能でしょう。本記事では欧州市場におけるLCA/CFPの最前線、環境規制リスク、LCA/CDPがビジネスチャンスとなる理由、中小企業のLCA/CFP導入方法などについて取り上げます。
INDEX
欧州市場でLCA/CFPが必須となる背景
欧州市場では、LCA/CFP対応が必須となっています。その背景について解説します。
CBAM(炭素国境調整メカニズム)の導入と適用拡大
EUは、域外国からの高カーボンリーケージ製品の輸入について、製品当たり炭素排出量(体化排出量:製品の生産過程で排出される温室効果ガスの総量)に基づいて輸入課金を行う炭素国境調整措置(CBAM)の導入を決定しています。実際の課金は、2026年から2034年にかけて段階的に導入されますが、それに先立ち2023年10月1日から、CO2排出量や原産国で支払われた炭素価格等の情報を報告する義務が開始されています。これに伴い対象製品の体化排出量申告が必要となり、製品のライフサイクル全体で発生する排出量(LCA)の算定が求められています。
alt属性:EU CBAMの仕組み
出典:経済産業省「主要国のCBAM関連動向」p4(2025/5/30)
欧州電池規則などの製品別規制の強化
欧州電池規則は欧州グリーンディールの一規制で、電池に関する材料調達や製造における持続可能性や回収・リサイクルなどについて定めています。具体的にはCFP、DD(デューデリジェンス)、BP(バッテリーパスポート)、回収目標、再生材含有率などが予定されていますが、この中でもCFPが最初に適用され、車載用蓄電池については2025年2月からCFP宣言(想定寿命の総エネルギー1kwhあたりCO2-e kgを申告すること)が必要となっています。今後は電池だけでなく、プラスチック・容器包装・情報通信機器・繊維・建設・飲食品などにも同様の規制が拡大することが見込まれます。
出典:経済産業省「令和5年度重要技術管理体制強化事業(蓄電池に係る海外の動向調査)」p4-5,10,32(2024/3/29)
バイヤー企業からのサプライチェーン排出量開示要求
欧州ではCSRDによって、Scope3排出量の開示が義務化される予定です。そうなると欧州企業ではサプライヤーからの調達においては、常に購入製品のLCA/CFPを求めるようになることが想定されます。また、公共調達においてもCFPが評価対象となるケースが増えており、LCA/CFPを算定していない企業は、そもそも入札に参加すらできないという事態も起こるでしょう。LCA/CFPは欧州において、バイヤー企業からの取引条件になりつつあります。
出典:環境省「グリーン製品の需要創出等によるバリューチェーン全体の脱炭素化に向けた検討会第2回会合 事務局資料」p4,25,26(2025/5/29)
中小企業が直面する3つの環境規制リスク
脱炭素政策が相次いで発表される欧州市場において、中小企業は環境規制リスクに直面することになります。
取引停止のリスク
⽶国では CFP を用いた法や規制の制定が進んでいます。カリフォルニア州では、インフラや建築事業で調達される特定資材に対して、製品単位の排出量の上限値が設定され、数値がカリフォルニア総務局から指定されている値を上回る場合は、調達対象外となります。 こうした取り組みは他の州でも見られ、⽶国政府も連邦調達及び連邦資⾦によるプロジェクトにおいて、同様の動きが出ています。今後欧州でも同じような規制によって、環境対策が不十分な企業は取引ができなくなる可能性は高いでしょう。 実際にEUではフランスが、CFP を含む環境フットプリントの表示義務化に向けて動き始めています。欧州全体でも、衣料品や⾷品について持続可能な⾷品ラベル表示の導⼊に向けた動きがあり、環境フットプリントの活用が検討されています。
出典:経済産業省「カーボンフットプリント レポート」p8,13(2023/3)
競争力低下のリスク
近年の気候変動問題への関⼼の⾼まりによって、企業を取り巻く多様なステークホルダーが、様々な視点から CFP を企業に要請し始めています。CFP要求シーンとして想定されるのは、CFPを活⽤した公共調達・CFPを活⽤した規制・⾦融市場における企業のサプライチェーン排出量の把握と開⽰要求・顧客のグリーン調達・顧客のサプライヤエンゲージメント(CFP 開⽰/排出削減要請)・消費者へ向けた脱炭素に関する企業ブランディングや製品マーケティングなどです。このようにCFPは企業の競争⼒を左右するものになりつつあります。
出典:経済産業省「カーボンフットプリントガイドライン」p7-8(2023/5)
算定・報告体制構築の負担
CFPを算定する際は、⾃社のサプライチェーン排出の実績値(1次データ)を収集することが望ましいとされています。しかし製品単位での把握は複雑で技術的に難しく、製品数が多い企業が製品⼀つひとつのデータを把握するための業務負担は⼤きなものとなります。特に中⼩企業においては、CFP算定の業務負担・ノウハウの観点で、対応が困難な企業も多数存在しています。中には他社⽐較されたくない、製造の内訳・⽅法が知られたくない等の理由から情報開⽰が困難なケースもあり、CFP/LCAの算定・報告体制構築が多くの中小企業における課題となっています。
出典:経済産業省「サプライチェーン全体でのカーボンフットプリントの算定・検証等に関する背景と課題」p21(2022/9/22)
LCA/CFP算定でつかむ!欧州市場への事業拡大機会
LCA/CFPをうまく活用することによって、中小企業でもビジネス機会を生み出すことができます。欧州市場におけるチャンスについて解説します。
競争力向上と新規開拓
産業界が温室効果ガス排出削減と企業の成⻑を両⽴させていくためには、顧客や消費者がグリーン製品を選択するような社会を創り出していく必要があり、その基盤としてLCA/CFP は不可⽋です。LCA/CFPによって消費者がより環境に優しい製品を選んだり、政府や企業におけるグリーン調達が進むといったことが想定されるため、先に述べたように、LCA/CFPは企業の競争⼒を左右するものになりつつあります。
出典:経済産業省「カーボンフットプリントガイドライン」p7(2023/5)
サプライチェーンにおける信頼性向上とビジネス機会の拡大
現在社会ではScope3を含むサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量算定・削減が求められており、そのためサプライチェーン全体での協働が重視されています。Scope3の排出把握においては、サプライヤから調達している製品のCFPが重要になるため、サプライヤにCFP算定・報告を依頼し、削減を働きかける例が増えています。従ってLCA/CFPの取り組みは、サプライチェーンにおける信頼性向上とビジネス機会の拡大につながります。欧州市場においても、LCA/CFPを武器に取引先へ切り込むようなケースが今後増えていくでしょう。
出典:経済産業省「カーボンフットプリント レポート」p8,13(2023/3)
企業イメージ向上とブランド価値強化
LCA/CFP算定の目的のひとつに、ブランディング強化、すなわち環境に関するコーポレートブランドの確⽴による、事業競争⼒強化の追求があります。「CFP表⽰に挑むことで、エコな選択肢としての企業・製品イメージを醸成する」「将来的には全製品にCFPを展開し、コーポレートブランドへの訴求拡⼤を⽬指す」といった展開が考えられ、CFPを顧客や消費者へ提⽰することによる企業イメージ向上やブランド価値の強化を目指すことができます。こうした戦略は、環境規制が厳しい欧州市場において、特に効果を挙げる可能性があります。
出典:経済産業省「カーボンフットプリント ガイドライン」p107(2023/5)
中小企業向けLCA/CFP導入の4ステップについて解説
中小企業がLCA/CFPの導入は、どのように進めたらよいでしょうか。推奨される4つのステップについて解説します。
ステップ1:自社のサプライチェーンと影響範囲の把握
LCA/CFP算定にあたっては、まずライフサイクルフロー図を作成することが有効です。ライフサイクルフロー図は、バウンダリーの範囲を明確に⽰し、含まれているプロセスや、各プロセスにおいてGHGの排出に関わるインプットやアウトプットを分かりやすくまとめることができます。詳細に分析する必要があるプロセスとその他のプロセスを区別する基準を設定しておくことで、詳細な分析は重要なプロセスのみに留めるとよいでしょう。また、プロセスは最⼩の単位に細分化して分析せずに、合理的な範囲でいくつかのプロセスを統合して分析することが現実的です。
出典:経済産業省「カーボンフットプリント ガイドライン」p31(2023/3)
ステップ2:簡易的なLCA/CFP算定の試行
中小企業においては、まずは算定結果を出すことを重視し、数値の精緻化はLCA/CFPの結果を出した後に、必要に応じて検討するのがよいでしょう。そのためには、利害関係者を募っての製品別算定ルールの策定はせず自社単独でルールを策定し、必要十分な精度を心掛け複雑になり過ぎないように留意することが推奨されます。算出に必要なデータは原則1次データ(実測値、実測値の配分)の取得を基本としますが、1次データ入手が困難な場合には2次データベースを利用します。
出典:経済産業省「カーボンフットプリント ガイドライン(別冊)CFP 実践ガイド」p8(2023/5)
ステップ3:各種支援制度の活用
環境省では、「製品・サービスのカーボンフットプリントに係るモデル事業」を募集しています。この制度では業界団体又は企業群が行うCFPの算定・表示に関する共通ルール策定に向けた取組や、地域のステークホルダーが行うCFPの算定・表示に係る人材育成の取組について、環境省が伴走支援します。
また経済産業省では「GX促進に向けたカーボンフットプリントの製品別算定ルール策定支援事業」を実施しています。本事業では、製品別算定ルールの策定について支援を行い、サプライチェーン全体の排出量削減に貢献する先進例の創出が目的とされています。
いずれの制度も個社というよりは業界団体等が対象となっていますが、個社でLCA/CFPへの取り組みを進めることが難しい場合は、同業者団体にこのような制度の活用を働きかけるのも有効でしょう。
出典:環境省「「製品・サービスのカーボンフットプリントに係るモデル事業(業界団体・企業群支援/地域人材育成支援)」の公募について(予告)」(2025/4/14)
出典:経済産業省「令和6年度 GX促進に向けたカーボンフットプリントの製品別算定ルール策定支援事業」(2025/4/30)
ステップ4:導入しやすいLCAツールの選定と活用
LCA算定に関しては、専用の算定ツールを導入するのが一番の近道です。公的なツールとしては、建設業界用の「J-CAT」がよく知られています。また環境省が提供している「廃棄物最終処分場太陽光発電ライフサイクルCO2削減効果算定ツール」などもあります。LCAの算定を行うには様々なデータを収集する必要があり、特に自社を超えた範囲のデータ収集には多大な労力と時間がかかるとともに、その計算には一定の専門性が要求され、その実施は容易ではありません。こうしたツールは、標準的なデータを用いることで、自社の把握している情報からのLCA算定を容易にしています。
出典:グリーン・バリューチェーン・プラットフォーム「排出原単位データベース」
出典:環境省「廃棄物最終処分場太陽光発電ライフサイクルCO2削減効果算定ツール操作マニュアル」p1-2(2017/3)
アスエネのLCA/LCA算定機能を用いて業界競争力を強化
アスエネは中小~大手企業まで有効活用できる様々なソリューションラインナップをご提供しています。こちらでは省エネ対応・リサイクル素材&廃熱の有効活用・環境負荷の低いサプライヤーとお取引のある企業にとって効果的なLCA/CFP関連サービスについてご紹介します。
ASUENE LCAはシンプルな操作性と導入のしやすさが魅力
ASUENE LCAは、活動量を入力するだけで業界競争力の強化に有効的なLCA/CFP算定(削減貢献量の見える化)が可能です。入力は洗練されたUIで迷うことなく素早く完了し、最短1分でLCA/CFPが算定できます。アスエネは脱炭素ソリューション 導入社数No.1(※東京商工リサーチ調べ、2024年10月調査時点)なので、導入のしやすさも折り紙つきです。
カスタマーサクセスチーム含めた手厚いサポート体制
アスエネは、AIで脱炭素経営の手間を解放し、LCA/CFP算定・GHG削減コンサル・カーボンオフセット支援、サプライチェーン全体の報告や情報開示までを、フルサポートしています。カスタマーサクセスチーム、気候変動専門コンサルティングチームによる高度なコンサルティングや、AI-OCRによるデータ入力支援も好評です。
他社ソリューションには無いコストパフォーマンスの高さ
アスエネのソリューションを導入した企業からは、「多言語で利用でき、海外子会社のメンバーも使いやすいか、グローバルに収集した情報が連結管理しやすいか、コストパフォーマンスが良いか、という3点を重視した結果、アスエネ導入を決定した」「いくつかCO2排出量の見える化サービスがある中で、アスエネはシステムが使いやすく、一番コストパフォーマンスもよさそうだというのが第一印象でした」など、サービス品質のみならずコストパフォーマンスを評価する声が多く寄せられています。
出典:ASUENE株式会社 導入事例「エムスリー株式会社」
出典:ASUENE株式会社 導入事例「株式会社クラウン・パッケージ」
まとめ:LCA/CFPで中小企業が欧州市場を切り拓く
CBAMや欧州電池規則など環境規制が強化されつつある欧州市場では、LCA/CFPの算定・公開が必須となっています。中小企業にとっては算定負担の大きいLCA/CFPですが、他社に先駆けて取り組むことで、欧州市場進出・拡大の切り札となる可能性を秘めています。激動する欧州市場では、LCA/CFPが競争力の分水嶺となると目されており、企業規模にかかわらず、今こそLCA/CFP関連ソリューション導入を検討するタイミングであると言えるでしょう。
LCA/CFPを足がかりに、中小企業が欧州市場を切り拓く時代が目前まで来ています。その足がかりをより確かなものにするお手伝いを、ぜひアスエネにお任せください。