データセンターの再エネ化は、現代社会を支える重要なインフラが直面する課題に対する革新的な解決策です。データセンターの運営には多くのエネルギーが必要で、周囲の環境や地域に影響を与えます。しかし、再生可能エネルギーを活用することで、企業は環境への負担を減らしながら、持続可能な成長を実現できるようになります。ここでは、データセンターと環境が抱える課題を解説しながら、再生可能エネルギーを導入する具体的な戦略や、先進的な事例をご紹介します。未来を見据えた持続可能な経営を目指す企業にとって、再エネ化は競争力を向上させる革新的な手段となることでしょう。
INDEX
データセンターの負荷と周辺環境
データセンターは現代のデジタル社会を支える重要なインフラですが、その運用には電力消費の増加、冷却システムの負担、地域集中化の影響などの課題が伴います。ここでは、データセンターの現状について見ていきます。
増え続けるデータセンターの電力消費
近年、データセンターや半導体工場の新設や拡張に伴い、産業部門の電力需要が大幅に増加すると予測されています。具体的には、2024年度には最大電力需要が約48万kW増加、2033年度には537万kWに達するとされています。これにより、国内の消費電力量は2022年度の約8,000GWhから2030年度には17,000GWhと2倍以上に増加し、2050年度には41,200GWhと5倍以上に膨らむ見通しです。2022年度には国内全体の電力量の約0.8%を占めていたデータセンターも、今後さらにその存在感が大きくなるとみられています。
alt属性:国内データセンター年間消費電力
出典:経済産業省『国内データセンター市場におけるAI需要/地方分散/再エネ電源』p,5(2024/05/31)
出典:経済産業省『電力需給対策について』p,10.13.(2024/02/26)
冷却システムにかかるデータセンターの負担
生成AIの活用が広がる中、AI処理の中核を担うIT基盤としてGPUサーバーの需要が急速に拡大しています。これらのGPUサーバーは一般的なIAサーバーに比べて発熱量が多く、専用の冷却システムを必要とするほか、稼働時には騒音が大きく、消費電力も高いといった特徴があります。そのため、多くの場合データセンターに設置されることが一般的です。さらに、生成AIの発展がデータセンター需要にも直接的な影響を与えており、GPUサーバーを主眼に置いた新しいデータセンターの開発が進められています。このような背景のもと、冷却効率の向上や電力供給の最適化は、データセンター運用における重要な課題となっています。
alt属性:生成AI需要とデータセンターの関係性
出典:経済産業省『国内データセンター市場におけるAI需要/地方分散/再エネ電源』p,3.(2024/05/31)
データセンターの地域集中化
日本国内のデータセンターの約9割が関東や関西に集中しており、特に関東では千葉県印西市や東京都心、東京西部、神奈川県の一部に集約されています。このようなエリアでは電力不足が懸念されており、データセンターがここに集積する理由として、施設や機器管理の効率化や、データセンター間のネットワーク整備が挙げられます。一方で、地方には豊富な再生可能エネルギーのポテンシャルがあり、例えば静岡や大分付近では地熱発電が有望視されています。しかし、東京のような都市部では、土地の制約から再エネの活用が難しい状況です。また、洋上風力発電についても、三大都市圏から離れた海沿いにポテンシャルがあるものの、送電網の整備が課題となっています。こうした再生可能エネルギーを効率的に活用するためには、送電網の強化やデータセンターの地方誘致が必要です。データセンターを地方に分散させることで、再エネ活用を促進しつつ、電力供給の安定化にも繋がることが期待されています。
出典:経済産業省『国内データセンター市場におけるAI需要/地方分散/再エネ電源』p,7(2024/05/31)
出典:環境省『データセンターによる再エネ利活用の促進に関する アニュアルレポート』p,28.(2024/03)
なぜデータセンターに再エネが必要なのか?
データセンターの再エネ化は、環境負荷の軽減、電力制約の解消、そしてコスト増加の抑制という観点から重要です。これらの取り組みは、データセンターの持続可能な成長を支える鍵となります。
環境負荷を軽減
2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出と吸収を均衡させる「カーボンニュートラル」の実現を目指すことを宣言しました。この目標達成に向けて、デジタル領域の電力消費増加を考慮した戦略として、2030年までに新設データセンターの30%省エネ化を推進し、2040年にはデータセンター全体のカーボンニュートラルを実現する計画が掲げられています。また、地球温暖化対策計画では再生可能エネルギーの活用を進めたデータセンターの立地促進を目指し、2030年までに再エネ電源構成比率を36〜38%へ引き上げる方針も示されています。日本国内には再生可能エネルギー活用の可能性があるものの、その有効活用には送電網の強化や、民間企業による大胆な改革などが求められる状況です。未来志向の取り組みによって、持続可能な社会への道筋を描いていくことが期待されています。
出典:環境省『データセンターによる再エネ利活用の促進に関する アニュアルレポート』p,7.(2024/03)
電力制約を解消
デジタル分野の電力需要は2020年代後半から急増が予想されており、特にデータセンターやネットワークがその中心となると見られています。この背景にはデジタル領域への投資拡大があり、国内市場でも大幅な増加が期待されています。消費電力が最も多いデータセンターは、2017年時点で16.4TWhだったものが、2030年には約90TWhから150TWhへと5〜9倍に拡大すると推計されています。さらに、2021年10月には「第6次エネルギー基本計画」が閣議決定され、2030年度における電力構成目標が示されました。この計画では、再生可能エネルギーの割合を2022年時点の21.7%(218.7TWh)から2030年には37.0%(345.6TWh)に引き上げる方針が掲げられています。これらの施策は持続可能なエネルギー利用を推進し、未来志向のエネルギー構造を実現するための重要な取り組みとされています。
出典:環境省『データセンターによる再エネ利活用の促進に関する アニュアルレポート』p,12.13.21.(2024/03)
コスト増加を抑制
データセンターの省エネ施策は、コスト増加を抑制するために重要な役割を果たします。例えば、省エネ型ICT機器の導入は、消費電力を削減し、運用コストの低減に直結します。また、LED照明や人感センサーを活用することで、照明の無駄な電力消費を簡単に抑えることができます。冷却に関しては、空冷方式の効率化や再生可能熱エネルギー(外気、地下冷熱など)の利用が初期投資を抑えながらランニングコストを削減する手段として有効です。さらに、液冷システムの導入は高い冷却効率を実現しつつ、機器の故障を減らすことで長期的なメンテナンスコストも抑えられます。加えて、気流改善技術やAIを活用した冷却効率の向上は、エネルギーコスト削減の大きな一助となります。これらの取り組みを進めることで、環境負荷を軽減しつつ、コストの増加を最小限に抑えた持続可能な運用が可能になると考えられます。
出典:環境省『データセンターによる再エネ利活用の促進に関する アニュアルレポート』p,24.(2024/03)
データセンター再エネ化の具体的な方法
データセンターの再エネ化には、太陽光や風力といった再生可能エネルギーを活用する「オンサイト再エネの導入」や、再エネ電力を外部から調達する「電力購入契約(PPA)」が効果的です。また、地方に分散化することで災害リスクを軽減し、地域の再エネ資源を効率的に活用することが可能です。
オンサイト再生可能エネルギーの導入
電気料金は再エネ賦課金や燃料費の影響で上昇を続け、2022年度には燃料費の高騰により、産業用電力の平均単価が2021年の19.28円/kWhから27.55円/kWhへと大幅に上昇しました。一方で、オンサイトPPAは需要家が自社敷地内の屋上や空き地を提供し、発電事業者が自然エネルギー設備を設置・運用・保守する仕組みで、発電された電力を固定価格で長期契約する方法です。従来の電力契約は、電力調達コストに加えて託送料や燃料費調整額、再エネ賦課金が加算されるため、オンサイトPPAと比べて割高になりがちです。例えば、太陽光を活用したオンサイトPPAでは、1kWhあたりの発電コストが15~18円程度で済むのに対し、通常の電気料金では高圧契約で約20.5円、特別高圧契約で約18円(いずれも燃料費調整額を含む)に再エネ賦課金が追加されます。オンサイトPPAは、コストを抑えながら環境への配慮を実現する、持続可能で経済的な選択肢として注目されています。
出典:自然エネルギー財団『コーポレートPPAの 最新動向(2024年度版)』p,3.4.19.20.(2024/04/24)
電力購入契約(PPA)の活用
世界のRE100企業では、発電所から直接電力を調達するPPA(電力購入契約)が増加しており、2017年には全体の17%だったPPAの割合が2022年には31%に拡大しました。一方で、電力会社からの調達は同期間で35%から24%に減少しています。特に、GAFAMをはじめとするグローバルに展開するデータセンタープレーヤーは、証書購入やPPA、オフセットの取り組みを中心に再生可能エネルギーの導入を進めています。具体例として、Amazonは英国スコットランドで陸上風力50MWのオフサイトPPAを2021年に締結し、Digital Realtyは米国ノースカロライナで太陽光80MWのオフサイトPPAを2019年に、またテキサスで陸上風力118MWのオフサイトPPAを2021年にそれぞれ導入しています。これらの取り組みは、再エネ活用の拡大と持続可能なエネルギー利用の推進に寄与しています。ただし、海外事例では超大型の再エネプロジェクトが多く、需要地から離れた場所での再エネ利用が一般的です。一方で、国内のデータセンター事業者が再エネを活用するには、日本特有の事情を考慮した施策が必要です。
alt属性:RE100企業の主な再エネ調達手法の推移(世界)
出典:経済産業省『電力需要について』p,7.(2024/06/06)
出典:環境省『データセンターによる再エネ利活用の促進に関する アニュアルレポート』p,30.(2024/03)
データセンターの分散化
データセンターの再エネ化と分散化に向けた取り組みとして、再生可能エネルギーの活用や効率的な電力管理が進められており、特に地方への分散化が注目されています。立地選定では、災害耐性(レジリエンス)、脱炭素電源の活用、通信ネットワークの効率性が重視され、東京圏・大阪圏を補完する新たな中核拠点の整備が進行中です。2024年以降、関東圏を中心に北海道、西日本、九州エリアでの新設計画が進められ、地方の再生可能エネルギーを活用した地産地消型のエネルギー利用が期待されています。これにより、地域経済の活性化やカーボンニュートラルの実現が目指されています。
出典:経済産業省『電力需要について』p,13.(2024/06/06)
出典:経済産業省『電力需給対策について』p,19.(2024/02/26)
再エネ化を進める企業のデータセンター事例
最後に、データセンターの再エネ化を進める企業の取り組み事例をご紹介します。
株式会社インターネットイニシアティブ
通信インフラやネットワーク技術の総合プロバイダーの「株式会社インターネットイニシアティブ」は、自社データセンターで、太陽光発電設備を導入し、蓄電池を活用して電力需給の調整を行い、系統の安定化に貢献しています。国内に16拠点、海外にアメリカ、イギリス、シンガポールのデータセンターを所有しており、2030年度までにデータセンターの再エネ利用率を85%にすることを目標とし、自社保有データセンターでは100%を目指しています。また、既存のデータセンターに屋根置きの太陽光発電を導入することで、新たな土地開発を必要とせず、再エネポテンシャルを最大限に活用する取り組みを進めています。
出典:環境省『データセンターによる再エネ利活用の促進に関する アニュアルレポート』p,40.41.(2024/03)
北海道美唄市
北海道の美唄市は、ひと冬で累計10メートルもの雪が降り積もる豪雪地帯です。除雪に年間約4億円が費やされますが、これまでその雪を有効活用する方法はありませんでした。そんな中、画期的な技術が誕生し、都市の視点を大きく変えています。この技術では、泥やゴミが混じった除雪雪を、データセンターのサーバー冷却に直接利用します。その結果、冷房コストは従来型データセンターの半分以下に抑えられ、さらにCO2を一切排出せず、100%再生可能エネルギーでの運用が可能です。年間約20万トンの雪が活用されれば、将来的には3000ラック規模のサーバー冷却が実現します。さらに、データセンターで発生する排熱を農業や漁業へと活かす構想も進められています。この取り組みは、雪国特有の資源を活用した地域活性化の新たな希望として、大いに注目されています。
出典:政府広報オンライン『雪でデータサーバーを冷やす | | Highlighting Japan』(2022/01)
Amazon Web Service ジャパン合同会社
AWSクラウドと国内のデータセンターを運用する「Amazon Web Service ジャパン合同会社」は、国内で三菱商事を中心とした事業体とコーポレートPPA(電力購入契約)を締結し、再生可能エネルギーの供給体制を構築しています。この契約は、太陽光発電所約450か所(設備容量22MW)から電力を供給するもので、国内最大規模のPPA契約となっています。再エネ電力は、三菱商事グループによる電力小売やウェストHDの電源設置・卸売を通じてAmazonの国内データセンターに供給されます。土地所有者の投資を活かした発電所開発や、発電量の予測と需給バランスの調整には、アイルランド企業ElectroRouteの支援サービスが活用されています。この仕組みによって、再エネ特有の発電量の不安定さのリスクを最小限に抑えながら、安定的な電力供給を実現しています。この取り組みにより、AWSは再生可能エネルギーを活用した持続可能な運用を進め、データセンターの電力ニーズを満たしています。
出典:環境省『データセンターによる再エネ利活用の促進に関する アニュアルレポート』p,56.57.(2024/03)
まとめ:データセンターの再エネ化で持続可能性を追求する経営を
データセンターは現代のデジタル社会に欠かせないインフラですが、電力需要の増加や冷却負担などの課題を抱えています。これらを解決する鍵のひとつが再生可能エネルギーの活用です。例えば、施設内で太陽光や風力などの再生可能エネルギーを導入する「オンサイト再エネ」や、外部から再エネ電力を調達する「電力購入契約(PPA)」などの手法があります。これらを活用することで、発電量の変動や供給リスクを軽減しながら、安定したエネルギー利用が可能となります。さらに、データセンターを地方へ分散化することで、災害リスクを抑えると同時に、地域資源を効率的に活用できます。これにより、地域経済の活性化にも貢献できる可能性があります。持続可能なデータセンター運営は、環境負荷を削減しながら、企業の未来を切り拓く力となります。企業は、社会的責任を果たし、持続可能な成長を目指す新しい価値を創造しましょう。