経営・戦略

旅行・観光業における脱炭素化の重要性と未来への取り組み

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旅行・観光業における脱炭素化の重要性と未来への取り組み

旅行・観光業では、脱炭素化が重要な課題となっています。移動手段や宿泊施設、そして旅行中の活動が排出するCO2は、業界全体として環境負荷の軽減を求められる要因です。これにより、企業や地域は持続可能な観光の実現に向けて具体的な取り組みを加速させています。ここでは、旅行や観光業が環境に及ぼす影響を紐解き、持続可能な未来を目指す上で脱炭素化の必要性とそのメリットを探ります。また、旅行・観光業が迎えるこれからの展望、そして実際に脱炭素化に向けた企業の積極的な取り組みについても紹介します。

INDEX

旅行・観光業が与える環境への影響

まず初めに、旅行・観光業がもたらす環境への影響について具体的に探り、その現状と課題を明らかにしていきます。

最近の旅行者数は増加傾向

新型コロナウイルスの影響により、国内旅行は2020年以降、大きな打撃を受けました。しかし、2024年4〜6月期には延べ旅行者数が約1.5億人に達し、2019年同時期の88.6%まで回復しています。また、訪日外国人旅行者数も顕著な回復を見せています。特に、2021年にはわずか25万人まで落ち込んでいたものの、2023年には2507万人にまで大幅に増加し、さらに2024年の訪日外国人旅行者数は1〜8月の間、毎月2019年の水準を上回っています。これらの数字から、日本の観光業が確実に回復の軌道に乗っていることがわかります。こうした旅行需要の回復は経済面では歓迎される一方で、環境への影響についても改めて注目が集まっています。

日本人国内延べ旅行者数の推移

alt属性:日本人国内延べ旅行者数の推移

出典:国土交通省観光庁『我が国観光産業の現状と今後の展望』p,8.11.(2024/10/10)

活動の大量のエネルギー消費によるCO2排出

旅行・観光業は、運輸業や小売業、サービス業、農業など、多くの産業と密接に関わるグローバルな業界です。そのため地球環境に与える影響も大きいものとなっています。2008年に国連世界観光機関(UNWTO)、国連環境計画、世界気象機関(WMO)が発表した調査によれば、旅行・観光業に関連する温室効果ガスの排出量は、2005年時点で世界全体の排出量の約5%(1304メガトン)に上るとされています。内訳として、輸送が業界全体の排出量の約75%、宿泊が約21%を占めています。さらに、観光による輸送活動は、世界の輸送部門全体の排出量の約18%、また人為的な温室効果ガス排出量全体の約3.7%を占めていると言われています。

出典:TCVB公益財団法人東京観光財団『旅行・観光業 のための ネットゼロ・ ロードマップ』p,12.13.(2023/10/27)

旅行・観光業のCO2排出量

環境問題と観光業を研究するLenzen氏らによる2018年の調査では、観光業が排出する二酸化炭素量が2009年から2013年の間に3.9ギガトン(CO2換算)から4.5ギガトン(CO2換算)へと増加し、これは世界全体の温室効果ガス排出量の約8%に相当することが明らかになりました。この排出量の多くは輸送活動によるもので、具体的には航空が17%、道路輸送が14%、鉄道と水上輸送がそれぞれ1%、クルーズが0.6%を占めています。これらの輸送手段は観光地への移動や観光そのものに直結しており、観光の利便性を支える一方で環境負荷の原因となっています。また、その他の分野では、小売りが12%、飲食が9%を占めており、観光業による消費活動やサービス利用が関連しています。これらの数字から、観光業が多くの産業に支えられつつ、環境への影響も大きい産業であることが分かります。

出典:TCVB公益財団法人東京観光財団『旅行・観光業 のための ネットゼロ・ ロードマップ』p,12.13.(2023/10/27)

旅行・観光業界における脱炭素化の重要性とメリット

脱炭素化は旅行・観光業界における重要な取り組みです。気候変動対策としての社会的責任を果たしながら、サステナブルツーリズムの成長によるビジネスチャンスを獲得できます。また、ブランド価値を向上させ、環境意識の高い顧客から支持を得ることで、競争力を強化できます。

気候変動対策としての社会的責任

第29回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP29)では、観光業界に焦点を当てた「ツーリズムデー」が初めて開催され、気候変動が観光に与える影響や温室効果ガスの排出削減への取り組みが議論されました。その中で発表された「ツーリズムにおける行動強化に関するCOP29宣言」では、各国の気候目標における観光セクターの役割を明確にすることを求めています。具体的には、観光セクターからの二酸化炭素の排出量を減らし、気候変動に対する対応力を高めること、そして情報を分かりやすく公開することで信頼性を築きながら、観光を通じて環境に優しい食料生産や消費の仕組みを作り出していくことを目指します。

出典:気候変動適応情報プラットフォーム『COP29 気候変動適応特集!』(2025/01/17)

サステナブルツーリズムの成長に伴う新たなビジネスチャンス 

持続可能な観光、通称「サステナブルツーリズム」は、観光客、業界、自然環境、地域社会が調和を目指す新たな観光スタイルです。2004年に国連世界観光機関(UNWTO)が定義したこの概念は、環境や社会文化、経済に与える現在と未来の影響を配慮しつつ、観光客や地域のニーズに適応することを求めています。そして、地域活性化においては、旅行者が地域貢献に参加できる仕組みづくりが重要です。クラフトツーリズムを活用した伝統産業の発展、林業・農業と連携した体験型コンテンツの開発、地元産食材を活かした飲食メニューの提供などが、地域経済の好循環を促します。企業が他産業と結びつきながら持続可能性を追求することで、地域全体の成長を後押しする可能性が広がります。

出典:国土交通省観光庁『サステナブルな観光コンテンツの 実践に向けた事例集』p,5.12.32.(2023/03/17)

ブランド価値の向上や環境意識の高い顧客からの支持

東京観光財団の2024年調査によると、旅行者の約75%が今後1年間で持続可能な旅行を望んでいることが明らかになりました。こうした需要を受け、環境や社会への配慮を示す施設への関心が急速に高まっています。認証ラベルを取得した施設の優先的販売や、Google検索結果でそのラベル取得状況を表示する施策は、旅行者にとって施設を選びやすくすると同時に、信頼性やブランドイメージの向上を促します。また、金融面でも持続可能性が注目されています。例えば、「サステナビリティ・リンク・ローン」のような仕組みにより、環境や社会への配慮を行う企業や施設には経済的インセンティブが提供されます。具体的には、持続可能な活動を行う事業者が融資を受けやすくなることで、その取り組みの継続を支援する力となっています。このように、持続可能性を経済的動機と結びつけることで、企業の成長と地域社会の発展が共に進む可能性が広がっています。

出典:国土交通省観光庁『国際基準に対応した持続可能な観光にかかる 取組事例集』p,4.(2025/03)

旅行・観光業の今後の展望

旅行・観光業の将来は、政策や規制の動向、テクノロジーの進化、そしてグリーンインフラの整備が鍵を握っています。これらの分野では、観光地の持続可能性や快適さの向上が図られる一方で、中小企業や地域事業者が果たす役割もますます重要になっています。

政策・規制の動向

日本では、2012年から「地球温暖化対策税」が導入され、企業が燃料や電気を使用して排出するCO2に課税する仕組みが段階的に進められています。この炭素税をはじめとするカーボンプライシング制度は、企業の行動を変え、脱炭素化への取り組みを促す重要な政策手法です。排出量取引制度では、企業ごとにCO2の排出枠を設定し、枠を超えた企業が他企業から排出枠を購入する「キャップ&トレード方式」が採用されています。そして、航空分野では、温室効果ガス削減を目指した国際的な目標が進んでいます。2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標が、2021年に国際航空運送協会、2022年に国際民間航空機関(ICAO)によって合意され、日本も同年に公式に宣言しました。さらに、2016年にICAOは、新技術、運航改善、持続可能な航空燃料(SAF)の活用で排出量を削減し、不足分は炭素クレジットでオフセットする「CORSIA」を導入し、短中期目標として、2020年以降総排出量を増加させない方針を掲げています。

出典:経済産業省『我が国航空機産業の今後の方向性について』p,18.19.(2024/04/09)

出典:日本貿易振興機構ジェトロ『GXリーグで始まる新しい日本のカーボンプライシング | 新たなステージに入った世界のカーボンプライシング – 特集 – 地域・分析レポート – 海外ビジネス情報 』(2024/05/23)

テクノロジーの進化やグリーンインフラ整備

観光庁は、ICTやDXを活用して観光地や産業の価値を高める取り組みを推進しています。具体的には、デジタルマップの導入によって混雑を防止し、旅行者の消費を促進するほか、予約システムを整備して収益の拡大を図り、地域経済を支援しています。また、「グリーンインフラ推進戦略2023」に基づき、自然環境を活用して社会や環境の課題を解決するグリーンインフラを整備し、景観や歴史を活かしたまちづくりや自然・文化資源の保全を通じて、持続可能で地域に好循環を生み出す観光を目指しています。

出典:日本貿易振興機構ジェトロ『政府の取り組み | 観光 – 主要産業 – 対日投資 』(2024/03/01)

出典:国土交通省『グリーンインフラを取り巻く動向等』p,11.15.(2024/01/10)

中小企業や地域事業者の果たす役割とその支援策

観光客が快適でストレスフリーな旅行を楽しみつつ地域資源を活用・保全できる仕組みを支える中小企業や地域事業者は、地域の特色を活かした観光サービスや体験型プログラムを提供する重要な役割を担っています。そして、「地域における受入環境整備促進事業」では、観光施設や公共交通機関の整備、持続可能な取り組みに向けた設備導入、観光客へのマナー啓発、さらには国際認証取得地域への設備投資や公共交通の改善支援などを通じて、こうした事業者の活動を総合的に後押ししています。出典:国土交通省観光庁『令和7年度 観 光 庁 関 係 予 算 概 算 要 求 概 要』p,4.(2024/08/19)

旅行・観光業における脱炭素化へ企業の取り組み事例

京都府タクシー協会「DONATION TAXI」

一般社団法人京都府タクシー協会に加盟する3社では、電気自動車(EV)の導入と「ドネーションタクシー」の運用を通じて、脱炭素社会の実現を目指しています。このドネーションタクシーは、EVタクシーを利用した乗客の乗車距離に応じて1kmにつき10円を環境団体に寄付する仕組みで、寄付金はタクシー事業者が負担します。そのため、利用者は気軽にタクシーを使うだけで間接的に環境保全に貢献でき、より身近に感じられる取り組みとなっています。今後は、このような取り組みをさらに広めることが期待されており、観光客にはEVやハイブリッド車の利用を提案したり、移動にかかる一部の費用を寄付に充てる取り組みも進められています。こうした活動を通じて、持続可能な観光の推進や事業者としての価値向上を目指す姿勢が注目を集めています。

DONATION TAXI

alt属性:DONATION TAXI

出典:国土交通省観光庁『持続可能な観光に係る取組 ノウハウ集』p,48.(2023/03)

株式会社JTB「JTBカーボンニュートラル宣言」

日本の旅行会社「株式会社JTB」は、2050年までにCO2排出量ゼロを達成することを目指した「JTBカーボンニュートラル宣言」を発表し、持続可能な社会への貢献に取り組んでいます。その一環として、証票や契約の電子化を進めつつ、「CO2ゼロ旅行®」や「CO2ゼロMICETM」を提供しています。2019年度の調査では、CO2排出量の約8割が輸送手段、約2割が宿泊施設によるものでした。この課題に対し、JTBは事業パートナーとの連携を深め、調達改革やサービス改善、環境配慮型の選択肢の拡充に取り組んでいます。さらに、2022年6月に開始された「ESG-BTM」は、移動や宿泊のCO2排出量の算定や報告、カーボンオフセット認証を提供し、環境負荷削減と顧客価値向上を目指す出張管理サービスで、JTBは環境負荷削減と顧客価値向上の両立を目指しています。

出典:World Travel & Tourism Council, WTTC『共同研究 A NET ZERO ROADMAP FOR TRAVEL AND TOURISM から読み解く 脱炭素に向けた具体的アクションの考』p,33.(2023/11/08)

株式会社古湧園

道後地区で物販事業や飲食店などを運営する「株式会社古湧園」は、愛媛県初の環境対応型ホテル「ホテル古湧園 遥」を展開し、クリーンエネルギーを活用した環境配慮型運営を先駆けて実施しています。特に、脱炭素事業に注力し、「令和4年度愛媛ふるさと環境大賞」や「えひめSDGsアワード2023」を受賞しました。また、ホテルの設計ではZEB(基準1次エネルギー消費量を50%以上削減する設計)を採用、さらに、四国初の試みとして壁面斜面地に太陽光パネルを設置し、年間200万円程度のコスト削減を実現しました。そして、2024年度には全体エネルギー使用量の15%を再生可能エネルギーで賄い、2050年までに再生可能エネルギーのみで運営することを目標としています。

出典:愛媛県庁『「人にも環境にもやさしい」をコンセプトに クリーンエネルギーを活用した環境対応型ホテルを運営 | 取組事例の紹介 | 事業者の皆さまへ | えひめ脱炭素ポータルサイト みんなでかんがえよう愛媛のこれから』(2024/12/25)

「国立公園満喫プロジェクト」(日本)

日本の国立公園では、ブランド価値向上により観光客を引きつけ、質の高い自然体験の提供を目指しています。この「国立公園満喫プロジェクト」を通じて、地域の団体や企業が協力し、経済活性化と環境保全の好循環を実現しています。また、環境を守りながら脱炭素化を進めるため、「ゼロカーボンパーク」として特定のエリアを位置づけ、再生可能エネルギーの活用や省エネ化、脱炭素型のモビリティ導入などの取り組みを推進しています。さらに、国立公園の枠を越えた周辺エリア全体で脱炭素化を進めると同時に、利用者への普及啓発活動も展開されています。これにより、自然の保全と地域の活性化を調和させながら、未来につながる観光地づくりを実現しています。

出典:内閣府ホームページ『国立公園における自然を活かした インバウンドの回復に向けて』p,1.3.(2021/09/10)

Responsible Travel Ltd.(イギリス)

英国のResponsible Travel社は、自らを「アクティビスト・トラベル・カンパニー」と名乗り、5,000以上の環境に配慮した旅行プランを提供する先駆的な存在です。2002年にはいち早くカーボンオフセット商品の提供を開始し、旅行者が利用する移動手段や距離、現地での活動に伴うCO2排出量を総合的に計算する仕組みを導入しました。さらに、旅行中の食事が移動や宿泊以上にCO2排出につながる場合があることを指摘し、植物由来の食品や地元の旬の食材を取り入れること、そして食品廃棄物の削減を積極的に進めています。同社の調査では、小規模な持続可能型宿泊施設が大手ホテルチェーンに比べて排出量を4分の1に抑えられることが判明。また、食事・交通・宿泊の選択を気候変動に配慮したものに変えると、旅行の1日あたりの排出量が英国平均20kg(CO2換算)の約半分に減少する可能性があります。Responsible Travel社は、こうした取り組みを通じて、気候変動への影響を抑えながら、観光業の持続可能な未来を築こうとしています。

出典:World Travel & Tourism Council, WTTC『共同研究 A NET ZERO ROADMAP FOR TRAVEL AND TOURISM から読み解く 脱炭素に向けた具体的アクションの考』p,26.(2023/11/08)

まとめ:業界全体で環境責任を持ち協力して環境負荷を減らす革新と実践を

旅行・観光業は世界の温室効果ガス排出量の約8%を占め、その多くが輸送活動に由来しています。国内旅行や訪日外国人旅行者数の増加が観光業を回復させる一方で、気候変動への影響を考慮した脱炭素化が重要な課題です。脱炭素化を進めるには、気候変動対策への責任を果たすだけでなく、サステナブルツーリズムによる新たなビジネスチャンスを活かし、ブランド価値を高めて環境意識の高い顧客から支持を得ることが求められます。まさらに、政策や規制、テクノロジー、グリーンインフラを活用し、中小企業や地域事業者と連携して持続可能な観光を実現する取り組みが必要です。これらの取り組みを通じて、企業は環境への責任を果たしながら、持続可能な観光業を目指す姿勢を示し、社会的価値を向上させましょう。

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