環境省のLD-Tech認証制度について、わかりやすく解説します。カーボンニュートラル実現に向けてエネルギー消費、ひいてはCO2排出量削減につながる最先端技術を認証するLD-Techは、今後設備や機器の導入における重要な評価ポイントとなっていく可能性があります。各メーカーはもちろん、ユーザーとしても注目すべき制度と言えるでしょう。本記事ではLD-Techの概要やよくある疑問、認証制度の現状や今後について取り上げます。
INDEX
LD-Techの概要
LD-Techは、環境省が推進する先導的な脱炭素技術の総称です。LD-Techの概要について解説します。
LD-Techとは
LD-Techは「Leading Decarbonization Technology」の略称で、「2050年カーボンニュートラルに向け、エネルギー起源CO2の排出削減に最大の効果をもたらす、先導的な脱炭素技術」と定義されています。「先導的」とは適用されている技術、または技術の組合せや適用方法に先導性が認められることを意味します。また「脱炭素技術」とはエネルギー消費量削減又はCO2排出削減についての最高性能「LD-Tech水準」を有する設備・機器を指しています。
出典:環境省「環境省LD-Tech認証制度の概要」p1(2024/4)
環境省LD-Tech認証制度とは
2020年に日本政府は2050年までのカーボンニュートラルを目指すことを宣言、さらに2021年には、2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目指すことなどを表明しました。そこで環境省では具体的なアクションの一つとして、2021年「環境省LD-Tech認証制度」を創設しました。この制度はさまざまな分野の設備・機器を対象に、当該年におけるエネルギー消費量削減又はCO2排出削減の最高性能をLD-Tech水準として設定し、その水準に適合する製品(型番)を認証した上で情報発信するものです。具体的には環境省LD-Techリスト・環境省LD-Tech水準表・環境省LD-Tech認証製品一覧を毎年度更新する形で運用されます。認証製品の普及を図ることで、2050年カーボンニュートラル実現を推進することが狙いです。
alt属性:環境省LD-Tech認証マーク
出典:環境省「環境省LD-Tech認証製品のご案内」p1
出典:環境省「環境省LD-Tech認証制度の概要」p2(2024/4)
出典:環境省「環境省LD-Techロゴマーク・認証マーク」
環境省LD-Tech認証が企業に与える影響
環境省LD-Tech認証によってメーカー企業は、脱炭素面での高性能化に向けた技術開発を促されます。また地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)では事業者に対し、温室効果ガスの排出の抑制等に資するものの選択を求めていますが、設備や機器を導入する側の企業にとっては、LD-Tech認証を受けた製品を選定することで自ずと温対法対策となります。このようにLD-Techの提供・導入それぞれにおいて、メーカーとユーザーがいずれも脱炭素への取り組みを外部へアピールする手段として活用できます。PRできるでしょう。また融資の判断材料としても、LD-Techは有効に機能することが期待されます。
出典:環境省「環境省LD-Tech認証制度のビジョンと活用方法」p5-6,10(2024/8)
出典:環境省「温室効果ガス排出削減等指針に沿った取組のすすめ~中小事業者版~」p14(2023/10)
環境省LD-Tech認証制度のよくある質問
環境省LD-Techは比較的新しい制度であり、まだ市場への普及・浸透の余地があります。環境省LD-Tech認証制度に関してよくある質問を取り上げます。
認証取得のプロセスは?
LD-Techの認証は、おおむね以下のようなプロセスを経て取得することとなります。
【環境省LD-Techリスト・環境省LD-Tech水準表】
(1)脱炭素技術の情報について、民間企業や団体等から個社提案募集(7-9月 ※9月上旬以降に提出されたものは、翌年のリスト・水準表に反映)
(2)提案審査(9-10月)
(3)意見募集(10-11月)
(4)リスト・水準表に掲載(12-1月)
【環境省LD-Tech認証製品一覧】
(1)日本法人が製造又は販売する製品のうち、同年度の「環境省LD-Tech水準表」に示す環境省LD-Tech 水準を満たす製品を募集(12-1月)
(2)提案審査(1-3月)
(3)製品一覧への掲載(3月)
なおこれらの認証は毎年更新され、たとえば「水準表」では最高性能を有する製品がA社からB社へ変わるということもありえます。しかしこれによって、CO2削減に対する業界全体の技術革新が促される効果もあります。
出典:環境省「環境省LD-Tech認証制度」
出典:環境省「環境省LD-Tech認証制度の詳細について」p8(2024/8)
個社提案と認証製品募集の違いは?
個社提案は、「環境省LD-Techリスト」又は「環境省LD-Tech水準表」に掲載されていない技術情報や、見直しが必要な技術情報について、各メーカーや業界団体からの提案を募集し、その内容を基にリストや水準表の情報を拡充・更新するのが目的です。これに対し認証製品募集は、該当年度の「環境省LD-Tech水準表」に基づく環境省LD-Techの製品認証に向けた製品情報を募集し、該当年度の「環境省LD-Tech認証製品一覧」としてとりまとめることが目的となっています。
出典:環境省「環境省LD-Tech認証制度に関するFAQ」p6(2024/4)
LD-Tech認証とLD-Tech Oriented認証の違いは?
現時点の技術水準では稼働エネルギー源の電化が困難、あるいは脱炭素化された燃料が商用化されていない設備・機器等のうち、大幅なCO2削減に資すると考えられる高効率の製品(型番)は「LD-Tech Oriented」として認証されます。これは現状では電化できない分野や地域においても、可能な限りの脱炭素化を促進することが目的です。LD-Tech認証とLD-Tech Oriented認証はあくまでユーザーにおける製品選択の参考情報の位置づけであり、両者に認証取り扱い上の差などは設けられていません。
出典:環境省「環境省LD-Tech認証制度の概要」p9(2024/4)
出典:環境省「環境省LD-Tech認証制度に関するFAQ」p14(2024/4)
環境省LD-Tech認証制度の現状と今後
環境省LD-Tech認証制度では、既に多くの技術や製品が認証を受けています。制度の現状や今後について解説します。
2023年度の認証状況(種類別)
2023年度の環境省LD-Tech認証製品一覧を種類別に集計すると、以下の通りとなります。
分野 | 分類 | 製品数 |
産業・業務(業種共通) | 熱源・空調機(ヒートポンプ・中央方式) | 495 |
ボイラ | 297 | |
空調機(ヒートポンプ・個別方式) | 152 | |
電気系給湯器 | 152 | |
冷凍冷蔵機器 | 95 | |
熱源(ヒートポンプ) | 54 | |
コージェネレーション | 42 | |
その他 | 150 | |
(小計) | 1,437 | |
家庭 | 窓 | 71 |
燃焼式給湯器 | 18 | |
コージェネレーション | 4 | |
太陽熱給湯機 | 3 | |
電気系給湯器 | 1 | |
その他 | 4 | |
(小計) | 101 | |
産業(業種固有) | 熱処理機 | 18 |
乾燥機 | 15 | |
その他 | 20 | |
(小計) | 53 | |
エネルギー変換 | バイオマス発電 | 4 |
熱輸送 | 4 | |
地熱発電 | 2 | |
(小計) | 10 |
製品数の合計は1,601におよびますが、一覧には詳細な型番や性能、問い合わせ先まで掲載されています。
2023年度の認証状況(企業別)
同じく2023年度の環境省LD-Tech認証製品一覧を企業別に集計すると、以下の通りとなります。
企業名 | 掲載製品数 |
三菱重工サーマルシステムズ株式会社 | 226 |
株式会社ヒラカワ | 148 |
株式会社前川製作所 | 131 |
日本キヤリア株式会社 | 122 |
三菱電機株式会社 | 112 |
ダイキン工業株式会社 | 104 |
その他 | 758 |
掲載企業は全部で42社ありますが、掲載製品数が100以上の企業のみ抽出させていただきしました。もちろん製品数を競うというものではありませんが、あくまでもサンプルということでご理解容赦ください。このように多くの企業がLD-Tech認証制度へエントリーしています。
LD-Techを活用している支援策
環境省LD-Tech認証制度を活用している施策として、令和6年度は「工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業(SHIFT事業)」「建築物等のZEB化・省 CO2 化普及加速事業の一部」が実施されました。いずれも環境省LD-Tech認証製品一覧に登録されている設備機器を補助対象として導入することを条件に、補助金の採択審査において加算評価するというものです。今後もLD-Tech認証制度を活用した補助金、助成金、審査時の加点要素、税額控除、導入時の優遇制度などの登場が期待されます。
出典:環境省「環境省LD-Tech認証制度を活用している取組・支援策の一覧」
LD-Tech認証の活用方法
LD-Tech認証制度は上述の通り、国や地方自治体の各種補助制度などで優遇対象としての活用が広がる可能性があります。また自治体やユーザーの「脱炭素性能の高い製品の詳細情報を手間なく収集したい」というニーズに対しLD-Tech認証製品一覧を参照したり、メーカー企業の「より水準の高い脱炭素設備・機器を開発し、市場へアプローチする」という課題に対してLD-Techリストや水準表がベンチマーク対象として機能するなど、LD-Tech認証制度は今後さらに利用シーンが拡大するでしょう。
出典:環境省「環境省LD-Tech認証制度のビジョンと活用方法」p10(2024/8)
まとめ:環境省LD-Tech認証制度を活用して、脱炭素社会の実現に向けた設備の普及へ取り組む
2021年にスタートした環境省LD-Tech認証制度は、日本国内の脱炭素化推進へ着実に役割を担いつつあります。根拠なく「エコ」を標榜する商品やサービスも多く見られる中、信頼ある機器・設備の普及を推進するこの制度の意義は大きいと言えます。既に多くの技術や製品が認証を受け、さらにテクノロジーの進歩に合わせ毎年アップデートされています。
環境省のLD-Tech認証制度を活用して、脱炭素社会の実現に向け適切な設備・機器の普及・導入拡大へ取り組みましょう。