環境を考慮した学校施設「エコスクール」について、わかりやすく解説します。エコスクールという言葉はいくつかの意味で使われていますが、本記事で取り上げるのは日本の文部科学省の施策です。エコスクールによって環境教育はもちろん、地域社会への貢献などさまざまなメリットが期待されています。エコスクールとはどのような施策なのか、エコスクールは現在どのような状況にあるのかなどについて概括し、具体的なエクスクールの事例もご紹介します。
INDEX
環境を考慮した学校施設「エコスクール」の概要
エコスクールは、文部科学省が推進する施策です。その概要をご紹介します。
エコスクールとは
エコスクールとは文部科学省が掲げている施策で、環境負荷の低減や自然との共生を考慮した学校施設を整備し、環境教育の教材として活用するというものです。さらにエコスクールは、児童生徒に限らず地域における環境・エネルギー教育の発信拠点となって、各地域における地球温暖化対策の推進や啓発といった役割を果たすことも期待されています。
エコスクールは、「施設面(やさしく造る)」「運営面(賢く・永く使う)」「教育面(環境に関する学習に資する)」という3点を備えることが求められます。
なお「エコスクール」は、一般的に「環境教育プログラム」という意味でも使われることがあります。文部科学省のエコスクールも環境教育プログラムに活用されることがあるでしょうからややこしいのですが、環境教育プログラムの意味で「エコスクール」という場合は、必ずしも学校施設は関係しません。世界54カ国・地域で1,000万人以上の児童・生徒がエコスクールプログラムに取り組んでいるとも言われており、両者を混同しないように気を付けましょう。
出典:文部科学省「エコスクールの基本的な考え方」(2010/2)
出典:FEE JAPAN「エコスクール」
エコスクール・プラスとは
エコスクール・プラスとは、学校設置者である市町村等がエコスクールとして整備する学校を、文部科学省、農林水産省、国土交通省、環境省が連携協力し「エコスクール・プラス」として認定するという制度です。それまで「エコスクールパイロット・モデル事業」を展開していましたが、2017年度より事業名が「エコスクール・プラス」へ改称となりました。エコスクール・プラス認定校は、各省庁から以下の支援を受けることができます。
建物等の整備について所要の経費を補助 | 文部科学省 |
林業・木材産業成長産業化促進対策の一部を用いて補助 | 農林水産省 |
環境・ストック活用推進事業の一部を用いて補助 | 国土交通省 |
地球温暖化対策関係予算の一部を用いて支援 | 環境省 |
エコスクール・プラスとして認定される事業は以下6種類で、複数を併用することもできます。
・新エネルギー活用型(太陽光発電、太陽熱利用、その他新エネルギー活用)
・省エネルギー・省資源型
・自然共生型
・木材利用型
・資源リサイクル型
・その他
出典:文部科学省「エコスクール・プラス」
出典:文部科学省「エコスクール・プラス実施要項」
エコスクール・プラスの認定状況
エコスクール・プラスは2017年~2025年まで累計で343校認定されています。年度別の推移は以下の通りです。
年度 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025 |
校数 | 41 | 55 | 47 | 55 | 39 | 12 | 13 | 49 | 32 |
事業種類としては、太陽光発電型+省エネルギー・省資源型が多く見られます。
出典:文部科学省「エコスクール・プラスの認定校一覧」p1-8
出典:文部科学省「エコスクールの認定実績」
エコスクールを取り巻く環境
毎年度平均38校がエコスクール・プラスの認定校となっていますが、日本全体における環境教育や学校施設の環境対策は、どのような状況にあるのでしょうか。
環境教育の推進
「環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律」に基づき2018年に閣議決定した「環境保全活動、環境保全の意欲の増進及び環境教育並びに協働取組の推進に関する基本的な方針」では、環境教育の重要性・目標・内容・手法とその実現のための施策に関する方向性が示されています。2017年には小・中学校の学習指導要領が改訂され、環境に関する教育の内容充実が図られました。環境教育においては体験活動が重視されるため、エコスクールをはじめとする学校施設や、自然環境、伝統的な文化など地域の資源を活用することが有効です。
出典:文部科学省「環境を考慮した学校施設づくり事例集」p7-8(2022/3)
学校への再生可能エネルギー設備設置状況
文部科学省が2021年に実施した調査では、再生可能エネルギー設備が設置された公立学校施設は全国で11,456校に上っています。特に公立の小中学校における太陽光発電設備の設置率については、2018年度の31.0%から2021年度は34.1%に増加していることがわかりました。
文部科学省では学校施設について、屋根や外壁の高断熱化や高効率照明などの省エネ化、太陽光発電などの導入により、年間のエネルギー消費量の収支をゼロにすることを目指したZEB(Net Zero Energy Building:省エネによって使うエネルギーを減らし、創エネによって使う分のエネルギーをつくることで、エネルギー消費量を正味ゼロにすることを目指した建物のこと)化の推進が重要であると考えており、太陽光発電設備50~100kWを設置することを推奨しています。
出典:文部科学省「再生可能エネルギー設備等の設置状況に関する調査結果(概要)」p1-2(2021/5/1)
出典:文部科学省「再生可能エネルギー設備等の設置状況」
出典:環境省「1. ZEBとは?」
学校施設における木材の使用状況
文部科学省は、2023年度における公立学校施設の木材利用状況調査を実施しています。その結果、当該年度に新しく建築された学校施設 691 棟のうち70.3%を占める486 棟が木材を使用していることがわかりました。また同年度に整備(新築+改修)された学校施設では、36,813立方メートルの木材を使用しており、その内35.5%が木造施設、64.5%が非木造施設の内装木質化等において使用されていました。
文部科学省では学校施設への木材使用によって「学習環境改善」「地場産業活性化」「地域の風土や文化への調和」「地球環境の保全」などの効果があるとして、木材の利用を推奨・推進しています。
出典:文部科学省「公立学校施設における木材利用状況調査の結果をお知らせします」p1-2,7(2025/1/14)
エコスクールの課題
エコスクールは、施設を整備する段階で環境へ配慮するだけではなく、その後も継続的に活用していくことがポイントとなります。ある市区町村の例では、設備や学習施設としてうまく活用できているのは庇・バルコニーや雨水利用貯水槽で、屋上緑化や壁面緑化、ナイトパージなどはうまく活用できていないというヒアリング結果が出ています。その理由として、屋上緑化や壁面緑化などは維持や管理が大変であることが挙げられます。こうした課題をクリアするためには、計画段階から将来を見据え、技術者による支援、地域産業との連携、地域住民の協力などの体制を整えていくことが重要です。
出典:文部科学省「環境を考慮した学校施設づくり事例集」p13-15
エコスクールの事例
環境に配慮した学校施設「エコスクール」は各地で認定されていますが、その中からいくつかをご紹介します。
南富良野小学校(北海道)
北海道の南富良野町立・南富良野小学校は、豪雪地帯にあるため、「地産地消エネルギー」構築の一環として地元で発生する林地残材を暖房の燃料として利用できる「木質チップボイラー」を採用しています。校内でボイラーを見学するほか、森林組合などの協力を得て、森林学習や木材チップ工場見学など、町全体をフィールドにした環境教育を実施している点が特徴です。また自然エネルギーへの関心を高めることを目的として、1階職員室前の廊下に太陽光発電設備による発電量がわかる大型モニターを設置しています。
出典:文部科学省「環境を考慮した学校施設づくり事例集」p20-21(2022/3)
篠崎第三小学校(東京都)
東京都の江戸川区立篠﨑第三小学校は、地産材や木の廃材の活用、高窓設置による自然通風や採光の確保、校内電力の8~10%程度をカバーする太陽光発電設備設置など、随所に環境配慮が見られる学校です。そのためエコスクールの施設・設備を紹介する、イラスト付きの解説パネル「環境サイン」を校内各所に設置し、日常生活を通じて自然に環境への意識が高まることを企図しています。また隣接する篠田堀親水緑道を活用して水辺の生物について授業を実施、篠田堀の自然との調和について学んでいます。
出典:文部科学省「環境を考慮した学校施設づくり事例集」p24-25(2022/3)
グリーンスクール(バリ島)
海外の類似事例についても、ご参考までにご紹介しましょう。インドネシアのバリ島にあるその名も「グリーンスクール」は、ジャングルの中にある学校で、校舎は竹でできています。これは環境教育のために敢えてそのようにしているもので、生徒はここで持続可能性について学ぶことができます。グリーンスクールにはソーラーパネル、水濾過システム、廃棄物管理センター、コンポストステーションなど、環境に配慮した設備が数多く備わっており、自然との共生を深いレベルで体験することができます。
まとめ:環境を考慮した学校施設「エコスクール」を拡大し、環境教育の推進を図る
環境に配慮した学校施設「エコスクール」は、文部科学省の推進する環境教育施策です。再生可能エネルギー導入など施設自体が環境に配慮したものであるのと同時に、そこで行われる環境教育も充実している点がエコスクールの特徴です。多くのエコスクールでは地域との連携が図られ、児童や生徒に持続可能性について考える機会を与えています。
各地域の行政や産業と連携し、環境を考慮した学校施設「エコスクール」を拡大させ、環境教育の推進を図りましょう。