使い捨てプラスチックは、世界中で深刻な課題となっています。各国の状況を見ると、世界中で使い捨てプラスチックの廃棄量が増え続ける中、EUがプラスチック税を導入し、日本でもリサイクル促進を進めるなど、それぞれの国が独自の方法で問題解決に向けて動き出しています。本記事では、プラスチックを取り巻く現状について、環境への影響を見ながら、各国がどのように使い捨てプラスチック問題に取り組んでいるのか、その対策や状況を詳しく解説します。
INDEX
プラスチックを取り巻く現状
プラスチックは私たちの生活のあらゆる場面で利用され、その利便性から不可欠な素材となっています。しかし、その一方で、プラスチックに関わる環境問題が深刻化している現状も無視できません。ここでは、プラスチックを取り巻く現状について見ていきます。
世界のプラスチック廃棄物量
経済協力開発機構(OECD)の報告書「グローバル・プラスチック・アウトルック:2060年までの政策シナリオ」によると、世界のプラスチック廃棄物は2019年の3億5,300万トンから、2060年には約3倍の10億1,400万トンに増えると予測されています。この増加に伴い、環境へ漏出するプラスチック廃棄物の量は2060年には年間4,400万トンに倍増し、湖、河川、海洋に堆積する量も3倍以上になると予想されています。これらの予測からも、プラスチック廃棄物の適切な管理がより一層重要になることがわかります。
alt属性:年間のプラスチック廃棄物量(予測)
出典:環境省『令和6年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部第1章第1節 直面する環境の危機と我が国における経済社会の構造的な課題』(2024/06/30)
日本のプラスチック廃棄物量
令和4年度のデータによれば、日本の産業廃棄物の排出量は370,218千トンにのぼりました。そのうち、廃プラスチック類は7,105千トンで、全体の1.9%を占めています。この廃プラスチック類の排出量は、前年度(7,351千トン)と比べて減少傾向にあります。その一方で、国連環境計画(UNEP)の報告によると、2015年のプラスチック生産量において、レジ袋やストロー、商品のパッケージなどを含む容器包装セクターが全体の36%を占め、最も大きな割合を占めていることがわかりました。また、1人当たりのプラスチック容器包装の廃棄量を国別で比較すると、日本はアメリカに次いで2位となり、年間約32キログラムと報告されています。
alt属性:産業廃棄物の種類別排出量(令和4年度実績値)
出典:環境省『令和5年度事業 産業廃棄物排出・処理状況調査報告書 令和4年度速報値(概要版)』p,25.26.(2024/03)
出典:日本財団ジャーナル『日本人のプラごみ廃棄量は世界2位。世界の「脱プラスチック」の動き 』(2022/09/30)
プラスチックが環境に与える影響
プラスチックは利便性が高い一方で、地球温暖化の進行や海洋環境の悪化など
環境へ与える重大な影響が隠されています。
二酸化炭素排出による地球温暖化への影響
近年、地球温暖化が進行し、その影響として森林火災や洪水、干ばつなどの異常気象が世界各地で発生しています。この温暖化の一因には、石油由来のプラスチックが大きく関わっています。プラスチックの製造や焼却では、多量の二酸化炭素が排出され、温室効果ガス問題を悪化させています。一方で、廃棄物処理の取り組みによる改善も進んでおり、プラスチック類の焼却量は着実に減少傾向を見せています。例えば、2013年度から2018年度にかけて、焼却量が約208千トン減少し、これによりCO2排出量は約14.8万トン削減されました。
出典:日本財団ジャーナル『日本人のプラごみ廃棄量は世界2位。世界の「脱プラスチック」の動き 』(2022/09/30)
出典:環境省『2023年 環境省』p,13.14.(2023/11/19)
出典:環境省『廃棄物分野における 地球温暖化対策について』p,15.(2021/04/08)
海洋プラスチックによる生態系への影響
放置されたプラスチックごみは河川を通じて海へ流れ込み、海洋プラスチックごみとして蓄積されます。特に5㎜未満の微細な「マイクロプラスチック」は、生態系や海洋環境に深刻な影響を与えるほか、漁業や観光産業などにも悪影響を及ぼしています。そして、2019年の調査では、環境中に流出したマクロプラスチックの量は約1,940万トンに達し、そのうちアジアが主要な排出地域とされています。さらに、マイクロプラスチックでも約4割がアジアからの排出であり、この問題の規模が示されています。この課題への対応には、全ての国が参加する国際的な連携が不可欠です。企業としても、この問題を解決するために責任ある行動が求められています。
alt属性:2019年 環境中(水域・陸域)へのマクロプラスチック流出
出典:環境省『共通課題に係る環境省等における検討・取組』p,7.(2023/01/28)
出典:環境省『海洋プラスチックごみ | ecojin(エコジン)』(2023.07.11)
プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(日本)
日本では、プラスチックの課題に対応し、持続可能な社会への転換を目指すために、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が制定されました。
プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律とは
「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」は、製品の設計段階から廃棄物の処理に至るまで、企業や自治体、消費者などすべての関係主体が協力し、プラスチック資源の循環利用(3R+Renewable)を促進することを目指しています。この法律は、海洋プラスチックごみ問題や気候変動への対応、諸外国による廃棄物輸入規制の強化をきっかけに、国内でプラスチック資源循環をさらに推進する必要性が高まったことを受けて制定されました。これにより、多様なプラスチック製品の利用を見直し、より包括的かつ計画的な資源循環体制を構築することが求められています。具体的には、環境配慮型の製品設計によるプラスチック廃棄物の排出抑制と再資源化の促進、使い捨てプラスチック(ワンウェイプラスチック)の使用合理化による持続可能な使用形態への移行、さらに廃棄物の分別収集や自主回収、再資源化の推進を通じて、企業は資源循環型社会の実現に重要な役割を果たしながら、競争力を高めつつ社会的責任を果たすことが求められています。
出典:環境省『プラスチック資源循環の促進について』p,2.(2024/09/04)
国が認定するエコデザインで消費者が選べる社会へ
国は、環境に配慮した優れた製品設計を認定し、消費者がそれらを選びやすくなる仕組みづくりを進めています。この取り組みでは、すべてのプラスチック使用製品を対象に、製造事業者向けの設計指針を提示し、環境負荷を抑えるための具体的な方向性が示されています。例えば、素材の削減や再使用の促進、リサイクルしやすい再生プラスチックや代替素材の活用、製品の長寿命化や分解・分別のしやすさを考慮した設計が含まれています。さらに、特に優れた設計が認定された製品は、国が積極的に調達を進める方針であり、現在、製品分野ごとの認定基準が策定されています。このような取り組みにより、企業は環境対応を通じて持続可能な社会の実現に貢献すると同時に、競争力の向上も期待されています。
出典:環境省『プラスチック資源循環の促進について』p,3.(2024/09/04)
ワンウェイプラの見直し
国は、フォークやスプーン、ストロー、ヘアブラシ、カバー類などの使い捨てプラスチック(ワンウェイプラ)の使用削減を進め、持続可能なライフスタイルへの移行を目指しています。具体的には、使い捨てプラスチックの削減目標を設定し、ポイント還元や有料化、代替素材への切り替えといった取り組みを計画的に進めることが求められています。また、年間提供量が5トン以上の事業者(約10店舗規模相当)は、取り組みが不十分な場合、指導や公表、命令の対象になる場合があります。対象製品は、フォーク、スプーン、ストローが小売業、飲食業、宿泊業に該当し、ヘアブラシや歯ブラシは宿泊業、衣類用ハンガーやカバーは小売業やクリーニング業が対象です。また、これらの業種に関連する事業を一部でも行っている場合、その事業範囲も対象に含まれます。
出典:環境省『プラスチック資源循環の促進について』p,6.(2024/09/04)
マイボトルなどの利用で”使い捨てプラスチック”問題は緩和できる
私たちの生活に欠かせないプラスチック製品。でも、何気なく使っているスプーンやストローなどの使い捨てプラスチックは、深刻な環境問題を引き起こしています。
「世界のプラスチック廃棄物は2019年の3億5,300万トンから、2060年には約3倍の10億1,400万トンに増えると予測されています。」(出典:環境省『令和6年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部第1章第1節 直面する環境の危機と我が国における経済社会の構造的な課題』)
このまま使い捨てを続けていけば、地球はプラスチックごみで埋め尽くされてしまうかもしれません。しかし、諦める必要はありません。実は、日々のちょっとした習慣を変えるだけで、誰でも簡単にプラスチック対策に参加できるのです。
今日からできる!使い捨てプラ対策アクション
難しく考える必要はありません。普段使っているあのアイテムを、少し意識して**「繰り返し使えるもの」**に替えてみましょう。
- 食事の際には「マイ箸・マイカトラリー」を: コンビニやテイクアウトでもらうプラスチックスプーンやフォークの代わりに、お気に入りのマイ箸やマイカトラリーを持ち歩きませんか?デザインも豊富で、食事の時間がより楽しくなります。
- 飲み物には「マイボトル・マイカップ」を: ペットボトル飲料やコーヒーショップの使い捨てカップは、年間で膨大な量になります。マイボトルやマイカップを持ち歩く習慣をつければ、無駄なプラスチックを減らせます。保温・保冷機能付きのものを選べば、一年中快適に利用できます。
- テイクアウトには「リユース容器」を: お弁当や惣菜をテイクアウトする際、お店によってはリユース可能な容器を選べることがあります。積極的に利用してみましょう。また、最近では自分の容器を持参できるお店も増えています。
- 買い物には「エコバッグ」を: レジ袋の有料化が進んでいますが、繰り返し使えるエコバッグを持参するのはもはや当たり前。コンパクトに畳めるものを選べば、持ち運びも邪魔になりません。
- その他、こんな使い捨てプラにも意識を!
- ストロー: マイストローを持ち歩く、または直接飲むという選択肢も。シリコン製やステンレス製など、 다양한素材のものが販売されています。
- レジ袋以外の袋類: パン屋さんや八百屋さんで提供される小さなビニール袋も、繰り返し使えるメッシュバッグなどに替えてみましょう。
- 包装フィルム: 過剰な包装は断る勇気も大切です。
小さな一歩が、大きな変化を生む
「たったこれだけで、本当に効果があるの?」と思うかもしれません。しかし、一人ひとりの小さな行動が積み重なることで、大きな変化が生まれます。マイボトルやマイカップを持つ人が増えれば、使い捨てカップの生産量は減り、街のゴミも減ります。
環境省も、プラスチック資源の循環利用を推進しており、私たち一人ひとりの行動変容を促しています。
今日から、できることから始めてみませんか?まずは、お気に入りのマイボトルを持ち歩くことから。きっと、新しいライフスタイルが始まるはずです。
さあ、あなたも「使い捨て」から「繰り返し使う」生活へシフトチェンジしましょう!
出典:環境省『プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律について』
使い捨てプラスチック対策に関する各国の状況
最後に、EU、スウェーデン、ドイツにおける使い捨てプラスチック対策についてご紹介します。
EU:EUプラスチック税
EUは2021年1月1日より、循環型経済への移行を促進し、持続可能な社会を目指す取り組みの一環として、「EUプラスチック税」を導入しました。この制度は、2018年に欧州委員会が発表した「プラスチック戦略」に基づいて提案されたもので、プラスチック総排出量からリサイクル量を引いた「リサイクルされない廃プラスチック包装」の削減を目指しています。具体的には、リサイクルされない廃プラスチック包装の排出量を対象に、1kgあたり0.8ユーロが課されます。EU加盟国は予測される排出量に基づいて毎月拠出金を支払い、2年後に実際の排出量とリサイクル量に基づいて供出額の調整が行われる仕組みです。
出典:環境省『国内外における税制のグリーン化に関する状況について』p,12.(2024/11/08)
スウェーデン:プラスチックバッグ税
2020年に施行された「プラスチックバッグ税」は、ポイ捨てやレジ袋の利用を抑え、マイクロプラスチックの拡散を防ぐことを目的とした環境保全の取り組みです。この税の対象となるのは、店内で購入した商品の梱包や持ち運びのために消費者へ提供される使い捨てプラスチック製袋(レジ袋)であり、再利用可能な袋やごみ袋などの消費者向け梱包材は非課税とされています。税率は、レジ袋1枚あたり3SEK(スウェーデン・クローナ)で、特例として厚さ15µm以下、容積が7L以下の袋には1枚あたり0.3SEKが適用されます。製造業者、輸入業者、またはEU諸国からレジ袋を購入する業者が納税義務を負い、税務庁に廃プラスチックの排出量やリサイクル状況を報告する義務があります。この税によって得られる収入は、環境保全や循環型経済への移行を支える重要な財源となっています。
出典:環境省『国内外における税制のグリーン化に関する状況について』p,14.(2024/11/08)
ドイツ:使い捨てプラスチック基金
「使い捨てプラスチック基金」は、海洋環境や人間の健康への影響を抑えつつ、持続可能な経済を実現するための重要な取り組みとして2023年に施行され、2024年1月1日より課税が開始されました。この制度は、食品容器やレジ袋、飲料容器、軽量ビニールバッグなどの使い捨てプラスチック製品を対象としており、対象となる製品の製造業者や輸入業者が納税義務を負います。課税額は包装の種類によって異なり、ビニール袋やホイル包装では1kgあたり0.876ユーロ、軽量ビニールバッグでは1kgあたり3.801ユーロが課されます。この税収は、使い捨てプラスチックの廃棄処分費用や環境保全の取り組みに活用されることで、環境への負荷軽減を目指します。
出典:環境省『国内外における税制のグリーン化に関する状況について』p,14.(2024/11/08)
まとめ:各国の使い捨てプラスチック対策を先導し、世界のリーダーシップを目指そう!
プラスチック廃棄物は2019年の約3億5,300万トンから、2060年には3倍に増えると予測されています。この課題に対し、EUやスウェーデン、ドイツはプラスチック税などを導入して取り組みを進めています。日本でも「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」により、企業に対応が求められています。そこで、企業は規制に適応するだけでなく、エコデザインやリサイクルシステムを活用することで、環境負荷の軽減に貢献できます。さらに、消費者と協力してサプライチェーン全体を見直すことで、ブランド価値を高めるチャンスにもなります。今こそ脱プラスチックに取り組み、世界の未来をつくる第一歩を踏み出しましょう。