第16回アジアEST地域フォーラムについて、わかりやすく解説します。持続的な交通を意味するESTについては、世界中で取り組みが進んでいます。アジア地域においては日本が主導して、このEST地域フォーラムを立ち上げました。本フォーラムでは「愛知宣言2030」など、重要な決議もなされています。本記事では、アジアEST地域フォーラムの概要、その中でも第16回フォーラムについて、国別発表内容の例なども含めて取り上げます。
INDEX
アジアEST地域フォーラムの概要
持続可能な交通手段ESTについて、アジア各国による会議が開催されています。アジアEST地域フォーラムの概要について解説します。
ESTとは
ESTとは「Environmentally Sustainable Transport」の略称で、「環境的に持続可能な交通」を意味します。具体的には、以下のような取り組みが挙げられます。
・公共交通機関の利用促進
・自家用自動車への依存抑制
・次世代型路面電車システム(LRT)の整備
・自転車利用環境の整備
・道路整備や交通規制等の交通流の円滑化対策
・低公害車の導入促進
元々はOECD(経済協力開発機構)が提案したもので、欧州諸国では地球温暖化への危機感から積極的に取り組んでいます。
アジアEST地域フォーラムとは
アジア地域ESTフォーラムとは、環境省がUNCRD(国際連合地域開発センター)と共に2005年に設立したもので、アジア地域の特性を踏まえながら、各国との政策対話等を通じてアジア地域でのESTを推進しています。日本・韓国・中国のほか、フィリピンやマレーシアなどASEAN各国や、インドやスリランカなどSASEP(南アジア共同環境プログラム)加盟国も参加しています。
「愛知宣言2030」について
アジアEST地域フォーラムは、2005年の第1回から2024年の第16回までほぼ毎年、参加国持ち回りで開催されています。特に2021年10月に日本で開催された第14回アジア地域ESTフォーラムでは、SDGsやパリ協定など国際的な合意に沿った2030年までのESTの目標を掲げた「愛知宣言2030」を採択しました。当該宣言では目標として「1.環境の持続可能性(a.低炭素・b.回復力・c.大気汚染削減)」「2.交通安全」「3.経済的持続可能性」「4.地方へのアクセス」「5.都市へのアクセス」「6.各国へのアクセス」の6つが掲げられています。
出典:国際連合「環境的に持続可能な交通(EST)」
出典:United Nations「Aichi 2030 Declaration on Environmentally Sustainable Transport 」p4(2021/10/20)
第16回アジアEST地域フォーラムについて
2024年には、第16回アジアEST地域フォーラムが開催されました。その概要について解説します。
第16回アジアEST地域フォーラムの開催概要
第16回アジアEST地域フォーラムは、2024年12月10日から12日に、日本の環境省・UNCRD・フィリピン共和国運輸省の共催で、フィリピン共和国のマニラにて開催されました。本フォーラムにはアジア各国の政府幹部、アジア諸国の自治体の幹部、交通と環境分野に関する学識経験者等の専門家、国際機関関係者などが参加し、愛知宣言2030の目標のうち「1-c大気汚染削減」「3.経済的持続可能性」「5.都市へのアクセス」に対する、各国の進捗状況などについてのセッション・政策対話が実施されました。
出典:環境省「第16回アジアEST地域フォーラムの開催について」(204/11/26)
第16回アジアEST地域フォーラムのプログラム
第16回アジアEST地域フォーラムは「持続可能な都市モビリティソリューション-SDGs時代におけるコベネフィットと経済レジリエンスを達成するための低炭素経路に向けた都市への力付け」をテーマに、以下のようなプログラムで進行されました。
1.開会あいさつ
2.プレゼンテーションとスピーチ
・フィリピン特別分科会(フィリピンに焦点をあてて)
・愛知目標3:質の高い道路インフラの経済持続可能性への貢献に関する特別セッション
・愛知目標1-c:大気汚染削減
・愛知目標5:都市へのアクセス
・「愛知2030宣言」(2021-2030年)と「国連持続可能な交通の10年」(2026-2035年)に向けた国際パートナーの取り組み
・アジアにおける安全で強靭、低炭素かつ持続可能な都市交通開発のための革新的な資金調達と資金調達アプローチ
・ネイチャー・ポジティブで持続可能な交通ソリューションを通じた都市とコミュニティの変革
3.愛知2030宣言(2021-2030):国別報告
第16回ESTフォーラムは全体として、都市部に重点を当てたものとなりました。
第16回アジアEST地域フォーラムの主な結果
今回のフォーラムでは、各国のEST に関する政策の共有や幅広い意見交換とともに、愛知宣言2030の目標に対する各国の取組状況についてフォローアップされました。フォーラム中の各セッションにおいて、日本を含むアジア各国及び国際機関からベストプラクティスなどに関する発表が行われ、日本はEST に関連する政策(交通分野での大気汚染対策)や、EST の事例(岩手県陸前高田市の取組)などについてプレゼンテーションしました。
出典:環境省「第16回アジアEST地域フォーラムの結果について」(2024/12/26)
第16回アジアEST地域フォーラムにおける国別発表内容事例
今回のフォーラムでは、愛知目標2030の目標に対する取組状況を国別に発表しています。その中からいくつかをご紹介します。
日本
日本の発表資料は、「1.輸送および関連する国家レベルの政策」と「2.政策目標」に分かれており、それぞれ該当する施策や目標をリストアップした上で、愛知宣言2030目標のどれに当てはまるかをマトリクスで示しています。たとえば「1.輸送および関連する国家レベルの政策」に関しては「第6次環境基本計画」(愛知宣言2030目標の1cと3)、「第5次社会基盤整備重点計画」(同 3と5)など7施策が、「2.政策目標」については「環境基準の達成」(同 1c)、「新型車に対する次世代車の比率向上を目指す 2030 年までに乗用車販売を 50% から 70% に引き上げ、新車に占める電気自動車の比率2035年までに乗用車販売率100%へ」(同 1cと3)など9つの目標が挙げられています。
フィリピン
開催国であるフィリピンの発表資料は、愛知宣言2030の目標のうち今回フォローアップ対象となっていない目標も全て網羅した内容となっています。フォローアップ対象に関しては、たとえば「1c:大気汚染削減」については道路による輸送の割合が増加している一方、PM2.5など道路輸送による大気汚染物質排出量は減少していることが、グラフで図示されています。また「3:経済的な持続可能性」については、国内GDPで運送業の占める割合が10%未満で、アジア太平洋地域の平均よりも低いことなどが示されています。
タイ
タイ国の発表資料は、愛知宣言2030の目標のうち今回フォローアップ対象となっている3つの目標それぞれにつき、各4~6枚のスライドで説明する体裁となっています。たとえば「5.都市へのアクセス」については、都市アクセスのための公共鉄道交通システムの開発を進め自動車による移動を減らす取り組みや、EVバス・EVボート・EVタクシーなどの共通乗車券推進などについて紹介されています。
まとめ:第16回アジアEST地域フォーラムの結果も踏まえ、持続可能な交通の実現を目指す
2024年12月にフィリピンで開催された第16回アジアEST地域フォーラムでは、持続可能な交通「EST」について、愛知宣言2030の目標のうち3項目をフォローアップする内容を中心に、活発な論議や発表が行われました。その3項目とは「大気汚染削減」「経済的持続性」「都市へのアクセス」ですが、公共交通機関の整備や交通乗用具の電動化などが各国における対応策の中心となっています。アジア地域では、今後ますますこうした施策に関する環境整備や技術開発が活発化していくことでしょう。
第16回アジアEST地域フォーラムの結果も踏まえ、持続可能な交通の実現を目指しましょう。