欧州電池規則とは?規制対象や要求事項、国内外の動向・取り組み
- 2025年02月13日
- 環境問題
欧州電池規則は、EUにおける持続可能な電池の生産と利用を推進するための新たな規制です。環境負荷を抑え、リサイクルを強化することを目的とし、電動車や電化製品に使用される電池を包括的に規制します。
本規則では、バッテリー製造における環境基準の厳守や、電池の収集・再利用に関する具体的な要求事項が設けられています。この記事では、欧州電池規則の規制対象や求められる具体的な事項、日本を含む国内外での対応・取り組みを詳しく解説します。
目次
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欧州電池規則の概要と背景
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欧州電池規則の規制対象
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欧州電池規則の主な要求事項
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欧州電池規則に関する国内外の動向・取り組み
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まとめ:欧州電池規則に備え、企業が今すべき対応を確認しよう
1.欧州電池規則の概要と背景
欧州電池規則の概要と背景を解説します。
(1)概要
欧州電池規則は、2023年8月にEUが発行した電池のライフサイクル全体にわたる環境負荷を低減することを目的とした規則です。カーボンフットプリント規制により、製造から廃棄までの温室効果ガス排出量が厳しく管理されます。また、デュー・ディリジェンスを通じた責任ある材料調達や、使用済み電池の回収とリサイクルの義務化が明確に規定されているのが特徴です。
この規則は、規模や所在地を問わず、EUで使用される全ての種類の電池が対象であり、その事業者すべてに適用されます。これにより、持続可能性を高めるための具体的な取り組みが企業に求められます。
出典:経済産業省「蓄電池産業戦略の関連施策の進捗状況 及び当面の進め方について」p26
(2)背景
欧州電池規則は、EUが掲げた「2050年までの温室効果ガスの排出ゼロ(欧州グリーン・ディール)」の目標達成を支えるために制定されました。
現在EUは、世界に先駆けた地球温暖化対策に注力しており、特に自動車産業を中心とした電池需要の急増を背景に、電池の環境負荷を抑え、循環利用を推進する必要性が強調されています。この規則はまた、EUの環境配慮型の電池市場における競争力向上にも寄与すると見られており、電池の持続可能な生産・リサイクルを義務化することで、EUはグリーン経済の発展を促進しています。
出典:経済産業省「蓄電池産業戦略の関連施策の進捗状況 及び当面の進め方について」p26
2.欧州電池規則の規制対象
欧州電池規則では、EU域内で販売・流通する全ての電池を規制対象として定めています。以下は、規制対象の種類です。
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ポータブルバッテリー
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産業用バッテリー
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始動・照明・点火(SLI)用バッテリー
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電気自動車(EV)用バッテリー
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軽量輸送手段(LMT)用バッテリー(例:電動アシスト自転車や電動スクーター)
これらのバッテリーは、製造から使用後の回収・リサイクルまで、環境への配慮を重視した評価を受けることになります。 特に、使用済みバッテリーの回収率やリサイクルの義務が強化され、企業はこれらの規定に適合する必要があります。
一方、販売経路に対してサプライチェーン上の誰にどのような責任義務が生じるのか、電池の製造者が「電池の製造者」と「最終製品の製造者」のどちらに責任義務が生じるのか明確にされていないなど、解釈の違いを起因とする混乱や負担が生じていることが課題に挙げられています。
出典:出典:独立行政法人日本貿易振興機構「EU バッテリー規則とドイツを中心としたバッテリー生産・リサイクルの動き」P6
3.欧州電池規則の主な要求事項
欧州電池規則では、以下の4項目を遵守することが義務付けられています。
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カーボンフットプリント(CFP)
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人権、環境デュー・デリジェンス(DD)
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リサイクル材料の含有割合(使用義務)
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製品情報のデジタル登録(バッテリーパスポート)
各要求事項の詳細は以下の通りです。
■カーボンフットプリント(CFP)の申告義務
カーボンフットプリントは、原材料調達から破棄・回収までのライフサイクル全体の温室効果ガス排出量を評価する規制です。欧州電池規則では、各電池に対して製造場所ごとに第三者の検証機関が証明した申告書を作成することが求められています。
■人権、環境デュー・デリジェンス(DD)
欧州電池規則では、人権と環境に関するデューデリジェンス(DD)が重要な要素です。具体的には、原材料調達をはじめ、サプライチェーン全体で人権侵害や環境リスクを特定・評価し、これらを防止・軽減する義務があります。環境・人権リスクは、第三者の検証機関が証明し、その検証レポートを公開する必要があります。
■リサイクル済み材料の含有割合(使用義務)
欧州電池規則では、電池の製造に使用するリサイクル済み材料(コバルト、鉛、リチウム、ニッケル)の含有率に関する使用義務が定められています。例えば、鉛の場合は2031年以降85%、コバルトについては2031年から16%、2035年から26%の使用が求められます。 このように、電池の種類ごとにリサイクル材料の使用率を段階的に進めることで、資源効率の向上と環境負荷の削減が目指されています。
■製品情報のデジタル登録(バッテリーパスポート)
バッテリーのサプライチェーンとバリューチェーンの透明性の向上に加え、バッテリーの追跡や情報交換を目的に、EV用・LMT用・2kWh以上の産業用バッテリーについては、バッテリーのモデルや原材料、カーボンフットプリントに関する情報を記録した「バッテリーパスポート」の導入を義務付けています。
■【その他】ラベル表示、QRコードの義務付け
欧州電池規則では、バッテリーの透明性と信頼性を高めるため、ラベル表示とQRコードの義務付けが求められています。
ラベルには、容量や有害物質の含有量、「分別回収」シンボルなどの情報を記載し、2025年8月18日もしくは欧州委員会が2025年8月18日までに採択するラベル要件を定めた実施規則の発効から18ヶ月以内からの表示が必要です。
さらに長期的な情報提供を目的に、2027年2月18日からQRコードの掲載も義務化されます。QRコードは、一般的なQRリーダーで簡単に読み取れるサイズでなければなりません。
出典:独立行政法人日本貿易振興機構「EU バッテリー規則とドイツを中心としたバッテリー生産・リサイクルの動き」P7
4.欧州電池規則に関する国内外の動向・取り組み
欧州電池規則が施行されてから、各国は持続可能な電池生産と使用の実現に向けた取り組みを加速させています。ここでは、規則施行後の国内外の動向や対応策を詳しく解説します。
(1)海外の動向
欧州電池規則が施行されたことで、EU加盟国を中心に持続可能な電池生産に関する法整備と企業の対応が進んでいます。特に、電池のライフサイクル全体での炭素フットプリントの報告義務やリサイクル素材の使用拡大が求められています。
ドイツやフランスでは、国内企業がリサイクル技術の開発に投資し、サプライチェーン全体の環境負荷を低減する動きが活発化しています。中国や米国も対策を講じ、電池市場における競争力維持を図る中、国際的な協調が求められています。
(2)国内の取り組み
欧州電池規則に対応し、日本では電池産業全体で持続可能性向上への取り組みが進んでいます。
2023年4月には、車載用蓄電池のカーボンフットプリントの算定方法を公表しました。さらに、第三者認証の仕組みの検討と改善を行なっています。
人権・環境デュー・ディリジェンスにおいては、バッテリーのサプライチェーン上の事業者を対象としたスキームや調査票の策定を進め、人権および環境リスクの分析を実施しています。また、この規則における海外の動向を踏まえ、第三者機関による人権・環境デュー・ディリジェンスの実施スキームを検討中です。
また、リサイクルの分野では、使用済蓄電池の流通経路と製造工程で発生する端材などの再利用など、環境保全の強化が図られています。例えば、国内で製造される車載用蓄電池のうち、国内で使用されて中間処理まで届くのは全体の15%程度ですが、その割合を増やそうと研究開発が行われています。
このように、日本は国際基準への対応を重視し、輸出競争力を維持しながら持続可能な技術の普及を図っています。
出典:経済産業省「蓄電池産業戦略の関連施策の進捗状況 及び当面の進め方について」p27
出典:経済産業省「蓄電池産業戦略の関連施策の進捗状況 及び当面の進め方について」p28,p29
出典:独立行政法人日本貿易振興機構「EU バッテリー規則とドイツを中心としたバッテリー生産・リサイクルの動き」P24,P25
5.まとめ:欧州電池規則に備え、企業が今すべき対応を確認しよう
今回は、欧州電池規則の概要や国内外の動向を中心に解説しました。地球温暖化対策が急がれる中、今後さらに電池産業は重視されると予想されます。それに伴い、欧州電池規則に対応する必要が出てくるため、企業は早急に準備を進めることが求められます。
規則に対応するための具体的な取り組みとして、カーボンフットプリントの削減、リサイクル強化、人権・環境デュー・ディリジェンスへの取り組みが欠かせません。今後の規制への適応を進め、環境への影響を最小限に抑えるために取り組んでみてください。