脱炭素社会を実現する資金調達|トランジション・ファイナンスの役割と事例
- 2025年01月14日
- CO2算定
脱炭素社会への移行には、環境負荷の高い産業が持続可能な形へと転換するための膨大な資金が必要です。トランジション・ファイナンスは、こうした産業の脱炭素化を支援する重要な手段として注目されています。短期的な利益ではなく、持続可能性を重視した投資が求められる今、この手法は企業や社会の未来を形作る大きな鍵となります。
この記事では、トランジション・ファイナンスの概要、具体的な活用例、直面する課題、そして未来への展望を簡潔に解説します。企業と社会をつなぐ「移行」の仕組みを知り、持続可能な未来を一緒に考えてみませんか?
目次
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トランジション・ファイナンスの概要
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経済産業省が提唱するトランジション・ファイナンス
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トランジション・ファイナンスの具体的な取り組み
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トランジション・ファイナンス今後の課題は?
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トランジション・ファイナンスの基本を抑える脱炭素社会への貢献へ
1.トランジション・ファイナンスの概要
トランジション・ファイナンスは、脱炭素社会への移行を支援する金融手法です。特にエネルギー多消費産業や化石燃料依存分野で、環境負荷を減らすための資金提供が期待されています。経済産業省のロードマップに基づき、企業は脱炭素目標や資金計画を示すことで透明性を確保し、投資家や社会からの信頼を得ることができます。これにより、競争力を維持しつつ持続可能な社会への転換を進める手段となります。
脱炭素化社会を目指すための政策
トランジション・ファイナンスは、脱炭素化社会を実現するための一環として登場しました。現在、多くの国々がカーボンニュートラルを目標に掲げていますが、特に日本では、経済産業省(METI)がこの手法を推進しています。従来の環境問題対策は再生可能エネルギーの導入や省エネ技術の活用が主でしたが、トランジション・ファイナンスはそれに加え、従来の化石燃料依存型の産業構造を抜本的に見直し、脱炭素化を進めるための金融支援を行うという特徴があります。
出典:トランジション・ファイナンス (METI/経済産業省)
企業に向けた金融手法の一種
トランジション・ファイナンスは、企業が持続可能な形で事業を移行させるための資金を調達する手段です。企業が気候変動対策を進めるにあたり、膨大な初期投資が必要となる場合が多く、資金を支援する役割を果たします。トランジション・ファイナンスは、特に化石燃料に依存する産業が新たな技術やエネルギー効率の向上を実現するための資金確保において重要な役割を担っています。
出典:トランジション・ファイナンス (METI/経済産業省)
エネルギー効率向上などメリット多数
トランジション・ファイナンスを活用することで、企業はエネルギー効率の向上や新技術の導入を通じ、環境負荷を大幅に削減できます。これにより、企業自身の持続可能性が高まるだけでなく、社会全体の脱炭素化にも寄与します。また、こうした取り組みは金融市場で評価され、企業の社会的価値を高めるという副次的なメリットも期待できます。
出典:トランジション・ファイナンス (METI/経済産業省)
トランジション・ファイナンスを行うとどうなる?
トランジション・ファイナンスを活用することで、企業は持続可能な社会への移行を実現しながら、多くの利点を得ることが可能です。
トランジション・ファイナンスは、脱炭素化に必要な資金を確保し、持続可能な事業モデルへの移行を支援します。これにより、企業は環境規制への対応が容易になり、長期的な安定性と競争力を高めることができます。
さらに、ESG投資の拡大により、脱炭素化に取り組む企業は投資家や顧客からの信頼を獲得し、市場での地位を向上させられます。また、脱炭素目標の共有は、従業員の意識改革やモチベーション向上にもつながり、組織全体の生産性向上に寄与します。
トランジション・ファイナンスは、企業の成長と社会課題の解決を同時に実現する強力な手段です。
出典:トランジション・ファイナンス (METI/経済産業省)
2.脱炭素社会への移行を支えるトランジション・ファイナンス
トランジション・ファイナンスの鍵:具体的な移行計画
トランジション・ファイナンスを活用するには、具体的で科学的根拠に基づいた移行計画が必要です。この計画には、以下の要素が含まれます。
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脱炭素化目標(二酸化炭素排出削減、エネルギー効率の改善など)
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国際的目標との整合性(例:パリ協定)
企業はまず、自社の環境影響を評価し、改善すべきポイントを明確にします。例えば、製鉄業では、製造過程で大量に排出されるCO₂削減が課題となります。
鉄鋼業界のトランジション・ロードマップ
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短期(~2030年):現状技術の効率化
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高炉設備を高効率化し、エネルギー消費量とCO₂排出を削減
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再生可能エネルギー由来の電力利用を拡大
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中期(2030年~2040年):新技術の導入
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水素還元製鉄法(化石燃料の代わりに水素を使用する技術)の導入
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クリーンエネルギーインフラの整備
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長期(2040年~2050年):カーボンニュートラルの実現
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水素還元製鉄の完全実用化と普及
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CCUS技術(炭素回収・貯留)で排出されたCO₂を再利用または貯蔵
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行動計画の策定
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目標設定
例:2040年までにCO₂排出量を50%削減(科学的根拠に基づくSBTiなどを活用) -
具体的な取り組み
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技術の導入や設備更新
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人材教育の強化
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サプライチェーン全体での改善
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例えば、製鉄業では高炭素排出の石炭をグリーン水素に置き換える技術を採用し、2025年までにCO₂排出量を20%削減する中間目標を設定する、といったステップが挙げられます。
出典:トランジション・ファイナンス (METI/経済産業省)
資金調達の容易化
トランジション・ファイナンスを活用すれば、企業は脱炭素化に必要な大規模投資を実現しやすくなります。特に、新技術の導入や老朽化した設備の更新といった高額な初期投資も、長期的な脱炭素計画に基づく資金調達が可能になります。
これにより、企業は高エネルギー消費型の設備から効率的で環境負荷の少ない設備へとスムーズに転換でき、脱炭素社会の実現に向けた重要な一歩を踏み出すことができます。
出典:トランジション・ファイナンス (METI/経済産業省)
グリーンファイナンスとの違いとトランジション・ファイナンスの独自の役割
グリーンファイナンスは、環境保護や再生可能エネルギーなど、直接的に持続可能性を高めるプロジェクトへの資金提供を目的としています。たとえば、太陽光発電施設の建設や森林保全プロジェクトなど、すでに「環境に優しい」とされる事業を支援します。そのため、資金の用途が明確で、投資家からの信頼を得やすいのが特徴です。
一方、トランジション・ファイナンスは、高炭素型のビジネスモデルから低炭素型や持続可能なモデルへの移行を支援する仕組みです。たとえば、化石燃料に依存する企業が脱炭素化を目指して新技術を導入したり、環境負荷を減らす事業へ段階的に転換したりする取り組みをサポートします。
この手法の最大の特徴は、「移行期間中の支援」を重視している点です。たとえ化石燃料を使用する産業や高炭素排出の事業であっても、長期的に環境負荷を削減する計画がある場合は支援対象となります。
出典:トランジション・ファイナンス (METI/経済産業省)
3.トランジション・ファイナンスの具体的な取り組み
トランジション・ファイナンスは、企業が高炭素型の事業から低炭素型や持続可能な事業へ移行するための資金を提供します。以下は、日本企業による具体的な取り組み事例です。
1. 日本郵船株式会社(NYK)
日本郵船は、2030年度までに温室効果ガス(GHG)排出量を30%削減し、2050年度までに50%削減する目標を掲げています。この目標達成のため、燃料添加剤の使用や船舶の改善、運航効率の向上など、多角的な戦略を実施しています。特に、液化天然ガス(LNG)燃料船の導入を進め、将来的にはゼロエミッション船への移行を計画しています。
2. 株式会社商船三井
商船三井は、「環境ビジョン2.1」を策定し、2035年までにCO2排出原単位を2019年比で45%削減することを目指しています。この戦略の一環として、LNG燃料フェリーの導入を進めています。これらの船舶は、将来的にカーボンニュートラルメタンや水素への燃料転換が可能であり、トランジション段階の重要な役割を果たしています。
3. 川崎汽船株式会社
川崎汽船は、2030年までにCO2排出効率を50%改善(2008年比)、2050年までに70%改善し、CO2排出量を50%削減する目標を設定しています。「”K”LINE環境ビジョン2050」を策定し、戦略的な取り組みを進めています。具体的には、GHG総排出量やトンマイルあたりのCO2排出量などのKPIを設定し、第三者検証を受けることで信頼性を確保しています。
企業における取り組み例
企業による具体的なトランジション・ファイナンスの取り組みとしては、エネルギー効率を向上させるための設備更新や、化石燃料の代替となる水素エネルギーの導入が挙げられます。また、従来の製造プロセスを抜本的に見直し、二酸化炭素排出量を削減する技術を採用するケースも多く見られます。例えば、鉄鋼業界では、二酸化炭素の排出を削減するために電炉の導入を進める企業が増加しています。
出典:トランジション・ファイナンス (METI/経済産業省)
4.トランジション・ファイナンス今後の課題は?
トランジション・ファイナンスは、環境負荷の高い産業を低炭素化へと導くための重要な資金調達手段として注目されています。しかし、その移行プロセスは簡単ではなく、いくつかの課題が存在します。
主な課題には以下が挙げられます:
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金融市場の透明性確保
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目標達成の信頼性向上
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技術革新のスピード加速
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社会全体の理解と受容の促進
これらの課題に対応するためには、特に資金の適切な使用と効果的なモニタリング体制が重要です。企業が脱炭素化に向けた取り組みを進める際、目標に沿った進捗を確認し、透明性を確保する仕組みの構築が求められています。
トランジション・ファイナンスが真の持続可能性を実現するためには、これらの課題を克服する具体的な方策が必要です。
出典:トランジション・ファイナンス (METI/経済産業省)
投資減少による業績悪化
一部の企業では、初期投資の負担や短期的な利益減少が課題となる場合があります。特に、中小企業にとっては大規模な投資が困難であるため、政府や金融機関のさらなる支援が必要です。
出典:トランジション・ファイナンス (METI/経済産業省)
5.トランジション・ファイナンスの基本を抑える脱炭素社会への貢献へ
トランジション・ファイナンスは、脱炭素社会への移行を支える重要な金融手法です。企業が環境負荷を削減し、持続可能な事業モデルへ移行するためには、この仕組みの活用が不可欠です。
その成功には、企業と資金提供者との信頼関係や透明性の確保が必要です。トランジション・ファイナンスの推進によって、脱炭素化への取り組みが加速し、企業の具体的な行動と政策的な支援が結びつくことで、持続可能な社会への道が大きく前進することが期待されます。
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脱炭素化を加速し、持続可能な未来を共に築きましょう。