GHG(温室効果ガス)第三者検証とは?意味や検証を受ける際のポイントについて
- 2024年10月21日
- CO2算定
企業や組織が公開する温室効果ガス(GHG)排出量の情報は、公正かつ正確な内容でなければなりません。これにより、環境への取り組みが真摯であることを証明でき、社会的信頼を得ることができます。
しかし、自主的な算定だけでは十分でない場合もあるため、第三者機関による検証を実施し、開示情報にさらなる信頼性を持たせることが必要です。本記事では、GHG第三者検証の意味を中心に、そのメリットや検証を受ける際に押さえるべきポイントについて詳しく解説します。
目次
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第三者検証とは?
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第三者検証を受ける際のポイント
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第三者検証を受けるメリット
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まとめ:第三者検証を受けることは企業の信頼性向上に繋がる
1. 第三者検証とは?
温室効果ガス(以下GHG)第三者検証の意味とその必要性について詳しく解説します。
(1)意味
第三者検証とは、企業や組織が報告するGHG排出量データ(GHGイベントリ※1)やその情報が正確で信頼できるものであるかを、外部の独立した専門機関が客観的に評価・確認するプロセスのことです。
この検証により、報告内容の透明性と信頼性が確保されるため、ステークホルダーや社会全体に対して企業の取り組みが真実であることを証明できます。
また、国際基準や業界規範に従っていることを示す手段としても重要であり、信頼性の高い情報開示が求められる現代において、その意義はますます増しています。
※1 GHGインベントリとは、企業や組織が算定するGHG排出源・吸収源と、その排出量および吸収量のことです。
(2)必要性
GHG第三者検証の必要性は、情報を開示する企業や組織と、その報告を受けるステークホルダー双方にそれぞれの役割があります。
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情報を開示する企業や組織・・・算定方法や結果の確認および保証
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ステークホルダー・・・算定結果の透明性や信頼性の担保
企業や組織は、算定方法や結果を確認し、正確さを保証する責任を負います。一方、ステークホルダーは、その算定結果の透明性や信頼性を求めているため、第三者検証はその期待に応える重要な手段です。
これにより、両者の信頼関係が強化され、持続可能なビジネス環境の構築が促されます。
出典:環境省:「温室効果ガス排出量の算定と検証について (ISO14064, 14065関連) 平成23年3月 環境省 地球環境局 地球温暖化対策課 市場メカニズム室 p9
2. 第三者検証を受ける際のポイント
GHG第三者検証を受ける際は、正確な算定方法の選定、モニタリングにおける6つの原則の遵守、そして検証の保証水準を確保することが重要です。ここでは、これら3つのポイントについて詳しく解説します。
(1)算定方法
GHG排出量を算定する際は、以下の点を定めたうえで計算することが必要です。
1. 期間
期間とは、GHG排出量を算定する際に、対象となる期間を定め、その期間内の排出量を計算することを指します。たとえば、1年間や四半期など、特定の時間枠を設定することで、報告する排出量の範囲を明確にし、一貫性のあるデータを提供します。
2. 範囲
範囲とは、GHG排出量を算定する際に、どの対象を含めるかを示すものです。企業全体を対象とするのか、特定の工場や施設単位で算定するのかを決定することで、算定の対象範囲を明確にします。これにより、どの部分からの排出量を報告するかが定まるため、データの正確性と比較可能性が向上します。
3. 方法
方法とは、GHG排出量を計算する際の手法や基準のことです。具体的には、排出量を測定するための計測手法や排出係数を指します。以下は、GHG排出量の算定方法の一例です。
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活動量×単位発熱量× 排出係数
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活動量×排出係数
燃料使用量や生産量などのデータに基づき、設定された排出係数を掛けることでGHG排出量を算出します。算出方法は公正かつ正確な情報の開示に不可欠です。
これにより、正確で一貫性のあるデータの開示につながり、ステークホルダーや第三者機関に対して高い信頼性を示すことができます。
出典:環境省:「温室効果ガス排出量の算定と検証について (ISO14064, 14065関連) 平成23年3月 環境省 地球環境局 地球温暖化対策課 市場メカニズム室 p5
(2)モニタリングにおける6つの原則
GHG排出量の情報を提供するにあたり、企業や組織は以下の6つの原則に従い、GHG排出量の削減モニタリングおよび、算定と報告をすることが求められています。
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適切性
適切性とは、GHG排出源や吸収源を利用者のニーズに合わせて正確に選定し、適切な組織境界や算定方法、排出係数を設定することを指します。たとえば、企業間での比較を行う場合、組織境界の設定が異なると、結果が不正確になる可能性があります。
これを防ぐためには、算定の目的、組織境界の考え方、排出量の定量化方法を明確に規定することが重要です。また、カーボンオフセットのポジティブリストに記載された適格性基準に準拠した方法を選ぶことも求められています。
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完全性
完全性とは、指定した範囲や期間におけるGHG排出量と吸収量を正確に算定することです。そのためには、対象活動の設定や排出源の特定方法を明確に示す必要があります。
排出量の多い施設や設備のみを重点的に算定した場合、全体の排出量を正確に反映することができません。対象となる全排出源のGHG排出量を漏れなく算定することが求められます。
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一貫性
一貫性とは、GHG排出量および吸収量を正確に比較するため、対象範囲や期間に対して同じ算定方法やデータを使用することです。年度ごとに異なる算定方法や排出係数を用いた場合、結果の信頼性が低下する恐れがあります。そのため、排出係数や算定ルールの統一、情報管理や算定手順の策定・文書化が重要です。
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正確性
正確性とは、正確なデータを収集し、信頼性の高い情報を開示することを指します。算定や計測における誤差を可能な限り減らし、精度の高い数値を提供することが重要です。そのため、計測機器の精度管理やモニタリング方法の規定を徹底し、正確な計測を行うことが求められます。
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透明性
透明性とは、第三者機関およびステークホルダーが正しい判断・決定を下せるよう、公正かつ適切な情報を開示することです。GHG排出量を報告する際には、そのデータや算定方法をしっかりと明記し、透明性を確保しなければなりません。そのため、報告書への記載項目および公開範囲の規定が求められます。
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保守性
保守性とは、算定および開示した情報が過大評価されないために、保守的な仮定や信頼性の高い数値、規定に基づいた手順を用いることです。これにより、実際の削減量や吸収量がより正確に反映やすく、信頼性のある報告につながります。
出典:環境省:「温室効果ガス排出量の算定と検証について (ISO14064, 14065関連) 平成23年3月 環境省 地球環境局 地球温暖化対策課 市場メカニズム室 p23
(3)検証の保証水準
第三者検証の保証水準とは、検証をどこまで綿密に行うかの水準です。保証水準には、開示された情報の正確性が高い水準の「合理的保証」と、反対に開示情報に誤りがないことを消極的に保証する「限定的保証」の2種類の水準が設けられています。この2つの違いは、検証を受けるにかかるコストと社内リソース、保証の範囲です。
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合理的保証
限定的保証に比べて保証水準が高いものの、保証を受けるにかかるコストや社内リソースの負担が大きくなります。代表的なプロジェクトや基準では、オフセットクレジットやクリーン開発クレジット(CDM)などが挙げられます。
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限定的保証
合理的保証に比べて保証水準は低いものの、コストや社内リソースの負担は軽い傾向にあります。たとえば、GHGにおける検証基準のISO14064-3の保証水準は「限定的保証」です。
検証の保証水準を選定する際は、コストとリソースのバランスを考慮するだけでなく、求められる精度と信頼性のレベルも考慮する必要があります。高い保証水準は、情報の正確性を高めますが、コストや作業負担が大きくなるため、企業のニーズや状況に応じた適切な保証水準を選ぶことが重要です。
出典:環境省「温室効果ガス排出量の算定と検証について (ISO14064, 14065関連)」p46
3. 第三者検証を受けるメリット
GHG排出量に関する情報を開示することにより、企業や組織にはさまざまなメリットがもたらされます。主なメリットは、以下の6つです。
1. 信頼性と評判
2. ブランドイメージ
3. コスト削減とネットゼロ
4. リスク低減とプロセス改善
5. 競争優位性、マーケティング
6. 複数の報告枠組み
次でそれぞれのメリットを詳しく解説します。
(1)信頼性と評判
第三者機関による保証を受けることで、企業や組織は関連するすべてのステークホルダからの信頼を得ることができます。これは、優秀な人材の確保や事業拡大など持続可能な経営に有用です。
(2)ブランドイメージ
GHG第三者検証は、単なる形式ではありません。パフォーマンスの独立審査を示すことで、企業の社会的信頼は高まり、ブランドイメージの向上に繋がります。これは、従業員のエンゲージメントの向上や新規顧客および新たな市場の獲得に不可欠な要素です。
(3)コスト削減とネットゼロ
GHG排出量の第三者検証を受けることで、排出量の正確な把握が可能になり、無駄なコスト削減に繋がります。また、ネットゼロ目標達成に向けた進捗を明確に把握できるため、信頼性のある戦略と情報の提供をすることが可能です。
(4)リスク低減とプロセス改善
第三者検証では、保証水準に基づいた厳格な精査が行われるため、情報がステークホルダーに開示される前に報告ミスを減らすことが可能です。また、専門家による評価を受ける中で、環境リスクの早期発見と適切な対応を講じることができます。さらに、検証プロセスの改善点も指摘されることで、持続的なプロセスの向上が実現します。
(5)競争優位性、マーケティング
近年、企業や組織には信頼性の高い情報開示が強く求められています。これは、関連するステークホルダーからの信頼だけでなく、従業員エンゲージメントの向上や人材の確保に有用です。さらに、社会的信用の向上にも期待できることから、市場での競争優位性や効果的なマーケティングに役立ちます。
(6)複数の報告枠組み
GHG第三者検証により、開示した情報は複数の報告枠組みで活用可能です。国内外の気候変動対策プログラムやフレームワークが増え、企業には多くの報告義務がありますが、検証済みデータの再利用でコストやリスクが軽減されます。
出典:CDP「環境データの 第三者検証による ビジネス上のメリット CDPガイド p4 p5
4. まとめ:第三者検証を受けることは企業評価の向上に繋がる
第三者検証を受けることは、企業評価の向上に大きく貢献します。独立した第三者による検証は、企業の情報の信頼性を高め、ステークホルダーからの信頼を獲得するための重要なステップです。
検証を通じて、環境データの正確さが保証され、リスク管理やプロセス改善にもつながります。さらに、複数の報告枠組みへの対応が容易になり、マーケティングや競争優位性の強化にも役立ちます。結果として、企業の評判が向上し、持続可能な成長を実現するための信頼できる基盤の構築に有用です。
GHG排出量の情報開示が必要な企業様は、本記事を参考に第三者検証の導入を検討してみてください。