アスエネは、Forbes JAPANとの共催による「ASUENE Sustainability Summit 2026」を開催した。本記事では、株式会社三井住友フィナンシャルグループ 執行役員 グループCSuOの髙梨雅之氏による講演「サステナビリティを取り巻く“変化”」の内容を抜粋し、アフターレポートとしてお届けする。

本講演のポイント

  • GXは後退しているのではなく、制約の多さを前提に理念から実行へと移るフェーズにあり、その制約こそが戦略的重要性を押し上げている。
  • AIは需給予測やインフラ保全など課題解決に資する一方、データセンターの電力・水消費や情報の信頼性といった新たなリスクも伴う。
  • サステナビリティは売上・人材・ブランド・資本市場・コストに直結する経営戦略となり、バリューチェーン全体でのデータ共有と対話が不可欠になっている。
  • 金融機関の役割も、目標設定支援からトランジションファイナンス・新エネルギー技術支援・コンサルティングを組み合わせた「実装」支援へと広がっている。

「脱炭素は逆流したのか」という問いへの答え

猛暑や地政学的な緊張、エネルギーコストの上昇が続く中、脱炭素の潮流が後退しているのではないかという声が増えているという。髙梨氏はこの問いに対し、次のように応じた。

「正直あまりびっくりするような話はありませんが、1つの見方として聞いていただければと思います。最近、皆さんご覧の通りパンデミックやエネルギー価格の上昇、各国関係の揺れなどがあって、我々の中でもやっぱり脱炭素の流れが後退してきてるんじゃないかというご質問を受けることが非常に多いです。と言っても、これだけ暑いですし、決して逆行したわけではないと考えております。むしろ、理念や目標を掲げるだけではなく、様々な変化を前提として実行に移していく段階に入ってきたのではないかと思っております。先週も実はヨーロッパに行かせていただいたんですけど、基本的には同じような状況を日本と共有されるところになったと思いました」(髙梨氏)

講演は「社会の変化」「企業活動の変化」「SMBCグループの対応」という3つの視点から構成された。

社会の変化――制約が増えるほど、GXの重要性は高まる

①理念先行から実行段階への移行

2015年のパリ協定、2020年の日本のカーボンニュートラル宣言以降の流れについて、髙梨氏は次のように整理する。

「2015年のパリ協定ですとか、2020年の日本のカーボンニュートラル宣言に向けた動きは大きく進展したと思っております。当初は危機感の高まりが強くなっていたと思います。企業は先進的な取り組みを掲げて、金融の世界においてもESG投資は割と早い段階から拡大したと思います。足元では、地政学的リスクですとか、サプライチェーンが分断されたり、エネルギーの安定確保、こういったところに加えて、インフレやエネルギーコストの上昇、トランジションの過程でかかる投資コストが企業収益にとって大きな課題になっています」(髙梨氏)

②「逆流」ではなく「実行力のあるGX」への進化

一見すると逆行に見える状況を、髙梨氏はむしろ戦略的重要性の高まりだと捉え直す。

「こうした状況を見ますと、逆流しているんじゃないかと見えるわけではありますが、重要なのは、こうした制約があるからこそ、GXの戦略的な重要性が高まっているのではないかと思っています。GXは、脱炭素だけの話ではなくて、脱炭素と経済成長を両立させて、産業競争力を高める成長戦略だということです。こうしたエネルギーの安全供給を確保する安全保障の戦略でもあるということで、日本でもサステナビリティ開示基準の制度ですとか、GX-ETSといった排出量取引制度の準備、進展など、制度的な基盤というのが他の国に比べて先行する形になりつつあると思っております」(髙梨氏)

ASUENE Sustainability Summit 2026:髙梨氏講演資料より

③AIによる課題解決の推進力―再エネ需給調整からインフラ保全まで広がる活用領域

髙梨氏は、AIがサステナビリティ課題の解決に資する側面をまず挙げた。

「AIは社会課題の解決の活力になるものだと申します。例えばですが、再生可能エネルギーについて需給を予測できれば、発電量と需要側の調整が可能になります。サプライチェーンでは予測の精度を高めることによって、過剰生産や過剰在庫の廃棄ロス、こういうものを減らせます。また、業務の自動化やインフラの予防保全などを通じまして、老朽化した社会インフラを効率的にすることもできます」(髙梨氏)

④AIによる新たなリスク―データセンターの電力・水消費と情報の信頼性という課題

一方で、欧州出張でも話題が増えていたというAIの負の側面について、髙梨氏は次のように指摘する。

「高度なAIの開発には大規模なデータセンターが当然必要になっておりまして、我々も非常にファイナンスの機会が増えるというところではございますが、膨大な電力や水が消費されていたり、あるいは設備の更新という点でも、またAIが扱ういわゆるバイアスの問題ですとか、あるいは生成情報の精度など、情報の信頼性に関するというのも、かなり話題になってきたと思っております。さらに、自動化による雇用の影響ですとか、AIを使いこなせる企業と人、そうでない企業と人、こういったものが出てきているということで、AIというのは本当にサステナビリティに密接に関わるテーマだと思っておりまして、AIを使って社会課題を解決すると同時に、AIそのものが環境あるいは人権あるいは社会的なリスク、こういったものを適切に管理する必要があると思っています」(髙梨氏)

企業活動の変化――サステナビリティは「守りと攻め」の経営戦略に

①企業価値に直結する複数の経路

サステナビリティの位置づけについて、髙梨氏は経営戦略そのものへの組み込みを説明する。

「現在は企業の競争力と持続的成長を支える経営戦略になっていると思っております。サステナビリティが直接企業価値に影響を及ぼすところとして、売上機会、あるいは人材、ブランド、資本市場の評価あるいはコスト、こういった守りあるいは攻め、この両面から幅を持っていると思います」(髙梨氏)

ASUENE Sustainability Summit 2026:髙梨氏講演資料より

②自社だけでは完結しないバリューチェーン全体の管理

自社の排出量管理だけでは不十分だという点についても、具体的に語った。

「自社の事業所あるいは工場だけでは完結しないと思っています。例えば直接のサプライヤーでの電力、物流、販売した製品の使用、そして廃棄・最終処理まで、環境や社会へのインパクトをバリューチェーン全体で完結するというものでございますし、CO2排出量で言えば多くの企業は自社で調整する分よりも、購入電力ですとか調達や製品使用など、上流・下流のところが当然大きいというところでございまして、ここに人権あるいは森林破壊、こういったところも関係します。自社では適切な管理を行えても、その上流の生産現場で人権侵害や森林破壊というところが起きていれば、企業として関係は問われないという状況にはなっていません。自社単独で目標を掲げて社内だけで完結させる方法というのは限界があるということで、仕入れ先、販売先、お客様、リサイクル事業者との対話を通じて必要なデータを共有して、具体的な取り組みにすることが必要だと思っています」(髙梨氏)

ASUENE Sustainability Summit 2026:髙梨氏講演資料より

③中堅中小企業にとっての「負担ではなく機会」

大企業だけでなく中堅中小企業への波及についても言及があった。

「中堅中小企業にとって重要なのは、これが単なる負担ではないということだと思います。個別のCO2排出量を示せれば、あるいは再生可能エネルギーへの転換計画、こういったものがあるか、データの根拠を持った対応が今後、取引先の選定や取引条件になる可能性があるという風に思います。ただ、これは負担だけではないと思っておりまして、早くから取り組めば体制構築にもつながりますし、より信頼性の高いデータを示せれば新たな事業機会にもつながると思います」(髙梨氏)

SMBCグループの対応――ガバナンスから「実装」支援へ

①トランジションファイナンスと新エネルギー技術支援の両輪

2021年頃は目標設定やセクター別方針の整備が中心だったと振り返りつつ、髙梨氏は現在の支援の重点を次のように説明した。

「1つ目はトランジションファイナンスです。まさに移行を支える時ということで、既存の設備の省エネ化ですとか、燃料転換、生産工程の変更、こういった企業の移行に資金が必要になりますので、まさに設備投資を建設的な形で回していくというところを支援しています。2つ目に新エネルギー技術です。これを使って将来の脱炭素につなげていくというところで、まだ十分に商用化されていない技術もございますので、こういったものを金融からしっかり支援するというのも重要だと思っております」(髙梨氏)

ASUENE Sustainability Summit 2026:髙梨氏講演資料より

②「対話」を起点にした総合ソリューションモデル

資金供給だけにとどまらない関わり方についても強調した。

「この土台となるのがお客様との対話でございます。単に資金を提供するだけではなくて、企業がどのような将来性を願い、どのような時間軸で取り組みたいのかというところをご相談させていただいて、課題解決の方策を一緒に考える、こういうところを我々金融機関としてはやっていきたいと思っております」(髙梨氏)

サステナブルファイナンスの目標を30兆円から50兆円へ引き上げたことにも触れ、投融資の金額や件数だけでなく、それによって社会や顧客にどのような変化をもたらすかという視点を重視するようになったと説明した。

③開示コンサルから脱炭素実行支援まで広がるコンサルティング

金融機能とコンサルティング機能を組み合わせた支援体制についても具体的に語った。

「現在我々の支援は次の段階に進んでおりまして、開示コンサルといったような、改定基準と現状のギャップを見える化して、必要なデータや体制、あるいは開示プロセスについて支援させていただいております。また脱炭素支援コンサルといったところですが、こちらはどのような再生可能エネルギーを導入するのか、どのような発電事業者と連携するのかといった実行戦略の策定というところまで、金融機関として支援させていただいております」(髙梨氏)

髙梨氏は、融資によって課題を把握し、コンサルティングで戦略を描き、設備投資や事業転換を資金面で支え、外部パートナーとの連携で必要な機能を補うという一連のモデルを想定していると述べ、顧客の変革実行を支える総合的なソリューションパートナーを目指す考えを示した。

まとめ:「逆流」ではなく「実行フェーズ」への移行

冒頭で提示した「脱炭素は逆流したのか」という問いに対し、髙梨氏の答えは明確だった。潮流は後退しているのではなく、理念・目標を掲げる段階から、地政学的リスクやコスト増といった制約を前提に「実行」へと移行するフェーズに入った、というのが講演全体を貫く見立てだ。この視点を踏まえると、経営として押さえておくべき論点は以下のように整理できる。

  • 脱炭素の潮流が後退しているように見えるのは、理念先行の段階が終わり、制約の多さを前提とした実行段階に移ったからであり、その制約こそがGXの戦略的重要性を押し上げている。
  • AIは需給予測やインフラ保全など課題解決に資する一方、データセンターの電力・水消費、情報の信頼性、雇用格差といった新たなリスクを伴い、実行段階では両面の管理が不可欠になる。
  • サステナビリティは理念や開示にとどまらず、売上・人材・ブランド・資本市場・コストに直結する経営戦略として、実行フェーズにふさわしい位置づけへと変化している。
  • 自社の排出量管理だけでは実行段階の要請に応えられず、上流・下流を含むバリューチェーン全体でのデータ共有と対話が求められる。中堅中小企業にとっても、これは負担であると同時に新たな事業機会になり得る。
  • 金融機関の役割も、目標設定支援からトランジションファイナンス・新エネルギー技術支援・コンサルティングを組み合わせた「実装」支援へと進化しており、これも実行フェーズへの移行を象徴する動きだ。

「逆流」という見え方の裏にあるのは、制約を前提に動き出した実行フェーズそのものであり、いずれの論点も企業・金融・行政・研究機関が横断的に関わることで初めて前に進む――それが髙梨氏の講演が示した結論と言える。


本記事は、Forbes JAPANとの共催による「ASUENE Sustainability Summit 2026」における株式会社三井住友フィナンシャルグループ 執行役員 グループCSuO・髙梨雅之氏の講演パートを抜粋し、一部内容を整理・再構成したものである。