ドローン×AI×現場知見で、インフラ設備の「当たり前」を変える
〜 インフラメンテナンスの課題に、現場目線のDXで挑む 〜
日本のインフラ設備は、高度経済成長期に集中的に整備されたものの多くが、現在老朽化の時期を迎えています。同時に、この分野の人材不足も深刻化する中、AIやドローン、センサーなどのテクノロジーを駆使したデジタル変革が求められています。
そうした社会課題の解決に向けて、独自のアプローチで挑んでいるのがアルビト株式会社です。同社は、「現場の目線」と「AI・IoT・データを活用したテクノロジー」、そして「お客様の課題解決を伴走型で支援すること」を以て、インフラ設備メンテナンスのDXを推進しています。
今回は、同社代表取締役の鈴木氏にお話を伺い、事業の特徴や今後の展望について詳しく聞きました。
INDEX
創業のきっかけは、現場とITの橋渡しへの課題意識
——まず、アルビト株式会社の事業内容と創業の経緯について教えてください。
鈴木氏:我々アルビト株式会社は、インフラ設備の老朽化や人材不足という社会問題に対して、AIやドローン、センサーなどのテクノロジーを駆使してメンテナンスのDXを推進する会社です。2019年に法人設立しました。
創業の背景には、私自身のコンサルティングファーム時代の経験があります。DX/ITプロジェクトを数多く経験してきましたが、インフラ設備メンテナンスにおいては、現場観点での様々な悩み/課題の解決の領域で、まだまだテクノロジーによる効率化や高度化の可能性があることに気づきました。実際にメンテナンス現場で働いていた仲間と共に、「ここが課題じゃないか」「こういうふうに解決していけるんじゃないか」という議論を重ねたことが始まりです。
特に重要だったのは、現場の人たちとマネジメント、そしてDX/IT担当者の間で、思想や思考、目的やアプローチが合わないことが多いという発見でした。現場からボトムアップで改善案を上げても、マネジメント層からトップダウンでDX戦略を決めても、事業運営に即した課題解決には及ばないケースも散見され、このギャップを埋める「ハブ」の役割を果たす機能が必要だと考えました。
4つの事業を循環させる、独自のビジネスモデル
——御社の事業構造について詳しく教えてください。
鈴木氏:我々の事業は4つの柱で構成されています。まず1つ目は「インフラドックサービス」です。本サービス提供はドローンやAIを使って点検・補修・調書作成業務の効率化/高度化を行います。2つ目は「DXコンサルティング」です。様々なステークホルダーのハブとなり、お客様の課題解決に寄り添い伴走型で支援を行います。
3つ目が「データマネジメント・研究開発」です。点検や補修で得られたデータをプラットフォームでデータ管理や分析処理。内業の効率化に向けたアプリケーション提供と、データを活用した事業戦略立案につなげます。また、新たなDXの仕組みやカスタマイズも行います。
そして4つ目が、お客様自身が自発的にDXを推進できる人材となるよう、ノウハウを身に着けてもらうための「DX人材教育サービス」を行います。この4つが循環することで、単発の解決策ではなく、持続可能な改善サイクルを作り上げています。
この循環型のアプローチが我々の最大の特徴です。一つ一つの領域でサービス提供している会社はありますが、これら全てを繋げてやっている会社はほぼないと思います。点でソリューションを捉えるだけでは、前後の関係を踏まえた真の課題解決はできないと考えています。全体の流れを把握することで、より深いソリューションが提供できるのです。
大手企業との共同研究・開発実績
——具体的にはどのような事業実績がおありでしょうか?
鈴木氏:インフラドッグサービスでは、エネルギー関連設備や橋梁、自治体の管理設備のメンテナンス、建物の外壁点検など、全国各地で業務を承っています。
研究開発分野では、電力会社や大手メーカーとの協同研究が進んでいます。具体的には、大手企業との共同特許取得や、某印刷会社との共同研究、電力会社との共同特許取得など、多くの企業との協業実績が蓄積されています。
また、パナソニック㈱エレクトリックワークス社さんとは自治体向けDXサービスを共同開発し、愛媛県のプロジェクトに採択されるなど、単独ではなく他社との連携によるプロジェクトも活発に展開しています。人材育成の分野では、東京都中小企業振興公社が手掛ける事業カリキュラムに採択されるなど、公的機関からも評価をいただいています。これらの実績は、我々の4事業全てを連携させたアプローチが評価されている証拠だと考えています。
業界の「当たり前」を変える挑戦と苦労
——事業を展開する中でのご苦労はありましたか?
鈴木氏:インフラ設備メンテナンスは専門性が求められますので、始めは「本当に現場を知っているのか?」という空気感をお客様より感じることも多くありました。
しかし、我々は実際に現場業務も行っているため、「あ、わかってるじゃないか」と認めてもらえるようになりました。机上の空論ではなく、実際にドローンを使って早く精度良く点検できることのみでなく、内業でのチェック観点を踏まえた仕組み化を示すことで、現場の方々とのやり取りにおいて感覚や話し方が全く変わっていくことがひしひしと伝わってきました。
この経験から、誠実に現場と向き合い、実際に価値を提供することの重要性を痛感しました。コンサルティングだけでなく、実際の現場業務も手がけることで、真の信頼関係を築くことができたのだと思います。

組織体制:少数精鋭とパートナーネットワーク
——現在の組織体制について教えてください。
鈴木氏:現在は4つの事業それぞれに責任者を置いています。現場系は統括者1名、コンサル部門は私が担当、IT部門とDX人材育成部門にもそれぞれ責任者がいて、経営管理を含めると5つの機能に分かれています。
ただし、明確に部署を分けているわけではなく、役割(ロール)として分けています。小さな会社なので、メンバー間の連携は非常に密接です。現場で見えた課題をITのダッシュボードに反映させるなど、部門を超えた情報共有がスムーズに行われています。
また、全国にパートナー企業がいます。単なる委託先ではなく、我々の考え方/スキーム自体に賛同してくれるパートナーとの協業により、現場業務は全国対応できるように展開しています。例えば、ドローンスクールを運営している会社に、点検後のデータ解析や調書作成のノウハウを教えることで、彼らは他社との差別化を図れます。我々はバックアップで解析業務を支援し、彼らが新たなビジネスとしてスクール以外のドローンの利活用提案活動を行う。こうしたwin-winの関係性を全国に構築しています。
サステナビリティへの取り組み:循環型モデルそのものが持続可能性
——環境やサステナビリティへの取り組みについてお聞かせください。
鈴木氏:我々が提供している循環型のサービスモデル自体が、まさにサステナビリティの実現だと考えています。お客様自身が自分たちのメンテナンスDXを継続的に改善していける仕組みを作ることが、真の持続可能性につながると思っています。
インフラ設備の観点では、予防保全メンテナンスの実現により、設備の長寿命化が可能になります。大きな損傷が発生してから大規模な修繕を行うより、軽微な損傷を継続的に修繕していく方が、使用する材料や人的リソースの面で環境負荷を抑制できます。
今後の課題:仲間づくりと波及効果の拡大
——今後取り組むべき課題について教えてください。
鈴木氏:会社としての課題は、先ほど説明した循環型のアプローチを継続・発展させることです。これは一過性で解決する課題ではありません。人間と同じで、ステップアップすると新しい景色で新たな課題が見えてくる。螺旋状に上がっていく継続的な取り組みが必要です。
内部的な課題としては、仲間を増やすことが急務です。領域がどんどん広がる中で、専門性を持った人材が多種多様に必要になります。そのため採用活動を積極的に行います。
同時に、従来のやり方を効率化する取り組みも進めています。例えば、10人必要だった作業を生成AIを使って1人で済むようなスキームを構築しています。これが東京都中小企業振興公社のカリキュラムに採択されている理由でもあると考えています。
単純に人を増やすのではなく。10倍の生産性を出せるスキームを構築した状態で、それを活用できる人材を1人配置する方が効果的だと考えています。
パートナーシップの拡大:全国ネットワークの構築
——外部パートナーとの連携拡大についてはいかがでしょうか?
鈴木氏:創業時から、単独でのスケールには限界があると考えていました。例えば、ドローンを飛ばせる会社は全国にたくさんありますが、点検データを取得・解析して調書作成まで行えるノウハウを持つ会社は多くはありません。
そこで、我々がドローンスクール運営会社に技術移転を行い、彼らが高度なサービスを提供できるよう支援しています。我々がバックアップで解析業務をサポートすることで、彼らは他社と差別化された営業が可能になります。
結果として、パートナー企業と共にインフラドックサービスといったサービスを対外的に提供する仕組みができてきます。これにより、全国規模でのサービス展開が可能になっています。
企業カルチャー:誠実さと目的志向を重視
——御社で大切にしているカルチャーや価値観について教えてください。
鈴木氏:カルチャーは結果的ににじみ出てくるものだと思いますが、現在感じているのは、目的志向を持つメンバーが多いということです。手法や手段は流動的に変わりますが、軸となる課題意識や目的はブレない人材が集まっています。
小手先の利益にとらわれず、最初は利益が出なくても次につながる構造を理解して取り組める人が多いです。また、4つの事業分野のメンバーが密に連携し、部門を超えた情報共有が活発に行われています。
採用において絶対に必要な条件は「誠実であること」だけです。お客様に対してできること・できないことを明確に伝え、できないことがわかった上でどう解決するかを一緒に考える。目先の利益のために継続性のない提案はしません。
自分のミスを認められ、まず事実を受け入れてから前向きに改善策を考えられる人が重要です。言い訳から始まる人とは生産的な対話ができませんから。

働く魅力:専門領域横断の経験とキャリア形成
——アルビトで働く魅力について教えてください。
鈴木氏:最大の魅力は、専門領域をまたいだノウハウや論理的思考を身につけられることです。このような経験ができる会社は稀で、確実にキャリアアップにつながります。営業からマネジメント、実行まで高速で回すため、どこでも通用するスキルが身につくでしょう。
また、自分で課題を見つけ、解決策を考え、それをサービス化していく環境があります。一般的に企業では決められた役割を与えられることが多いと思いますが、我々は「こうあるべきだ」という意見をぶつけ合い、良いアイデアがあれば「作ってみよう」と実現できる環境です。
サービス展開の方向性についても、全員で議論しながら決めています。ターゲット設定からサービス内容まで、チーム全体で考え抜く過程は、非常にやりがいのある経験だと思います。
給与体系についても、成果に応じたインセンティブを重視しています。大きな売上・利益を生み出した人には、それに見合った報酬を提供する方針です。
求める人材:循環型思考と課題解決マインド
——どのような方と一緒に働きたいとお考えでしょうか?
鈴木氏:業界経験は必須ではありません。私自身もインフラ設備メンテナンスに関わる業界出身ではありませんが、論理的思考力があれば大丈夫です。むしろ、1つの業界に長くいすぎると固定概念が邪魔することもあります。
重要なのは、課題意識を持ち、一つの解決策だけでなく前後の関係性を含めて体系化できるマインドです。「ここをこう変えたらうまくいくのに」という課題意識と、「それを実現するために後続や前工程も含めて考える」思考力が必要です。
我々の循環型アプローチを理解し、単なる物売りの営業ではなく、お客様の課題を周辺まで含めて大きく捉え、最適な座組を提案できる人材を求めています。
年齢的には若年層を中心に考えておりますが、重要なのは既存のキャリアに固執せず、新しいことを学ぶ姿勢を持てるかどうかです。ベンチャー企業で一緒に成長していく意欲のある方と出会いたいですね。
読者へのメッセージ:未解決の課題に挑む仲間を求める
——最後に、この記事を読まれる方へメッセージをお願いします。
鈴木氏:メンテナンスDXの世界は、まだ明確な答えが見えていない領域です。そうした中で「ここが課題かもしれない」「こういう答えが出せるかもしれない」という探究心を持ち、課題解決を楽しめる人にぜひ来てほしいです。
仕事のハードさで言えば、もしかすると私は今人生で一番過酷かもしれませんが、それでも続けているということは、それだけやりがいがあるということだと思います。チーム一丸となって、まだ誰も解決していない課題に取り組む面白さがあります。
インフラ設備を支える方々のお悩み解決という我々のミッションに共感し、一緒に新発想で未来を創る仕事にチャレンジする仲間となるかたをお待ちしています。
会社概要
会社名: アルビト株式会社
設立: 2019年
代表取締役: 鈴木勇祐
事業内容: インフラ設備メンテナンスDX事業
・インフラドッグサービス(点検・補修・調書作成)
・DXコンサルティング
・データマネジメント・研究開発
・DX人材育成
協業実績:中部電力、パナソニック等との共同研究・開発
Webサイト: https://www.arbito.co.jp/
この記事は2025年に実施したインタビューをもとに作成しました。