CO2削減に向けた中小企業の取組をご紹介します。サステナブル経営というと「一部の大企業の取り組みでは?」と思われるかもしれません。しかしカーボンニュートラルが人類共通の目標である以上、中小企業であっても脱炭素に向けてできることはたくさんあります。
そしてそれは単にCO2の排出量を減らすというだけにとどまらず、企業価値の向上をもたらし、社員のモチベーションアップや新規事業の成功などにもつながっていきます。本記事ではそんな事例として、山陽製紙という企業を取り上げます。
INDEX
高度成長期の後業界縮小の中で迎えた設立50周年
日本は高度経済成長期に、工業を中心として大いなる発展を遂げました。しかしやがて景気は曲がり角を迎え、各企業は経営戦略の見直しを迫られることとなります。山陽製紙もそうした企業のひとつでした。
高度成長期から縮小マーケットへ
山陽製紙株式会社(以下「山陽製紙」)は、大阪に本社を置く製紙業者です。設立は1928年で、間もなく100周年を迎えます。従業員は46名(2024年12月時点)・資本金3,800万円と、企業規模は決して大きくありません。
現社長と専務の原田夫妻が事業を引き継いだころ、世の中は高度成長期の真っただ中。山陽製紙も、経済成長の恩恵を享受していました。しかしその後製紙業界はペーパーレス化によるマーケットの縮小に直面し、同業他社の廃業や倒産が相次ぐようになりました。
現在ではクレープ紙(※大型紙袋の口縫いに使用される、細かいシワのある工業用紙)を製造しているのは、日本国内では山陽製紙1社のみという状況です。
100周年を前に想う
高度成長期の山陽製紙は、「資材を使いまくり排水を近くの川へ放流して」事業活動を続けており、原田夫妻はそのことについて負い目を感じていました。そして設立100周年を目指すと決めた2007年には、経営理念を「循環型社会に貢献する製紙会社を目指す」へと刷新しました。
「環境問題に目をつぶる会社では、生き残って100周年を迎えることはできない。紙創りを通してお客様と喜びを共有し、環境に配慮した循環型社会に貢献する、そんな企業であればこれからも持続できるのではないか」、そんな想いがサステナブル経営へ第一歩を踏み出すきっかけとなりました。

手探りで進めるCO2削減
経営理念を掲げることは簡単ですが、それを実践するのは容易ではありません。山陽製紙でも、経営理念の実現に向けて地道な努力を重ねていきました。
社員全員でエコ検定に挑戦
まず最初に取り組んだのが、エコ検定(環境社会検定試験)の導入でした。循環型社会とは何かを理解するために社員全員で取り組み、さらにサステナ経営検定(サステナブル経営/CSR検定)にもチャレンジしました。
こうした学習を通じ山陽製紙社内では、脱炭素やサステナブル経営への理解が進み、特定の部署だけの取り組みにとどまることのない風土が醸成されていったのです。
古いコピー用紙の回収・再生
山陽製紙では、古いコピー用紙を回収し、再生紙としてアップサイクルする「PELP!」(Paper Help Project)を運営しています。PELP!の会員企業になってPELP! BAGを購入、要らなくなったコピー用紙をPELP! BAGへ集めて工場へ送ると、名刺・封筒・紙バッグなど指定の紙製品が製造・提供されます。
「大量生産、大量消費する紙は造らない」という山陽製紙の想いが、循環型社会へ貢献する仕組みを生み出しました。

自治体とのコラボレーション
山陽製紙は、地域の活性化を模索する自治体へも積極的にアプローチしています。少量の発注でも柔軟に対応する同社は、再生紙製品の提供を通じて地域産業の脱炭素化へ協力できると考えており、中小企業ならではの強みを活かした提案が可能です。
たとえば牡蠣の殻から製造した地ビール粕(肥料)を再生紙で包装すれば、再生物同士のコラボとなって付加価値が高まります。山陽製紙では、そのような活動も広げていきたいと考えています。
逆境を好機に:挑戦が生み出した真の価値
山陽製紙のサステナブル経営への取り組みは、新しいビジネスモデル以外にも、さまざまなメリットへつながっています。
採用面でのプラス:サステナ経営に関心のある希望者の増加
山陽製紙が自社ホームページでサステナブル経営への取り組みを公表すると、それを見て「自分もこのような会社で働きたい」と中途入社への応募者が来るようになりました。サステナビリティに関心のあるひとは、山陽製紙の経営理念への共感はもちろん、その取り組みが本気であるからこそ、大きな魅力を感じるのでしょう。
また中小企業であるがゆえに、サステナビリティ担当部署だけではなく会社ぐるみで活動している点が、同社が応募者にとってより身近に感じられるプラス要因であることも見逃せません。
※山陽製紙では2025年6月現在、新規採用の募集はしておりません。
社員のモチベーション向上:新事業成功への意欲
PELP!など新しい事業が始まってから、山陽製紙では各社員の新事業成功へのモチベーションが大きく向上しました。以前は「工業用のクレープ紙をいかに安価に提供し、品質を良くするか」という視点しかなく、先細っていくマーケットへの不安が拭えない状態でした。
しかし「生計維持のため」ではなく、「循環型社会への貢献という経営理念を体現するため」とマインドセットが変わったことで、社員が真の働き甲斐を感じられるようになったのです。
有効な企業ブランディング:有名作家とのコラボやインバウンド人気も
サステナブル経営は山陽製紙にとって、有効な企業ブランディングとなりました。たとえば画家・絵本作家として有名なミロコマチコさんとコラボした、工業用再生紙でできたピクニックラグが製造されましたが、これも山陽製紙の経営理念や取り組みがミロコマチコさんの共感を得られたからこそ実現したものです。
また工場見学も人気で、来場の申し込みが次から次へと続き、海外からも多くの見学者が訪れるようになっています。このように山陽製紙の魅力や価値が自然に社外へも伝わっていき、さらなるビジネスチャンスを生む原動力になっています。

まとめ:本気で脱炭素を目指すことの意味とは?ASUENEと共にさらなるサステナブル経営を目指す
中小企業でもサステナブル経営は可能であり、むしろ中小企業であるからこそサステナブル経営が生存戦略にもなりうるということが、山陽製紙の事例からご理解いただけるでしょう。時流に合わせ形式的にSDG’sを掲げるだけではなく、本気で事業活動を通じた脱炭素を目指すことこそが、規模を問わずこれからの企業に求められることではないでしょうか。
山陽製紙がこのような取り組みを継続できる背景として、ASUENEによる支援が欠かせないものとなっています。サステナブル経営には、CO2排出量の算定や開示、各種イニシアチブへの対応なども必要です。そのように専門性が必要な分野については、社内メンバーで担うのが難しい場合もあります。
そこでASUENEの各種ソリューションを活用することによって、よりスムーズにサステナブル経営を実現することが可能となるのです。「本気の脱炭素」への第一歩として、ぜひASUENEへお気軽にご相談ください。