アメリカのパリ協定脱退について、わかりやすく解説します。アメリカのトランプ大統領は、2025年にパリ協定からの離脱を宣言しました。これは実は2度目のことで、2017年の「トランプ1.0」政権においてもパリ協定の離脱という動向がありました。本記事ではパリ協定の概要、アメリカのパリ協定脱退の経緯とそれに対する国際社会の反応、アメリカのパリ協定脱退が気候変動対策に与える影響や、アメリカ国内の環境政策の変化などについて取り上げます。
INDEX
パリ協定について
パリ協定は地球温暖化対策として採択された、国際的な取り決めです。パリ協定の概要について解説します。
パリ協定の目標と主な内容
パリ協定は、2015年にフランス・パリで行われた気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択された、法的拘束力のある国際的な合意文書です。パリ協定は、産業革命前からの世界の平均気温上昇を2℃より十分下方に抑えるとともに、1.5℃に抑えることなどを目標とし、温室効果ガスの人為的な排出と吸収の均衡(カーボンニュートラル)などを目指すことを規定しています。
出典:環境省「地球温暖化に係る新たな国際的枠組み」P4-5(2016)
参加国の義務と目標
パリ協定では、各国が5年ごとに温室効果ガス排出の削減量について「国が決定する貢献(nationally determined contribution、以下NDC)」という目標を提出・更新することを定めています。また先進国に対し、温室効果ガスの排出を抑制しつつ温暖化の影響へ適応することについて途上国支援資金の提供を義務付けたり、 先進国以外の締約国に対しても、自主的に資金を提供するよう奨励しています。
出典:環境省「地球温暖化に係る新たな国際的枠組み」P4-5,10(2016)
パリ協定の加盟国と非加盟国
パリ協定には、気候変動枠組条約に加盟する全195カ国・地域が参加しています。中国・インド・EU・ロシア・アメリカ・日本などの主要国はもちろん、ザンビア・キューバ・モルディブ・モンテネグロなどいわゆる「大国」ではない国々も多数加盟国となっています。しかしイラン・リビア・イエメンなど、NDCを提出していない国もわずかながら存在します。
出典:JCCCA「パリ協定」
出典:UN Climate Change「NDC Registry」
出典:日本経済新聞「米、唯一の非参加国か パリ協定にシリア署名方針」
アメリカの二度目のパリ協定脱退について
アメリカは2025年にパリ協定離脱を宣言しました。これは実は、二度目のこととなります。
2017年のトランプ政権による最初の脱退
2017年アメリカのトランプ大統領は、パリ協定から離脱すると発表しました。トランプ大統領は、「パリ協定は他国に利益をもたらし、米国の労働者には不利益を強いている」とパリ協定を批判し、パリ協定により米国は温暖化対策で巨額の支出を迫られる一方で、産業弱体化により雇用が喪失し、さらに一般家庭にも高額なエネルギーコストの負担を強いると離脱の理由を語っています。
出典:環境省「米国のパリ協定脱退表明を受けた我が国のステートメントの発出」p2
2021年のバイデン政権による再加盟
第一次トランプ政権に続くバイデン政権では、バイデン大統領が就任した2021年1月にパリ協定への再加盟手続きを完了しました。さらにバイデン大統領は就任 1 週間目には、政府全体で気候政策を優先することや、気候への配慮をすべての関連政策分野に統合することを指示する一連の大統領令を発表しています。
出典:公益財団法人地球環境戦略研究機関「バイデン政権における米国気候政策に関する楽観的な展望」p(2021/3)
2025年トランプ政権の復帰と再脱退決定
しかし2025年にトランプ氏が再び大統領に復帰すると、就任当日にパリ協定からの離脱を含む大統領令「国際環境協定でも米国を第1に位置づける」が発表されました。同大統領令には、パリ協定からの離脱を直ちに国連へ通告し、協定からの離脱が即時発効するものと見なすことなどが盛り込まれています。離脱の理由について同大統領令では、「近年米国は、我が国の価値観や経済・環境目標の達成への貢献を反映していない国際協定やイニシアチブへ参加してきました。これらの協定は、米国民の利益のために財政支援を必要としない、あるいは支援に値しない国々に、米国の納税者の金銭を流用しています」と述べられています。
出典:the White House「PUTTING AMERICA FIRST IN INTERNATIONAL ENVIRONMENTAL AGREEMENTS」(2025/1/20)
アメリカのパリ協定離脱に対する国際社会の反応
トランプ大統領の復帰にともなうパリ協定からの離脱は、国際社会にも大きな影響を与えることとなりました。
WWFの反応
世界自然保護基金(World Wide Fund for Naturem、以下「WWF」)は、「パリ協定離脱の大統領令は自然を危険にさらすものだ」と指摘しています。WWFはさらに「パリ協定からの離脱は、我々が生産的なパートナーシップを築ける国々、我々のイノベーションの市場となる国々、我々のビジネスが必要とする原材料を提供する国々との関係を築くことを、米国にとってはるかに困難にする」との懸念を示しました。
出典:WWFジャパン「【抄訳】トランプ新政権発足初日の大統領令に関する声明」(2025/41/23)
アメリカ国内企業や自治体の自主的な気候変動対策の強化
アメリカでは、もともと温暖化政策は連邦の中でも積極的な州が主導してきた面があります。今回のパリ協定離脱に際しても、全米24州の知事が参加する州知事連合「United States Climate Alliance(米国気候同盟)」は、「パリ協定の目標達成と気候汚染の削減に向けたアメリカの取り組みを継続することを、条約事務局と世界に明確に伝えます」と宣言しています。また、アメリカ国内の都市、企業、学校、宗教団体、医療機関、文化機関など、5,000以上の組織が参加する連盟「AMERICA IS ALL IN(アメリカはみんなパリ協定にいる)」も、「トランプ政権によるパリ協定からの離脱にもかかわらず、パリ協定へのコミットメントをさらに強化する」と題する声明を公開しました。
出典:WWFジャパン「トランプ政権とともに世界の温暖化対策は後退するのか?」(2025/41/23)
日本の反応
日本の浅尾環境大臣はアメリカのパリ協定離脱に関して、「残念に感じているが、2050年ネット・ゼロに向けた日本の取組の方向性は揺るがない」と述べています。また大統領令の内容について、アメリカはさまざまな政策によって温室効果ガスの排出も減らしてきたと記載されている点に触れ、パリ協定からの離脱にかかわらず、アメリカでの温室効果ガス削減の動きは継続されるという認識を示しました。
出典:環境省「浅尾大臣閣議後記者会見録 (令和7年1月21日(火)11:00~11:21 於:環境省第1会議室)」(2025/1/21)
まとめ:アメリカのパリ協定脱退に左右されず、引き続きカーボンニュートラルの推進を図る
脱炭素へ向けた国際社会の協調も、「トランプ2.0」によってアメリカのパリ協定再離脱という激震に直面することとなりました。アメリカがパリ協定を離脱するのは、トランプ前大統領が同協定によってアメリカが巨額の負担を強いられることや、国内のエネルギー産業の競争力が損なわれると主張していたことが背景にあります。パリ協定の目標達成に向けた世界中の脱炭素の取り組みも、こうしたアメリカの動向によって影響を受ける可能性は高いでしょう。一方でアメリカ国内でもパリ協定を順守するとしている各種団体が多く、全世界的に見れば脱炭素社会を目指す方向性は変わらないでしょう。
EUでは引き続き厳格な環境規制が継続しているなど、アメリカがパリ協定を離脱したからと言って、環境規制が世界中で白紙になるわけではありません。アメリカでは政権交代によって気候政策が大きく変化することがこれまでも繰り返されており、今後もその可能性は高いと見られています。アメリカのパリ協定離脱に対し、必要以上に慌てることなく、カーボンニュートラルの推進を継続していきましょう。