ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル、以下「ZEB」)について、わかりやすく解説します。ZEBは近年、環境に優しい建築物として注目されています。環境マネジメントや再生可能エネルギーに関する技術の発展にともない、多くの自治体や事業者がZEBを導入しています。利用者からのイメージアップにもつながるZEBの建築は、今後ますます推進されると予想されます。本記事ではZEBの概要、ZEB実現に必要な技術や各種支援策、実際のZEB建築事例などについて取り上げます。
INDEX
ZEBの概要
ZEBは消費エネルギーを限りなく0に近付ける建物です。ZEBの概要について解説します。
ZEBとは
ZEB(ゼブ)はNet Zero Energy Buildingの略称で、省エネルギーによって消費エネルギーを抑え、さらに建物自体が「創エネルギー」も行うことで、エネルギー消費量が実質的に0(ネットゼロ)となることを目指した建築物のことです。単にエネルギー消費を減らすのであれば照明や空調を使わないという方法が考えられますが、快適な室内環境を実現しながら消費エネルギーのネットゼロを可能とするのが、ZEBの特長です。
ZEBの概要
ZEBの種類
資源エネルギー庁では、ZEBに関して以下の通り4つの種類を定義しています。
ZEB(ゼブ) | 省エネ+創エネで消費エネルギー0%以下まで削減 |
Nearly ZEB(ニアリーゼブ) | 省エネ+創エネで消費エネルギー25%以下まで削減 |
ZEB Ready(ゼブレディ) | 省エネで消費エネルギー50%以下まで削減 |
ZEB Oriented(ゼブオリエンテッド) | 延床面積1万㎡以上建物の用途によって消費エネルギー60%または70%以下まで削減 |
この4種類は、ZEB Oriented→ZEB Ready→Nearly ZEB→ZEBという4段階を示しており、ZEBの実現・普及に向けて定められました。
出典:環境省「ZEBの定義」
ZEBのメリット
ZEBの一番の長所は消費エネルギーを削減できることですが、それ以外にも以下のようなメリットがあります。
・不動産価値の向上(建物としての魅力度アップ)
・快適性・生産性の向上(最先端技術による健康配慮等)
・光熱費の削減(コストの圧縮)
・事業継続性の向上(災害など非常時でも創エネで対応可能)
建築物にはオーナー・テナント・訪問者・建物内の労働者などさまざまな関係者が存在しますが、それぞれの立場に応じてZEBのメリットを享受することができます。
特に導入企業(オーナー)にとっては、以下のようなメリットが発生します。
・コストパフォーマンスの向上(ランニングコスト削減・賃料向上など)
・環境配慮型企業としての評価向上(ESG投資の呼び込みなど)
・補助金・税制優遇の活用(国や自治体のZEB支援制度活用)
出典:環境省「ZEB化のメリット」
出典:環境省「支援制度」(2024/11)
ZEB実現に向けたポイント
建物をZEB化するために、重要な視点がいくつかあります。ZEB実現に向けたポイントについて解説します。
ZEB実現に必要な技術
ZEBを実現するには、高い技術が必要です。ZEBに関係する技術は以下の通り区分されます。
区分 | 説明 | 事例 | |
省エネ技術 | パッシブ技術 | 必要なエネルギーを減らす | 日射遮蔽・外皮性能向上・昼光利用・自然換気 など |
アクティブ技術 | エネルギーを効率的に利用 | 高効率照明・高効率牛腸 など | |
創エネ技術 | エネルギーを作るための技術(再生可能エネルギー) | 太陽光発電・バイオマス発電 など |
さらに建物の運用段階では、無駄なくエネルギーを消費する「エネルギーマネジメント技術」も重要になってきます。たとえばBEMS(Building and Energy Management System・・ビルエネルギー管理システム、室内環境とエネルギー性能の最適化を図るためのビル管理システムのこと)の活用等によるエネルギーの可視化、各設備の最適なチューニング、効率的な運転などが求められます。
出典:環境省「ZEBを実現するための技術」
出典:環境省「ZEBに関する用語集」
ZEB化のスケジュール例
ZEBを新築するには2年、既築建物をZEB化するには3年程度の時間がかかります。
【新築の場合】
1年目・・基本設計・設計事業者公募・詳細設計・ZEB認証手続き
2年目・・ZEB補助事業申請・施工業者公募・施工・竣工検査・補助事業の実績報告書提出
【既築の場合】
1年目・・ZEB化可能性調査
2年目以降は新築の場合の1年目からと同様
なお上記のケースは、補助事業を活用した場合の想定です。ZEB化までの実施項目やスケジュールは、建物ごとで異なりますのでご注意ください。
ZEBに関する各種支援制度
ZEBについては、各省庁が支援制度を用意しています。
環境省 | 建築物等のZEB化・省CO2化普及加速事業 など |
経済産業省 | 令和6年度 ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)実証事業 |
国土交通省 | 令和6年度 住宅・建築物省エネ改修推進事業 |
文部科学省 | エクスクールプラス など |
総務省 | 脱炭素化推進事業債 |
このほかにも、林野庁の建築物の木造化・木質化に活用可能な補助事業や制度、地方自治体による各種支援制度などがあります。ZEB実現においては、こうした支援制度をうまく活用できるか、検討する必要があります。
ZEBの建築事例
日本国内では、既に多くのZEBが登場しています。ZEBの建築事例をご紹介します。
小鹿野町役場庁舎
埼玉県の小鹿野町役場庁舎は、2023年1月に竣工したNearly ZEBです。建設にあたっては、省資源・省エネルギー技術や太陽光発電など自然エネルギーを導入することで、持続可能性の高い庁舎を目指しました。また町有林の木材を構造材や内外装材に利用した木造庁舎となっています。建物の消費エネルギーを評価するBEI(Building Energy Index、設計一次エネルギー消費量÷基準一次エネルギー消費量)は0.44を実現しています。
出典:国土交通省「公共建築物におけるZEB事例研究」p49-52(2024/6)
出典:環境省「ZEBに関する用語集」
ダイキン工業福岡ビル
福岡県福岡市のダイキン工業福岡ビルは、2017年5月に改修されZEB Readyとなりました。事務所のエネルギー消費量の7割を占める空調・換気・照明に特化した改修により、コストを極力抑えた効率的な改修を目指したものです。この結果、年間のランニングコストの約38%削減が実現しました。また二重窓や最先端技術による空調管理によって、執務空間の温熱環境の改善や従業員の知的生産性の向上にもつながっています。
出典:資源エネルギー庁「改修ZEB事例集」p7-8(2023/5)
早稲田アリーナ
2018年11月に竣工した早稲田大学のスポーツ施設「早稲田アリーナ」は、ZEB Readyとなっています。屋上緑化・雨水利用・高効率空調・地熱利用・太陽光発電などの技術が用いられ、創エネを含んだBEIは2020年度0.38となっています。アリーナの大半を地下に埋設し、外部の熱負荷を低減している点も特長的です。
出典:文部科学省「ZEB事例集」p70-71(2022/5/20)
まとめ:オフィスや公共施設のZEB化を推進して、脱炭素社会の実現を目指す
ZEBは消費エネルギーの削減と再生可能エネルギーの創出によって、実質的な消費エネルギーが0%以下(ネットゼロ)となることを目指す建築物です。完全なネットゼロには及ばないものの、その手前の70%・60%・50%・25%を実現する中間的なZEBも定義されており、今後さらなる普及が期待されます。ZEB実現には高い省エネ・創エネ・エネルギーマネジメント技術が求められますが、国内各省庁や地方自治体による各種支援制度も充実しているので、建物の新築・改修にあたってはZEBとすることを検討するとよいでしょう。
オフィスや公共施設のZEB化を推進して、脱炭素社会の実現を目指しましょう。