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ドラギレポートとは?概要や提言ポイントを詳しく解説

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ドラギレポートとは?概要や提言ポイントを詳しく解説

ドラギレポートについて、わかりやすく解説します。マリオ・ドラギ氏が監修し注目を集めた約400ページにもおよぶ報告書からわかるのは、温暖化対策で世界をリードしてきたヨーロッパが直面する大きな課題です。脱炭素化推進にともなうさまざまな負の影響は、産業の競争力にもその影を落としていることがうかがわれます。本記事ではドラギレポートの概要、同レポートにおける主要な提言やその実現に向けた諸課題について取り上げます。

INDEX

ドラギレポートとは?

ドラギレポートは、2024年に発表された報告書です。ドラギレポートの概要について解説します。

ドラギレポート発表の背景

ドラギレポートは、ECB(欧州中央銀⾏)前総裁でイタリア前⾸相も務めたマリオ・ドラギ⽒が、2024年9月に発表した報告書の通称で、正式なタイトルは「The future of European competitiveness」(欧州の競争力の未来)です。ドラギ氏はECB総裁であった当時、深刻化していたギリシャ危機を乗り切るための陣頭指揮を執って「スーパーマリオ」とも呼ばれた経済界の重鎮です。こうした経緯から欧州委員会は同氏へ欧州の競争力の将来に関する自身のビジョンをまとめた報告書を作成するよう依頼し、このレポートが誕生しました。出典:European Commision「The Draghi report on EU competitiveness」
出典:Renters「コラム:弱まるEUの団結力、必要な「スーパーマリオ」の力」(2024/6/24)

ドラギレポートの全体概要

ドラギレポートは「欧州に待ち受ける3つの変⾰」としてポイントを整理し、これらの変⾰に対応する新たな産業戦略を提案しています。3つの変革とは、

・イノベーションを加速し、新たな成⻑エンジンを⾒いだす必要性
・⾼いエネルギー価格への対応
・地政学的に不安定な世界への対応

を指し、米中とのイノベーションギャップ、脱炭素化に向けた計画、防衛産業力強化などの必要性が示されています。またドラギレポートで提案されている産業戦略は主に、

・経済安全保障
・脱炭素・エネルギー
・成長戦略

の3分野で、戦略分野における欧州の地位低下の原因を指摘しつつ、現実に実施可能な政策を提示しており、欧州の新たな産業戦略の在り方を示すものとなっています。出典:経済産業省「電⼒システム改⾰と エネルギーに関する最近の国際動向」P3(2025/10)

ドラギレポートの主要な提言ポイント

ドラギレポートでは、数多くの事項が提言されています。その主要なポイントについて解説します。

経済安全保障

経済安全保障分野においては、特にクリーンテック分野において欧州の地位が中国などによって脅かされている点が強調され、依存度を低減する必要があると指摘しています。またエネルギーやクリーンテクノロジーに関する公共調達において、⾮価格基準を導⼊し、⾮EU企業との競争条件を公平にすることの必要性について説かれています。さらにEU域内への直接投資にも産業戦略との政策協調が必要であり、欧州全体のルールの下、審査メカニズムの強化が必要であると提言しています。

出典:経済産業省「電⼒システム改⾰と エネルギーに関する最近の国際動向」P3(2025/10)

脱炭素・エネルギー

脱炭素・エネルギー分野においては、欧州の野⼼的な脱炭素⽬標にともなう短期的な追加コストが欧州産業界にとって⼤きな負担となっている点や、脱炭素化が欧州の脱⼯業化につながればその政治的持続性が危うくなる可能性について指摘しています。また天然ガスが中期的にはエネルギーミックスの⼀部であり続けることを前提として、共同調達などにより価格変動を抑えることを提案しています。さらに脱炭素の野⼼に⽐して産業政策が不⾜している点や、コスパよく脱炭素を進めるために脱炭素技術中⽴の原則も強調されています。

出典:経済産業省「電⼒システム改⾰と エネルギーに関する最近の国際動向」P3(2025/10)

成長戦略

成長戦略においては、毎年最⼤8,000億ユーロ(120兆円以上)の追加投資が必要であると指摘しています。そのための 公的資⾦投⼊の必要性を強調し、「EU共同債」の定期発⾏やイノベーションの妨げとなる規制緩和についても提⾔されています。

出典:経済産業省「電⼒システム改⾰と エネルギーに関する最近の国際動向」P3(2025/10)

ドラギレポートに対するネガティブな意見

ドラギレポートの提言は今後欧州の政策にも影響を与えるものと見られていますが、その内容に対しネガティブな意見が全くないわけではありません。

追加投資への懐疑論

ドラギレポートで提言されている巨額の投資を呼び込むには、多額の政府保証や財政資金が必要であるため、加盟国間の意見集約は難航が予想されます。またこれまでEU予算や欧州復興基金では、予算を消化しきれないケースも散見されています。巨額の資金を投じても採算の取れる投資プロジェクトが存在するのかという点について、懐疑的な見方もあります。                      

出典:一般財団法人 国際貿易投資研究所「欧州の低炭素政策の進捗と課題」p49(2025/3)

PRIによる非難

PRI(Principles for Responsible Investment:責任ある投資、すなわちESG投資を推進している機関)はドラギレポートについて、その内容を評価しつつも、「EU企業が長期的な価値創造を実現するための持続可能な金融とESG政策の重要な貢献について、いくつかの箇所で言及していない」と指摘しています。PRIは脱炭素政策と競争力強化の調和が重要であると主張し、ドラギレポートに関してサステナブルファイナンスの重要性を軽視すべきではなく、EUの競争力の持続可能性を確保するには民間資金の増強が不可欠であると警告しています。

出典:PRI「Press statement: PRI reaction to Mario Draghi’s report on the competitiveness of the EU」(2024/9/23)
出典:PRI「About the PRI」

ドラギレポートによる欧州や日本の経済や政策への影響

ドラギレポートは、欧州はもちろん、日本の経済や政策にも影響をおよぼす可能性があります。

欧州への影響

ドラギレポートを受け、欧州委員会は欧州の持続可能な繁栄と競争力のための新たな計画を策定し、2025年1月欧州のダイナミズムを回復し、経済成長を促進するための新たなロードマップである「競争力コンパス」を発表しました。このロードマップでは、イノベーションギャップの解消や脱炭素と競争力強化の両立など、ドラギレポートの提言が随所に盛り込まれています。ドラギレポートの提言は、他にも政治ガイドラインや欧州委員会委員長から欧州委員会メンバーに宛てたミッションレターにも反映されています。

出典:日本貿易振興機構(JETRO)「新体制始動の欧州委員会、混乱が続くフランス政治」(2025/1/16)
出典:European Commision「An EU Compass to regain competitiveness and secure sustainable prosperity」

日本への影響

日本でもドラギレポートは注目されています。資源エネルギー庁が開催している総合資源エネルギー調査会基本政策分科会では、資源エネルギー庁長官が同レポートに関して「欧州の中で、現実を踏まえた政策の方向転換、シフトが見られてきているということの一つの表れであり、現実を踏まえて、欧州でも産業政策の基軸の修正が図られつつあるというふうに思っている」と述べています。国のエネルギー基本計画の改定に向けた経済産業省の有識者会議でも「脱炭素で世界をリードしてきたはずの欧州でも負の面が出てきた。脱炭素化と産業競争力の両立という現実的な政策が必要だ」などのコメントがあり、今後電源構成における再生エネルギー割合の見直しなどが検討される可能性があります。

出典:資源エネルギー庁「第 64 回総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」p1(2024/10/8)
出典:NHK「世界で話題の「ドラギレポート」って?」

まとめ:ドラギレポートを受け、欧州が脱炭素計画の現実的な見直しや競争力の強化を図る可能性に留意する

ドラギレポートは、欧州の競争力低下を憂い、脱炭素やエネルギー政策の見直しについても提言しています。同レポートの提言が全て実行されるというわけではないでしょうが、欧州が理想の追求だけでなく現実的な路線への転換を図る場面が今後多く見られる可能性があります。

欧州と取引関係がある企業は、そうした欧州の動向に留意するとともに、日本国内においてもエネルギー政策などへの影響を注視する必要があるでしょう。

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